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第一章

 ――それから三カ月後、三月二十五日――


 ここは共和国コロニー『アレマン』。資源衛星『グスマン』の管理コロニーだ。

 アレマンは多数あるコロニーの中でも月に近い。現在、主に戦場になっている宙域とは距離があるため、今のところ戦火に見舞われていない。戦時下なので軍施設もあるが、それ以外は至って普通の街がある、普通のコロニーだ。

 当然、学生達も青春を謳歌していた。


 その中にある、とある高校。


「それじゃあ、今日はここまで」

『ありがとうございました』

 ある教室で、女性教師が終業の宣言をする。生徒達はそれに答え、帰宅の途に就く。

「あ~、終わった~!」

 この少女は、キリハ・ヤマナミ。十七歳の活発な子だ。

「明日から春休みか……。どうやって過ごす?」

 こっちの眼鏡をかけた子は、アスタ・サリーン。キリハの幼なじみで、多少おとなしめの女子高生だ。

「う~ん……どう過ごすって言われても、やりたい事いっぱいあるしなぁ……」

「じゃあ、後で私の家に来ない? そこでゆっくり話し合いましょ?」

「アスタの家に!? いいねぇ、そうしよう!」

 こうして、二人は一緒に家路に着いた。




 下校中も、キリハとアスタの話題は尽きることがなかった。

「あたし、春休み中は射撃三昧っていうのも魅力だなぁ」

「あ~、キリハは射撃が大好きだもんね」

 彼女達が言っている射撃とは、実弾を撃つものではない。赤外線レーザーを使った、比較的安全なものだ。

 レーザー射撃は昔からあったのだが、連邦と開戦してしまったため、共和国政府が普及を推し進めた。つまり自衛のための訓練の意味合いが強いのである。

 キリハはレーザー射撃の魅力に取りつかれ、何度も射撃場に通った。その結果、ピストル・ライフル共にキリハの右に出る者は、アレマンの中にはいなくなってしまったのだ。

「アスタはどうしたいの?」

「私は、飛行機作りを進めたいな。設計図だけ結構作っちゃったから、消化しないと」

 飛行機と言っても、本物の飛行機ではない。ラジコン飛行機の事だ。

 アスタは工作が得意で、自分で設計もできる。また操縦の方も上手く、宙返り、急旋回はもちろんのこと、テレビなんかでよく見る高度なアクロバット飛行も軽々こなせる。

「うん、それもいいねぇ。だったらさあ、あたしと勝負しない?」

「勝負って?」

「アスタの飛行機に、レーザーセンサーを付けるんだよ。それで、あたしが飛行機を狙うの」

「なるほどね。つまり私の飛行機の設計・操縦技術と、キリハの射撃との勝負ってわけね」

「そういうこと」

 キリハは得意げに言った。

「でも……」

「でも?」

「それだと、私とキリハの会う時間が減っちゃうね……」

「あ……」

 キリハとアスタは、生まれてからほとんどの時間を一緒に過ごしてきた。しかしラジコン飛行機の改造は基本一人仕事。必然的に二人が会う時間は減らされる。二人には今さら、一緒にいる時間を削るというのは受け入れがたいものだった。

 また、仲が良く大抵一緒にいることから、クラスメイトからは『恋人』や『カップル』等と呼ばれている。

「アスタと一緒にいられなくなる時間が増えるの、嫌だな……」

「私も同感。もっと別の事を考えましょ?」

 その時、事件が起きた。


 突如、何かが割れる音がコロニー内にとどろいたのだ。


「え、何? 何? どこかの家のガラスが割れたの!?」

 アスタが困惑気味に話すと、キリハが指をさしながら答えた。

「上だよ、アスタ! 何かが、落ちてくる……」

 キリハが指差した先に遭ったのは、穴が開いたコロニーの内壁と、そこから落ちてくる物体だった。

「ちょっと待って、キリハ……。あれ……もしかして、ガーバイェーロとゲレーロ!?」

 ガーバイェーロとは、月面共和国の主力量産機だ。装備はビームアサルトライフルとビームブレードのみの、至ってシンプルなものだ。

 ゲレーロは地球連邦の量産機で、装備もビームガン、ビームトマホーク、PP用手榴弾とやはりシンプルだ。性能としてはガーバイェーロに劣るが生産コストが低い。そのため、連邦はこいつを大量生産し、今日の物量作戦の中核を担わせている。

