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その後、先触れが来るまでは何事もなく、なるべくいつも通りに、過ごした。
まあ、本当にいつも通りかと聞かれると、そんなことはないんだけどね。
ちなみに、ムンさんには勉強も教えてもらった。
主にリートルテ領の時事とか、他の辺境伯の状況とかとか、現場の声を聞かせてもらって、すごくためになった。
そして、ついに午後の夕暮れ頃に先触れがきた。
あと30分くらいで、到着するそうだ。
みんなの緊張が高まっているのが分かる。
とりあえず深呼吸しよう。
「皆、頼む。ノアを守ってくれ。」
と兄上が頭を下げた。
え!?と驚いたが、一拍遅れで僕も頭を下げた。
そんなこんなしていると、到着を知らせるベルが鳴る。
正面の門を通りぬけると、邸内に音が鳴る魔道具が仕掛けられているのだ。
これなら、遅れたりせずに、来客をお出迎えできるし、約束もない侵入者がいたら、すぐにわかるのだ。
ちなみに、門以外の場所にも、見えないセンサーのような魔道具が仕掛けられているので、侵入不可なのだ。
ただ、地下を掘られると、そこにはセンサーが置けないので、侵入できる可能性があるのが、少し心配だ。
玄関から、左右に分かれてお出迎えの準備をする。
兄上、僕、姉上。その斜め後ろに護衛の一人と、執事が立つ。
他の護衛もその後ろから目を光らせている。
母上は反対側に並んでいる。
僕はもう一度深呼吸した。
そしてついに、ドアが従者たちによって開かれた。
最初に入ってきたのは父上と、イーマスだ。
その後ろにいる、線の細い方が宰相かな。
頭を下げたまま、チラリと見た。
兄上が代表して、声をかける。
「宰相閣下、遠い中ご足労ありがとうございます。私が次期当主のリアム・リートルテでございます。以後、お見知りおきを。」
「これは、ご丁寧にありがとう。急な訪問になってしまい、申し訳ない。何せ、忙しいものでな。」
「いえいえ、直々にいらっしゃってくれるとは光栄です。さ、案内して差し上げてくれ。」
「かしこまりました。お疲れでしょう。お部屋にご案内致します。」
と、兄上の執事が案内する。有無を言わせない圧力にて・・・
姿が見えなくなったところで、頭を上げる。
兄上と、姉上に頭を撫でられた。
ホッとしたところで、父上をねぎらう。
「父上、おかえりなさい。お疲れ様でした。」
「ああ、ありがとうノア。有意義な時間を過ごせたみたいだね。」
僕はなにも言っていないのに、なぜわかったのかな?
「ノアの顔が嬉しそうだから、すぐにわかったよ。」
父上は、エスパーなのかな?