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「貴女様が次の女王です」「は?」~父親違いの三王女の中で、何もしなかった私が選ばれました~  作者: さんけい


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おまけ⑧ 王家で最も気楽な子

 リオネルが生まれて三か月後、海辺の家で改めて祝いの食事が開かれた。


 ヴィオレッタの身体は順調に回復し、リオネルもよく飲み、よく眠り、よく泣いている。

 伸ばした食卓には、大人が十一人座った。

 リオネルは母の隣に置かれた籠の中で眠っている。

 合わせて十二人。ネヴィルが用意した食卓は、早くも予定していた人数を満たした。


「もっと大きな卓にしておけばよかったな」


 ヴェルディが言った。


「これ以上、誰を増やすつもりです?」


 カドミアが尋ねる。


「今後、子供が増えるかもしれないだろう」

「その話は、父上からしないでください」


 コーラルが釘を刺した。


「何も決めてはいない。ただ、増えるかもしれないと言っただけだ」

「それもです」

「今日はリオネルの祝いです。ほかの話はあとにしましょう」


 セルリアが言うと、ヴェルディも料理へ戻った。

 食卓には、海辺で取れた魚や貝、王都から運ばれた肉料理、庭で育てた野菜が並んでいる。

 祝いの菓子を選ぶ役目だけは、ヴェルディに任された。

 候補は五種類、試食は一度、選ぶのは二種類である。

 ヴェルディは決められた範囲を守り、五種類を二度ずつ試食して、二つを選んだ。


「また二度ずつ食べたのですか」


 コーラルに尋ねられたが、祝いの日なので許された。

 ヴィオレッタは久しぶりに家族と同じ料理を食べた。

 まだ量は以前ほどではないが、香草の匂いを嫌がることもない。


「母上、こちらも召し上がれますか?」


 セルリアが野菜料理を取り分けた。


「少しだけいただきます」

「魚は?」

「もう十分ですよ」


 その向かいでは、コーラルが魚の皿を自分から遠ざけた。


「どうしました?」


 グラファイトが尋ねる。


「何だか、今日は匂いが」


 コーラルは口元を押さえた。


「……ちょっと待って。うぷ」


 椅子を離れ、急いで隣室へ向かう。グラファイトもすぐあとを追った。

 食卓にいた全員が、その後ろ姿を見送った。


「まさか!」


 ヴェルディが立ち上がった。


「父上は、まだ何も言ってはいけません」


 隣室からコーラルの声が飛んできた。


「まだ私は何も言っていないぞ!」

「言おうとしたでしょう!」

「心配しただけだ!」

「顔が喜んでいました!」

「それは――」

「座っていなさい、ヴェルディ」


 ヴィオレッタに言われ、ヴェルディは椅子へ戻った。


「魚が合わなかっただけかもしれません」


 カドミアが言う。


「昨日、王宮でも食欲がなかったわ」


 セルリアは姉が残した皿を見た。


「朝食も、あまり召し上がっていませんでした」

「なぜ早く言わなかったのだ」


 ヴェルディが尋ねた。


「お父上が騒ぐからでしょう」


 カドミアの答えに、誰も異議を唱えなかった。


 *


 五日後、コーラルとグラファイトは再び海辺の家を訪れた。今度は二人だけである。


「子供ができました」


 居間へ入るなり、コーラルは言った。


「おめでとう」


 ヴィオレッタが答えると、ネヴィルも隣で頭を下げた。


「医師は何と?」

「今のところ、問題はないそうです。まだ初めの頃ですから、無理をしないようにと」

「身体を大切にしてください」

「はい。それから」


 コーラルは、母とネヴィルを交互に見た。


「母上たちのせいですよ!」

「私たちの?」


 二人は揃って聞き返した。


「お二人の仲が良すぎるから、こちらまであてられたんです!」


 ヴィオレッタはネヴィルを見た。


「私たち、人前で何かしました?」

「お見せするようなことはしていないと思います」

「見せられなくても分かるんです!」


 コーラルは椅子へ座った。


「二十年以上待ったからって、毎日一緒に庭を歩いて、お茶を飲んで、何をするにも二人で相談して。母上はネヴィルを見るたびにうれしそうだし、ネヴィルは母上が呼ぶ前に欲しいものを出すでしょう」