「アスタ、共和国と連邦のPPが一緒に落ちてきたってことは、この近くの宙域で戦闘をやってるってことだよね……?」

「まあ、そういうことになるわね」

「ってことは、次に起こるのは……」

 キリハの予想通りだった。落ちてきたガーバイェーロとゲレーロが地面に衝突したのと同時に、けたたましく非常警報が鳴り響いたのだ。

 それと同時に、アレマンの軍施設からガーバイェーロが多数出撃した。その一方、コロニー内壁に開いた穴から、連邦軍のゲレーロも数多く侵入してくる。

 そしてとうとう、両者は激突。銃撃戦に発展した。

「あわわ……まずいよ、キリハ……」

「わかってる。とにかく、避難シェルターを探そう?」

 そうして、二人はシェルターまで走っていった。




「はあ、はあ、はあ……」

「はあ、はあ、はあ……」

 かれこれ数分は経っただろうか。キリハとアスタはまだシェルターまで走っていた。

「ねえ、いつになったら着くの……?」

「あの丘まで! 街のシェルターの方が、よっぽど危険だよ!」

 キリハの言うとおりだった。戦闘は市街地の上空で行われている。しかも、連邦のゲレーロはPP用手榴弾を持っている。それをガンガン投げつけているのだ。

 当然、街は火の海になる。そのため、シェルターと言えども安全を保証できなくなっている。

「アスタ、頑張れ! あと少しで、街から出られるよ!」

「本当? やった……」

 こうして市街地を脱出した二人だったが、思わぬアクシデントが降りかかった。

「え……!?」

「ちょっと、これって……」

 なんと、あるゲレーロが投げたPP用手榴弾が、偶然にもキリハとアスタの前に落ちてきてしまったのだ。

 二人が気付いた時にはもう遅く、すでに爆発が開始されていた。

『キャアアアアアアアァァァァァァァァ!!』




「う、う~ん……」

「こ、ここは……」

 気がつくと、二人は暗い空間に倒れていた。

「アスタ、ここ、どこだろう?」

「そういえば、聞いた事があるわ。このコロニーの地下には、軍基地の地下施設が張り巡らされているって」

「そういうことなんだ。じゃ、奥を目指そう」

 このセリフに、アスタは動揺した。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私達、この道をよく知らないんだよ? それに、軍の機密情報があるかもしれない。それを知ったら、私達、殺されるかもしれないんだよ!?」

「その時はその時だよ。それにさ、ここからどうやって地上に戻るの?」

「あ……」

「あと、地上に戻れても、戦闘の真っただ中でしょ? それに比べれば、ここは軍施設だから、もしかしたらシェルターより安全かもよ?」

 そう言うと、キリハはさっさと先に行ってしまった。

「あ、待ってよ!」

 後を追うように、アスタも先を急いだ。


 ――数十分後――


「ねえキリハ、どこまで行くつもり?」

「とりあえず、出口まで。場所を探しておけば逃げやすいじゃん?」

 そうやってあてもなく歩いていると、ある場所に行きついた。

「あれ、ここは……」

「ドア、みたいだね……」

 しかも、ただのドアではない。すぐ横に掌紋認識式のロック解除装置が取り付けられていた。

「よし、入ってみよう!」

 気軽に言うキリハに対して、アスタが制止した。

「ちょっと、明らかに見られちゃマズイ物が入ってそうなんだよ? そもそも私達が解錠なんかできるわけ……」

「何事もチャレンジだよ」

 そう言うと、キリハは解錠パネルに手をかざした。

 しばらくすると、解錠パネルからアナウンスが聞こえてきた。

『掌紋照合、完了。登録された物と同一であると確認。解錠します』

「え、ちょっと、キリハ……」

 アスタが戸惑いながら聞くと、キリハが笑いながら答えた。

「え、なんか問題でもあんの?」

「あるに決まってるでしょ! いつ掌紋を登録したの? それに、キリハは軍と関係があったの?」

「あたし、こういうカギに関わったことすらないし、軍に知り合いもいないけど、まあいいんじゃない? ハッキングした訳じゃないし。責任を問われても、この場合はセキュリティーが甘い軍が悪いんだから」

