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異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~  作者: 存在証明
断翼のレクイエム

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正された因果律

突然、まばゆい光が上空を支配した。


空を覆っていた暗闇は蜘蛛の子を散らすように光から離れていく。


「ァアアア!!!」


叫び声が聞こえた方をみると、そこには人の形すら保てていない秋の天使の残骸があった。


風がやみ、僕は地面に着地する。


「カイ!」


そう言って手を振りながらコウが僕のもとに駆け寄ってきた。


「アイツは?」


「消滅したよ。君がつけてくれた、魔力の残滓が消えてしまったからね。」


「なんで消滅したん?俺らまだなんもしてへんかったやろ?」


「多分、、原因はあれじゃないかな。」


上を見上げるとそこには金色の光を纏った『なにか』がゆっくりと地上に近づいてきていた。


「あの光って、イリアスか?」


「『赤き月が天に昇るとき、神の子は悪しきものに攫われて、世界は混沌と化すであろう。悪を滅する浄化の炎、悪を寄せ付けぬ不滅の光。神の子を守る盾となれ。』」


「イリアスが…『悪を寄せ付けぬ不滅の光』?」


「多分ね。君と同様、覚醒したんだよ。」


僕はそう言って上空に向かって手を振ったのだった。


第三者視点

ハレールの空に光が差し込んだとき、ハレール郊外には二つの『人ならざる者』がいた。


「これはこれは、水の神じゃないか。」


そう言ってルラールはにんまりと笑った。

黒髪の青年はそれを横目で流しながら立ち止まった。


「私が直々に来てあげたんだ。もう少し丁重に出迎えたらどうかな?」


青年の前には何十匹もの『鬼者』がいて、行く手を塞いでいた。


「ふっ、どの口が。創造神によって長らく封印されていた下級神のくせに。」


「意思もなく人を嬲り殺すことしか能がない魔獣未満のものに言われても何も響かないな。それにしても、よくもまあここまで好き勝手してくれたねぇ。」


襲い掛かる鬼者を青年は一歩も動かずに消滅させる。


「鬼者ごとき何匹倒そうが意味はないよ。今回の戦いで得た死体を使えば無限に作り出せるんだから。…それに、アンタに僕を殺すほどの力が残っていないのは知っている。いくら吠えようがただの負け犬であることに変わりないさ。」


ルラールはそう強がるものの、声が震えていた。

それは、青年から有り余るほどの神力を感じ取ってしまったからだった。


それに気づいた青年はふっと鼻で笑った。


「一度しか言わないからよく聞いておくんだね。君の敗因は合計三つ。一つ目は半神の周囲の者に『大いなる力を授かるチャンス』を与えたこと。」


青年はそう言って3歩進んだ。


「二つ目は『天使を堕落させた』こと。」


そこで一度区切り、青年はルラールの目の前で足を止めた。


「そして最後の三つ目は、ここハレールで『こと』を起こしたこと。」


青年はルラールの顔を手で掴み、グイッと頭を近づけた。


「二つ目で創造神を、三つ目で『私』を怒らせた。もしもそれがなければ、君が…君たちが勝っていたかもしれないというのに、なんと愚かなことだろうか。」


絶体絶命の中、ルラールは逃げることができなかった。


それはなぜか?

青年の圧倒的な神力に体が弱体化し、まともに動かすことができなかったからである。


青年の緑色の瞳が不意に金色に光輝いた。


「かっ、下級神の…分際で…」


「創造神に幾度となく捻じ曲げられた因果律が、ようやくもとに戻りだした。……そうだ、どうせ最後だろうし一応訂正しておこうか。私は下級神ではなく、上級神だよ。」


「なっ…!!」


ルラールが言葉を発する前に、青年がルラールの首を飛ばす。


ルラールの首が宙を舞う。


ゴトリ、と地面へ転がったその瞬間。


ニタァ――


首だけとなったルラールが笑った。


「……なるほど。」


青年は表情一つ変えない。


「やっぱり気付いていたんだね。」


首だけになったルラールの口元が歪む。


「残念だったねぇ。これは僕の本体じゃない。この体の者…デューチェはただの鬼者だ。アンタは僕を殺せない。」


だんだんと身体が黒い泥のように崩れ始める。


「ただの依り代さ。本体はもっと遠く……君たち神ですら簡単には辿り着けない場所にいる。」


青年は静かにため息をついた。


「だからどうした?」


「どうした、だって?」


ルラールは愉快そうに笑う。


「アンタもそろそろ限界だろう?神が地上でことをなすにはそれ相応の対価が必要だからね。今ここで僕を殺せなかった時点で、次に会う頃には世界はもっと『邪』で満ちているはずだ。」


黒い泥が地面へ染み込んでいく。


それでも青年は無言だった。

そんな青年にイラついたのか、ルラールがふんっと息を吐く。


「そうそう、最後に一つだけ教えてあげよう。」


ルラールの笑みがさらに深くなる。


「我々の目的は半神だけじゃない。神の愛し子も対象に入っている。」


その言葉に青年の表情がストンと落ちた。先ほどまでがお遊びだったかのような鋭い殺気にルラールはない喉をひくつかせた。


「知ってるよ。だから君は、、今私に殺されるんだ。」


その一言を最後に、身体も、首も、声も、その『存在全て』が黒い霧となって消え去った。


静寂だけが残り、青年はしばらくその場を見つめた。


「……愚かだな。その場に本体がいないからといって、やられない保証はどこにもないというのに。」


そう小さく呟く。


ルラールが消えた場所へ右手を向けると、残されていた邪気までもが淡い水色の光となって浄化され、風に溶けていった。


青年はふと空を見上げた。


ハレールの空には、久しく見ていなかった青空が広がっている。


「ようやく、歯車が動き出した。」


青年は目を細めた。


「『できる限りのことはした。後はそっちで何とかしてくれ』」


いつの日か、『あの石』に書いた言葉を青年は繰り返し言葉にした。


誰へ向けた言葉だったのか。


答える者は誰もいない。


次の瞬間。


青年の身体は水面が揺らぐように輪郭を失い、無数の水滴となって空へ溶けていった。


ハレールに残っていた神の気配は、その瞬間、完全に消え去った。

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