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17 ビアンカの最期 【ビアンカ】

【SIDEビアンカ】


「一人で生きていけって? なんて薄情な子なんだろ!」


 やっと迎えに来たと思ったら、散々暴言を吐いて、レオンは私を地下室に置き去りにした。


 とにかくこの汚らしい廃屋から出ようと、半裸のまま外に出る。

 そのまま外を歩いていると中年男と出くわした。


 男は私の姿を見て、真っ赤になりながら

「お嬢さん、どうしたんだい」と嬉しそうに近づいてきた。


 ちょうどいい。

 私は男と目をあわせ、腕に抱き着き魅了魔法をかける。


 目を見てその身にふれることで、サキュバスは魅了魔法をかけることができるのだ。


 男は私の姿を見てすでに脂下がっていたから、魔法をかけるほどではなかったようだったが。

 そのまま男の案内で家に上がり込み、服を物色する。

 碌な服がなかったが唯一あった水色のドレスに着替えた。

 私の命令で男に抑え込まれた妻らしき女がぎゃーぎゃー喚いていたが無視し、男に馬で王都まで送らせた。


 王宮の隣にたたずむリヒター侯爵邸に到着し、門をくぐろうとするが、中に入れない。

 前よりずっと強力な結界が張られていた。


 待機小屋に詰める門番がいたので「ビアンカよ!開けなさい!」と命令するが、見えてないかのように無視された。

 なんて腹立たしい!




 仕方がない。

 レオンの勘気が収まるまで、ホテルにでも泊まるしかないか。

 あたしは彼の父との100年の旅で、ホテルでの生活に慣れている。


 奇麗なホテルを見つけたので、フロントで部屋を要求する。

 予約の有無を聞かれ『ない』と答えると、頭の上からつま元までジロジロ見られて


「シングルのお部屋で50000ミルになります」

 と前金を要求された。


 そうか、ホテルに泊まるには、お金がいるんだ。

 今の私は一銭もお金を持っていない。


「困ったな…」

 ホテルを出て、しばらく考える。


 疲れたし、とにかく眠りたい。

 すると、飲み屋から出てきた、ちょっと身ぎれいな若者が出てきた。

 良い感じに酔っぱらっている。


「ねぇ」

 目を合わせ、腕にふれる。


「私ひとりぼっちで困ってるの」

 そう告げると男の顔がふにゃりと蕩けた。




 狙い処は、バッチリだった。

 近くの商店で事務の仕事をしている男で、一人暮らしだった。


 家に着くと男はすぐ抱きたがったが、汚れているからと湯を沸かさせ、やっと身体を清めることができた。

 そして絡みついてくる男を、なんとかいなし、3日ぶりにベットで眠った。


 そうしてしばらくその男の部屋で暮らしたが、そろそろ我慢の限界だ。

 部屋は狭いし、周りの住民の声がうるさい。

 部屋に風呂もないし、家具は質素だし、ベットは狭いし寝心地も悪い。

 食事は男から精気をもらうから良いけれど、嗜好品のチョコレートやケーキもないし、シャンパンもないし、茶葉はしぶいし、ワインは酸っぱいし……


「金持ちに乗り換えなきゃ!」




 次に捕まえたのは、初めに捕まえた一人暮らしの男の商店の主人。

 当たり前だが、妻帯者だった。

 彼にはアパートをねだり、愛人として囲われることに。

 それなりにマシにはなったが、買ってくれるドレスは貧相だし、宝石も小さい。


「やっぱり、貴族を捕まえなくちゃダメだ」


 だが、市井では貴族に会うことがない。

 貴族相手の店に出向いても入店を断られるし、出てきたところを捕まえようにも従者がいて触れることができない。


「ねぇ、貴族が参加するようなパーティに行くことなんてないの?」

 商店主人の男に聞いたら


「大商店のオーナーならまだしも、平民が呼ばれるわけないだろ」


 そう! 大商店のオーナーね!




 そして王都で百貨店を3棟持つ、オーナーの男の愛人に収まることができた。


 一軒家を買い与えられ、割と快適な生活を送れるようになった。

 貴族が参加するパーティにも度々連れられたが、魅了魔法をかけるのがなかなか難しい。

 その場では虜にできるのだが、離れてしまうと魔法が解けてしまう。


「やはり、一緒に暮らすとかして魔法を重ね付けできる環境じゃないと…」


 しかも高位貴族が参加するパーティに同伴するのは妻なので、愛人の私は連れて行ってもらえない。


「下級貴族なんてお呼びじゃないのに」


 そう思うが、これ以上の立場の男に魅了をかける機会が、なかなか訪れない。

 悶々とした日々がずっと続いた。


 しかもこの男、他の男を連れ込むと激怒して殴ってきたんだ!

