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第四章

「う、う~ん……」

 大気圏から墜落してしまったキリハは、いつの間にか気を失っていた。それからどれくらいの時間が経ったかわからないが、キリハは目を覚ました。

 しかし、目を覚ました場所は、ハニエルのコクピットではなかった。

「ここは……?」

 キリハは、ベッドに寝かされていた。しかも天蓋付きだ。周りを見渡すと、部屋自体が広いし、家具も高級そうなのが並んでいる。どこかのお屋敷らしい。

 すると突然、目の前のドアが開かれた。

「よう、起きたかい?」

「あなた、部下が見つけてから一週間も目を覚まさなかったのよ? こっちもヒヤヒヤしたわ」

 入ってきたのは、男口調が特徴的な、ワイルドな女性と、ミステリアスな雰囲気を漂わせている女性だ。

 ワイルドそうな女性が自己紹介をした。

「俺はアン・バルフォア。この屋敷の主だ」

 続いてミステリアスな女性が名乗った。

「私はアイラ・スオメラ。アンの恋人よ」

 女性同士なのに恋人? とキリハは一瞬思ったが、なぜか当たり前に思えてしまい、そのことについて質問する気が失せてしまった。

 キリハは、自分に起こったことについて聞いてみた。

「あの、あたしはどうなっていたんですか? それに、ここはどこなんですか?」

 柔和な笑みを浮かべながら、アイラが答えた。

「一週間前、哨戒部隊がボロボロになったPPを発見したの。コクピットハッチを開けてみたら、傷だらけになったあなたが乗っていたから、ここまで運んで介抱したのよ」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 キリハが口を挟んだ。

「哨戒部隊って……どういうことですか?」

 アン達が普通の民間人であれば、哨戒部隊などという言葉は出てくるはずがない。それが出てきたということは、彼女達の正体は察しがつく。

「そうだ。俺達は、地球連邦軍の軍人だよ」

 アンが淡々と説明した。

「ついでに言うと、アンの階級は大佐で、東南アジア支部隊長を務めているわ。私は中佐で、公的な地位はアンの副官よ」

 アイラがアンの説明に付け加えた。

「え……、っていうことは……あたしは今……」

「捕虜ってとこだな。もっとも、戦闘でも、スパイとして侵入したわけでもないのに捕虜が出るなんて、珍しいケースではあるが」

 アンはそう答えた。さらにアンは続けて、

「そういえば、お前、いいかげん自分の状態に気付かないか?」

「自分の状態って……きゃぁっ!」

 自分の状態に気付き、キリハはシーツで自分の身体を覆った。なぜなら、現在キリハは、全裸(・・)だからだ。

「な、なんでこんな……」

「武器を持ってないか確かめるためと、他にも怪我をした場所がないか調べるためだ。それ以上の意図はない。アイラ」

「はい。さあ、これを着て」

 アイラは、キリハに衣類を渡した。

「これは……」

 キリハは、驚きと戸惑いが混じった表情をした。それもそのはず、アイラが渡した衣類は、超高級なワンピースだったのだ。

「他にも普段着、フォーマルドレス、パジャマ、下着、全てそこのクローゼットとタンスに入っているわ」

 アイラの言葉は、別の意味も含んでいた。すなわち、『この部屋で生活しろ』ということである。いくら条約で規定されているとはいえ、これは明らかに捕虜の受ける待遇ではない。どちらかと言えば客に近い感じだ。

 キリハもそれを感じ取り、思わず聞いた。

「どうして、そこまでするんですか? あたし、捕虜ですよ?」

「ま、戦闘や不法侵入で捕まえたわけじゃねぇし。それに、地上の方は比較的ヒマだから、誰か訪ねてくれるだけでうれしいんだよ」

 そう言うと、アンとアイラは退室しようとした。が、アンは扉の前で立ち止まり、顔を振り向かせてキリハに言い聞かせた。

「そうそう、屋敷の中は自由に見てくれて構わないぜ。ただ、逃げようとするなよ。この屋敷は基地のド真ん中にあるから逃げられねぇし、お前のPPは損傷が激しかったから基地の外に捨てた。おまけに基地の外は密林で、凶暴な動物も出現する。きちんとした装備なしで入ると、命はねぇぞ?」

