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第16話 新鮮牛乳にパフェを添えて

 朝だ。

 となればやる事は決まっている。


「ぅおっしゃー、朝ごはんだーっ」

「どんな物があるんでしょう……」


 列車からホームへと降りると、立ち並ぶ露店から良い香りが流れてくる。昨日は青草の香りを届けていた精霊さん、今日はご飯の香りを漂わせる送風機役を担っていた。どこかの誰かさんと違って、とっても働き者である。


 森林地帯のヴァルボスと草原地帯のパルトゥリー。

 その違いが露店にも表れていた。


「前の町は豚、こっちは牛……というか何か牛乳出してるお店多くないですか?」


 駅ホームには多種多様なお店があるが、その殆どで牛乳がメニューに載っている。しかも飲み物の一つとしての扱いではなく、完全に別枠でアピールされているのだ。当然朝ごはんを求める人々の目を惹き、乗客たちはまんまとそれを買って飲んでいる。


「そりゃぁ、新鮮な牛乳なんてそうそう飲めないからねぇ」


 そう言ってノーラは一番近くのお店で牛乳を注文し、その場で一息に飲み干した。

 日本ではどこでも飲む事が出来た物であるが、搾乳設備や輸送手段が限られているこの世界では新鮮な牛乳など簡単には飲めないのだ。それに気付いてタビトも一杯注文し、それに口を付ける。


「ぅわ、味が濃い……!」


 どっしりとした味わいで強い甘さが口に広がる。溶けたソフトクリームを飲んでいるかのような感覚だ、砂糖など入ってないのにしっかりと甘さを感じる。のびのびと牧場で育った牛の乳とはここまで美味しいものなのか。


「そんなに?」

「僕のいた国じゃ牛乳は何処でも買えましたけど、ここまで美味しいのは初めて飲みました。いや、本当に全然違うな……」


 カップの中の白い液体をじっくり眺め、一口飲む。日本のスーパーで売っていた牛乳も勿論美味しかったが、それとはまた方向性の違う旨さである。


「そんなに気に入ったならもう一杯行っちゃう~?」

「いや、たくさん飲んだらお腹が下りそうなので止めときます」

「え~。私はもう一杯もーらおっ」


 ホームを歩きながら近場の店に飛び込んでノーラはまた一杯、牛乳を飲んだ。

 タビトは日本人に多いと言われる乳糖不耐症では無い。単純に水分を多く取っては、朝ごはんが入らなくなると思っているのである。ただでさえ食事の質量の多さに定評のある異世界、せめて何を食べるかが決まるまでは可能な限りお腹は空かせておきたいのだ。


「むむ、朝からステーキ、いっちゃう?」


 漂ってきたのは肉を焼く良い香り。昨日の超分厚いものとは異なる朝食仕様だが、スーパーで売っていたステーキ用のお肉と同程度の大きさである。一般的ニホンジンなタビトにとっては朝に食べるには超重量級のご飯だ。


「昨日も食べましたし、今日は別のが良いですね」

「あー、それもそっか。じゃあ、なーにが良いかなーっと」


 彼の意見を受け入れたノーラ。

 より良い朝メシを求めて二人は広い広いホームを歩いていく。


 しばらく行くと、ふと一軒のお店が目に入った。


 他の露店と比べるとそれほど混んでいない。その理由は明白で、店主が怖いのだ。筋肉モリモリマッチョマンで二メートルを超える体格、顔つきは眼光が鋭く滅茶苦茶恐ろしい。見た目は人間だが側頭部から上に伸びる二本の角がある、おそらくは牛の獣人だ。


 そんな彼は、フリッフリな白のフリルエプロンを着用していた。明らかに体格や見た目と合っていない、それも相まって不気味に感じて人が寄り付かないのだろう。


 しかし。


「こーんにちはー」


 ノーラはそんな事を気にせずに突撃した、好奇心の勝利である。


「いらっしゃいませっ」

「声高っ」


 猛牛の見た目から小鳥のような声が出てきた。思わず彼女は思った事を口から出してしまう、仕方の無い事だ、驚いたのだから。失礼な発言、怒られるかとタビトが心配していると。