 キリハは何の疑問も持たずに、扉の向こうへ入ってしまった。

「あ、ちょっと!」

 結局、アスタもキリハを追いかけて入っていってしまった。




「何、これ……」

 キリハがそうつぶやくのも当然だ。そこには、誰も知らないPPが二機置いてあったからだ。

 一つは、四枚のウィングを装着し、右手に拳銃のような武器を持った機体。どうやら空中戦もこなすことができるらしい。

 もう一つは、二枚のロングブレードウィングを持ち、背中に巨大なバスターブレード、左腕に盾を装着した機体だった。明らかに近接戦を意識している。

「私達が知らないってことは、新型……? ってキリハ、何してるの?」

 なんとキリハは、拳銃を持つPPによじ登っていた。

「何してるって、これに乗って連邦軍を退治するんだよ」

「退治するって、私達にできるわけないよ。PPの操縦訓練もやったことないのに」

「だからって、このまま何もしないなんてできっこないよ。あたし達の故郷が襲われているのに」

「でも……」

「いい、アスタ? これは運命なんだよ!」

「運命……?」

「そう、運命。だって、開くはずのない扉が開いて、その先に新型PPがあった。これは絶対、あたし達が故郷を守る運命にあるってことじゃん!」

 その一言が、アスタを動かした。

「……だったら、私もその運命、信じてみる!」

「うん! 一緒に戦おう、アスタ!」

 こうして、キリハは拳銃を装備しているPPに、アスタはバスターソードを装備しているPPにそれぞれ乗り込んだ。


 しかし、ここで一つ問題が生じた。


「……ところで、どうやって動かすの?」

 そう、彼女達はPPを動かした経験はおろか、シミュレーターすら触った事がない。そんな人間が訓練機をすっとばし、いきなり新型を操縦しようとするのは無理があった。

「これが新型なら、多分どこかにマニュアルがあるはずだけど……」

 アスタの予想は、当たった。

「あった! シートの下にマニュアルがあるわ!」

 その声に呼応し、キリハも同じ場所を探す。

「こっちもあった! ふむ、どれどれ……」

 とりあえず、二人は起動のさせ方と最低限の動かし方を知ることができた。

「アスタ、起動してみるよ!」

「うん、了解!」

 二人は機体の主電源のスイッチをそれぞれ押した。すると、コクピットのハッチが閉じ、手元の画面が点いた。

 画面には、キリハの方は『Haniel』、アスタの方は『Chamael』と書かれていた。

「ハニエル……? そうか、こいつの名前はハニエルか!」

「カマエル……それがこの機体の名……」

 そうつぶやくと、今度はコクピットの壁全体に、外界の風景が映し出された。

「これって、全方位型モニター? キリハ、そっちはどう?」

「こっちもそんな感じ」

「ってことは、もしかして、エース専用機?」

「ま、今はどーでもいいじゃん。あっちにカタパルトがあるから、そこから出られるみたいだよ」

 キリハに促され、アスタはカタパルトに向かった。

「ところでアスタ、カタパルトって、どうやって動かすの?」

「普通は、管制室から操作する者だけど……とりあえず機体のデータを調べてみるわ」

 アスタはタッチパネル式のキーボードを打ち、施設に関するデータを調べた。

「……あったわ。どうやらこの区画のカタパルト、コクピットからの操作が可能みたい」

「OK。あたしから行くわ」

 キリハは機体の足をカタパルトに乗せた。

「行くよ!」

 そうして、キリハの乗る機体はカタパルトから発射された。

「もう、自分だけ先に行かないでよ」

 少し遅れて、アスタも出撃した。




 その頃、当然と言えば当然だが、共和国アレマン基地本部は、非常に混乱していた。

「例の試作機が勝手に出撃しただと!?」

 基地の司令は、その情報にひどく困惑していた。

「一体どうやって侵入された!?」

 司令の質問に、副官の男が答える。

「丘陵地帯側の市街地に、戦闘によるものと思われる穴があいているのを確認しました。おそらくそこから基地内へ侵入したものかと」

「だが、試作機を格納しているエリアへは、生体認証をパスしなければならないんだぞ」

「そのことですが、コロニー外部からハッキングを受けたようです。現在は復旧していますが」

「ということは、強奪か!?」

 その問いには、ある人物が答えた。

「そのことですが、司令」

「何だね、ラブレ少佐」

 会話に割って入ったのは、共和国の女性士官、マリー・ラブレ少佐だった。彼女は士官学校卒のエリート軍人で、何度か部隊指揮も任されてきた。そういう経緯もあり、二十代後半という若さで少佐という、年齢にしては高い地位を持っているのだ。