 そう言い残すと、今度こそアンとアイラはキリハの部屋を立ち去った。




 キリハの部屋を出た後、アンとアイラは、自分達の書斎へと向かっていた。

 書斎に着くと、アンはモニター付き通信機を起動させ、ある場所へと通信をつないだ。

「もしもし、俺だ」

〈あ、大佐ですか。そちらはどうです?〉

 どうやら相手は、自分の部下の様だ。

「保護したパイロットは無事だ。意識も回復している。そっちはどうだ?」

〈大佐の指示通り、墜落したPPを指定ポイントへ移送し、例の二品を取り付けました〉

「そうか。順調のようだな。じゃ、すぐに戻ってこい」

〈了解!〉

 話が終わると、アンは通信を切った。それと同時に、アイラが話しかけた。

「計画は順調そう?」

「ああ、今のところはな。ところで、彼女への招待状は?」

「送っておいたわ。まあ、来るかどうかは彼女次第だけど」

「来るさ。そうでなければ、俺達の計画が水泡に帰す」

「そうね。あたし達が、戦争の真実を知るために……」

 そうして、二人は唇を重ね合わせたのだった――。




 それから数日後。マリー達は、キリハが墜落したと思われる地点付近を捜索していた。

 その捜索の最中、不審な信号をキャッチした。どうやら発信機らしい。そこで、アスタとネリーナはPPに乗り込んで発信源へ赴き、調査を開始した。

「大尉、もうすぐ発信源と思われる地点へ到着します」

「わかった。気ぃ引き締めや」

 この話を聞いていたマリーから、指示が飛ぶ。

〈この信号、もしかしたら罠かもしれないわ。十分注意して〉

「了解。……あれ?」

 その時、アスタが何かを見つけた。

「どうしたんや、アスタ?」

「大尉……、もしかして、あれ……ハニエルじゃ?」

 彼女達の目に飛び込んできたのは、大気圏突入によって大破したハニエルだった。それを見たネリーナは、センサーで確認する。

「どうやら、例の信号、ハニエルから出よったみたいやな……。生体反応は……なしか」

「え!? そんな……」

「まあ、そう悲観になんなや。もしかしたら、脱出していていないだけかもしれん。ちょっと待ち……」

 そう言うと、ネリーナはコクピットハッチを開け、サリエルから降りた。

「ど、どうするんですか?」

「ちょっとハニエルの様子を見る。アスタは周囲を警戒しとき。何度も言うが、罠かもしれんしなぁ」

 会話を交わしている間に、ネリーナは軽い身のこなしでハニエルのコクピットにたどり着いた。

「どうでした?」

「誰もおらへん。脱出した線が濃厚やな。……ん? これは……」

 ネリーナは、コクピットに置いてあった何かを発見し、手に取った。

「アスタ、マリーに連絡や。位置を知らせて、回収しに来てもらうんや」

「その後、どうするんですか?」

「決まってるやないかい。キリハを取り戻すための計画を練んで」




 その頃、キリハはアンやアイラと共に、食事をしていた。

「パーティーですか?」

 食事の最中、キリハはアンに聞き返した。

「ああ。この基地では月に一回、隊員の親睦と結束を目的に、この屋敷でパーティーを開いている」

 アンのセリフを、アイラが継いだ。

「でね、そのパーティーには毎回、VIPゲストが登場するのよ。大体、軍関係の人が多いけどね」

「VIPゲスト、ですか……」

「ええ。今回はね、あなたも聞いた事があるかしら? ラナ・アズマ大佐よ」

 その名を聞いた瞬間、キリハの顔が硬直した。ラナ・アズマ大佐と言えば、連邦の天才パイロットであり、仮面を常に着けている謎の人物である。

 そして、カンティーガス襲撃作戦時において、一度戦った相手だ。あの時は、キリハやアスタでは刃が立たず、ネリーナの活躍でようやく追い払えたのだ。

 だが、ラナとキリハが会ったのは後にも先にもその時だけ。しかも直接声をかけていないし、顔すら合わせたこともない。

「どうかした?」

 アイラが声をかけると、キリハはようやく我に返った。

「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事を……」

「ほう。まあとにかく、そいつに会ったら一度声をかけてみるといい。何か新しい発見があるかもしれないぞ?」

 アンの言葉に、キリハは静かにうなずいた。




 一週間後の夜、アンの屋敷の一階、大ホールにて、パーティーが行われた。

