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Artificial Island 人工のユートピア  作者: 花火研究員
10/11

10 温泉旅行(ルウトとシウト)

温泉旅行ルウトとシウト


泉樹さんのインフォグラスから記録や最適化情報を取り出さなければならないので、内蔵チップから記録を抽出すために「温泉もある」大きな町へ行くことになった。


僕とシウトは先に出発して、ひと晩野宿する予定で温泉に向かう。

シウトが泉樹さんに言ったとおり、その気で走れば明日には着くだろうけど、せっかくの旅なのだから楽しみたい。荷物は調理道具と調味料、今回はパンがないので米を持っていく。あとは着替えひとつだけなので、ランドセルで十分だ。準備には10分とかからない。

泉樹さんたちは翌日にS-TALで来るらしいので、先に到着するかもしれない。

インフォグラスは預かってもよかったが、ランドセルに入れて走って壊しても悪いので、持ってきてもらうことにした。僕らが早く着いたら温泉に入って待つだけだ。


風道さんの家を出るとき、黄色いバラがきれいに咲いていたので、2本分けてもらい、1本は町を出るところにある道祖神に、旅の無事を祈って花を捧げる。もう1本は町外れにある墓地で万珠さんのお墓に供えた。

温泉の町までは街道があるので、旅は快適だった。

時候が良いので、街道沿いの林には色々な植物が生えている。それを採取してスウプを作り、魚を捕まえて味噌焼きにして食べた。峠越えの丘は素晴らしい景色で、夕日が美しかった。近くの大きな石に僕の名前とシウトの銘を削り込んで感動の記録を残した。作ったサプレットが役に立ってよかった。同じような感じ方になると思ったが、僕とシウトの脳波は結構違っていて、読み込んでみると感動の違いが面白かった。何だか香ばしい感じ?。

一緒に旅に出てすでに1週間近く経っているのに、使ったのはまだ2回目だった。


その日は野宿にしようと思ったのだが、非常に芳しい匂い、芳醇な香りに誘われてしまい、シウトが「お相伴に預かろう。」というので、峠を越えたところで見えた家の明かりに向かって走ることにした。さっきの脳波パターン、この匂いに気付いてたのかもしれん。鼻のいいやつだ。


明かりの元はサピエンスが使っている猟師小屋だった。

驚かせると悪いので、座標情報から彼らの小屋のコンソォルを特定して、そこに通知を流しておいた。

シウトがふざけて「撃たないで、僕たちわるいケモノじゃないよ!」と送ってしまった。何かのミィムなのか?