「司令、先程、強奪されたとおぼしき機体の映像が入ってきました」

「おお、それで、どうだ?」

「まず、試作機は連邦軍を標的にしているようです。また、機体の動きは未熟もいいところです。このことから、偶然基地に迷い込んだ民間人が搭乗しているものと思われます」

「つまり、連邦軍の工作員である可能性は低いわけだな?」

「その通りです。あと、一ついいでしょうか?」

「何だね、言ってみたまえ」

 マリーは少し間を置いて話した。

「試作機は二機とも、戦闘に関しては未熟です。しかし、基本動作を難なくこなしているように思えます」

「い、言われてみれば確かに……」

 実は、ハニエル、カマエル両機とも、動力源として『RPエンジン』を搭載している。これは、エスペフィスモ・ミネラルを加工して高エネルギー粒子である『ルー・パルティクラ粒子』、通称『RP粒子』を半永久的に放出するようにしたものである。高エネルギー体であるRP粒子を自分で生産して利用しているため、エネルギー切れの心配がないのが利点だ。

 しかし、RPエンジンは出力が高すぎるため、制御が難しい。そのため、制御が容易な戦艦か、高い出力を制御できるパイロットが乗るPPでなければ搭載されず、普通のPPはRP粒子貯蔵タンクを搭載させるのが一般的だ。

 マリーや司令官達は、RPエンジン搭載機というピーキーな機体を、ド素人の民間人が簡単に乗りこなしている点に注目しているのだ。

「司令、もしかしたら、例の問題の解決につながるのでは?」

「確かに、ラブレ少佐の言う通り、我々はものすごい人材と巡り合ったのかもしれない。なら、なおさら見殺しにするわけにはいかんな」

「しかし、増援するだけの余裕は……」

「ウチが行ってもええで」

 キリハ達の救援に名乗りを上げたのは、関西弁を話す二十代前半の女性パイロットだった。

 彼女はネリーナ・フェルミ大尉。天才的なPP操縦技術の持ち主で、軍に入隊してからわずか数カ月でRPエンジン搭載機を与えられたほどだ。

「ネリーナ、確かあなたに与えられた機体は……」

「ま、そこんとこは司令の判断に任せようや。ただ、ウチから言わせてもらえば、このまま何もせんで見てるだけやと、計画がとん挫するかも知れんで」

 司令はしばらく考えた。そして、命令を下した。

「フェルミ大尉の言う通り、このまま計画を完遂させるカギになる人物を見捨てるわけにはいかない。フェルミ大尉は、例の機体『サリエル』に搭乗し、ハニエル、カマエル両機を護衛せよ」

「了解。ついでに、急ぎ足で新人研修もやったるわ」

 そうして、ネリーナはマリーの頬にキスをし、出撃デッキへと赴いた。




 同じ頃、キリハとアスタは苦戦を強いられていた。

「くっ……まだまだだ!」

 キリハは拳銃を連射した。しかし、ことごとく避けられてしまう。

「私だってええええぇぇぇぇ!!」

 アスタは敵陣に突入し、バスターソードをふるった。だがこれも、余裕で回避される。

 その直後、アスタの目の前にゲレーロが現れた。そのゲレーロは、ビームアックスを振りかぶっている。

「きゃあああああああぁぁぁぁぁ!!」

 絶体絶命と思ったその時だった。攻撃しようとしていたゲレーロが、いきなり爆散したのである。

「え……?」

 爆煙が晴れると、そこにはいままでいなかった黒いPPがいた。

「あ、あなたは……?」

 アスタが問うと、黒いPPから通信が入った。

「無事みたいやな。ウチは共和国軍大尉、ネリーナ・フェルミ。以後よろしゅう」

「あ、ありがとうございます、フェルミさん……」

「礼は後や。それより、少し落ち着く環境をつくらなあかんなぁ……」

 すると、ネリーナのPPが、視界からもレーダーからも突然消えた。次の瞬間アスタのカマエルを取り囲んでいたゲレーロが、次々に落とされていった。

「こ、これは……」

 アスタが目を点にして驚いていると、ネリーナのPPがまたアスタの目の前に現れた。

「驚いたか? こいつは『サリエル』ゆうてな、ステルス重視の機体なんや。ちなみに、そっちのハニエルとカマエルとは、同じ計画から造られた姉妹機なんやで」

 ネリーナのサリエルは、『暗殺者』をコンセプトに設計されている。想定されている戦法としては、高性能な光学迷彩とジャミングで姿を消す。そして敵の死角に回り込み、一撃必殺で急所を狙うのだ。

