第60話 龍が泳ぐ時 すべては終わる
「ふぇ――?」
いきなりペンダントが光ってびっくりしたわたしに、
『クレア、クレア!』
なんとペンダントから水龍さまの声が聞こえてきたんだ!
「これって水龍さまの声? でも、なんで!?」
『もうクレアってば、ピンチになったらこのペンダントを使ってねって、言っておいたでしょ? 忘れちゃったの?』
「えっと、すみません、実は心身ともにフラフラで完全に忘れてました……でもなんで水龍さまの声がペンダントから……?」
『細かいことはいいからいいから。早くそのペンダントを使ってアタシを呼んで! このペンダントについてる宝石は、アタシがテリトリーの外で顕現するためのゲートなんだから!』
「ふぇっ!? 水龍さまが出てくるためのゲート!? これが!?」
『うん、そう! ほら早く早く!』
急かされたわたしが、
「えっと水龍さま、願わくば迷えるわたしをお助けください―――」
言われるがままにアドリブで作った召喚の呪文を口にすると、
『いっくよー! 呼ばれて飛び出てアタシ参上っ!!』
ペンダントのダイヤモンドがピカーってものすごい水色に光り輝くと、なんとそこから水龍さまが顕現したんだ――!
水龍さまは青いエメラルドのように美しいドラゴンだった。
巫女であっても滅多に見ることができない、それは完全に実体化した龍の姿だった。
「ふぇぇっ!? 水龍さままでエネルギー体じゃなくて実体化して顕現したんですか!?」
『神龍のヤツも実体化してるからね、こっちも実体化しないとね! 目には目を、実体化には実体化よ!』
「でも、どうしてこんな仕込みをペンダントにしてくれてたんですか?」
「そこはそれ、どうせ神龍のヤツがクレアに無理難題を吹っ掛けると思ってね。シェンロンに戻る前にクレアが私に挨拶しに来てくれたでしょ? その時にこっそりよその国で顕現するためのゲートになるように、細工しておいたんだ』
「ぜ、ぜんぜん気付きませんでした……」
『こっそりじゃないと、クレアはすぐ顔とか行動に出ちゃうからねー。それで、そのペンダントの周囲はブリスタニア王国と同じでアタシの影響下にあるってわけ』
わたしと水龍さまがあれやこれやと話をしていると、
『なっ、ななっ!? 水龍だと!? くっ、まさかそのペンダントをここに運ばせることで、俺のテリトリーの中にもかかわらず顕現したっていうのか!』
いきなり現れた水龍さまを見て、神龍さまが驚いた声をあげた。
そんな神龍さまに、
『おいこら神龍。誰に向かって口きいてんだ? あとあんた、アタシのクレアになにイチャモンつけてんの? 何様のつもりだテメェ? あぁっ?』
水龍さまが普段の優しくて面倒見のいいお姉さんとは全然違った、女ヤンキー(レディースって言うの?)みたいなドスの利いた声でスゴんだ。
「ちょ、ちょっと水龍さま!?」
イラチの神龍さまにそんな態度をとったらブチ切れちゃうよ!?
せっかくがんばって『神龍かぐら』を踊り続けて、やっとこさ怒りを解いてもらったところだったのに――。
わたしはすぐに水龍さまを止めようとしたんだけど、
『す、水龍……いやその、これはその、あの、あれで……』
ふぇ……?
あれれ……?
水龍さまにスゴまれた神龍さまが急におどおどし始めたんだけど……?
そんな挙動不審な神龍さまに、
『ああ? ぐだぐだモゴモゴ言ってんじゃねーよ、聞こえねーだろ。はっきり言えや、このイキリパワハラ野郎が!』
言葉と同時に水龍さまのものすごい神通力が、神龍さまを容赦なくぶったたいた。
それも1発で終わらずに2発、3発、4発、5発……と次から次へと無慈悲に神龍さまをぶっ叩いていく。
『ぐぁっ、ちょ、やめろって、お前! いきなり殴るとかなんて暴力的なヤツなんだ! ぐへぇっ! ごふぅっ!?』
『あ? アンタにだけは言われたくねーんだよ、このチンピラ神龍! あとお前だと? 口の利き方に気をつけろっつったよな? ったく、いい機会だから今からアタシがちょいとアンタを躾けてやるよ』
水龍さまがニヤリと獰猛に笑うと、さらに強烈な神通力攻撃が神龍さまに襲いかかった――!
『ちょ! 待って! マジ待って! うぎゃっ! クソが! このアマ、オレが下手に出てると思って好き放題やりやがって! ならオレも反撃を――ごふっ!? グフゥッ!? ちょ、いたっ、痛いっって!」
「オラオラオラオラァッ!!」
「ぎゃうん! あぐぅ! ごふぅ! ガハッ、む、無理、これマジ無理! 悪かった、オレ様が悪かった、だから――ひぐぅっ! あがっ、ひぎっ、ひぃっ、ぴぎぃ……』
反撃しようとしたけど一瞬で倍返しされて、そこからは腰が引けて完全無抵抗の神龍さまを、まるでサンドバッグのように容赦なくシバキ倒す水龍さま。
ボコボコにされた神龍さまはついに立っていられなくなって、床に崩れ落ちてしまった。
「おいこら、自分勝手に寝てんじゃねーよ。起きろや、アタシが相手してやってるのに失礼な奴だな」
しかしそれでもなお、水龍さまは一片の容赦もなく転がっている神龍さまに強烈な神通力をぶつけていく。
ひ、ひぇぇ……。
あまりにも無慈悲で凄惨すぎて、子供にはお見せできない感じ……。
神龍さまの美しい黄金の鱗は粉砕されて一部剥がれちゃってるし、立派な牙とか雄々しい翼とか完全に折れてるんだけど……。
そして水龍さまの神通力でさんざんフルボッコに殴り倒された神龍さまは、最後は床に転がったまま静かになって、動かなくなってしまった。
水龍さまに足で蹴られても、神龍さまはピクピクとわずかに反応を見せるだけ。
「い、いったいこれは……?」
すっかり静かになった神殿内に、わたしのつぶやきが妙に大きく反響した。




