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第二章

「みんな、集まったわね」

 基地の司令に呼び出されていたマリーが、キュリオテテスのブリーフィングルームに戻ってきた。他の隊員達はすでに集まっており、マリーの指示を待っているところだ。

「では、司令からの命令を伝えます。今回、私達が命令されたのは、資源衛星『カンティーガス』、及びその管理コロニー『マルティン』の制圧よ」

「ち、ちょっと待ち!」

 それを聞いたネリーナは、強く異議を唱えた。

「マルティン言うたら、地球に一番近いコロニーやで! せやから、マルティンはただの管理コロニーやない。地球と宇宙を結ぶ最重要拠点や! そないな場所、攻めて大丈夫なんか!?」

 ネリーナの言うことももっともだった。そのような最重要拠点ともなれば、当然防備も半端じゃない。いくら最新鋭の高性能機に乗っているからとはいえ、少数、しかも三機のうち二機はパイロットが素人なのだ。さすがに無理がある。

「確かに、その懸念は理解できるわ。でも、諜報部がある情報をつかんだの」

 マリーは自信たっぷりに言う。

「ある情報?」

 キリハが尋ねた。

「ええ。それはね、どうやらカンティーガスとマルティンの守備隊の大半が移動を開始したらしいの。だから防備が手薄な今が、攻め時なのよ」

「でもなぁ、そういう不自然な動き、なんか裏があると勘ぐってまうで」

 ネリーナが心配そうにつぶやく。

「その点については、現在諜報部の方で調査中よ。それに偵察部隊を派遣して、移動した防衛部隊の監視も行っているわ。少なくとも、罠らしい動きは今のところないらしいけどね。ただ……」

 一拍置いて、マリーは再び話しだした。

「あるPPとパイロットが、カンティーガスに入ったという情報があるのよね……」

「あるPPとパイロット?」

 アスタが聞き返した。

「PPの名は『バアル』。RPエンジンを搭載したエース専用機よ。そしてパイロットの名は、ラナ・アズマ」

「ラナ・アズマやて……?」

 ネリーナは驚愕した。

「あの……その人、誰なんですか?」

 キリハが尋ねた。

「ラナ・アズマ地球連邦軍大佐。普段から仮面を着けとる、連邦軍内でも謎の人物や。唯一わかっているのは、かなり若い女性士官であること、天才的なPP操縦テクニックを持っていること、その腕を買われ、若くして大佐の地位に昇りつめたこと。そして、『クリスマスの惨劇』が起こった会談の場にいた人物の中で、唯一の生き残り。たったこれだけや」