 同じ味の精力なんて、飽きてしまうに決まってるじゃないか!

 束縛されるのはイヤだって言って邪険にしたら、家から出てけなんて言ってくるし。

 魅了魔法をかけなおしたら何とか収まったけど……侍女に監視されるようになって最悪だ!


 次に乗り換えたいのに、身動きが取れなくなった。



 それに多少見れた容姿だった男は年を取ってどんどん醜くなるし、こんな男と寝るなんて食事とはいえ苦痛で仕方ない!

 しかも、年とともに精力はマズくなるし、たまにしか、くれなくなるからお腹が空いて仕方がない。

 でもこの男以上の金持ちには中々出会えないし、あ~あどうしたらいいんだろう。


 まぁそろそろレオンの勘気も収まった頃だろうし、侯爵邸に戻ろうかなと思っていたある日……



 ベットを共にした後、男に言われたのだ。


「オレはお前が怖い! お前は魔物か何かか!?」


 50代で出会った男は80才になっていた。


 私は何も変わっていない。

 そんなに長い時間がたってたの?


「オレはずっと真面目に生きてきた。なのにお前を愛人にするなんて…妻を裏切り続けてきたなんて…どうかしてた!」

 男は、おいおいと泣き始めた。


 魅了魔法が解け始めた?

 どうして?


「お前はオレに何かしたのか!? そうでなければ……」

 そう言うと男は床に倒れこんだ。


 男は、こと切れていた。



「しまった! 精気を吸い過ぎた!」


 この死体をどうするかと悩んでいたら、階下に沢山の人が入り込む音がした。

 ドカドカと階段を上がってきて、乱暴にドアが開かれる。


 同じ制服を着た20人ほどの男、彼の百貨店の従業員たちだ。

 手に木の棒やナイフを持っている。

 その奥から飛び出してきたのは年老いたババア。


「あなたぁぁぁ~!」


 ババアは男にすがりつく。


「あぁ…あぁ…死んでる! 死んでる!」


 その声に、従業員たちが息をのむ。


「その女よ! その女が殺した! その女は何年もそのまま、ずっと年を取っていない!魔物よ! 魔物! 私の旦那を誘惑して狂わせた魔物だわ! 殺してぇぇぇ~!!」


 その叫びに従業員たちが、一斉にあたしに飛び掛かる。

 頭を木の棒で殴られ、肩にナイフが突き立てられる。


「ぎゃあああああ」


 堪らず2階の窓から逃げ出す。

 かかとから異音がしたが、構わず全裸で走り続けた。




 途中で洗濯物を盗み、服は着れたが靴がないので、足が痛くて堪らない。


 王都は騒然としていた。

 実は百貨店オーナーだと思っていたあの男は婿に過ぎず、あの泣き叫んでいたババアが創業者一族の娘で、あのババアの号令で王都中の市民があたしを捕まえようと動き出したのだ。

『今、この街には人間を意のままに操り、精気を吸い取って殺す不老の魔物がいる。殺せ!』と。



 この状況では王都の中心にあるレオンのいる屋敷に逃げ込むこともできず、とにかく人のいない方へと逃げ出すしかなかった。



 そうして足を引きずりながらも王都から何とか脱出し、田舎町まで逃げおおせた。


 途中で20人ほどの男と閨をしたが、殴られた頭は傷んだまま、刺された肩からは血が止まらない。

 かかとも骨折したのか2倍に膨れ上がったままだ。


「もっと精気がいるのか…」




 そうしてるうちに途中で出会う男を閨に誘うが、苦笑いをされ断られることが増えてきた。


 そして、今日言われた。


「お前みたいなババアを抱けるかよ!」




「さ…寒い」


 廃屋に入り込み埃まみれのシーツを身体に巻く。

 巻いたその手は皺だらけだった。


「うそ…!」


 崩れかけた部屋をさまよい、見つけた割れた鏡のかけら。


 粗悪な歪んだ鏡に写し出されたのは くっきりと深い皺が刻まれた老婆。


「どうして…どうして…」




 頭に浮かんだのは遠い昔、あたしを切り捨て、一人で旅に出たレオンの最後の言葉。


『ビアンカの寿命はあと150年くらいだな。それまでにこの国に戻ってくるか分からんから、これでさよならだ』


 あれから何年たった?


 青ざめる老女が、鏡に写った。





 探検ごっこだと廃屋で遊んでいた村の子どもたちが見つけたのは、おそらく死後10年以上たったと思われる、カラカラに乾いた黒いミイラのような女の遺体だった。

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