彼女が願ったもの 10
「ありがとうございました」
買い物を終え、短髪の青年と金髪ロングの少女はコンビニから出てきた。特に金髪の少女の方はとても幸せそうな笑みを浮かべ、コンビニの軒下に座り込むと袋を破るようにして中身を取り出した。
「まあ、行儀は悪いが、腹も減ってるし、ここで食うか」
「当然」
一言だけ答えると、セイスは弁当のビニール包装を破り捨てる。箸を割り、ものすごい勢いで弁当を食べ始めた。
「さて、俺も食うか」
西村はプラスチックのフォークを包装から取り出すと、ナポリタンのふたを開ける。安っぽいフォークを回転させ、スパゲッティを巻き取っていく。
「ああ…このために私は生きてるようなものだよ……」
「安っぽい人生目的だな。まあ、俺もそんなものかもしれないが。腹いっぱい食えるってのは、誰だって素晴らしいことだと思うさ」
咀嚼しながら目を輝かせているセイスを見ながら、西村は苦笑する。ホット緑茶のオレンジのふたのペットボトルを開け、一気にあおり息を吐く。湯気と呼気が白くなって宙に舞った。
しばらく二人とも無言のまま、食べ続けていた。特にセイスは腹を満たすことが最優先のため、無言かつものすごい勢いで三人前相当の量を胃袋に収めていった。
「雪崩の撤去、進んでるみたいだね」
ようやく食べ終えたセイスはお茶を飲みながら、コンビニの前の道路を通っていく重機を指さしてつぶやいた。大きなタイヤにチェーンを巻いた車両はゴトゴトという音を立てて、ディーゼル排ガスの独特のにおいとともに道を進んでいく。
「まあ、軽い規模だから、今日中に終わるらしいし、別に気にするほどのものでもないだろ」
西村は軽い気分でそう言うが、セイスは弁当をすべて平らげ、腹を満たしているにもかかわらず、厳しい表情をしていた。
「おい、セイス。どうしたんだ、腹でも痛いのか?」
「……おかしい。嫌な予感がする」
飲み干したペットボトルをセイスは握りしめる。西村は何が起きようとしているのかわからず、セイスに対して疑問の表情を浮かべるほかなかった。
「おかしいって何がだよ。別に、このコンビニのまわりに変な奴なんていないぞ」
セイスは無言で立ち上がると、ゴミ箱に食べ終えた弁当のカラ等をまとめて捨てた。
「龍太、帰ろう。まわりにくれぐれも用心してね」
「あ…ああ」
西村は困惑した。セイスの醸し出す雰囲気が日常のそれとはうって変わって真剣なものになっている。例えて言うならば、セイスのそれは、霧矢が戦う時の雰囲気に似ていた。
(…雪崩、セイスのこの変化……)
西村は腕組みする。セイスは一転して厳しい目つきであたりを見回している。西村龍太はこの状況下で何が起きようとしているのかわからないほど間抜けではない。
「セイス、敵なのか?」
「……わからない。けど、面倒な気配がする。少なくとも、この気配が私たちに向けられたものであるならば……」
「……戦うしかないのか?」
西村は小声でそうつぶやくとセイスはうなずく。
しかし、敵と言っても何をしようと言うのかわからない。
「まさか、雪崩を起こしたのが、そいつの仕業だってのか?」
「火の魔族なら雪を溶かせばいい。水の魔族なら雪自体を操ればいい。土の魔族なら雪の下の地面を動かせばいい。やり方なら他にもたくさんある」
西村は立ち上がると、コートの雪を払う。残ったお茶を一気に飲み干すと、ペットボトルをゴミ箱へ放り投げた。
考えられる可能性はいくつかあるが、おそらく彼らの狙いはセイスだろう。
セイスは教団に正式に所属していたわけではなく、信者の一人の私的な契約魔族だったわけだが、それでも教団とそれなりに関係を持っていた。彼女の身柄の確保に乗り出すつもりなのか、あるいは彼女を裏切り者として粛清するつもりなのかはわからないが、彼らがセイスに対して好意的な行動に出るとは到底思えない。
だが、そう考えると辻褄が合う。雪崩で市街地への交通を遮断したのは、余計な妨害が入らないようにするためだろう。外部からの干渉をなくし、効率的に事を進めるには合理的な方法ではある。そして雪崩の規模的にも、すべてが終わったころには除雪も完了し、悠々と引き揚げることができる。
「なかなか、やってくれるな。敵さんも。もし襲ってきたらどうすんだ?」
「決まってるじゃない。龍太が大好きなやり方で片づけよう。雪崩で余計な邪魔が入らないのは、こっちも同じなんだから」
西村はニヤリと笑うと、「いいぜ」と元気よく答える。
「悪には鉄拳制裁。それが男らしいやり方ってもんだぜ」