「それじゃあ、変わらぬ隊の結束を祈って、乾杯!」

 アンが音頭を取ると、出席者もそれに続いた。

『乾杯!』

 このパーティーには、キリハも参加している。彼女が現在着ている服は、部屋のクローゼットにあった黒いフォーマルドレスだ。

 すると、キリハに声をかけてきた人物がいた。

「あなたが、キリハ・ヤマナミさん?」

「はい、そうですけど……」

 声の主を見た瞬間、キリハは驚いた。

「ラナ・アズマ大佐……?」

 着用している衣服こそ、パーティー用の赤いドレスを纏っているが、顔に着けている仮面が妙に目立つ人物。その仮面は、噂を聞いていれば直接会ってなくともその人だとわかる。

 仮面を着けた謎の女性パイロット、ラナ・アズマ大佐だ。

「そんな化け物を見るような顔をしないで。それより、一度あなたと話してみたかったの」

「あたしと、話……?」

「そう。でもここじゃ人が多いから、別の場所に移りましょ? そうね……お庭とかいかが?」

 そう言うと、ラナは庭へ向かった。アスタは戸惑いながらも、それに続いた。

 庭に着くと、ラナはキリハと向かい合い、話しかけた。

「これから見せる物は、あなただけに見せたい物よ」

「あたしにだけ……?」

「そうよ。あなたにだけ、見せてあげる……」

 そう言いながら、ラナは自分の仮面に手をかけ、一気に取り外した。

「え……?」

 キリハは驚愕した。しかし、驚愕したのはラナの行動に対してではない。

「なんで……なんであたしと同じ顔なの……?」

 月明かりに照らされたラナの顔は、キリハの顔と同じだった。

 いや、それだけではない。顔を見せられて気付いたのだが、よく聞けば声もキリハとそっくりだ。

「さあ? なんででしょうね~?」

 ラナはキリハの質問をはぐらかした。さらに続けて、

「だって、今全部しゃべっちゃったら、面白くないじゃない?」

「ふざけないで!」

「まあまあ、そう興奮しないで。次に会ったら、また色々と教えてあげるから。()の(・)かわいい(・・・・)()さん(・・)?」

 そう言い残すと、ラナは屋敷の方へ戻っていった。キリハは、それを唖然として見送ることしかできなかった。




 しばらくして、キリハは我に戻った。そして、ついさっき起きた出来事を考えながら、屋敷へ戻っていった。

 屋敷に戻ると、キリハは後ろから小声で声をかけてきた人物に気付いた。

(キリハ、キリハ)

「……アスタ!?」

 そこにいたのは、キリハの幼なじみで親友、そして同じアンゲルス隊所属のアスタ・サリーンだった。

(シッ、声が大きいよ)

(あ……ごめん)

 アスタに注意され、キリハも声のボリュームを下げる。

 しかし、なぜ連邦軍基地の敷地内に、アスタがいるのだろうか?

(いい、キリハ? 私達、助けに来たの)

(そうなの?)

(うん。今、ネリーナ大尉が潜入してる。大尉がブレーカーを落として明かりが消えたら、一緒に脱出するよ。それまで、私と接客しているように見せかけて)

(う、うん。わかった)

 そして、二人はグラスを手に取り、談笑した。

「そういえばさ、キリハは、ここで捕虜になってたんだよね? どうだったの?」

「捕虜っていうより、お客さんみたいな扱いを受けてたよ。屋敷の外には出られなかったけど、ご飯も、寝泊りしている部屋もけっこう豪華でさ」

「そうだったんだ。私、キリハはどこかに閉じ込められてるんじゃないかと思ってたけど、まさかパーティーに参加してるなんて思いもしなかったな」

 今度は、キリハの方から質問した。

「ところでさ、あたし、アスタがこんな任務に参加する何か思わなかったんだよね」

「どういうこと?」

「アスタってさ、昔からあたしの後ろにくっついてるような奴だと思ってたのに、意外とこんな大胆なことするんだなぁと思ってさ」

 すると、アスタは少しムッとした表情で言い返した。

「私、キリハが心配だったんだよ? そしたら、連邦軍に捕まっているらしいことを知って、余計に心配になった。それに、友達のピンチを救うなんて、当たり前の事でしょ?」

「うん……そうだよね」

 その時、会場の明かりが突然落ちた。

「大尉だ……。キリハ、私の手を離さないで」

「うん」

 アスタは、キリハが自分の手をつかんだのを確認すると、眼鏡のスイッチを押した。実は、アスタの眼鏡は、この作戦のために改造が施されており、暗視スコープとしても機能できるのだ。