「長く仕えていましたから」

「そういうところです!」


 *


 後日この話を聞いたカドミアは、少し考えてから認めた。


「確かに、海辺の家から戻ったあとは、夫婦で過ごす時間が増えました」

「姉上もでしょう?」

「母上たちだけが理由ではありません」

「一つの理由ではあるのね」


 カドミアは答えなかったが、エボニーと共同書斎で過ごす夜が増えていた。


 *


 セルリアは、さらに素直だった。


「お二人を見ていると、結婚はよいものだと思えます」

「貴女たちも、以前から夫婦仲はよかったでしょう」


 ヴィオレッタが言った。


「はい。ですから、さらによくなりました」


 母親として、どう返せばよいのか分からない。

 ネヴィルは全員へ茶を注ぐ。何について責任を取ればよいのかは、彼にも分からなかった。


 *


 翌年の春、コーラルは元気な女の子を産んだ。

 ヴェルディは、今度こそ頼まれるまで何も買わなかった。

 その代わり、頼まれた揺り籠へ、春夏用と秋冬用の敷布を三枚ずつ用意した。


「揺り籠は一つだと頼んだでしょう」

「一つしか買っていない」


 待つことは覚えたが、数の増やし方までは直っていなかった。


 *


 その年の冬には、カドミアの懐妊が分かった。

 ビステルは報告を受けると、医師、乳母、出産後の公務、子供の教育について書類を作った。

 すべての表紙に「案」と書き、カドミアとエボニーへ渡した。


「まだ何も決めないでください」

「分かっている。確認してもらうための案だ」

「何枚あります?」

「二十三枚だ」

「多すぎます」


 それでも、書類の中には役立つものもあった。

 カドミアとエボニーは必要な部分だけを選び、翌年、男の子を迎えた。


 *


 セルリアとシモンは、姉たちの子供を抱きながら、自分たちの子供について話した。

 セルリアは現女王である。

 二人の間に子供が生まれれば、その子には王位継承権が生じる。

 授からなかった場合には、姉たちの子供を養子として迎える道もあった。

 王位を継げる者が自分一人しかいなかったヴィオレッタの頃とは違う。すでに甥と姪がいて、今後さらに増える可能性もある。


「私たちだけで、急がなくてもよいのですね」


 セルリアが言った。


「はい」


 シモンは、温室で取れた苺を皿へ載せた。


「でも、いつかは?」

「いつかは、私たちの子供も欲しいです」

「私もです」


 二人は苺を食べながら決めた。


 *


 その後、セルリアも子供を授かった。生まれたのは女の子である。

 王位継承権を持つ第一王女となったが、王位を継ぐ子供が一人きりで育つことはなかった。

 伯母二人の子供たちがいる。海辺の家へ行けば、自分より少し年上のリオネルもいる。

 国のために大切に守られながら、王位を押しつけ合えるほど多くの親族に囲まれて育つことになった。


 *


 さて、リオネルが四歳になった頃、海辺の家の庭には五人の子供が集まっていた。

 リオネル。

 コーラルとグラファイトの娘と、二人目の息子。

 カドミアとエボニーの息子。

 セルリアとシモンの娘である。

 年齢は近いが、関係を正しく言えば、リオネルは残る四人の叔父だった。


「叔父上、待って!」


 セルリアの娘が庭を走る。


「苺は僕が見つけた!」


 四歳の叔父は、赤い実を一つ握って逃げた。


「リオネル、走ってはいけません!」


 カドミアが長椅子から呼んだ。


「苺を一人で食べないの!」


 コーラルも追いかける。


「温室のものを勝手に取っては駄目です」


 セルリアは、自分の娘と弟をまとめて捕まえた。


「姉上、離して」

「苺を返してください」

「僕が見つけた」

「皆で分けます」


 一粒の苺を五人で分けるのは難しい。

 シモンが温室から籠を持ってきて、全員へ一つずつ渡した。


「最初から、こうすればよかったのでは?」


 エボニーが言った。


「追いかけるのも楽しいのよ」


 グラファイトは、捕まったリオネルを抱き上げた。


「叔父上は、今日も元気だな」

「下ろして」

「ほら。海が見えるぞ」


 肩へ載せてもらうと、リオネルは下ろせと言ったことを忘れた。

