↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「貴女様が次の女王です」「は?」~父親違いの三王女の中で、何もしなかった私が選ばれました~  作者: さんけい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/29

第五話 第一王女、怒る

 第一王女カドミアは、めったに声を荒らげない。

 怒鳴れば相手が驚き、話の内容より声の大きさを覚えてしまう。それよりも、何をしたのか一つずつ確認し、答えを紙へ書き留めたほうがよい。

 そう考える王女であった。

 したがってカドミアが怒ると、声ではなく質問が増える。こちらのほうが、相手にとっては困ることもある。


 エボニーがプロックス公爵家へ戻った翌日、カドミアのもとへ三通の招待状が届いた。

 一通目は、王都の慈善病院を支援する貴族たちの昼食会。

 二通目は、港湾整備について意見を交わす集まり。

 三通目は、若い貴族と政府の官僚を引き合わせる晩餐会である。

 どれも不自然な催しではない。

 カドミアは慈善病院の会計報告を読んだことがあり、港湾整備について意見書を出している。若い貴族の一人として晩餐会へ招かれても、王女なら珍しくはなかった。

 ただし、三通すべてに第一王配ビステルの名があった。


「父上は、いつから慈善病院に関心を?」


 カドミアは招待状を並べて尋ねた。

 女官は答えられず、届いた手紙を入れてきた銀盆を抱え直す。


「昨年の寄付者名簿を持ってきてください。それから、港湾整備の集まりは誰が主催しているのかも」

「かしこまりました」

「晩餐会の招待客も分かる範囲で」

「すぐにお調べします」


 女官が部屋を出ると、今度は侍従が入ってきた。


「プロックス公爵家のエボニー様がお見えです」

「お通しして」


 エボニーは昨日と同じ革鞄を持っていたが、今日は本ではなく数通の手紙を取り出した。


「殿下のところにも届きましたか」

「三通」

「私には四通です」


 机に並べてみると、二人が同じ催しへ招かれているものが三通あった。


「残りの一通は?」

「王都の若手官僚が集まる夕食会です。主催者から、殿下のお考えについても聞かせてほしいと」

「私の何について?」

「これからの王室と政府の関係について、だそうです」

「ずいぶん大きな話を頼まれたのね」

「私は、まだ王宮で何の役職にも就いていません」


 エボニーは四通目をカドミアへ渡した。

 招待状の文面は丁寧である。

 エボニーの学識を褒め、プロックス公爵家の長年の功績へ触れ、若い世代の意見を聞きたいと書かれていた。そのあとに、第一王女と親しくしている貴殿だからこそ、という一文が加えられている。

 カドミアは最後まで読み、招待状を机へ戻した。


「父上ね」

「おそらく」

「確認してきます」

「私も参ります」

「これは王家の話よ」

「私の名前も使われています」


 もっともである。二人は並んで第一王配の居室へ向かった。


 さて、ビステルの部屋は、王配三人の中で最も書類が多い。

 窓際の机だけでは足りず、壁際にも細長い卓が置かれている。王宮から届いたもの、生家のターナー家から届いたもの、知人へ送るものが、それぞれ別の箱に入っていた。

 その日もビステルは、書記に手紙を口述しているところだった。


「――今後の王国を支える若い方々とも、ぜひ意見を交わしたく」

「父上」


 カドミアが呼ぶと、ビステルは書記を止めた。


「珍しいな。お前からこちらへ来るとは」

「これについて伺いにきました」


 カドミアは三通の招待状を、父の前へ並べ、ビステルは一通ずつ目を通した。


「よい機会ではないか。病院への支援も、港湾整備も、お前が以前から関心を持っていたことだろう」

「三つの催しへ、私とエボニーを揃って招く理由は?」

「二人は結婚する予定なのだから、同じ場へ出てもおかしくはない」

「主催者へ、私たちを招くよう頼みましたか」

「話のついでに、名前を出したことはある」

「誰に?」


 カドミアは女官から受け取った紙を机へ置いた。


「慈善病院の支援会代表、港湾協会の会長、晩餐会を主催するローデン伯爵。そのほかには?」

「一つずつ聞くつもりか」

「はい」


 その声の中に怒りが宿っていると、ビステルもようやく気付いた。


「お前のためだ」

「私は女王になりたくないと言いました」

「分かっている。しかし、候補として検討される以上、周囲に能力を知ってもらう必要はあるだろう」

「母上は、支持を集めるようなことをしないでほしいと仰ったはずです」

「支持を集めているのではない。もともとの知人と話をし、お前を紹介しているだけだ」

「王女である私を、今さら誰に紹介するのです?」


 ビステルの返事が少し遅れた。


「お前がどれほど優れているか、知らぬ者もいる」

「知らないままで結構です」

「カドミア」

「女王になりたいと私が頼んだのなら、父上が助けてくださるのも分かります。けれど私は頼んでいません」


 部屋の隅で、書記が手元の紙を裏返した。途中まで書いた手紙を、これ以上目に入れないためである。

 なお、耳までは閉じられない。


「エボニーも同じです」


 カドミアが言うと、ビステルは初めて彼を見た。


「貴殿は、王配となることに不足があると思っているのか」

「不足の話ではございません」


 エボニーは招待状を革鞄へ戻した。


「私はカドミア殿下との結婚を望んでおります。殿下が女王に選ばれれば、王配としてお支えします」

「ならば、何も問題はないだろう」

「選ばれる前から、王配になる者として私の名を使うことには問題があります」

「将来に備えて人と会うだけだ」

「では、私が誰と会い、何を話すかは、私自身にお尋ねください」


 エボニーの口調は変わらなかったが、ビステルの書記が今度は筆を置いた。


「私は、殿下を女王にするための道具ではありません。殿下も同じです」

「誰も道具とは言っていない」

「言われていないので、先に確認に参りました」


 ビステルは娘と、その隣に立つ青年を見比べた。

 二人とも落ち着いている。声を荒らげず、必要なことを確かめ、相手の返事を待つ。

 ビステルが次期女王と王配にふさわしいと考えた姿が、そこにあった。

 困ったことに、それを作り出したのはビステル本人である。


「分かった。今後、二人の名を出す前に確認しよう」

「今出しているところには、訂正をお願いします」

「すでに決まった催しもある」

「出席するかどうかは、私たちで決めます」

「慈善病院の昼食会くらいは出てもよいだろう」

「父上」

「……分かった」


 ビステルは書記へ目を向けた。


「先ほどの手紙は止めてくれ」

「かしこまりました」


 書記は紙を二つに折り、別の箱へ入れた。

 カドミアは招待状を回収し、父へ一礼した。


「失礼いたします」


 エボニーも続いて部屋を出る。

 廊下へ出たところで、カドミアは足を止めた。


「ごめんなさい。貴方まで巻き込んで」

「私は、最初から関係者です」

「父上は、しばらくおとなしくしていると思う?」


 エボニーは閉じた扉を見た。


「今日送る予定だった手紙は止まるでしょう」

「今日の分はね」

「明日の分までは分かりません」


 カドミアは小さく息をつき、歩き出した。


「招待状を全部調べます。誰が父上と親しいかも」

「お手伝いします」


 二人はそのまま図書室へ向かった。

 結局、することはいつもと同じである。本を開き、記録を調べ、分かったことを書き出す。

 ただし今日から、調べる対象の中に第一王配が加わった。

 娘を女王にしようと動き始めた父と、それを止めようとする娘。

 第一の組は、早くも正反対の方向へ歩き始めていたのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。