「あたし達、そんな人と戦うんですか!?」

「そういうことになるわね。でも、私達は士気向上の役目を持った部隊よ。負けることは許されないわ」

 みんなを鼓舞するように、マリーが言った。

「……そうですよね」

「私達がやらなきゃ、他の人たちも戦火に巻き込まれることになります」

「よっしゃ、その意気や。ウチらの初任務、絶対に成功させたんで」

 全員の気合の入った声を聞くと、マリーは微笑んで言った。

「その様子なら、成功できると思うわ。ネリーナ、艦の補給は?」

「予定してたモンは全部入れたで。ハニエル、カマエル、サリエルの三機も格納庫には入っとんで」

「OK。ではこれより、キュリオテテスは資源衛星『カンティーガス』へ向かいます。パイロットは格納庫へ向かい、機体整備の後、戦闘配備を。他のクルーは持ち場へ着いて」

 こうして、キリハ達アンゲルスは初任務の地へと赴いたのだった。




 ――数時間後――


〈間もなく、本艦は作戦ポイントに到着します。全員、戦闘配備!〉

 キュリオテテス艦内に、マリーの放送が響く。それを受け、キリハ、アスタ、ネリーナの三名は各自のPPに乗り込んだ。

「マリー、ウチら全員、戦闘準備完了や」

〈了解、ネリーナ。順番に発信して〉

 マリーからの出撃指示が降りた。それに従い、パイロット三人はカタパルトデッキへとPPを動かす。

「よし、出撃準備できたな。じゃあまずウチからや。ネリーナ・ラブレ、サリエル、出るで!」

 その掛け声とともに、サリエルは艦外に飛び出した。

「次はあたしね。キリハ・ヤマナミ、ハニエル、行くよ!」

 同じように、ハニエルもカタパルトで出撃した。

「最後は、私か。アスタ・サリーン、カマエル、行きます!」

 同様に、カマエルも戦闘宙域へと飛んでいった。

 全員出撃すると、マリーから通信が入った。

〈全員、出撃したわね。では打ち合わせ通り、まずは哨戒部隊を叩く。その後勧告よ。もし勧告に従わなかった場合、別の指令を言い渡すわ。まずはそこまで持って行って〉

「了解。キリハ、あんたの能力に合わせて、機体を左利き用に改造しといたで。調子はどうや?」

 実は、航行中にハニエルを、キリハの利き手に合わせて改造したのだ。そのため、ビームピストルを左手に持ち、銃身一式を左ももに付け替えた。また、それに伴ってビームダガーを右腰にマウントしている。

 さらに、ビームスナイパーライフル使用時に使うライフル型コントローラーも、左利きのキリハが扱いやすいように改良された。

「前よりもすごく使いやすいです」

「そうか。なら、長距離狙撃で哨戒機を撃つんや。事前情報だと、五機はおるはずやで」

「了解」

 キリハはハニエルのビームライフルにスナイパーライフルバレルを装着した。それを構えさせると、コクピットの上部からライフル型コントローラーが降りてくる。

 キリハは、それを構えてターゲットの様子を観察した。

「確かに、小惑星上には五機しかいないようですね」

「そうかい。なら、狙撃開始や」

「了解!」

 そう返事をすると、キリハは狙いを定めた。

「照準、合った。今だ!」

 そしてキリハは、引き金を引いた。それに連動してカマエルの指も引き金を引き、ビームスナイパーライフルは火を噴いた。

 数秒後、小惑星の方から爆発の光が見えた。どうやら命中したらしい。

「まだまだ!」

 続けて、キリハは他のターゲットを次々に狙撃していく。五機撃墜するまでの時間はあまりにも短く、早打ちと錯覚するほどだった。

 それだけ、キリハの射撃能力は秀でているのだろう。

「よっしゃ、全機撃ち落としたな。アスタ、ルチャドールに変形。そのままウチを乗っけて突入や」

「わ、わかりました」

 アスタはカマエルをルチャドールに変形させた。その直後、ネリーナのサリエルが上に乗った。

「よし、アスタ、全速前進や。キリハは後からついてき!」

『了解!』

 こうして、カマエルとサリエルは先行して資源衛星カンティーガスへ向かった。カマエルのルチャドールは速度がとても速く、数秒もしないうちにカンティーガスへ到着してしまった。

「マリー、こちとら到着したで」

〈了解、ネリーナ。チャンネルを合わせて、勧告を行うわ〉

 少しして、カンティーガスとその管理コロニー内にマリーの放送が流れた。

〈マルティン、そしてカンティーガスにいる皆さんへお伝えします。こちらは月面共和国軍所属、アンゲルス隊旗艦キュリオテテス艦長のマリー・ラブレです。現在、コロニー、そして小惑星の両方を瞬時に制圧できる戦力を近くに待機させてあります。私達は出来るだけ戦闘を避けたいという意思があります。よって、ここにあなた方へ降伏の勧告をいたします。回答の期限は三時間後。それまでにあなた方の賢明なご判断に期待します。以上〉