「ふふふ、良く言われます。見た目と合ってないぞ、って」

「うわー、すっごい違和感ー」

「ですよねー」


 どうやら店主の鉄板ネタだったようだ。

 駅ホームの朝食戦争、何かしらの特徴が無いと生き抜けないようである。


「今日はコレがオススメですよ~」

「わ、美味しそうですね」

「ってか絵が上手!」

「ありがとうございます、頑張って書いた甲斐がありました~」


 ノーラから褒められて、厳つい店主はニッコリ笑う。身体は大きいが心は穏やか、性格は可愛いもの好きでゴツイ手だが手先は器用。なんともアンバランスだがそれゆえか、牛獣人の店主は大きな小動物という矛盾した存在感を放っている。


「じゃあコレを」

「私も同じので!」

「はい、かしこまりましたっ。すぐ作るので、席に座って待っててくださいね」


 店主は嬉しそうに拳を握って胸の前でグッと気合を入れる。本人は可愛らしい仕草のつもりだろうが、傍から見ると完全に武闘家の様相だ。彼に言われた通りに二人は店舗前に設置された椅子に掛け、自分達の前の机に注文した品が来る事を待つ。


 一分も掛からずに、大きな店主は小さなそれを手にしてタビトたちの前へとやってくる。そっと静かに机に置かれた店主お勧めの品は、朝日を浴びて白が輝いていた。


「うおぉ、これはっ」

「美味しそうですね!」


 メインは牛乳から作ったアイスクリーム、そして同じく牛乳由来の生クリーム。それに果物や木の実をこれでもかとトッピングし、最後に上から蜂蜜をトロリと掛けた品。つまりはパフェである。


 デザート、と考えるのが普通だろう。しかし大きな小動物店主が作ったそれは確実に()()だ。何故なら、とにかく果物と木の実が多いのだ。店主と比較するとグラスはミニサイズだが、タビトたちから見れば巨大。そこに食べ応えのあるそれらが詰め込まれているのだから、決して食後のデザートの器に収まる代物ではないのだ。


 刺されている木のスプーンの先端は三つ又に割れている。普通のスプーンでは掬い辛い大きな果物を刺して食べられるようにしているのだ。使い捨てのそれには小さな焼き印で製作工房名と、森林の町ヴァルボスの名が並んで捺されている。こうしたちょっとしたものにも鉄路による繋がりがあるのだ。


 それはそれとして、まずは一掬い。

 生クリームと小粒な木の実を一緒に取って口へと運ぶ。


「むふ」


 先程飲んだ牛乳よりも更に強い甘さと柔らかな食感、それと逆にカリリとした木の実の塩気と香ばしさ。二つの味が重なり混ざり、思わず声が出てしまう。


 続いて赤い果物とアイスクリームを。

 果物はかなりの酸味を持っている。しかしその強さがアイスクリームの甘さと冷たさとよく合っており、生クリームの甘さが残る口内をスッキリとさせてくれた。


 蜂蜜が優しい甘さで舌を休ませて、続く一掬いを促す。


 量は多く、果物も木の実も色々な種類が詰められている。沢山入っていれば豪華に見える、といった物ではなく、ちゃんと美味しく食べられるように工夫された結果だ。必然的にその形になったというのがよく分かる味わいだ。


 スプーンが止まらない。

 それはタビトだけでなくノーラも同様だ。


 二人はあっという間にパフェを平らげてしまった。その良い食べっぷりに店主が、食後の珈琲を出してくれる。甘々になった口の中にその苦みが心地よい。


「またお越しくださいね~」


 筋骨隆々な見た目とは異なり、小さく可愛らしく手を振る店主の言葉を背に受けて、二人は列車へと戻っていった。

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