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空はまだ設計途中だった ―浮遊石と未完成の飛行船―  作者: 空木 零
第4部 天水都『アエテリア』と野良犬の交易
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第91話 天空のバケツリレー着工

いつも応援ありがとうございます!

「海の魚」のエネルギーで活気に満ちる最下層の村。

ついに前代未聞の「天空のバケツリレー」の建設が本格始動! 生まれ変わったアルバトロス号が大活躍します。

海面の第一ステーションで獲れた大量の海の魚を持ち帰り、最下層の村で盛大な宴会を開いてから、数日が過ぎた。


広場の中央に組まれた石釜からは何日も香ばしい匂いが漂い、村人たちは生まれて初めて口にする「海の命」に夢中になった。これまで淡白で痩せ細った湖の小魚しか知らなかった彼らにとって、脂の乗った分厚い白身は衝撃的な味わいだった。未知の「魚の脂」という強烈なエネルギーを胃袋に詰め込んだ村人たちは、長年の栄養不足から解放され、細胞の底で眠っていた『生き物としての活力』を完全に目を覚ましていた。


今の最下層の村は、これまでの「永遠の春」がもたらしていた停滞と静寂が嘘のような、凄まじい熱気と活気に包まれている。


「そっちの木材、もっと右だ! 蔓の縛りが甘いぞ、全体重をかけてしっかり結べ!」

「おう! 任せとけ! 絶対に解けねぇようにしてやる!」


木屑が雪のように舞い、むせ返るような木の青臭い匂いが立ち込める広場で、セトが声を張り上げ、村の男たちが自分たちの胴回りほどもある太い丸太を担いで駆け回っている。

彼らの動きは、僕たちが最初にこの村を訪れた時のような、静かでどこか弱々しいものではない。額に大粒の汗を光らせ、手足をごつごつと泥にまみれさせ、腹の底から出る太い声を掛け合って力強く働いている。筋肉が躍動し、息を弾ませるその瞳には、明日をただ生き延びるためだけの諦観ではなく、未来を自らの手で切り拓くという確かな意志と希望が宿っていた。


彼らが今、総出で組み上げているのは、海面から最上層まで海水を運ぶための「巨大な箱」——すなわち、天空を行き交うエレベーター船の船体となる部分だった。


「どうだ、レオ! 我が村の大工たちの動きは!」


カイルが引いた複雑な幾何学模様の図面を片手に、的確かつ迅速な指示を出していたセトが、丸太から飛び降りて得意げに僕に声をかけてきた。


「ああ、最高だ。みんなの動きに一切の迷いがない。これなら予定よりずっと早く組み上がりそうだぜ」

僕は油まみれの手で親指を立てた。


当初の計画では、島と島の間に強固な巨大レールを敷き詰め、そこを滑車で引き上げるというシンプルな案もあった。だが、島間の距離があまりに遠く、加えてアエテリア特有の複雑で強烈な突風をモロに受けるため、長大なレールは自重と風圧でねじ切れてしまうとカイルが物理的に非現実的だと判断したのだ。

代わりに採用されたのが、アエテリアの得意とする『結界技術』を最大限に応用した、よりダイナミックな「リレー方式」だ。


海水を満載した巨大タンク内蔵の『エレベーター船』を新造する。そして各階層の島に、船を上空へ撃ち出すための強靭な「カタパルト」と、飛んできた船を安全に受け止める巨大な「捕獲網」を備えた発着ステーションを順次建設する。

結界で完全に包まれたエレベーター船を、空気抵抗ゼロの『弾丸』として射出し、階層間のステーションで次々とパスを回していく。まさに文字通りの「天空のバケツリレー」だ。

その要のバケツとなるエレベーター船と、最下層の中継地点である「第二ステーション」の建設は、良質な木材や強靭な蔓の資源が最も豊富なここ、バウワ村長の島を拠点に行われることになった。


「よし! それじゃあ俺も、もう一丁重いヤツを運んでくるか!」


僕は村の入り江に停泊している相棒、アルバトロス号へと向かった。

分厚い蔓の封印から解き放たれ、神鋼の装甲で流線型に補強されたアルバトロス号は、今やこの大工事に絶対に欠かせない『空飛ぶクレーン』となっていた。

操縦席に飛び乗り、イグニッションを力強く回す。


ドロロロォォォォンッ!!


