You are my special
常盤さんの言葉が私の胸につっかかった。
私にとって彼女は...友達、大切な人。なら彼女にとっては?
彼女は私のことをどう思っているんだろう。
心拍数がうなぎ上りになった。
ただの友達?それとも彼女も私のことを大切な人って思ってるのかな...
まず友達と大切な人の違いって何。
私と常盤さんはどういう関係なんだろう。
いい言葉が思いつかない。
ただ私は少なくとも彼女がいない世界でうまく生きていく自信がない。
もう私に必要不可欠な人であると言ってもいい。
そんなことを考えているうちに数分が過ぎていた。
私は数秒ごとに時計とインターホンを交互に見る。
時計の音が私の鼓動と重なる。
私は無意識のうちにペタン座りをしながら左右の足を震わせていた。
体に空いた空洞をふさぐように。
(ピーンポーン)
その音で部屋の空気は一変した。
私の口はほんの少し緩んだ気がした。
玄関をめがけて一直線に走り出す。
扉を開けた先には月夜に輝くエメラルド。
風になびかれ浮き上がる髪。月に劣らぬ宝石の眼。
夜の彼女は少しだけ不気味で朝とは心なしか変わって見える。
「来てくれたんだね...家にいる時間はある?」
「ええ、少しぐらいなら」
「じゃあ、お願いします」
心のビーカーは一瞬で満杯になった。そんな彼女にカリスマ性すら感じていた。
「こちらがお詫びの品です。お査収ください」
なぜ尊敬語...?
常盤さん、実は結構ユーモアのある人だ。
昨日の夜も帰り際にからかわれてしまった...
けど嫌な気は毛頭しない。なんなら自然と心が躍る。きっと私は気分のいい彼女が好きなのだろう。
「相変わらずミルクココアが好きですね」
「うん、昔お兄ちゃんが冬によく買ってきてくれてたんだー。リラックス効果があるよって」
「なるほど、随分兄とは仲が良かったようですね。」
彼女は首をかしげていた。
理由は何となくわかる。ならなぜ兄は家を出たまま消えてしまったのか。
私だってその理由が知りたいぐらいだ。
「あっ、そうだ。常盤さんごめんね。前に常盤さんがくれた観葉植物一か所枯れちゃった。」
「そうでしょうねー。あれは茉白に上げてからかなり時間が経ちましたから...また近々新しいものを買い直しましょうか。」
「その時は、その、私もついていくね」
「えぇ、もちろんです。あ、ついでにもう少し料理の道具も買いましょう。ちょうど買いたいものがありますので...」
今日は常盤さんといろんな約束ができた。一緒にお泊まりと一緒におでかけ。
なんだか今日の彼女はいつもより少し近くに感じられた。
その時だった。上流を流れる彗星のように、闇夜の中に落ちる赤い光が見えた。
本当に炎に包まれた彗星のようだった。
闇夜に沈む黒い海も赤い光を細やかに反射していた。
そんな異質な光景なのに。その色にどこか既視感を覚えていた。
「い、今のなに?」
常盤さんのエメラルドの目に落ちる炎はまるで森を燃やすようで...
彼女は自分の手を強く握りしめていた。
「と、常盤さん?」
「......。茉白、まずは落ち着いてテレビをつけてください」
私の体は自分の意に反して小刻みに震えていた。なのに、なぜだろう。
——あの彗星に手を伸ばしたくなった。
テレビではどのチャンネルも赤い光の話題でいっぱいだった。
近くにそのような物体があったことは確認できていないらしい。
「不思議なこともあるものですね。もう落ち着きましたか?」
「う、うん。でももう少しだけ」
今、私は常盤さんの中にいる。
彼女の熱は私の心を溶かす成分が入っているのだろうか。
ずっとこのままでいたい...
さっきのまぶしい赤い光でさえ、彼女のおかげで身に染みたと感じると、不思議と頬まで溶けていく。
「茉白、一緒にお風呂入りますか?」
「......」
数秒間私はフリーズした。なぜだろう、彼女はよく私の頭で反響する。
ようやく意味を理解し頬を赤らめた。
「ぃぇぃぇぃぇぃぇ、ダッ、ダイジョウブデス。もう遅いですし帰りますか?わ、私はお風呂に一人で入りますからあとはダイジョウブデス!!」
そのまま洗面台へと向かった。
頭から蒸気が出そうなほど変な妄想が頭をよぎった。
「わ、私は何を考えて...」
「もぉー、あんなに恥ずかしがらなくてもよかったのに」
(少し用事もできましたし帰りましょうかね...)
「茉白ー、今日はもう遅いので帰りますね。また明日学校でー」
壁越しからでも彼女の声はクリアに聞こえた。
「あっ、はーい。気を付けて帰ってね」
さすがに誘ってくれたのにあの断り方はよくなかったかな...
ドア越しに座り込んだ。
常盤は家の外へと出ると月明りは雲の中へと消失していく。
「まったく、もう少し彼女といてあげたかったのですがね...まずは彼女を守るのが最優先ですから仕方ない、か」
常盤の鮮やかな色が暗緑色へと変わり闇夜の中へと馴染んだ。
「あら、わざわざお出迎えしてくれるなんてありがたいですね。」
——わざわざ出てくるなんて、一体何を考えている...
いつもの彼女からはかけ離れた色を放っていた。




