迷惑と面倒事 9
「何なんだよ。いきなり」
「囲まれてたと言ってたけど、その中に割り込んで助けたのは、もしかして、霧矢と西村君のこと?」
「何で知ってるんだよ」
晴代は、何てことをしでかしてくれたんだと言わんばかりの苦悩の表情を浮かべた。
「さっき、クラスメイトから聞いたのよ。二人組の男子がいきなり割り込んで、どこかに連れて行ったって。やたらとみんなの機嫌が悪くて『あの二人組ども』とかつぶやいてたし、私もまさか、その二人が霧矢と西村君だったなんて…」
「それで?」
「霧矢、このままじゃ、二人とも目をつけられるよ。下手をしたらあの子と同じ目に遭う」
ここまで来ると、霧矢は放っておいて後々変な罪悪感に駆られるよりも、たとえ自分にとばっちりが及ぼうとも、さっさと問題を解決してしまった方が良いように思えた。
「だったら、それこそ好都合だな。問題がデカくなれば、それだけ目立つ。どれほど秘密を保っていようが、そのうち隠しきれなくなるのも時間の問題だ」
晴代は霧矢の顔を見ると、悲しそうな表情になる。
「ねえ、霧矢。本当に、あの子のためだけに、自分の高校生活を棒に振る覚悟はあるの?」
霧矢は答えなかった。少なくとも、霧矢は時雨を助けるつもりだが、自分をどれくらい犠牲にできるかは、まだよく考えていなかった。
しかし、彼らと敵対して、霧矢と西村がいったい何を失うと言うのか。仮に失うものがあったとしても、それを失ったところでどれほどの不都合があるものか。
逆に、助けないことで霧矢たちが失うであろうものは容易に予想がつく。
「……変わったね、霧矢も。霜華ちゃんと出会ってから、人のために動くようになってる。自分よりも人を優先するというか…」
「人を優先してるんじゃない。自分と他人の利益が両立できるようにと考えているだけだ」
「じゃあ、両立できないならどうするの?」
霧矢は黙る。ケース・バイ・ケースとでも答えておきたいところだが、それも何故か知らないが抵抗があった。
「…知ったことか。とにかく、僕は中里を助けることは自分の利益にもなると思ってる。それだけだ」
「…わかったわよ。もうこれ以上あたしが何言っても無駄。でも、自分の身は大事にした方がいいよ。何されるかわからないから、心の準備をしっかり」
言われるまでもなかった。晴代の安っぽい言葉で揺れ動くほど、霧矢の覚悟は弱くはない。
「さて、では、質問だ」
霧矢はポケットから、剣が収納されたマジックカードを取り出す。重たいカードを手の上で回しながら、霧矢は晴代の目を凝視する。
「中里に対して、嫌がらせをしているボス格の名前を答えてもらおうか」
「…ちょ、ちょっと。何でマジックカードを私に突きつけてるのよ」
「答えなければ、こいつを使わざるを得ない。それでもだめなら力砲かもな」
晴代からしてみたら、今の霧矢は恐怖の対象でしかなかった。目が尋常でない迫力を帯びていて、その殺気は自分に向けられている。
「ちょ、ちょっと、霧矢、目が怖いんだけど……」
「吐け、さもなくば……」
「わかった。わかったから……」
晴代が焦りながらそう答えると、霧矢は重いカードをポケットにしまった。晴代は安堵の息を吐くと、まわりに誰もいないのを確認する。
「うちのクラスにある女子がいて、彼女を中心に展開してる。多分ボス格は彼女」
「そいつの名前を教えてもらおうか。きっと、さっき取り囲んでたやつだろうが」
「…田中彩。目つきが悪くて、声が尖ってる。そう言えば、大体わかると思う」
霧矢は間違いないと確信する。先ほど時雨にからんでいた女子のことが田中彩だ。
「なるほどな。じゃあ、次の質問だ。いつごろから嫌がらせがスタートした」
「……去年の夏くらいから。結構したたかで、先生にもバレてない。最初は仲間外れにするのからスタートして、今じゃ、クラスのストレス発散人形と化してると言ってもいい」
霧矢は壁を軽く蹴った。不愉快なことこの上ない。
「…わかった。情報の提供に感謝する。お前は、気が進まないなら無理に関わらなくていい。僕と西村で何とかする」
「……本当に気を付けてね。ケガしても知らないよ」
「ケガだと? 女子に襲撃されるのか?」
晴代はかなり声を低くして答える。霧矢を手招きすると、耳打ちする。
「…実は、とある男子に田中さんは通じてて、気に入らない人がいたら、そいつに直接ボコらせるとかいう噂があるの。嘘か本当かどうかわからないけど、念のため、教えておくね」
「………腐ってやがる」
顔をしかめて、霧矢は腕組みする。とりあえず、中里時雨についての情報が得られただけでも十分な成果だ。晴代は彼らに近い立ち位置にあるので、無理に協力させるわけにもいかない。晴代に礼を言うと、霧矢は心配そうな顔の晴代を背にその場から立ち去った。