琥珀の高純度燃料が爆発し、キメラ・ドライブが地響きのような力強い咆哮を上げる。プロペラが激しく空気を掻き込み、猛烈な突風と黒煙が入り江の水を波立たせ、周囲に勢いよく舞い上がった。

数日前までなら、この腹の底に響くような荒々しいエンジン音が鳴っただけで、村人たちは「穢れだ!」「空気が汚れる!」と悲鳴を上げて耳を塞ぎ、恐れおののいて逃げ惑っていただろう。


しかし今は全く違った。


「おお! 外の職人よ! 次はその一番太い主柱の丸太を、上空の足場まで頼む!」

「気をつけてな! 下には俺たちがいるんだ、絶対に落とすなよ!」


村人たちは逃げるどころか、機体に向かって大きく手を振り、満面の笑顔で僕に荷上げの指示を出してくる。

彼らはもう、鉄やエンジンを「世界を病に侵す毒」だとは思っていない。自分たちの国を根本から救うための「頼もしい力」であり、不可能を可能にしてくれる「最高の道具」だと純粋に受け入れていた。

むせるような黒煙の匂いも、耳をつんざく騒音も、今は共に汗を流す「労働の熱気」の一部として、彼らの生活の中にすんなりと、そして力強く溶け込んでいるのだ。


「任せとけ! ミリ単位の精度で一発で決めてやるよ!」

僕はスロットルを引き、アルバトロス号をふわりと浮かび上がらせた。


機体の下部から下ろした太いワイヤーで、セトたちが精魂込めて組み上げた巨大な木材ユニットをガッチリと吊り上げる。数百キロはあろうかという重い資材だが、神鋼で補強されたクレーンの巻き上げ機と、アルバトロス号の圧倒的な推力の前では、まるで羽毛のように軽々と持ち上がった。

僕は上空で機体を微細にホバリングさせながら、建設中のステーションの目も眩むような高所足場へと、巨大な木材を静かに下ろしていく。


「そこだ! そのままキープしろ! ロックするぞ!」


足場で風に吹かれながら待機していたセトが、僕のクレーン操作に合わせて木材をがっしりと受け止め、迷いのない手つきで木槌を振り下ろす。一撃のもとに(くさび)を打ち込んで固定すると、ガキンッという硬質な音が響き渡った。機械の力と職人の技が、空中で完璧に噛み合った瞬間だった。


「サンキュー、セト! 次は上から『鉄』を運んでくるぜ!」

「ああ、頼む! 足場の補強とカタパルトのバネには、お前の打つ鉄がどうしても必要だ!」


僕はワイヤーを巻き上げ、浮遊石の出力を全開にして機体を垂直に上昇させた。目指すは、はるか上空の最上層にある白亜の神殿だ。


エレベーター船を空高く撃ち出すためのカタパルトには、途方もない船体の荷重と射出の反発力に耐えられる「古代の神鋼」が大量に必要となる。僕の役割は、最上層の『禁忌の宝物庫』に何百年も誰の目にも触れず眠り続けていた神鋼のインゴットを、アルバトロス号に限界まで積み込み、下の島々の建設現場へと運び下ろすことでもあった。

強烈な浮力とプロペラの推力を合わせ、無数の滝が流れる巨大な絶壁沿いを一直線に登っていく。

かつては絶望と停滞の象徴であり、ただ静かに死を待つだけだったこの多島海の空が、今は幾隻もの資材運搬船が行き交い、希望に満ちた熱い風に包まれていた。

神殿の地下に到着すると、そこにはかつてのアエテリアでは信じられない光景が待っていた。王の命を受けたルシアンや近衛兵のガランたちが、自ら額に大粒の汗をかいて、重い神鋼のインゴットを次々と運び出していたのだ。


「遅いぞ、レオ。荷物はすでに準備できている」


ルシアンが、かつては彼の誇りであったはずの純白の豪華なローブが泥や埃で激しく汚れるのも一切構わずに、白い歯を見せて爽やかに笑いかけてくる。


「悪いな。下の連中が異常なほど張り切っててよ、大工仕事のクレーン役に引っ張りだこだったんだ」


僕たちは言葉少なに、ずしりと重く冷たい神鋼のインゴットをアルバトロス号のカーゴスペースへと隙間なく積み込んでいく。

豊かな資源に囲まれて暮らす下層の村人たち。枯渇した大地で権威を守ってきた上層の神殿の者たち。そして、外界から来た僕たち旅人。

文化も身分も、生きてきた世界も全く違う人間たちが、ただ一つの巨大な目的のために、不要な見栄も古い偏見もすべて捨て去って泥にまみれ、同じ汗を流している。


(……最高じゃねぇか)


僕は冷たい神鋼の塊を撫でながら、胸の奥からとめどなく湧き上がる熱い高揚感を噛み締めた。

この国は、もう緩やかに死を待つだけの綺麗で脆い鳥籠じゃない。

空を貫く巨大な心臓を作り上げ、自らの力で未来を掴み取ろうとする、世界で一番熱い建設現場だ。


「よし、積み込み完了だ! 下へ戻るぞ!」


僕は再び操縦桿を強く握りしめ、インゴットの重みを増したアルバトロス号を、活気に沸く最下層の村へと向かって一気に降下させた。

今日も読みに来てくださり、本当にありがとうございます!

「穢れ」と忌み嫌われていたアルバトロス号が、今や村人たちから笑顔で歓迎される「頼もしいクレーン船」になりました!

そして、あの高貴なルシアンたちまでもが自ら泥だらけになって神鋼を運んでいる姿に、胸が熱くなりますね。

国中が一つになり、未来を創るための熱い建設現場。

明日、このシステムを完全なものにするための新たな課題に挑みます。お楽しみに!

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