覚醒 22~24
(22)
給食配膳室のドアを開け、僕が食器を指定の場所に置こうとする
と、給食のおばさんが声をかけてくれた。
「はーい、ご苦労様! あ、なんだ、アンタか。そこいらのもんに
触らないでおくれよ!」
はじめは他の生徒だと思ったのだろう、愛想のいい猫なで声を出
していたおばさんが、僕と気づくと冷ややかな口調になった。
「はい、すみません…」
「あ、アンタちょっとまっとくれよ! 悪いけどさ、ちょっと裏に
まわってさ、いつものやつやっといてくれよ。いいね!」
悪いけどさ、という言葉とは裏腹に、最後には命令口調になった
おばさんの言う通り、僕は給食配膳室の裏にまわった。
いつものやつってのは、残った残飯を一箇所にまとめて、処理の
おじさんが来た時に作業がしやすいようにしておく事なんだ。これ
は割りと力のいる仕事だけど、おばさんに出来ないわけじゃない。
それなのにおばさんが僕にやらせるのにはふたつ理由がある。
ひとつは、単におばさんが面倒な事。もうひとつは(これが本当
の理由だと僕は思ってる)僕のやる仕事の方が処理のおじさんに評
判がいい事だ。これはおばさんは絶対に口にしないけど、僕には分
ってる。だってこの前、おじさんとおばさんが話しているのを耳に
したんだもの。
「本当にアンタのとこは作業しやすくっていいやね。他じゃわたし
ら結構手間どるんだけど、ここは本当にやりやすいわ」
「そうかね? どんなとこが?」
「え? だってアンタがしてくれてるんだろ? アンタ、ベッピン
の上に手際までいいときちゃ、旦那は幸せだね」
「いいや、そんなコト無いよ。わたしゃ、ただの気のきかないおば
さんさ」
「またまた、ご謙遜を…」
楽しそうに話す二人を見て僕は嬉しくなったんだけど、僕に気づ
くとおばさんはすごい目で僕をニラんでいたっけ。
(23)
今日もいつものように仕事を終えると、おばさんが裏にまわって
きて
「アンタみたいなのが増えると、今に私らの仕事も無くなるんだろ
うねぇ。本当に忌々しい奴だよ!」
そう言って僕のわき腹辺りを、手にしたこん棒で思いっきり殴っ
たんだ。
そんなのおかしいと思うだろ? 頼まれた仕事をしてやったのに、
お礼どころかこの仕打ちだ。でも僕は何も言わずにただ薄笑いを浮
かべただけだ。こんな時、僕はまた自分が嫌いになる。
給食配膳室を後にした僕は、今度は校長室へと急ぐんだ。時計を
見るといつもより二分ほど遅れてしまった。
校長室のドアをノックすると、中から校長先生の不機嫌そうな声
が聞こえた。
「ああ、オマエなのか? オマエなのか?」
「はい、わたしです。遅れてすみません」
校長先生は周りを注意深く見回すと、僕の腕を取って校長室の中
へと僕を引っ張り込むんだ。
「ああ、オマエ、今日も私を安心させておくれ…ああ…」
校長先生はこう言うといつもの様に着替えを大急ぎで済ませ、ソ
ファに横になった。その姿は巨大で醜い赤ん坊だ。
それから僕は校長先生のお望みの通りにするんだ。それはね、赤
ちゃんをあやすように校長先生が眠りにつくまで子守唄を歌うんだ
よ。時折、『あばば』だの『カワイイでちゅね』という合いの手を
入れながらね。
本当はイヤだけど仕方が無い。でも相手は校長先生だもんね。断
る事なんてできる訳がないじゃないか。それにホンの十分足らずで
コトが済むんだもの…
(24)
今まではそう思って校長先生の言う通りにやってきたけど、今日
はその最中になぜかあいつの顔が浮かんで仕方が無かった。アルフ
ァさんの悲しそうな顔がね。だからつい調子が狂っちゃったんだな。
「コラッ!このデク! もっと気合を入れてやらんかい! このボン
クラ! アババをもっと入れなきゃ気分がでんわい!」
校長先生は僕の両耳を、両手で挟み込む様な感じで殴ったんだ。
それから
「もういいわい!その代わりアレやっとくれ!」
と言った。僕はまた校長先生の言う通りにする。
「はい、ミルクの時間でちゅよ。そうそう、いい子だからいっぱい
飲んでくだちゃいね」
大きな哺乳瓶を校長先生に含ませ、声をかける僕。
「はい、いっぱい飲みちたね。えらいえらい。じゃ、今度はゲップ
をちまちょうね」
校長先生の背中をとんとんと叩いていると、校長先生が赤く濁っ
た目で僕を睨んだ。
「ほれ! それはいいから、今度はアレをしておくれ」
僕はまた校長先生の言う通りに、先生のおしめを替えてあげるん
だ。校長先生はウットリと目を閉じ、僕のされるが侭に身を委ねて
いる。
約十五分後、僕は校長室から一人で出て行く。校長先生はソファ
でグッタリしてるけど、それはそのままでいいんだ。そういう風に
してくれって言われてるんだからね。
それにしても普段は立派な校長先生が、こんなコトを僕にさせる
なんて余程ストレスが溜まってるんだろうな。無理も無いか。この
学校じゃ、生徒が普通じゃないんだもの。校長先生がそれについて
いく為には、秘密のお楽しみって奴がなければならないんだろう。