 その頃、マルティン基地内では、突如としてあらわれた共和国軍の対処について検討していた。

「……降伏しよう。敵は我が哨戒部隊を数分もしないうちに壊滅させたのだ」

「いや、徹底抗戦だ! 敵は戦艦も含めてたったの四機。しかも哨戒部隊を壊滅させたとはいえ、五機しか撃破していないじゃないか!」

 このように、かなり混乱気味に喧々諤々の議論を交わしていた。

 その中で一人、妙に落ち着きはらった人物がいた。

「騒がしいわね。少しは落ち着いて議論ができないの?」

 この一言で、場が一気に静まりかえった。

 瞬時に場を制圧してしまった人物こそ、連邦軍が誇る仮面のスーパーエース、ラナ・アズマ大佐だ。

「で、では、大佐は何かお考えが?」

 ある将校の一人が、ラナに質問した。

「当然でしょ。情報によると、敵陣営の最後尾に戦艦がいるそうじゃない? そこを叩くの」

「な、なるほど……。しかし、その間、PPはどうなさるのですか?」

「当然、抑えの部隊をよこすわ。抑えている間、ゲレーロ五機からなる小隊を別動隊として戦艦を落としにかかるの」

「な、なるほど。では、すぐに準備に取り掛かります」

「よろしく。あと、あたしも出るわ。別動隊の指揮を現場で執るから」




 同じ頃、資源衛星カンティーガス上では、キリハがようやく到着した。

「お待たせしました」

「思ったより早かったなぁ。……ん? この反応は……敵!?」

 ネリーナのハニエルのレーダーに、敵性反応があった。

「みんな、戦闘準備や! 敵が来んで!」

 直後、小惑星内部とコロニーから、多数のゲレーロが出現した。

「数は百もいっとらんようや。諜報部の情報、当たったみたいやな。マリー、どうする?」

〈敵性行動に移ったのだから、迎撃するしかないわ。全力で叩きつぶして〉

「了解。行くで、キリハ、アスタ!」

『はい!』

 こうして、本格的な戦闘は開始された。

「ウチの攻撃、受けてみぃ!」

 ネリーナは、サリエルのステルス性能を最大限に発揮し、敵の死角に回り込む。回り込んだら、手首に仕込まれたオークルタール・ブレードで一突きにし、撃墜していく。

「行くよ、アスタ」

「うん」

 キリハとアスタは合図をすると、攻撃に出た。まずキリハがビームピストルにガトリングバレルを装着し、前方の敵を掃射する。

「今だ、アスタ!」

「了解」

 掃射によって開いた穴に向かい、アスタのカマエルはルチャドール形態で突入する。

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 敵に肉薄すると、アスタはルチャドールを解除し、バスターソードで付近の敵をなぎ払った。

「まだ終わりじゃないよ!」

 アスタが接近戦を繰り広げている間、キリハはビームピストルの銃身をランチャーバレルに切り替え、援護射撃を行う。

「よし、大体落としたわね。……ん?」

 その時、キリハは何かを感じた。

「どうしたんや、キリハ」

「ネリーナ大尉、今、あたしに似た気配を感じたような……」

「キリハに似た気配?」

 念のため、ネリーナはレーダーで周辺を索敵した。

「こ、これは……」

 レーダーは、六機の機影をとらえていた。しかもキュリオテテスへ一直線に向かっている。さらに悪いことに、内一機は件のパイロット、ラナ・アズマ大佐の専用機『バアル』だった。

「くっ、まずいことになったなぁ。みんな、あの部隊を追うで!」

『了解!』




 その頃、ラナもアスタの気配に気づいていた。

「あたしと似た感覚……。そうよね、そのつもりだったんだもん。それよりも、数が少ないとはいえ、抑えの部隊なのに全然抑えられてないじゃない。小隊長、聞こえる?」

「何でしょう、大佐?」

「主力が結構早くやられちゃったみたいだから、あたしが代わりに抑えとくわ。戦艦への攻撃は、あなた達でやっといてくれない?」

「了解しました。ご武運を」

 こうして、ラナと、ラナに率いられていた小隊は別行動をとった。




 その後、キュリオテテスでは別行動をとった小隊を確認していた。

「まさか、別動隊を用意して本艦を攻撃しようとするなんて……。ネリーナ達は?」

 マリーがキュリオテテスのブリッジクルーへ檄を飛ばす。

「ハニエル、カマエル、サリエルの三機とも、敵PPと交戦中! 相手はバアルの模様です!」

 オペレーターが答えた。

「バアル……。と言うことは、ラナ・アズマ大佐か。呼び戻すのは難しそうね……。接近しているPPの武装は?」

「標準的な装備の様です。実弾・実体武器はありません」

「なるほど。では、ただいまより本艦は敵性PP迎撃行動に移ります。RPフィールドを展開して」

 RPフィールドは、ビームを拡散させてしまう効果を持つ、バリアのようなものだ。つまりRPフィールドを展開することにより、ビーム兵器からの攻撃を軽減させることができる。