 そのため、武装も手首とつま先に格納された実体刃『オークルタール・ブレード』、膝の関節部に埋蔵されたビームガン『ロディーラガン』と、隠し武器を彷彿とさせる物しかない。

「さて、ウチの自己紹介はここまで。……ん? なんか三時の方角から敵の一団が来よるなぁ。ハニエルのパイロット、聞こえとるか?」

「は、はい!」

「さっき言った敵を仕留めてみい!」

「え、いきなり!?」

「確かに、ハニエルが持っとる『ビームピストル』は、トリガー引いてから弾が出るまでの時間が短い速射タイプや。でも、威力がない。それを心配しとるんやろ?」

「そ、そうですけど……」

「心配あらへん。右ももに装着しているパックを開いてみい」

「右もものパック……?」

 キリハは言われたとおり、パックを開いた。すると、そこには三種類の棒状の物が格納されていたのだ。

「ハニエルは、ビームピストルの銃身を付け替えて弾の性能を変化させることができるんや。連射重視の『ガトリングバレル』、超長距離狙撃タイプの『スナイパーライフルバレル』、威力重視の『ランチャーバレル』がある。状況に合わせて選ぶんやで!」

「だったら、この状況は……」

 一気に敵を制圧するなら、ランチャーが一番いい。だが、あの敵軍は横に広がりすぎている。一撃で壊滅させることはできないし、チャージ時間が長いランチャーでは敵の接近を許してしまう。

 スナイパーライフルもダメだ。長距離射撃をするには距離が近すぎるし、全滅させるのに時間がかかりすぎる。やはりこれも、多数の接近を許してしまう。

 となれば、キリハの選ぶパーツは一つだった。

「ガトリングバレル、これだ!」

 キリハはガトリングバレルをビームピストルに装着させ、敵の一団へ銃口を向けた。

「くらええええええぇぇぇぇぇ!!」

 そしてトリガーを引き、掃射した。

 その結果、敵軍のほとんどが撃墜されたのだった。

 しかし、一体だけ撃墜されることはなかった。その後のキリハによる執拗な狙撃にも、被弾することはない。

「フェルミさん! 近づかれちゃいそうです!」

「焦るんやないで! ハニエルは砲狙撃戦タイプのPPやが、もしものためにビームダガーを左腰にマウントしてある!」

「左腰……? あ、これか」

 キリハはビームダガーをさっと手に取ると、近づいてきたゲレーロを一突きにし、撃墜させた。

「へえ、やるやないか。おっ、今度は九時の方角から少数部隊が、しかも前衛と後衛に分かれているなぁ。よし、カマエル、今度はあんたの番や」

「わ、私ですか?」

「そうや。さっきの戦い方見てて思ったんやけど、あれじゃあ五十点やな。カマエルは盾も上手く使わなあかん」

「盾、ですか?」

「そうや。その盾は『コンバーテシールド』ゆうてな、ビームガン二門内蔵しとんねん。それと盾の縁はビーム刃を形成できるようになっとるから、格闘戦用武器としても使えるんや。せやから、盾を上手く使って牽制しつつ、バスターソードで一刀両断ってとこやな」

