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第三章

 カンティーガス・マルティン侵攻作戦から数週間後。キュリオテテスのブリーフィングルームに、キリハ達PPパイロットが集められていた。

「みんな、集まったわね」

 マリーが部屋全体を見渡しながら言った。

「今回、本国の方から新たな命令が下されました。我々アンゲルスは、地球に降下します」

「ほう、とうとうこの時が来よったな」

 ネリーナはそう言うと、微笑した。

「そうね。ネリーナの言う通り、私達は地球へ降りる通路を手に入れたようなものなのだから、この命令は当然よ。作戦実行日は明日。作戦中は、キリハのハニエルとアスタのカマエルに戦闘状態で待機してもらうわ」

「え? ネリーナ大尉のサリエルは出ないんですか?」

 キリハがびっくりした様子で質問した。それにネリーナが答える。

「もし敵にこのことが知れて戦闘になったと仮定するで。ウチらはすでに重力圏に入っても撃てる上に、敵も重力圏に入りたくない。その結果、どうしても砲狙撃戦になってまうんや。だから、そっち方面が得意なハニエルの方が適任やねん」

「じゃあ、アスタのカマエルは?」

「あれはなぁ、ルチャドールの状態だと大気圏の突入・離脱が容易にできんねん。それにPP一機やったら乗せて飛ぶこともできる。つまり、キリハがキュリオテテスに帰れなくなった時の保険やな」

「そうか。つまり大尉のサリエルでは、地球降下中の戦闘はできないし、カマエルに乗るはめになっても定員オーバーになってしまう。そういうことですね?」

 アスタが結論を話した。

「そういうこっちゃ」

「それじゃ、他に質問は? ……ないようね。では、本日のブリーフィングは終了。各自、明日の作戦の準備を行うように。解散!」




 数時間後、キュリオテテスは降下開始地点に到着した。それに伴い、ブリッジの様子があわただしくなる。特に、マリーとオペレーターのやり取りが頻繁になった。

「艦長、予定ポイントへ到達しました!」

「了解。これより我が艦は、地球・東南アジア密林地帯へ向けて降下を開始します。大気圏突入シークエンスを作動。艦表面冷却システム、起動!」

「艦表面冷却システム、起動!」

 艦表面冷却システムとは、大気圏への突入・離脱時に起きる熱からキュリオテテスを守るためのシステムだ。名前の通り、艦の表面を冷やすことによって熱のダメージを和らげるのだ。

「艦表面冷却システム、正常!」

「了解。降下を開始して」

「はい!」

 マリーの指示を受け、操舵手が降下を開始したその時だった。レーダー管制を手伝っていたネリーナが何かを発見したのだ。

「マリー、レーダーが何か捉えた!」

「なんですって!? 識別は?」

「これは……ウルコルニオ級三隻! しかもまっすぐこっちに向かって来おる!」

 ウルコルニオ級は、地球連邦軍で広く使用されている戦艦だ。つまり、連邦の戦艦が現れたということは、キュリオテテスの地球降下を阻止しに来たということなのだ。

「……一体、どこから情報が漏れたというの……? いや、それを考えるのは後ね」

 すると、マリーは手元のパネルを操作し、格納庫に通信をつないだ。

「キリハ、アスタ。聞こえる?」

〈はい、聞こえます。〉

〈どうしたんですか、艦長?〉

「敵が現れたわ。すぐに出撃して。細かい指示は出撃後に出すわ」

〈わ……わかりました。キリハ・ヤマナミ、出ます!〉

〈アスタ・サリーン、行きます!〉

 こうして、大気圏突入における攻防戦の火蓋が切って落とされた。




 キリハとアスタが出撃した後、通信機からマリーの指示が来た。

〈いい? 敵は重力圏下にあるこちらには近づいてこない。必然的に射撃戦になるわ。こちらもスナイパーライフルバレルを装備し、迎撃して〉

「わかりました」

〈それと、戦闘継続時間は五分よ。それ以上戦い続けると、戻れなくなるわよ〉

『了解』

 二人がそう返事した後、キリハはビームピストルにスナイパーライフルバレルを装着した。

「行くよ、アスタ。援護して」

「う、うん」

 キリハはコクピット内にあるライフル型コントローラーで照準を定めると、引き金を引いた。これによって発射されたビームスナイパーライフルの弾は、すでに出撃していた敵のゲレーロに命中した。

「やった! ……って、え?」

 その直後、キリハのコクピット内に警報が鳴り響いた。それは、敵のゲレーロ達がビームガンで一斉射撃しようとしているのを知らせているのだった。

「キリハ、危ない!」

 敵が一斉射撃を仕掛けた瞬間、アスタのカマエルが前に躍り出て、盾を構えた。カマエルはキリハのハニエルの身代わりとなったが、盾のおかげで大したダメージを受けずに済んだ。

「あ、ありがとう、アスタ」

「大丈夫だよ、キリハ。それより、早く反撃を!」

 アスタに促され、キリハはビームスナイパーライフルを撃ち続けた。しかし、ビームスナイパーライフルは連射性が低く、攻撃範囲が狭いため、攻撃を続けてもなかなか敵の数が減らない。

