第1話 仲間の傷を肩代わりして傷だらけになった荷物持ちの僕、役立たずと勇者に追放されて全財産を奪われたけど、殴られてスキルが覚醒。聖女と女戦士と魔法使いにも嫌われたらしいので、田舎で楽しく暮らします
「ルウセト。お前は今日限りで勇者パーティーから追放だ」
「えっ、そうなの?」
勇者ヴェズドから、突然そんなことを言われた。ここはグラドフェル王国の宿屋だ。目の前には、白と金の鎧を着た勇者ヴェズドが立っている。黒い髪を後ろに流した、背の高い男だ。赤い目で僕をにらみながら、嫌そうに顔をしかめていた。
「俺様は新しい盾役を雇うことにした。お前みたいな役立たずは、もう必要ない」
「へえ! 新しい仲間が来るんだね!」
「……何だ、その反応は?」
「だって、よかったじゃない! 新しい仲間が増えたら、冒険も楽しくなりそうだよね!」
「増えるんじゃねえ! お前が追い出されるんだよ!」
「あっ、そうだったね。じゃあ、僕の代わりに頑張ってもらわないと!」
僕が笑うと、ヴェズドは顔をしかめた。
「お前、俺様をバカにしているのか?」
「えっ? どうして?」
「追放されるんだぞ! 少しは悔しがれ!」
「うーん。でも、新しい盾役は優秀なんでしょ? それなら、みんなも安心して冒険できるよね」
「だから、その笑顔が気持ち悪いんだよ!」
ヴェズドが机を蹴った。上に置いてあったコップが床に落ち、粉々に割れた。
「戦えないくせに、いつもヘラヘラ笑いやがって! お前は存在してるだけでうざいんだよ!」
「そっかあ。そんなに嫌だったんだね」
「ようやくわかったか!」
「うん! じゃあ、僕がいなくなったら、ヴェズドも毎日楽しく過ごせるね!」
「……てめえ!」
あれ? また怒らせちゃった。せっかくいい話をしているのになあ。
あっ、自己紹介が遅れたね。
僕の名前はルウセト。16歳の荷物持ちだ。勇者パーティーでは、荷物を運んだり、料理を作ったり、野営の準備をしたりしていた。
剣も魔法も得意じゃない。
その代わり、僕には【肩代わり】というスキルがある。
これは、仲間が受けるはずだった攻撃を、自分に引き受ける能力だ。例えば、仲間が魔物に斬られそうになったら、僕がスキルを使う。すると、仲間は無傷のままで、代わりに僕の体が斬られる。すごく便利だよね。毒や呪い、病気まで引き受けられるんだ。ただし、肩代わりした傷はちゃんと痛い。骨が折れることもあるし、毒を引き受ければ何日も熱が出る。おかげで僕の体には、傷がたくさん残っていた。
でも、このスキルにはいいところもある。
攻撃を引き受けると、経験値ポイントがたまるのだ。それに、毒を何度も引き受けると、その毒への耐性までつく。最初は3日も寝込んだ毒が、今ではまったく効かないこともある。同じ毒なら、次からは安心して引き受けられるんだ。便利だよね。
ちなみに、勇者ヴェズドの傷も何度も肩代わりしてきた。魔物に斬られた傷も、毒も、呪いも。全部僕が引き受けていた。だから、ヴェズドの体にはほとんど傷が残っていない。健康って大切だからね。
「おい! また俺様の話を聞いていないのか!」
「あっ、ごめんね。考えごとしてた」
「本当に使えない奴だな!」
ヴェズドは僕の腕を指さした。
「見ろ、その傷だらけの体を! お前が勝手に傷つくせいで、聖女の魔力も治療費も無駄になっているんだぞ!」
「そうなんだ。じゃあ、ヴェズドがケガしないように、これからは新しい盾役の人が守ってくれるんだね!」
「……あ?」
「よかった! ヴェズドって、けっこう攻撃を受けることが多かったから、僕も心配してたんだよ!」
「お前……!」
「新しい人は強いんでしょ? それなら安心だね!」
ヴェズドの顔が真っ赤になった。どうしたんだろう。もしかして、新しい仲間が来るのが嬉しくて興奮してるのかな。
「もういい! さっさと出ていけ!」
「うん。今までお世話になったね」
僕は笑って頭を下げた。すると、ヴェズドの拳が僕の顔に飛んできた。
「ぐはっ!」
頬を殴られ、僕は床に倒れた。口の中が切れたらしく、血の味がする。
「役立たずのくせに、最後まで俺様をバカにしやがって!」
