第2回ラゼルディア公爵家使用人会議〜Sideカリフ〜〜
何やら重苦しい空気を身に纏いながらルクサンブル公爵家から帰ってきたフェリシア様の様子に、屋敷では緊急で第二回ラゼルディア公爵家使用人会議が開かれることになった。
今回は状況が状況なだけにメレルさんも一緒だ。
夕飯の席では、フェリシア様は1人ポツンと椅子に座って、何度もため息をつきながら食べ物を口に運んでいった。
いつもならどれを食べても幸せそうに笑ってくれるのに、今夜はずっと辛そうだ。
若がいないからか?
いや、若が帰ってこられない時でも、俺が料理を運んでくると一言二言話をして、美味しかったと笑うんだ。
なのに今日は、一言も喋らない。
いや、それどころか、数口料理を口に運んだところでその手を止め、「ありがとう、ごめんなさいね、残しちゃって」と申し訳なさそうに言ってから、すぐに部屋を後にした。
まぁその後眠れないから果実酒を持ってきて欲しいと言われてグレタが持っていったようだけど……。
おかしい。
おかしすぎる。
あのルクサンブル公爵夫人の性格からして、公爵家で何か言われたってわけじゃないだろうけど、帰ってきてからのフェリシア様の様子に、使用人全員が彼女を心配していた。
「で、レスタリ、フェリシア様は一体どうなされた? 報告を頼む」
「……」
メレルさんの言葉にレスタリが視線を伏せる。
フェリシア様に負けず劣らず、レスタリもレスタリで帰ってからずっと沈んだ様子で、何を聞いても話してくれない。
あいつがあそこまで沈んでるところなんて初めて見たから、賄いに小さなクッキーを追加してやった俺は同僚思いの良いやつだと思う。
「レスタリ。これは、フェリシア様のためでもあるのだ。報告を」
再度メレルさんが促せば、レスタリは意を決したようにキュッと口を引き結び、それからゆっくりと口を開いた。
「ルクサンブル、公爵家の帰り。ロイ様の、誕生日、プレゼントを作る、材料を買いに、マダム・シシリアの店、行った」
あぁ、そうか。
若の誕生日パーティするんだもんな。
誕生日というものに無頓着なあの人は、毎年自分の誕生日にも関わらず騎士団で仕事をしている。
それを聞いたフェリシア様が、今年は屋敷の人間とテト様達だけでささやかなパーティをしようと企画したのだ。
本当、良い嫁さんもらったよなぁ。
天使だし、可愛いし、優しいし、天使だし(大事なことなので二度言うぞ)。
ていうか手作りでプレゼントを作るとか大好きじゃん、若のこと!!
「買い物を終えて、馬車に戻る途中、テト様に会って、カフェ、行くことになった。そこで──」
「そこで?」
俺が尋ねると、眉間に皺を寄せてレスタリは重々しく再び口を開いた。
「ロイ様が、金髪の、綺麗な女の人と、お茶をしていた」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」」」」」」
いや、え、な、どういうこと!?
あの若が浮気!?
しかもパツキン美女!?
何やってんの若ぁぁぁぁぁぁああ!?
「ちょっとセリア、若ぶっ飛ばしに行ってくる」
「待ってセリア。僕も行く」
ガタンと席から立ち上がって殺気をダダ漏れにさせる双子。
「僕も行くよ。あぁちょっと待って、枝切り鋏持って行かなきゃね」
ピオニー、お前そんなもんで何するつもりだ。
気持ちはわかる。
だが返り討ちにあうのが関の山だぞ。
いや待てよ、この人数ならいけるか?
よし。
「俺もフライパンと包丁持って加勢するぜ」
フェリシア様を差し置いて愛人と密会とか、許せないからな。
「おまちなさい皆。ロイ様に限って、浮気など到底信じられません。何かの間違い、もしくは見間違いなのでは?」
そう冷静に判断しレスタリに尋ねたのはメレルで、グレタもそれに頷く。
た、確かに。
あの若だもんな。
どんな美女に言い寄られても絶対零度の眼差しで返し、触れられる前にスマートな動きで避ける。
襲いかかって来ようものなら、遠慮なく捕縛して騎士団に突き出すような人だ。
あの人があんな甘々になるのは、フェリシア様の前でぐらいだもんなぁ。
そんな俺たちの思いも虚しく、レスタリは首を左右に振って否定した。
「あれは、ロイ、様。間違い、ない」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
あのレスタリが言うなら間違いない。
よし、フライパンと包丁、取ってこよう。
「と、とにかく、まだ愛人と決まったわけではないでしょう? 少しこちらでも調査してみましょう。くれぐれも、旦那様には気付かれないように。もし黒だった場合、逃げられてはいけませんから」
「あ、なら俺、明日抜き打ちで若んところ行ってきますわ。見つかったら差し入れを届けに来たとでも言えるように、昼前に軽食でも持って」
元騎士でラゼルディア公爵家の料理人だし、面倒な手続きなしで色々入ったりできるだろうからな、俺が適任だろう。
「あぁ。ではカリフに頼もう」
「任せてくれ」
「カリフー。もし黒だったらセリアも呼んでねー」
「僕も。いつでも動けるようにしておくから」
頼もしいが物騒な双子だな。
「ん。そん時ゃよろしくな」
俺はそう言って苦笑いしながら2人の頭を撫でた。
若には大恩あるが、フェリシア様を泣かせるようなことをするなら容赦はしねぇ。
この俺、最高の料理人カリフが、必ず美女と若の関係をリサーチして見せる!!