「わ、わかりました」

 そうして、アスタの乗るカマエルは敵軍に向かって飛んでいった。

「まずは……牽制」

 そう言うと、アスタは盾からビームガンを数発撃ちこんだ。それに対して敵は、飛行軌道を少しずらして避ける。

「いい場所に来てくれた。このぉっ!」

 狙いやすい場所にいた敵を、アスタはバスターソードで斬り捨てた。

「や、やった……」

 だが喜びもつかの間、センサーが後方から敵の接近があることを知らせてきた。

「後ろから敵? だったら……」

 アスタはコンバーテシールドにビーム刃を発生させ、カマエルを後ろに振り向かせた。それと同時にシールドで敵を突き刺した。

「よし……って、今度は左右同時?」

 驚きはしたものの、アスタはとっさに反応することができた。左側の敵をビームガンの連射で撃ち落とし、右側の敵をバスターブレードの水平斬りで真っ二つにしたのだ。

「だ、第一陣、撃破しました……」

「ようやった。ほな、第二陣に行きましょか。カマエルは、巡航形態『ルチャドール』に変形することができるんや。変形して、一気に間合いを詰めい!」

「りょ、了解!」

「あと、ルチャドールの状態での武装やけどな、ビームガンが撃てんで。それと、コンバーテシールドとバスターソードを機首にしとるから、体当たりも可能や」

「は、はい」

 アスタはカマエルをルチャドールに変形させ、ビームガンを連射しながら突撃した。


 敵に肉薄したその時、アスタは誰もが驚く技術を見せつけたのだった。


「そこだっ」

 なんと、アスタは敵とすれ違いざまに機体を急旋回させ、その勢いで敵を斬ったのである。

「な、なんや今の……」

「アスタ、あんな事出来たんだ……」

 キリハもネリーナも、驚きの色を隠せない。

 しかし、考えてみれば当然の事だ。アスタはラジコン飛行機の操縦を趣味としている。その経験が生きているのだろう。

 神がかった技を披露した後、アスタはカマエルを急上昇させた。そしてPP形態に戻し、バスターソードを振りかぶった状態で急降下した。

「はああああああぁぁぁぁ!!」

 その勢いのまま、ゲレーロを一体斬り捨てた。

 さらに流れるような動きで、一体をビームガンの連射で倒し、最後の一体をコンバーテシールドのビーム刃で突き刺したのであった。

「全く、ウチも驚いたわ。まさかこんな短時間で上達するとは。それじゃ、最終試験や。今レーダーが十二時の方向に敵の大軍を捕らえとる。これを見事、撃破してみぃ!」

『了解!』

 そして、キリハとアスタは最後のシメに入った。

「まずはあたしから。ランチャーバレルで……」

 最初にキリハは、ハニエルのビームピストルにランチャーバレルを取り付けた。

「初めに、敵の数を減らすよ」

 キリハは、敵の集団に向けてビームランチャーを発射した。すると、敵の大軍は見る見るうちに数を減らす。

「ま、これくらいかな。アスタ、頼むよ」

「まかせといて」

 アスタはカマエルをルチャドールへ変形させ、ビームガンを連射しながら敵陣に突入した。

「アスタ、援護は任せて」

 その間、キリハはビームピストルの銃身をスナイパーライフルバレルに変え、長距離狙撃によって援護しようとした。

「わ、何これ!?」

 すると、キリハのコクピットの上部から、銃のような物が降りてきた。

「ああ、それはな、『ライフル型コントローラー』や。それ使うて狙撃すんねん。その間、機体制御は内蔵してあるAIがやってくれんで」

「そういうことか。でもこれ、右利き用だから使いづらいけど、文句は言えないよね……」

 そう言うと、キリハはライフル型コントローラーを構え、狙撃を開始した。

「照準合った。行けぇ!」

 放たれた弾丸は、見事敵に命中した。さらに、その後も次々と敵機を撃墜していく。

 その様子は、利き手でない方を仕方なく使っているとは思えないほどだ。

「今だ! 喰らえっ!」

 その間、アスタは敵陣への突入に成功していた。それと同時にカマエルをPPに戻し、バスターソードで斬りまくっていた。

 しかし、いつまでもスムーズに事が運ぶとは限らなかった。

 ある敵をバスターソードで斬りつけようとした時、盾で防がれてしまったのだ。

「くっ」

 アスタは機転を利かせ、ビームガンを打ちながら間合いを取った。

「私の攻撃が防がれるなんて……」

「どうやら、熟練のパイロットが混ざっとったようやな。でも大丈夫。そのバスターソードはビームで刀身を覆うことができるんや。そうすることで、ビームの特性を持たせることができる。量産機の盾なんか真っ二つに斬れるで」

