こんな日は果実酒を
「ふぇ、フェリシアちゃん、あれは──」
「ごめんなさい、テト様、ウィス君。レスタリさん、行きましょう」
「あ、ちょ、フェリシアちゃん!?」
テト様の声も無視して、私は足早に店から離れていく。
レスタリさんが慌てて後ろから走って追ってくるけれど、立ち止まって待つ気はない。
一刻も早く帰りたい。
帰って、一旦クールダウンさせないと。
じゃないと私が私じゃなくなりそうで──。
大通りの停留所でラゼルディア公爵家の紋章の入った馬車へと急いで乗り込むと、すぐに追いついたレスタリさんが僅かに心配そうに眉を顰めて私を見てからそっと扉を閉め、すぐに馬車は出発した。
カタカタコトン、カタカタコトン。
小さく馬車が揺れながら、私もその揺れに身を任せる。
あれは見間違いだったのだろうか?
ロイ様によく似た他の誰かだった?
……いいや、あれは紛れもなくロイ様だ。
朝着て行った服ではないものを着ていたけれど、私があのロイ様を見間違えるはずがない。
間違いない。
あれはラゼルディア公爵家の当主で、この国の騎士団長で、私の最愛の旦那様──ロイ・ラゼルディア様だ。
ならあの女性は誰?
目に焼き付いているのは、私の髪よりもはっきりとした金色の髪を肩までで揃えた美女。
身振り手振りを加えながら楽しそうに話す彼女の目は、おそらく恋する女性のものだろうことが見てとれた。
それにロイ様……。
私といる時にはケーキなんて食べられないのに、机の上にはたくさんのケーキが注文されていた。
ロイ様は甘いものはあまり食べないのだと思っていたけれど、本当は違ったのだろうか。
ロイ様の好みを熟知しているほど、彼女は気心の知れた人、なんだろうか?
でもあんな美女、結婚式には来ていなかったし、パーティでも見かけたことはない。ロイ様から紹介を受けたこともない。
一体誰なんだろう。
悶々と考えながらたどり着いたラゼルディア公爵家。
レスタリさんは馬車から降りる際も何度も心配そうに声をかけてくれたけれど、私の頭の中はロイ様のことでいっぱいで、それにうまく返すことができなかったと思う。
そして夕刻。
メレルさんの口から、ロイ様が今日はとても遅くなるから先に食べて寝ていて欲しいという、彼からの伝言が伝えられた。
モヤモヤはただ増すばかり。
せっかくメリッサ様の言う通りに、悩むくらいならロイ様に聞いてみよう、話し合ってみようと思っていたのに。
いつまでもそれは叶わないままで、それどころか今日も1人で眠ることになるのか。
1人で食事を摂り、眠る準備を整え、それでも眠れず、眠る前に果実酒を飲んで寝るからと持ってきたもらった果実酒をグラスに注いで一気に煽る。
それぐらいしてもいいだろう。
とても素面ではいられない。
お酒を飲むのは初めてだけれど、不思議と気持ち悪いとかそういった感情はなかった。
ただ少し、そう、ふわふわしているだけ。
それにしても、このお酒、とても飲みやすいわね。
なんだかジュースみたい。
お酒って思ったよりずっと飲みやすい飲み物だったのね。
そうして一杯、また一杯と、結局瓶が空になるまで、私はそれを煽り続けるのだった。