「行くよ、キリハ」

 アスタはキリハの手を引き、無事に屋敷を脱出したのだった。

 屋敷を出ると、ある人物と出会った。

「おや、そっちは無事、救出できたみたいやなぁ」

「大尉も、無事でしたか」

 アスタが話しかけた相手は、アスタとは別行動で屋敷に潜入していたネリーナだった。

「キリハ、積もり積もった話しはあるやろうけど、今は基地から出るのが先や。わかっとんな?」

「はい……」

「よっしゃ、そんならこっちや。そこからキュリオテテスとの合流地点へ向かうで」




 そのころ、停電騒ぎとなった屋敷内では、混乱が生じていた。

「みんな、落ちつけ! 今電気設備を見に行かせている!」

 そう叫んでいるアンの下へ、アイラが話しかけた。

「これも、予定通りなんでしょ?」

「そうだ。ちょうど、外にいた者から連絡を受けた。不審な人影が三人、密林の方へ向かったと。……おっ」

 その時、屋敷の明かりが付き、アンの携帯に電話がかかった。

「もしもし、俺だ」

〈もしもし、こちらは電気設備担当です。どうやらブレーカーが落ちたみたいですね〉

「そうか。こっちも今復旧したところだ。戻ってきていいぞ」

〈了解〉

 電話を切ると、仮面の女、ラナが話しかけてきた。

「一体どうしたの、バルフォア?」

「アズマか。どうやらブレーカーが落ちたらしい。電気を使いすぎたかな? そんなことより、悪かったな、せっかく招待したのに、とんだアクシデントに巻き込んじまって」

 アンとラナの会話の最中、アイラがラナへ提言した。

「大佐、誠に勝手で申し訳ありませんが、そろそろお帰りいただいた方がよろしいかと」

「あら、どうして?」

「先程、屋敷の外に不審な人影を三つ目撃したと報告がありました。もしかしたら捕虜の脱走かもしれません。これから戦闘になると思いますので、大佐には退去していただいた方がよろしいかと」

「そうねぇ、それじゃ、そうさせていただこうかしら」

 しかし、ラナはそう簡単に同意するような人物ではなかった。

「ただし、少しあなた達の戦闘に興味があるわ。ちょっと見させてもらってよろしいかしら?」

「と、言いますと?」

「ちょうど、あたしが乗ってきた輸送機は、ジャミング機能があるわ。それを使ってこっそりと見学したいの」

「し、しかし……」

 アイラが渋るそぶりを見せると、アンが口を出した。

「いいんじゃねぇのか」

「アン……」

「大丈夫だ。こいつのパイロット能力は、そんなやわなもんじゃねぇよ。弾を避けるぐらいは余裕だろ。そういう訳で、全て自己責任なら、許可してやってもいいぜ」

「ありがとう」

 ラナは礼を言った。

「よし、総員、緊急出撃! 不審者を追うぞ!」




 一方、キリハ達は全力で合流ポイントに向かっていた。

「みんな、ポイントまであと少しや!」

「す、少しって言っても……」

 アスタは、走るのに苦労していた。というのも、ここは密林地帯。複雑に絡まった枝葉や根が、思うような進行を許してくれない。しかも、土壌は非常にぬかるんでおり、さらに走りづらくしている。