ヴェズドは倒れた僕の腹を蹴った。
「うぐっ!」
「お前なんか、何の役にも立ってなかったんだよ!」
もう1度、腹を蹴られる。続けて背中も踏まれた。そこには、以前ヴェズドを庇って負った大きな傷がある。
「いっ……!」
これはけっこう痛いなあ。でも、ヴェズドも疲れているのかもしれない。最近は大変な依頼が続いていたからね。こうして元気に体を動かせるなら、ひとまず安心かな。
「おい! 何を笑っていやがる!」
「えっ? 笑ってた?」
「気持ち悪いんだよ、その顔が!」
「そっかあ。じゃあ、僕が出ていったら、もう見なくて済むね!」
「くそがっ!」
また蹴られた。どうやら、まだ元気が余っているみたいだ。
「そういえば、シェファナたちもお前のことが嫌いだって言ってたぞ」
「えっ、3人とも?」
「ああ。気持ち悪いから追い出してほしいとな。二度とお前の顔なんか見たくないそうだ」
「そうだったんだ!」
それは知らなかったなあ。
聖女のシェファナも、女戦士のガドリカも、魔法使いのポッケナも、僕の大切な仲間だった。最近はずいぶん仲良くなれたと思っていたんだ。シェファナは僕の傷をよく治してくれるようになったし、ガドリカは一緒にご飯を食べてくれた。ポッケナなんて、僕の服をつかんで離れないこともあった。でも、嫌われていたのかあ。僕が気づかなかったんだね。
「教えてくれてありがとう、ヴェズド!」
「……は?」
「3人とも優しいから、僕に直接言えなかったんだね。ヴェズドが代わりに教えてくれて助かったよ!」
「お、おう……?」
「僕がいなくなったら、みんなも気を使わずに済むね!」
よかった。これで全員が楽しく冒険できそうだ。
「じゃあ、3人には今までありがとうって伝えておいてくれる?」
「何だと?」
「僕は3人と冒険できて、本当に楽しかったんだ。嫌われてても、それは変わらないからさ」
ヴェズドは僕をにらんだ。それから、もう1度腹を蹴った。
「最後まで気持ち悪い奴だ!」
続いて、僕の荷物袋を取り上げた。中には着替えや料理道具、それに今までためてきた僕のお金が入っている。
「これはパーティーの財産だ。お前には渡さん」
「あっ、僕の鍋も?」
「全部だ!」
「そっかあ。その鍋、けっこう使いやすかったんだけどなあ」
「文句があるのか!」
「ううん! みんなで使ってくれたら嬉しいよ。スープを作るのにぴったりだから!」
「もう黙れ!」
ヴェズドは最後に僕の顔を殴った。今度は唇が切れた。そのまま胸ぐらをつかまれ、宿屋の外まで引きずられる。
「二度と俺様の前に現れるな! お前みたいなゴミは、どこかで野垂れ死ね!」
僕は外へ放り出された。地面に手をつき、ゆっくり立ち上がる。顔もお腹も背中も痛い。でも、歩けないほどじゃない。
「今までありがとう、ヴェズド!」
僕が手を振ると、ヴェズドは扉を勢いよく閉めた。ずいぶん疲れていたんだね。新しい仲間が来たら、ゆっくり休めるといいなあ。そう考えていると、頭の中で声が聞こえた。
『経験値ポイントが規定値に達しました』
「……ん?」
『スキル【肩代わり】を覚醒できます。覚醒しますか?』
「えっ、本当に!?」
やった! とうとう経験値ポイントが一定数たまったんだ!
最後にヴェズドから殴られた分で、足りないポイントが埋まったのかな。
「すごいや! ヴェズドのおかげだね!」
最後にこんな嬉しいことがあるなんて。勇者パーティーに入ってよかったなあ。
「うん! 覚醒するよ!」
『スキル【肩代わり】が覚醒しました』
体が少し温かくなった。それから、何も起きなかった。
「……あれ?」
僕は腕を動かしてみた。特に変わらない。顔もまだ痛いし、お腹も痛む。
「何が変わったんだろう?」
まあ、いいか。そのうちわかるだろう。それより、これからの生活を考えないとね。
「そうだ! 久しぶりに田舎へ帰ろう!」
僕が生まれ育った村には、小さな家が残っている。庭には畑もあるし、近くには魚が釣れる川もある。勇者パーティーに入る前は、あそこで暮らしていたんだ。久しぶりに畑仕事ができる。川で魚を釣るのも楽しみだ。
「よし、決めた!」
僕は村に向かって歩き始めた。




