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言いかけた続きの言葉が分かる僕は、トーマスの言葉を遮った。
これは、トーマスの失態ではないのだ。
だれも悪くない。僕の頭のキャパシテイーを超えただけだと、分かっていたから。
「トーマス、続く言葉は想像が付く。だが、聞きたくない。だいいち体調不良ではないし、トーマスは、悪くない。これは、僕の問題だ。」
「そんなことは!」
そう言うトーマスに、首を振った。
「そうなんだよ。あのとき僕の頭は確かにすごい速度で、理解しようと働いていた。僕は5歳にしては、頭はいい方だと自負しているんだけど、あのときの情報量は今の僕には、処理しきれなかっただけなんだ。成長して、時がたてば解決する問題だ。」
そうニッコリ笑えば、トーマスも泣き笑いしていた。
責任感の強いトーマスのことだ。きっと自分のせいだと責めていたんだろう。
そんな気持ちにしないように、頑張らないといけないのは僕なんだ。
下っ端は辛いってずっと思ってたけど、上に立つものだって、辛いことはあるんだな、なんてことに今更気づいた。
「辺境伯と奥様にお伝えしてきますね。」
「うん、頼むよ。」
そう言うと、涙をぬぐって部屋を出ていった。
リルと二人になる。
あのあとどうなったのだろうか?
「リル、あのあとどうなったの?」
「ノアが倒れて皆で焦った。」
「う、うん・・・それは心配かけてごめん。でも、そうじゃなくて、話し合いになった?リゲル様怒ってなかった?」
「全然怒ってなかったよ?むしろ、リゲル様が謝ってたよ。5歳には難しかったねって。」
「ハハ、その通りだな。でも、なんか悔しいなっ。」
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しばらくすると、トーマスが父上と母上を引き連れ訪ねてきてくれた。
「「ノア!(ちゃん)大丈夫?」」
第一声に揃って、そう聞いてきたのだった。