あわてて「すみません、冗談です」と送ったが反応はなかった。


外から声をかけると3人の猟師が「入れ入れ!」と答えてくれる。

今日捕ったシカを捌き終わったところで、スウプ用に骨を炙っているところだった。

おまえら「ついてるなぁ!」そういってガハガハ笑う。

それにしても、ありゃ何だ?と言ってコンソォルに表示された文書を親指で示す。


「・・・冗談です。」

「そぉいうんは、雑魚モンスターのセリフだろ。」

「うわー通じてる人がいるぅ。」と言ってシウトは顔を隠してうずくまる。

「僕もよく知らないんですけど、シウトのことをあまり追求しないでやってください。」

ルウト、おまえそういうところだぞ・・・と小さな声で言っている。何か間違えたかもしれない。


捌いたシカ肉のほとんどは冷凍にして持って帰るらしいが、肝臓は痛みやすい(おいしい)ので、すぐに食べてしまうらしい。

「でうっさんは何か持っとるか?」と言うので、僕らが持っているものを出す。


昼ごはんの残りの山菜と米、調味料は味噌玉とごま塩、香辛料を混ぜたものがすこしだ。

シウトはちょっと考えて、ノビルを探してくる、と言って出ていった。夕暮れと言うには暗かったが、今日は月が明るいので、僕たちであれば明かりなしでも探索できる。

「シウトは多分、レバニラにしたいんだと思う。」というと、「なるほど、そりゃいいな。」でも「ニラレバだろ」「レバニラだ!」で

論争が始まったので、はあ、とため息をついてから勝手に調理を始める。

山菜を斜め切りに、シカの肝臓は太めの短冊にして塩をしておく。シウトが帰ってくる頃に水洗いすればいいだろう。

ニラレバだけでは塩辛い。今回の旅は米を持ってきているので炊くことにした。二人ならコッヘルだが、人数が多い

ので小屋に置いてあった鍋を借りる。

炒める用にごま油が欲しいけど、ごま塩しかない。残念だ。


30分くらいしてシウトがニッコニコで帰ってくる。「見ろ、ギョウジャニンニクがあった!」といって草束を掲げる。

「でかした!」「ナイスプレーだ」「勝ったな」みんな爆上がりだ。

結構な量があると思ったが半分はノビルだった。

ごま油が欲しいよな、というと、シウトがごま塩を僕のマグカップに入れてナイフの柄でゴリゴリすりつぶし始める。

「あっ、そんなことしたら飲み物が全部ごま風味になっちゃうじゃないか!」

「いいんだよ、マグにごまの油が染みて深みのある色になるから。」

「芸術家みたいなこと言ってもだめだよ、ごまコフィとか不味いだろ。」

「芸術家だよ、旨いぞ、ごまコフィ。」「ほれ、できた。」と言って、すり潰したごま塩を投入する。

塩が多い!  仕方ないので、味噌を減らす。


猟師たちは割ったシカの骨と乾燥野菜を煮込んでスウプを作っている。

米よりレバニラが先にできてしまった。まあ、仕方がない。ノビルを少し刻んでスウプに加えたら完成。

みんなで囲炉裏の火を囲んで食べる。ニラレバは猟師たちには好評だった。

僕たちには塩辛くて、スウプと一緒でなければ食べにくかったが、米が炊けてからは最高のおかずだった。

ちなみに、さっきのレバニラ・ニラレバ論争は一回ごとに言い換えることで決着した。

サピエンスのこういう拘りは本当に厄介らしく、大戦前は、きのことたけのこ、どちらが美味しいかで大戦争をしたらしい。これもAOI情報なので眉唾だ。そもそも季節が違うので喧嘩になるはずがない。


ごはんのあとは僕たちが走ってきたあたりの臭いや林の状態について猟師たちと情報共有した。僕たちはサピエンスより鼻がきくので、動物たちの生息範囲が近いと少しわかるのだ。

猟師の一人がインフォグラスの調子が悪いというのでちょっと確認すると、ひどい状態だった。子供の頃からずっと貯め続けているらしい、無数の遊戯アプリが入っていた。本人も忘れているものがたくさんあって、とりあえず整理整頓するため、どうしても、という遊戯アプリ100個くらいを残して消してしまってから、多少最適化して返す。

動作がずいぶん軽くなったと言って喜んでくれたが、時間の問題だろう。

お礼にと言って、シカのもも肉を分けてもらう。


ひと晩小屋に泊めさせてもらい、翌日、残っていた米を全て炊いておにぎりを作り、スウプの残りと一緒に食べる。まだ朝が早いが、気持ちいい涼しさなので出発することにした。

「それじゃあ、また。」

「あんたらの「また」は当てにならんがなあ。」50年くらいして久しぶりとか言うしな。と言ってガハガハ笑う。

・・・たしかに。


峠を越えているので、残りの道は緩やかな下りが続く。

町に近づくと巨大な汽水湖が見え始め、湯煙が見える場所もある。気持ちがどんどん高ぶって、寄り道せずに一気に走り通したせいで、昼前には到着してしまった。


町の支調房で空いているネストを照会してもらう。

湖の横にちょっと大きめのものが空いていたので、僕たちと泉樹さんたちの布団をもらって運んでおく。シウトが布団の数を数え間違えたらしく、ネストに着いてからひとつ足りないことに気付いた。

取りに行こうとすると、シウトが慈愛の篭ったような顔で「ルウト地蔵よ、これでよいのです」とか言ってくる。

本当に仕方のないやつだ。


泉樹さん家族の到着は昼過ぎになるので、まだ結構時間がある。当然、温泉に入る。

温泉は汽水湖のほとりにあって、湧き出した温泉の湯がそのまま湖に流れている。湯の温度は僕たちにはかなり熱いけど、眉間にしわを寄せながら入ると最高に気持ちがいい。熱くなったら湯から出て湖の水を浴びて冷やし、また湯に浸かる。