 少し離れた長椅子には、三人の元王配が座っている。


「もう少し大きくなれば、馬に乗せられる」


 ヴェルディが言った。


「先に本人へ尋ねてください」


 ビステルが注意した。


「リオネル、馬に乗りたいか?」

「乗りたい!」

「ほら。本人も望んでいる」

「今すぐとは言っていないでしょう」


 エクリオは、子供たちへ林檎の菓子を配った。


「苺を食べたばかりですよ」


 ヴィオレッタが言う。


「一つずつです」

「では、夕食前はそれで最後にしてください」


 リオネルは菓子を受け取り、次に姪と甥の分まで取ろうとした。


「一人一つです」


 エクリオが籠を持ち上げる。


「僕は叔父上だから二つ」

「年齢は一番上ですが、身体は一つでしょう」


 叔父であることを、菓子の数に使う知恵はついていた。

 王位継承権はない。女王となるための教育もない。結婚相手を王室会議に調べられる予定もない。

 元女王の母と、二十年以上待った父。

 二十歳近く年上の姉が三人。その夫たち。

 三人の元王配。

 さらに、年の近い甥と姪までいる。

 リオネルは、王家で最も気楽な子供として育っていた。


「この子だけ、ずるいわ」


 コーラルが言った。


「何がです?」


 ヴィオレッタが尋ねる。


「王位の心配もなく、海辺で暮らして、皆に甘やかされているもの」

「コーラル姉上が、一番甘やかしています」


 セルリアが指摘した。


「私は姉として、可愛がっているだけよ」

「先ほども、服を三着持ってきましたね」

「四歳はすぐ大きくなるの」

「去年も同じことを言っていました」

「カドミア姉上だって、本を六冊持ってきたでしょう」

「年齢に合うものを選びました」

「セルリアは、苺を籠ごと持ってきたわ」

「皆で食べるためです」


 三人とも、自分が一番甘やかしているとは認めなかった。

 リオネルはグラファイトの肩から下ろしてもらうと、今度はエボニーに本を読んでほしいと頼み、その途中でシモンが持ってきた苺を食べた。

 夕食の時間になると、大人十一人と子供五人が食堂へ集まった。


「座れませんね」


 ヴィオレッタは、十二人用の食卓を見た。子供用の椅子を加えても、全員分には足りない。


「もう一つ、卓を並べましょう」


 ネヴィルが答えた。


「これからも増えるかもしれないぞ」


 ヴェルディが言った。コーラルは父を見る。


「何も決めていない。可能性の話だ」

「今度は、本当にそうですよ」


 グラファイトが笑った。


「では、二十人座れるものを作らせます」


 ネヴィルは、食堂の広さを確かめた。


「二十人も?」

「十二人では、もう足りません」

「それはそうですけれど」


 ヴィオレッタは食堂に集まった家族を見回した。

 庭から戻った子供たちは、誰がどこへ座るかで早くも騒いでいる。

 リオネルは母と父の間に座るつもりだったが、姪二人から隣に来てほしいと引っ張られていた。


「二十人でも、足りなくなるかもしれないわね」

「その場合は、また考えましょう」


 ネヴィルが二人で暮らす家を探し始めてから、十四年ほどがたっていた。

 今では食堂へ、二十人用の卓を入れようとしている。


「静かな暮らしではなくなりましたね」


 ヴィオレッタが言った。


「はい」

「残念?」

「いいえ」


 ネヴィルは子供たちの椅子を並べ直し、ヴィオレッタの隣へ戻った。


「こちらのほうが、よろしいかと」

「私もです」


 食事が始まる前に、リオネルが林檎の菓子をもう一つ取ろうとした。

 三人の姉が同時に止める。

 甥と姪が笑い、三人の父親が別々のことを言い、三人の夫が子供たちを席へ戻した。

 海辺の家に、静かな時間はなかなか来なかった。

 その代わり、家族は予定よりずっと増えた。


 *


 なお、次の世代の子供たちにも、いつか「誰が女王になるか」という話はやってくる。

 けれど今度は、候補も、相談相手も、手伝う家族も十分すぎるほどいる。

 もしまた誰も女王になりたくないと言い出したなら――

 

 そのときは、全員で相談すればよいのである。



 END

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