「そうなんですか!? じゃあ……」

 そうして、アスタはバスターソードにビームを覆わせた。その状態で、もう一度先程のゲレーロに攻撃を仕掛けた。

「やあああああぁぁぁぁぁ!!」

 この攻撃も、敵は盾を使って防ごうとした。しかしバスターソードに纏ったビームによって盾が溶けてしまい、機体ごと斬られてしまった。

「あ、上手くいった……」

「やったじゃん、アスタ! あ、敵が引き上げていくよ」

 キリハの指摘通り、連邦軍は侵入した穴から退却していったのだった。

「お疲れさん、ド素人にしてはよくやった方やな。ほな、一緒に来てもらいましょか」

「え、でもあたし達……」

 その言葉に、ネリーナはドスの利いた声で答えた。

「ウチの指示に従わんかったら、どうなるかわかっとるやろな……」

 キリハもアスタも、すぐに感づいた。言うことを聞かなければ、間違いなく殺されると。

 確かにキリハ、アスタの両者はPPパイロットとしての素質は十分にある。しかし、現時点の技量で言えば、ネリーナとは雲泥の差なのだ。しかも機体性能はほぼ同じ。瞬殺されることは間違いなかった。

「りょ、了解……」

「そちらの指示に、従います……」

「わかればええねん。んじゃ、ちゃんと後に付いて来いや」




 その頃、連邦軍アレマン侵攻部隊の旗艦では、このようなやり取りがあった。

「生き残った機体は、全機帰投したな?」

 艦長が聞くと、副官がそれに答えた。

「はい。いつでも撤収できます」

「よし、全艦、一八〇度転換! これより我が部隊は、帰還する!」

 艦長はそう命令し、退却を開始させた。それと同時に、このようなことを思っていた。

(それにしても、なぜアズマ大佐は、このような命令を下したのだ? アレマンの共和国基地にハッキングするだけとは。あわよくばコロニーを制圧してもいいとおっしゃったが、普通、ハッキングはコロニー制圧の手段であって、作戦目的ではないはずなのに……)




 ちょうどその時、アレマンの共和国基地では、キリハとアスタの尋問が行われていた。

「司令、二人の身元確認が終了しました」

「ご苦労だった、ラブレ少佐。それで、どうだった?」

「血縁関係、交友関係、あらゆる場所を当たってみましたが、連邦軍との関係は一切見当たりませんでした。正真正銘の共和国民です」

 マリーのその言葉に、キリハが食いついた。

「さっきからそう言ってんじゃん。あの部屋に入ったのも、偶然だったんだって」

「ちょっと、キリハ……」

 アスタがキリハを制止しかけたところで、ネリーナが割って入った。

「けど、今考えてみたら連邦軍の動きは不審だらけやな……。機動部隊の数は、過去の例から言ってもかなり少ないし、かといって少数精鋭っぽくなかった。戦艦も来たのは三隻だけやったみたいやし」