これを1時間も繰り返すと、いい加減茹だってしまって動けなくなりそうだったので、名残惜しく感じながらも湯から上がることにした。


お昼ごはんは食房で食べて・・・やっぱり美味しくない・・・温泉が最高なのに、なんとも勿体ない。

時間があったらサピエンスのお店や、こだわって料理を研究している人を訪ねて食べさせてもらうこともできたのに。

晩ごはん用に野菜や鶏肉、ソオセェジ、レモンやバジルなんかの薬味、酒粕と炭酸水をもらって一旦ネストに帰る。

昨日もらったシカ肉は熟成ができていないので、薄く切って酒粕に漬けて少し温めておく。

水屋にタジン鍋が入っていたので、今晩はこれで野菜とシカ肉の蒸し焼きを作ろう。


すでに泉樹さんたちが到着する頃合いなので、急いで空港に向かう。

空港のロビィは色々な案内パネルがあって、料理を研究しているディモスの案内やサピエンスが経営しているレストランなんかも表示されていた。町を歩いているときは全然気が付かなかったのに・・・本当に惜しいことをした。

空港利用手続きのコンソォルの横に、色とりどりの旗が刺さった大きなバケツがあって、「ご自由にお使いください。」と書かれている。

シウトは目をキラキラさせながら物色し始め、「Do!湯 Love 美!」とか「♡おんり~湯♡」を引っ張り出して

僕に押し付けてくる。

他にも荷物の搬入作業や出発準備をする人などが結構いるというのに、彼はやる気だ。

「振るんだよ。ウェルカムの旗を振ってお迎えするのが、この町の作法なんだ。」


泉樹さんたちのS-TALが到着して降りてきたので、思いっきり旗を振る。

僕はすごい顔をしていたと思う。周囲の人たちは何事かとこっちを見ている。

シウトとみるくは大喜び、旦那さんと僕は困り顔で頭をかいている。泉樹さんは真っ赤な顔でシウトを睨んで、追いかけ始める。


落ち着いてから僕は泉樹さんのインフォグラスを預かって工房に向かう。シウトは温泉らしい。

S-TALは整備にあわせて追加作業があるとのことだが、いったん工房で下準備があるとのことなので泉樹さんたちを案内してから工房で合流することになった。


工房で泉樹さんのインフォグラスの状況を改めて確認すると、かなりひどい状態だった。制御チップが壊れているのか、無線通信まで怪しくなってきていて、色々試してみたけど復旧できなかった。これはメモリチップを剥がして直接接点を繋がなければならないかと、腹をくくったところでシウトがやってきた。

シウトにインフォグラスを割ってチップを取り出すと話したら、外装を残したいとのことだったのでチップの取り出しはシウトに任せることにした。

インフォグラスは継ぎ目のない樹脂封入構造なので、普通に削ると外装はボロボロになってしまう。シウトはソニックナイフで迷いなく真っ直ぐに線を引いてボディを3枚におろしていく。ものの5分でチップを取り出し、外装部分は大事そうに保管する。これは明日の作業に使うらしい。

今日はS-TALの追加作業の仕上げをするらしく、その後ずっとコンソォルに向かって作業をしていた。作業仕様書をドックに送れば、明日中には作業が完了するらしい。コンソォルはネストにもあるので、工房でしなくても・・・と思ったが、サプライズにするらしく、泉樹さんには内緒なんだそうだ。


チップは樹脂に埋まっているので、ある程度薄くなるまで削ってから洗浄装置にセットする。

表面を観察しながら超臨界流体溶剤で表面の樹脂を除去して、あとは顕微鏡でプリントを確認しながら浮き上がって接点が外れてしまっているチップに極細端子を繋いでいく。

半分くらい接続したところでシウトの作業が終了したため、一緒にネストに帰ることにした。


泉樹さんたちは先にBBQをはじめていて、いい匂いが周辺に漂っていた。

僕たちもタジン鍋を出して、野菜にノビルの残りを混ぜ、寝かせておいたシカ肉を乗せて炭火に掛ける。遠火でゆっくり加熱しながら薄めた酒粕を飲む。

シウトは勧められた麦酒をひと口飲んで、あまりに合わなかったのか酷い顔をしていた。

みるくは温泉の話をしながら、自分が焼いた肉や野菜を配っている。ソオセェジは配らない。全部みるくのものらしい。

タジン鍋の中の1本はまだ見つかっていない。


おなか一杯になったらしいみるくは、ウトウトと船を漕ぎ始めている。

僕は酒粕の炭酸割りを飲みながら泉樹さんにインフォグラスの状態が悪いことと、最適化情報やその他の記録の移植にはまだ時間がかかることを説明する。S-TALの整備も、丸1日はかかるらしい。

泉樹さんたちは、もう2日間滞在するとのことなので、帰りまでには完成しそうだ。

未来のAI像は、多分、攻殻機動隊(地上波放送)のタチコマの影響が強いです。


誤字脱字、物語の矛盾などがあれば、修正がんばりますので教えてください。

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