12 この結婚に幸せが見えない
ベティに就寝の準備をしてもらった私は、ゆっくりとベッドに横たわる。
レオンハルト様の告白が、あまりのも衝撃的すぎて……
全く頭が働かない!
よし、情報を整理してみよう!
太古はいた魔族も獣人、エルフなどは人間と交わり、すっかり血が薄くなってその特徴を持つものは、ほぼいなくなった今の世の中で……
レオンハルト様は半分魔族――
しかもバンパイア族で、食事は血と体液?
血……体液って唾液? だからハービット男爵令嬢とキスしてた??
魔力と神聖力は相反するもの。
その為、神聖力を持つ聖女の私の血を飲むのはもちろん、触れることも出来ない。
レオンハルト様は半分獣人――
お母さまは狼の獣人だったのよね?
獣人らしいが、お姿にその特徴はないように見える。
獣人は一生に一人だけ唯一無二の存在、番だけを愛する種族で、その番がいなくなれば衰弱死するとか。
「なのにその番が私で、聖女だからレオンハルト様は触れることも、できない……」
焼け爛れた彼の手のひらを思い出す。
「触れられないということは、一生初夜がない……」
それは子どもを持てないということだ。
大家族、ベルツ男爵家の暖かな食事風景が頭をよぎる。
「そして私の血が飲めないから、これからもレオンハルト様は、浮気し続けることになる……」
…………。
不毛……なんて不毛な関係なんだ私たち……!
これはもう、悲劇を通り越して喜劇でしょう??
一緒にいても、不幸になる未来しか見えない!
「やっぱり、離婚かぁ~」
確かにレオンハルト様に恋をし始めていた。
でも、それはまだ小さな小さな蕾のような恋で……
「今なら忘れられる」
そう、忘れられるはずだ。
でも……
プライドをかなぐり捨てて、こんな小娘に泣きながら、必死に愛を伝えるレオンハルト様の姿を思い出す。
国じゅうの憧れの貴公子が私を気遣い、いつも見せるのは笑顔だけ。
ベルツ男爵領でジャガイモを収穫して喜ぶ泥だらけの笑顔、昼食を食べる私を嬉しそうに見つめる瞳、『嫌わない?』なんて弟のように上目使いで懇願する姿、もじもじと両手をすりあわせ『ボク』と言う姿……
あこがれの貴公子に執着されて、優越感いっぱいで心地いい?
こんなにも無条件で愛されて嬉しい?
子どものように慕ってくる姿が、弟のようで可愛くてほだされた?
分からない……分からない
ただ……
こぼれ落ちる、この涙は何なのか。
どうしたらいいのか。
私はどうしたいのか。
私は、私のことが分からない……!
何時の間に眠ってしまったが、早朝の喧騒に目を覚ました。
「ビアンカが行方不明です!」
大声でレオンハルト様の寝室に飛び込み、報告する声は隣の部屋で眠る私の耳にも届いた。
どうやら、地下牢に移送するはずのビアンカがいなくなったらしい。
「結界があるから、外には出れないはずだ!」
そう叫ぶレオンハルト様の声とともに、バタバタとみんなが、階下に移動する音が響く。
呆然としていたら、ノックもなく二人の男が入ってきた。
「旦那様が、奥様に避難せよとのご命令です。」
「え?」
突然目の前で霧状の液体をまかれると、私の意識はそこで途絶えた。
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「さむ…」
あまりの寒さに目覚める。
5月だが朝晩は冷え込む。
目の前の景色は馴染みあるベルツ家のものでもなく、私の知っている侯爵家屋敷のどの部屋でもない。
公爵夫人の寝室に入ってきた二人の男に、霧状のものを吹きかけられたからの記憶がない。
冷たい床に、塗装がはがれかけた壁が四方を囲む狭い部屋、窓もなく地下室だろうか。全く知らない場所だ。
起き上がり自身を確認すると、衣服の乱れはなく……つまり寝巻のままで、拘束もされていない。
目の前にある唯一の扉は、木製でかなりの年代物だ。
ひょろひょろの私でも、体当たりすれば鍵を壊せるかなと思う。
人の気配が近づいてくる。
とっさにまた寝転び、まだ意識を失っているふりをする。
顔まわりを髪で覆い、薄目を開けても分からないようにする。
夜更かしを怒られないように身に着けた、幼少期からの知恵だ。
ドアが開けられいきなり明るくなってよく見えないが……
「のんきなもんだ。まだ、寝てるのか?」
この声、ビアンカだ!
ビアンカの後ろには、私の寝室に押し入ってきた二人の男もいる。
「ははっ! しかし良くやった! レオンはすぐにこの小娘がいないことに気が付くだろうけど、『結界があるから外にいるはずはない!』って思って今頃、必死に屋敷内を探し回っているんだろうねぇ」
ビアンカは興奮しているのか、声も大きく息も荒い。
「ホント、のろま! 結界の許可者があたしのうちに、さっさと連れ出してやったってーの!」
そうか…レオンハルト様は私がさらわれて、屋敷の外にいる事を知らない?
「あと1時間もしたらさすがに目覚めるか……はっは! そうしたらこの女を褒美にお前らにやろう! めちゃくちゃにしていい! 何なら殺してもいいぞ!」
「はい」
「……はい」
二人の男が無表情に答える。
「レオンは悔しがるだろうな! 抱きたくて堪らない女を自分は抱けないのに、他の男に処女を奪われて殺されるなんて! 泣くだろうなぁ~~ははは! 命の恩人の私を蔑ろにした罰だ! 良い躾になる!」
笑いながらビアンカと男たちは、この部屋から出て行った。
「ふぅ~」
1時間後に奴らはまた来る。
さぁ、どうする?
レオンハルト様は、私が屋敷から連れ出されたのを知らない……かもしれない。
何とか知らせる方法は、ないのか……?
『私たちは魂で繋がっているんだよ? 人間の君には分からないだろうけど、私には分かる! だから君がビアンカに傷つけられたのもすぐ感知して助けに行っただろう?』
レオンハルト様の秘密を聞いた時の彼の言葉を思い出す。
「私が傷つけられたら、レオンハルト様には分かる? ……居場所も分かる?」
レイプされたら、感知はできるだろうけど……
「それじゃ、手遅れよね」
屋敷からここまでの距離も分からないし、間に合わなくて凌辱のあと、最悪殺されてしまっているかもしれない。
それなら、先に
この前ビアンカにやられた程度の暴力をふるうように仕向けたら……?
それにあの二人の男、
「目がうつろで、動きも緩慢だった」
ビアンカは屋敷では、レオンハルト様の次に血が濃い魔族なんだよね?
魅了魔法が得意だと言っていたレオンハルト様。
もしかしたらビアンカも……
「二人の男の魅了が解けたら……ビアンカだけなら、逃げ出すチャンスはあるかも」
私は脱出するための作戦を、ひたすら考え続けた。
そうしていると1時間たったのか、ゆっくりとドアが開いた。
もちろん入ってきたのは、ビアンカと二人の男。
「ようやく目覚めたか、小娘」
「ビアンカさん? ここはどこなの?」
「はっ! お前は何も知らなくていい! ただここで死ね! 羽虫ほどの力しかない聖女くずれが『私のレオン』を誘惑した罰だ!」
いえ、再度言います。
羽虫ではなく、アリンコです。
で、ここからが私の作戦開始だ!