「総員、戦闘準備。敵からの攻撃が来るわよ」

 マリーの予測通り、敵のゲレーロ達はビームガンを発砲しながら近づいてきた。

「来たわね。でも、敵の弾幕が思ったより少ない……。というより、やる気が感じられないわ……」

 この時、マリーはピンときた。

「総員に通達。おそらく敵は、本艦を取り囲むつもりです。ならば、我々はその裏をかきます。操舵手、急降下の準備を」

「了解」

 しばらくすると、ゲレーロ達はキュリオテテスを取り囲んだ。

「読み通りね。急降下して!」

 マリーの命令により、キュリオテテスは急降下した。

 その突然の動きによって、敵のゲレーロ達は取り乱してしまった。

「今よ! 敵に向かい、全領域ミサイル、発射!」

 全領域ミサイルは、その名の通り、宇宙、空中、水中、どこでも使えるミサイルだ。そのミサイルを敵に向けて浴びせてやったのだ。

 そうして、キュリオテテスを襲ってきたPPを見事、撃破したのだった。




 一方、キリハ達はラナのバアルの前に、苦戦を強いられていた。

「さっさと落ちなさいよ!」

 キリハはビームガトリングガンを連射する。

「その程度、お話しにならないわね」

 しかし、ラナは余裕でかわす。

「今度はあたしから!」

 そして、ラナのバアルはラーナ・ビームライフルを撃つ。このラーナ・ビームライフルは、普通のビームライフルよりも高出力になるように作られている。ビームの色が黄色いのがその証拠だ。

「うっ……」

 ラーナ・ビームライフルの弾は、ハニエルの足をかすめた。

「私がやるわ」

 続いて、アスタのカマエルが、バスターソードでバアルに襲いかかった。

「隙だらけ。こんなの余裕よ。……って、ん?」

 いつの間にか、バアルの胸部にカマエルのコンバーテシールドが突きつけられていた。そう、バスターソードによる攻撃は囮で、コンバーテシールドでダメージを与えようとしているのだ。

「落ちろおおおおおぉぉぉぉ!!」

 そして、アスタはコンバーテシールドの二連装ビームガンを連射した。

「くっ……」

 いい手ではあったものの、ラナは間一髪で避けてしまった。

「なかなか小ざかしい真似をしてくれるじゃないの。その盾、切り落とした方がよさそうねぇ?」

 そう言うと、ラナのバアルはガトー・ビームソードを取り出した。このガトー・ビームソードもラーナ・ビームライフルと同じように、黄色いビームをしており、出力も高い。

「さあ、切り刻んであげる」

「うっ……」

 アスタはコンバーテシールドにビーム刃を展開して応戦したが、放った攻撃ははじかれてしまった。

「トドメ……」

「アスタから離れろや! このボケナス!」

 姿勢を崩したアスタのカマエルにバアルが迫ったが、ネリーナのサリエルがそれを食い止めた。

「死角から襲うなんて……」

 サリエルの攻撃を、バアルはガトー・ビームサーベルで受け止めた。

「これだけだと思うなや!」

 直後、カマエルはつま先に秘匿されたオークルタール・ブレードを出した状態で蹴りつけた。

「何!?」

 ラナは危険を察知して一気に後退したが、機体の腕を損傷してしまった。

「まさか、あんな意表を突く攻撃をしてくるなんて……。だったら!」

 するとバアルは、装備武装の中で最大の火力を誇る、胸部拡散ビーム砲アラーニャを発射した。

「ちっ」

 サリエルはところどころかすってしまったが、致命傷は受けずに済んだ。

「ちょっと危ない目に遭ったけど、ここが潮時ね。戦艦に行った部隊も全滅したし」

 そうして、ラナの乗るバアルは、コロニーへと撤退していった。

「あたし達、勝った……のかな?」

 キリハがつぶやいた。

「たぶん……。あれ? キュリオテテスの方に、何か光が……」

 アスタは、キュリオテテス付近に、花火のような物が打ち上がっていることに気付いた。

「ああ、あれは帰還信号や。戻ってこいっちゅう命令やな。敵ももういないみたいやし、帰んで」

 ネリーナに促され、キリハ、アスタも帰還した。




「では、この文書に署名を」

「……わかった」

 あの後、マルティン側はマリーの降伏勧告を受け入れた。今は降伏文書の調印を行っているのだ。

「ありがとうございます。ところで、アズマ大佐のお姿が見えないようですが……」

 マリーがマルティン基地司令に質問した。

「ラブレ大佐ですか。確か、少し前に本部から別の命令があったらしく、そっちの方に行ってしまいましたよ。まあ、任務先については教えてくれなかったんですけどね。もっとも、知っていても機密事項なので教えるわけにはまいりませんが」

「その辺はわかっています」

 一連の謎を残したものの、資源衛星カンティーガスとその管理コロニー・マルティンは共和国の物となった。それに伴い、共和国は地球への侵攻ルートを獲得したのだった。

 また、この戦闘によってアンゲルスの知名度は飛躍的に上昇。地球連邦への形勢逆転のシンボルとなったのである。


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