「このままじゃ、埒が明かない……。艦長、援護できますか?」

〈ごめんなさい、そんな余裕はないわ〉

 キュリオテテスの艦表面冷却システムは、膨大なエネルギーを使う。いくらエネルギーを無限に生産できるRPエンジンを搭載していると言っても、ビーム系の砲撃を行うだけでRPエンジンのキャパシティを超えてしまう。RPフィールドを展開できるのが精いっぱいなのだ。

 ミサイルなどの実弾を発射するという手もあるが、これからキュリオテテスが向かうのは、自軍の拠点が一切ない地球。いつ補給が受けられるかわからないため、正直なところ、こんなところで実弾を使う訳にはいかないのだ。

〈とにかく、あと二分は粘って! そうすれば、敵も手出しできなくなるわ!〉

「りょ、了解!」

 その時、アスタが何かに気付いた。

「キリハ、ウルコルニオ級から、何か来る!」

「え!?」

 その直後、三隻のウルコルニオ級戦艦から、数十発のミサイルが飛んできた。

「くっ……。アスタ、やれる?」

「た、多分……」

 キリハは素早く銃身をガトリングバレルに付け替え、ミサイルを撃ち落としにかかる。アスタもコンバーテシールドを構え、二連装ビームガンでミサイルを撃墜していった。

 二人の迅速な対応によってミサイルは全て撃ち落とされたが、キリハ達は新たなトラブルに見舞われてしまった。

「高エネルギー反応? これって……」

「敵の戦艦が主砲を撃ってくる気なんだよ、キリハ!」

 そう、これは敵の作戦だった。まずミサイルを発射し、敵に撃ち落とさせる。すると、短時間ながらミサイルが破壊された時に出る煙により、敵の視界は遮られる。この隙に主砲を叩きこむ魂胆なのだ。

「ど、どうするの、キリハ?」

「こうなったら……」

 するとキリハは、ビームピストルの銃身をスナイパーライフルバレルに切り替え、構えた。

「ど、どうする気なの?」

「記憶と勘で撃つんだよ」

 アスタは無謀に思えたが、そんなことはお構いなしに、キリハは三発狙撃した。すると、煙の向こうから三回爆音が聞こえた。

 煙が晴れると、そこには戦艦の姿はどこにもなかった。あったのは、取り残されたゲレーロと大量の戦艦の残骸だけだった。

 どうやら、奇跡的にキリハの狙撃が命中したらしい。しかも主砲発車直前に、砲口へ直撃したため、主砲にチャージされていたエネルギーが暴発して爆散したようだ。

「や……やったよ、アスタ!」

「うん! 見て、敵が帰っていくよ」

 敵のゲレーロ達は、戦艦を全て撃墜され形勢不利と見たようで、撤退を開始していた。

 マリーはそれを確認すると、キリハとアスタに通信を入れた。

〈とりあえず、窮地を脱したようね。そろそろタイムアップの五分になるし、戻ってきなさい〉

『了解!』

 こうして、二人はキュリオテテスを守り抜き、帰還していったのだった。


 ところが、この期に及んで事態が急変した。


 撤退していくゲレーロ隊の中に、若い新米パイロットがいた。そのパイロットが、独断である行動に出たのだ。

「艦長、そして、クルーの仇!」

 彼は、今まで存在していた戦艦が突然いなくなってしまったのが受け入れられなかったのか、取り乱してしまい、キリハに向けてビームガンを発砲したのだ。

「きゃあっ!」

 放たれたビームガンは、キリハのハニエルに直撃した。ダメージこそ大したことはなかったが、そのせいで姿勢を崩し、地球の重力の井戸に捕まってしまったのだ。

「アスタ……アスタあああぁぁぁぁぁぁ!!」

「キリハ!!」

 アスタが気付いた時にはすでに遅く、キリハのハニエルは、驚くべき速さで小さくなっていってしまった。




 戦闘後、アスタはキュリオテテスのブリーフィングルームに待機させられていた。そこに、ネリーナが入室してきた。

「悪いなぁ、遅くなって」

「いえ……。それより、艦長は?」

「マリーは、今、大気圏突入中っちゅうデリケートな時やから、ブリッジを離れられへんねん。それより、これを見てみぃ」

 ネリーナが差し出したのは、ハニエルの落下に関するシミュレーション結果だった。

「どうやら、何の因果か任務先の東南アジアに落ちた可能性が高いらしいで」

「そ、それで……キリハは無事なんですか?」

「少なくとも、パイロットは無事や。マグネリキッド装甲のおかげでなぁ」

「マグネリキッド装甲?」

「物理ダメージを軽減する装甲や。ハニエルの他にカマエル、サリエル、そしてキュリオテテス自身にもこれが採用されとるんや。少なくとも、大気圏突入によるダメージには耐えられるはずや。機体は損傷するかもしれへんけどなぁ」

 マグネリキッド装甲は、衝撃を吸収する磁性流体を閉じ込めた装甲だ。これにより、物理ダメージを軽減できるという寸法だ。ただし、ビーム兵器には効果がない。

 この特性を利用し、大気圏突入もできる。ただし、カマエルのルチャドール等、飛行できる形態に変形できなければ、十中八九、着地と同時に戦闘ができなくなるほど機体が損壊してしまう。パイロットを守ることしかできないのだ。

「とにかく、ポイントに到着したらキリハとハニエルの捜索やな。話はそこからや」

「はい……」


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