 そうやって悪戦苦闘しながら前に進んでいると、キリハが何かに気付いた。

「ねぇ……何か聞こえない?」

 他の二人は、その言葉に促されるように耳をそばだてた。

「確かに……。何か、空気を噴き出しているような音が……」

 アスタがそう言った途端、ネリーナの通信機にマリーから連絡が入った。

〈大変よ。複数の熱源反応を確認したわ〉

「なんやと!?」

〈しかも、RPエンジンの反応が一あったわ。エース機が確実に一体、混ざってる〉

「冗談きっついなぁ。このままやったら、ウチらすぐ見つかってまうで」

 するとマリーは、別の指示を下した。

〈すぐ近くのポイントに、少し開けた場所がある。キュリオテテスは降りられないけど、PPなら降りられるわ〉

 この指示の意味を、ネリーナは素早く読み取った。

「つまり、自動操縦でウチらのPPをそこに送るから、そのまま乗って戦えっちゅうこっちゃな?」

〈おおむね、その通りよ。すぐに指定ポイントへ向かって〉

 指定ポイントにたどり着くと、すでにキュリオテテスから射出されたPPがあった。キリハ達は素早くPPに乗り込み、戦闘準備を始めた。

「あ、あれ……? あたしのハニエル、直ってる。壊れてたって聞いてたのに……」

「私達が見つけて、急ピッチで修理したの」

 アスタが答えると、レーダーに反応が出た。

「みんな、準備はええな? 来んで!」

 ネリーナがそう叫んだ直後、目の前の森からゲレーロが飛び出してきた。しかし、このゲレーロ、宇宙で戦ったのとは様子が違う。それに気付いたのはアスタだった。

「あのゲレーロ……、足を動かしてないのに、動いてる……?」

「当然や! あれはホバークラフト出来る装置を取り付けた、密林・湿地帯専用ゲレーロ。どんなに足場が悪かろうが、決して機動性を失うことはない仕様や」

「でも、ゲレーロはゲレーロでしょう?」

 キリハはそう言うと、ガトリングバレルをビームピストルに装着した。

「本当はやりたくないけど……襲ってくるなら!」

 キリハのハニエルは、敵のゲレーロ達に向かってビームガトリングガンを連射した。しかし、敵はすぐに密林へ隠れ、木を盾にして射撃から逃れてしまう。

 そして、ハニエルによる一連の射撃が終わると、今度はお返しとばかりにゲレーロ達が一斉射撃を仕掛けてくる。

「危ない!」

 すかさずアスタが躍り出て、カマエルのコンバーテシールドで攻撃を防いだ。

「大丈夫、アスタ?」

 心配したキリハが声をかけた。

「大丈夫だけど……動きが遅い」

 それはそうだろう。このぬかるんだ地面では、何の対策もしていなければ、機動力が落ちるのは当たり前だ。

「あんたら、空飛び! 空飛んどったら、土の影響は受けずに済む」

 さらに続けて、ネリーナはアドバイスを送る。

「キリハ、ここはビームピストルで攻めるんや。密林地帯では、取り回しやすさを重視したほうがええ」

「はい」

 そう言われ、キリハはビームピストルに装着したガトリングバレルを外した。

「アスタ、ここはコンバーテシールドで行くんや。バスターソードだと、木に邪魔されてまう」

「は、はい」

 そのうち、敵の射撃攻撃がやんだ。

「今や! 仕掛けるで」

『了解』

 ネリーナの合図で、まずキリハがビームピストルを連射した。しかし、またしても木に隠れ、避けられてしまう。

「アスタ、両側から行くで」

「了解」

 その瞬間、アスタとネリーナはすかさず両側に回り込んだ。アスタは回り込むと、敵に突進していった。

「やああああぁぁぁぁぁ!!」

 そしてすれ違いざまに、ビーム刃を発生させたコンバーテシールドで斬り捨てていく。

「ほう、サリエルは密林でも安定して使えるなぁ」

 一方ネリーナも回り込んだ後、敵の急所を狙って確実に仕留めていた。ただ、戦闘をしているというより初めての密林戦闘の感触を感じているようだった。

「よし、あらかた片付いたようやな……ん?」

 その時、ネリーナはレーダーを見て何かに気付いた。

「マリー、さっき言っとったRPエンジン持ちのエース機、結構近づいとるみたいや。どないする?」

〈迎撃して。あれがいる限り、あなた達を回収するリスクは高いままよ〉

「よっしゃ。行くで、みんな!」

『はい!』

 こうして、三人は密林の奥へと向かって行った。




「もうすぐ目標の機体と接触するで。気張りぃや」

「はい……え? きゃああああぁぁぁぁ!」

 その瞬間、三人の両側から激しい銃撃を浴びせられた。それにびっくりして、アスタは思わず悲鳴を上げてしまった。

「ちっ……待ち伏せかいな。伏兵を叩くで。ウチは左、アスタは右を頼む。キリハはそのまま敵エース機へ突っ込め」

『了解』

 こうして、三人は分かれ、それぞれ各個撃破へ移った。キリハは敵のエース機へ向かっている途中、ある疑念が浮かび上がった。

 ――敵のエース機って、もしかして?

