プロローグ というわけで
「というわけで、セルリア王女殿下。貴女様を次の女王と定めることになりました」
「は?」
ホルルベイン王国の次期女王が、実に王族らしからぬ声を出した。
もっとも、これについてセルリアを責めるのは気の毒である。
王宮の小会議室には、女王ヴィオレッタをはじめ、宰相、司法卿、王室卿が揃っていた。磨き込まれた長卓の上には、紫の紐を掛けた書類が積まれている。扉の脇には女官が二人。窓際には、女王付きの侍従まで控えていた。
これだけの顔触れを前に告げられたのが、春の祝典の役目でも、婚礼の日取りでもなく、次の女王である。
やはり「は?」くらいは許されるであろう。
「……どういうわけですか」
セルリアは念のため尋ねた。
「ご説明いたします」
宰相が答えた。最初の一言を発したのも彼である。
「その前に、姉が二人おりますけど」
「存じております」
「二人とも私より優秀です」
「それも存じております」
「第一王女と第二王女です」
「もちろんでございます」
セルリアは卓の向こうに座る母を見た。
「母上」
「皆で半年かけて検討した結果です」
「半年もかけて、なぜ私になったのです?」
「それをこれから説明してくれるそうですよ」
ヴィオレッタは宰相へ顔を向けた。説明するのは任せる、ということであろう。
さて、セルリアはこの部屋へ呼ばれる少し前まで、婚礼後に使う温室の長椅子について考えていた。
左手には今も、布地の見本帳がある。
淡い青、若草色、生成り、細かな花模様。幼なじみであり婚約者でもあるパーシモン・ルフラン――シモンは、どれを見せても「セルリアが好きなものでいいよ」と言うに決まっている。そう言われると分かっていても、一緒に選ぶことに意味があるのだ。
王座の張り地について考えたことは、一度もない。
「私、今日はシモンと温室を見る約束があるのですけれど」
「先方には、こちらから使いを出します」
王室卿がすでに用意していた書状を示した。
「では、この話はすぐには終わらないのですね」
「少々お時間をいただきます」
宰相はそう答えたが、この場合の「少々」がどれほどの長さを指すのか、セルリアには見当がつかなかった。
少なくとも、卓上の書類は三冊ある。
司法卿の前にも二冊ある。
なお、王室卿の足元には、さらに大きな革鞄が置かれていた。
「……長くなりそうですね」
「順を追ってご説明いたします」
セルリアは布地の見本帳を閉じ、女官が引いた椅子へ座った。女王になる気など一度もなかった娘にしては、たいへん素直な態度である。
「では、お聞きします」
宰相が最初の書類を開いた。
「そもそも、ことの起こりは半年前のことでございました」
そういうわけで、話も半年前へ戻ることになる。
まだ三人の王女が、揃いも揃って自分は女王にならないと信じていた頃へ。




