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第十六話 自問(答)


 その日の夜。

 俺は自室のベッドでスマートフォンを見つめていた。時代の技術は進歩しても携帯電話の技術は二〇一三年頃よりピークアウトし始め、結果的に性能はほぼ変わらなくなってきていった。だとしたらそこで契約をするための条件で浮かび上がるのはいかに安いプランになるか、ということに繋がる。かといってキャリアは値下げ競争に足踏みをしているし、近年キャリアに入ってきたITベンチャー企業は値下げ競争の激化に期待されていたが、あっという間に値段のプランは一緒になっていたために消費者の考えはあっという間にMVNO――とどのつまり格安スマホと言われているものだ――に移行しつつあった。

 かくいう俺もその一人で格安スマホでスマートフォンを契約したわけだけれど、回線が遅いのが玉に瑕だ。何せMVNOは独自で回線を持っていないから回線を持つ業者側でトラブルがあるとこちらにも影響が出てしまうのだから。それさえ気にしなければMVNOはお得だ。後はキャリア独自のサービスを受けられないくらいか。ま、ポイントなんて貯めたところで使わないから関係ないのだけれど。

 そんなことは関係なかった。問題は今俺が見ている一つのウェブページだ。本来なら論文とか考証とか見るのが筋だろうけれど生憎専門知識は持ち合わせていないのでウェブ上の百科事典――いわゆるウィキペディア。

 項目はBMI規格。記憶探偵の相棒として一応選ばれた訳なのだから、一応知識としては蓄えておかねばならないな――とどのつまり、付け焼き刃に過ぎない知識の蓄積を行うわけだ。


「……それにしても、何というか」


 分からないことだらけ、というのが結論だった。実際それほど俺は学力を持ち合わせていない。希代の天才だとか若き秀才だとかそんな部類に入るならあんな山道を登るような学校を選択しないしもっと立派な進路を選択するだろう。進路を選択するには自由があるし、その自由を手に入れたいなら学力を身につけなくては為らない。

 自由は自由を得る権利を持つ人間に与えられる――かつて誰かの本に書いてあったような気がする。分厚くて小難しい言い回しばかりの時代小説で良く分からない節ばかりだったけれどその言葉だけは記憶に残っていた。多分無意識のうちに良いなと思ったのだろう。知ったことでは無いが。


「仕方ないことかもしれないな。実際の所」


 だって――知らない。

 一言で済ませてしまえば良いのだから人間って便利な生き物だと常々思う。これが仮に0と1を分別しないといけない人工知能――AIになってしまうとエラーコードを延々と吐き出してしまうのだろう。それくらいに面倒で大変でややこしい問題だ。

 人間は逃げれば良い。分からないことがあれば逃げれば良い。面白いこと以外は逃げてしまえば良い。最初はそうで良かったはずだ。でも気付けば人間はそれを諦めてしまった。管理することでそれを諦めてしまった。だから人間は一言で済ませて良い危うさを孕みながらも、完璧を優先する――二律背反型の存在となり得たということだ。

 もしこの世界がほんとうに神様とやらが作ったものだとすれば、それは罪作りな存在を作り上げたのだと思う。何処かの誰かも考えてしまいそうな理論かもしれないけれど、人間は一番神様に近い存在にたり得るのではないか、なんて――。


「お兄ちゃん、お風呂空いたよー」


 妹の言葉を聞いて俺は自問自答を終えた。いや正確に言えば終わらせざるを得なかった、といったところかもしれない。いずれにせよ風呂に入らないと何も始まらない。風呂は命の洗濯――二十年以上前のアニメで誰かが言っていたような気がする。取敢えずそれに従うことにしよう。そう思って俺は自室の扉を開けるのだった。



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