 その疑念は、当たることとなってしまった。

 少しして、キリハはエース機を確認した。それは、森林迷彩にカラーリングされており、背中にはバックパックを背負っている。腰には、ホバークラフト用のスラスターを取り付けてあった。

 すると、敵のエース機から通信が入った。

「よう、思ったより早かったじゃねぇか」

 キリハは、その声に聞き覚えがあった。

「その声……もしかして、バルフォアさん?」

「ああ、その通りだ。そしてこの機体は、俺達の愛機『アンドラス』だ。さあキリハ、じっくりと殺り合おうぜ」

 なんと、敵のエース機『アンドラス』に乗っていたのは、キリハを捕虜にしていたものの丁重に扱ってくれた、地球連邦軍東南アジア支部隊長、アン・バルフォアだったのだ。しかも、自分と殺し合えと言ってきている。

「そんな……あたしは……」

「これは戦争なのよ。割り切りなさい」

 突然、ある人物が会話に割り込んできた。

「まさか……スオメラさん?」

「ええ、そうよ。アンドラスは二人乗りPPなの」

 さらに驚くべきことに、アンドラスにはアンの部下で恋人の、アイラ・スオメラまで乗っていたのだ。

 アイラは続けて言った。

「あなたも兵士なら、きちんと命令を遂行しなさい。私達の撃墜命令が出てるんでしょ?」

「そうですけど……でも……」

 キリハが躊躇していると、アイラはしびれを切らしたように言い放った。

「アン、あの駄々っ子に、少々思い知らせてやりましょう」

「そうだな。よし、行くぞ!」

 そう言うと、アンはアンドラスのホバークラフト走行で、ハニエルの方に突進しながらビームアサルトライフルを乱射した。

「くっ……やめてください!」

 アンドラスの攻撃に対し、木を上手く使って攻撃を回避すると、キリハはビームピストルを二~三発連射した。しかし、どれもすぐに避けられてしまった。

「木を使って避けるとは、なかなか見所あるじゃねーか。なら、これはどうかな? アイラ!」

「準備はできているわ」

「よし、発射!」

 すると、アンドラスのバックパックから、大量のミサイルが飛び出した。

「……ミサイル? 密林で?」

 キリハが疑問に思うのも無理はない。そもそもミサイルは一直線に飛ぶものであり、密林のような障害物が多い場所では不向きだ。しかし、それを熟知しているはずのアンが打ってきている。これはなぜだ?

 その疑問は、すぐに判明した。それは、アンドラスがビームアサルトライフルを撃った時と同じような回避運動をした時にわかった。

「え? 追いかけてくる?」

 そう、そのミサイルは追尾機能を持ったホーミングミサイルだったのだ。しかも、ただ追尾するだけではない。障害物を確実に避けるのだ。

 このミサイルこそ、アンドラスの特徴ともいえる武装、ホーミングミサイル『ローボ・ネーグロ』なのだ。そして、このローボ・ネーグロは障害物を避けつつ追尾するという複雑な機構を持つため、情報処理・火器管制を担当するサブパイロットが必要なのだ。

 これが、アンドラスが二人乗りである所以なのだ。

「こっち来ないでよ!」

 キリハは、このミサイルを避けるには撃ち落とすしかないと判断し、ビームピストルで撃ち落としにかかった。

 しかし、なにぶん数が多い。全て落とし切ることができず、ミサイルの集中砲火を浴びてしまった。

「きゃあっ」

 だが、ハニエルの装甲は物理攻撃に強いマグネリキッド装甲だ。致命傷は避けられる。問題は、強烈な爆風によってバランスを崩したことだった。

 そのせいで、ハニエルは真っ逆さまに落ちてしまった。

「そこ、いただき!」

 そして、アンはアンドラスの両腰にマウントしてあるビームダガー二本を取り出し、キリハのハニエルに投げつけてきた。

「ええい!」

 キリハは素早く反応し、機体が落下しているのにも関わらずビームピストルを撃った。ところが、飛んできたビームダガーには一本命中し軌道を逸らせたものの、もう一本には命中することができず、ハニエルに当たってしまった。

 さらに悪いことに、その攻撃によってハニエルの右足を切断されてしまったのだ。

「そんな……」

 ――殺らなければ、殺られる!