「ま、それはおいおい考えていくとしようじゃないか。ところでラブレ少佐、彼女達が共和国の人間であると証明されたから、例の計画はかなり進展しそうだね」

「そうなりますね、司令。ただ、民間人を巻き込んでしまうのは、不本意なことですが」

「確かにそうだが、計画の実行が遅くなってしまえば、さらに多くの民間人が犠牲になるんだぞ」

「わかっております。あなた達、見せたい物があるの。ついて来て」

 マリーはキリハとアスタ、ネリーナを連れて、ある場所へ向かった。




「ここは……軍港地区、よね……?」

「見て、アスタ! 見たことない軍艦があるよ」

 やってきたのは、コロニーの軍港地区だった。そこには共和国の主力軍艦『アッセロ級』のほかに、新造艦が一隻、停泊していた。

 その軍艦は、白いランニングシューズのような形をしており、大きな翼を広げていた。

「驚いたか? これは共和国が新たに開発した戦艦、『キュリオテテス』や。艦長は、ここにいるマリー・ラブレ少佐や」

「そういうこと。これからよろしくね、二人とも」

「え、『これからよろしく』……?」

 アスタが疑問に思う間もなく、マリーから指示が出た。

「ま、ここで話をするのも難だから、キュリオテテスに入って。中で話しましょ」

 そう言い、キリハとアスタを半ば無理やりキュリオテテスに乗艦させた。

 キュリオテテス乗艦後、案内されたのはブリーフィングルームだった。

「さて、今から話すのは、共和国軍で秘密裏に進められていた『アンゲルス計画』よ」

「アンゲルス……計画?」

 マリーの言葉に、キリハがつぶやいた。

「あなた達も知っているでしょうけど、共和国は連邦軍の物量作戦に押されているわ。しかも、共和国が優位に立っている技術の方も、連邦に追い抜かれようとしているわ」

「えっ、本当なんですか!?」

 アスタが聞き返すと、ネリーナがそれに答えた。

「諜報部からの情報やと、量産機の方はともかくエース専用機の方が共和国のクオリティに近付いとるそうなんや。バリエーションも何種類かあるそうやで」

 ネリーナの言葉を、マリーが継いだ。

「そういうわけで、現在共和国軍の指揮は下がりきっているわ。これを打開すべく、共和国軍の象徴となって士気を高め、かつ共和国の技術の結晶であり、連邦軍の物量作戦を一蹴出来るくらい強い部隊の創設が計画されたの。それが『アンゲルス計画』よ」

「象徴になるから、計画名がスペイン語で『天使』を意味する『アンゲルス』なんですね」

 アスタのセリフに、マリーはうなずいた。

「そうよ。ちなみに部隊名も『アンゲルス』ね。それで計画の方は、順調に進んだわ。新型PPを三機、予定通り早く作り上げたし、母艦の方も共和国史上最高傑作と呼べる物が出来上がった。それがハニエル、カマエル、サリエル、そしてキュリオテテスよ」

 ちなみに、これらのPPと戦艦の名前も天使にちなんでいる。ハニエル、カマエル、サリエルは天使の名前だし、キュリオテテスは天使の階級『主天使』に由来している。

「でも、計画は行き詰まってしまった。建造されたPPがあまりにも高性能すぎて、扱えるパイロットが見つからなかったのよ」

 続けて、ネリーナが話した。

「結局、アンゲルス計画で造られたPPのパイロットに適合したのは、ウチだけだったんや」

「そんな最中、今日の出来事が起こったのよ。そしたら、あなた達が偶然、新型PPに乗り、素人ながら使いこなして見せた。そう、私達はようやく、アンゲルス計画のPPパイロットを見つけ出すことができたのよ」

 その言葉に、キリハとアスタは困惑した。

「え、で、でも、あたし達、普通の高校生だし……」

「そ、そうですよ。いきなり入隊しろなんて言われても……」

 それを聞いた途端、マリーは脅しにかかった。

「言っとくけど、あなた達は軍の機密に関わってしまった。もし軍に入隊しないというのならば、国家反逆罪で銃殺刑よ」

「ひ……」

 アスタはすっかりおびえてしまった。しかし、キリハは違った。

「わかりました。あたし、入隊します!」

「キリハ……?」

「だってラブレさん、基地の中で言ってたじゃん。『民間人を巻き込むことは、不本意なことですが』って。もしかしてラブレさん、脅したくはなかったんでしょ?」

 キリハの放ったセリフに、マリーは驚いた。それを見たアスタも、意を決したような表情で言った。

「言われてみれば、ラブレさんは悪い人には見えません。私は、あなたに付いていきたいです。それに、キリハを一人にしておいたら、どうなるかわかりませんから」

「あなた達……」

 マリーは一瞬うるっときそうになったが、すぐに平静を取り戻した。

「協力に感謝します。それじゃあ、あなた達に渡す物があるわ。ネリーナ」

「はいはい。二人にこれをやるわ」

 キリハとアスタに渡されたのは、共和国軍の制服と階級を表すバッジだった。

「ありがとうございます」

「あれ? これって、もしかして……少尉のバッジ!?」

 アスタが驚くのも無理はない。新入隊員で少尉という階級は、士官学校を卒業したばかりのエリートに与えられる階級だからだ。

 そのことについて、マリーから説明が付け加えられた。

「正確には『戦時少尉』よ。戦争中における何らかの事情、例えば人員の不足などで上位の階級にいる人が足りない時に、特別に昇格させる制度によるものなの。あなた達の戦闘を確認した時に、司令が手続きをとってくれたわ」

「それだけ期待されとるってこっちゃ。それに応えるんやで」

『はい!』

 キリハとアスタはそろって返事をした。

 その時、キュリオテテスの通信士が入室してきた。

「失礼します、艦長!」

「どうしたの?」

「アレマン基地司令がお呼びです。なんでも、相談したいことがあるとか」

「わかったわ。すぐに行きます」


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