 そう思った瞬間、キリハの頭の中で何かが外れた。

「うああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 次の瞬間、キリハはビームピストルにランチャーバレルを取り付け、アンドラスに向けて射撃した。その射線上にあった木は、全て消し炭になってしまった。

「木ごと俺を狙うか。でもなぁ!」

 キリハの狙いを察知したアンは、すぐに攻撃を避けた。しかし次の瞬間。

「何!?」

 なんと避けた先に、ハニエルが突っ込んでくる姿が目に飛び込んできた。

 そう、さっきの射撃はフェイクで、本当の狙いは近接戦闘に持ち込むことだったのだ。

「あああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 キリハは突っ込むと、ビームダガーでアンドラスを串刺しにした。さらにビームピストルを近距離で連発した後、アンドラスを蹴り飛ばした。

 その瞬間、キリハは目を覚ました。

「え……?」

 正気に戻ったキリハの目に飛び込んできた物は、ボロボロになったアンドラスの姿だった。

「バルフォアさん……? スオメラさん……?」

 キリハが呼びかけると、弱々しい声で答えが返ってきた。

「よく……やったじゃねえか……、キリハ……」

「バルフォアさん……早く脱出してください!」

 キリハは脱出を促したが、今度はアイラから返答された。

「何言ってるのよ……。私達、殺されかけた相手から言われて脱出するほど、落ちぶれちゃいないわよ……」

「でも!」

「あばよ、キリハ……。基地は、お前達にやるよ……。せいぜい、有効に使うんだな」

 アンがそう言った直後、アンドラス火を吹き、爆散した。

 その光景を焼き付けてしまったキリハは、悲痛な叫びを上げた。

「こんな……こんなこと……、こんなこと、望んでなかったのにいいいいいぃぃぃぃぃ!!」




 その頃、上空ではラナ・アズマの操縦する輸送機が旋回していた。ラナはアン達の戦闘を見終わると、こうつぶやいた。

「あら、あのバルフォア大佐がやられるなんて……。これは大佐が思ったよりポンコツだったのか、それともあの子が相当な技量を持つパイロットだからなのか……。いずれにせよ、邪魔者を消す手間が省けたわね」

 ラナは不敵に笑うと、現在の配属先であるドイツ方面へと向かった。

「さて、あたしも次のお仕事、頑張らなくちゃ」




 キリハとアンの戦闘が終わった頃、アスタとネリーナも敵別動隊の相当を終わらせていた。それに伴い、地球連邦軍東南アジア支部基地は、月面共和国軍によって接収された。

 次の日、キリハは屋敷の部屋、つまり捕虜になっていた時に使っていた部屋でふさぎこんでいた。

「キリハ、いる?」

 そこへ、アスタが心配そうな表情で入ってきた。

「アスタ……」

「キリハが心配だったから。……まだ悩んでるの?」

「うん……。バルフォアさん、あたしの事、本当によくしてくれた。だから、本当は殺したくはなかった……。でも、こんなこと言ってたら、軍人失格だよね」

 悲しそうな目でそう言うと、アスタはある話を持ち出した。

「キリハに伝えたいことがあるんだよね。……ハニエルの事」

「ハニエルの事……?」

「うん。ハニエルに発信器が付いてたの。しかも、私達に発見されやすい周波数を発信してたわ」

「え……?」

「しかも、コクピットにこれが落ちていたの」

 キリハは我が目を疑った。それは、昨日参加していたパーティーの案内状だったからだ。

 アスタはさらに続けた。

「キリハの話だと、バルフォア大佐って、軍人として優秀らしいじゃない? 私には、こんなミスをするような人には思えないんだけどね」

「た、確かに……」

 そして、キリハは決意したように言った。

「あたし、知りたい! なんでバルフォアさんがこんなことをしたのか。それを知るために、あたし、戦うよ!」


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