9・猫ちゃんが見つけたピンクの宝石
9・猫ちゃんが見つけたピンクの宝石
笠原先生に許可をもらって、授業中の教室から出たのは、終了時間の10分前でした。皆には見えないお友達と一緒に、教室から漏れてくる笠原先生の解説をBGMに、廊下の窓際でお空の観察です。
「貴方のせいで、ナオがおこられちゃったじゃない!」
「アンタも驚かしてたニャ」
「私はいいのよ、私は!」
窓の手摺に乗っかって、小さなミエルちゃんと大きな猫ちゃんが口喧嘩しています。
でも、後ろの青空とそこに浮いている白い雲が綺麗で、私はそっちに意識が向いていました。
あの白い雲、ソフトクリームみたい。あ、今日の帰り、スーパーで買ってから帰ろうかな。
「聞いてるの?! ナオ!」
そんな事をボーっと考えていたら、私のお鼻の頭に両手をついて、私の目の前に身を乗り出したミエルちゃんのお顔があって、驚いちゃいました。思わず声が出そうになったけれど、つぶらなピンク色の瞳がキラキラ輝いていて、声を出すより見とれちゃった。
「ミエルちゃんの瞳、本当に綺麗だね。宝石みたいにキラキラしてる」
「当たり前じゃない。私は花の妖精の中でも、すごく特別な存在なんだから」
両手を差し伸べると、ミエルちゃんは私の手の平でクルクルと踊り始めました。その背中には、透明で虹色に輝く6枚の羽根があります。それはササの葉の様な形で、左右に3枚づつ。
「ミエルちゃん、羽根があったんだね」
「これ、出したり仕舞ったり、自由に出来るのよ」
「お花の妖精さん、女の子のジュエリーボックスでクルクル回る人形みたいだニャ」
猫さんは私の手にチョコンと両手を乗せて、背中の羽根を出したり仕舞ったりしているミエルちゃんを覗き込んでいました。猫さん、宙に浮いているのね。フニフニの肉球が気持ちいい~。
「ナオちゃん、そんなにこのお花の妖精さんのおメメが気に入ったなら、小瓶に入れておけばいいニャ。そうすれば、いつでも好きな時に見れるし、このおメメは『ピンクインペリアルトパーズ』だニャ。本物の宝石ニャよ」
猫さんのお口と瞳が、細~く歪みました。そのお口が怖かったのか、ミエルちゃんはスっと私の袖口から入り込んで、一気に上がって来て、胸元からピョコンとお顔を出しました。
「ピンク… イン… トパーズ?」
ミエルちゃんの頭を人差し指でヨシヨシしながら、宝石の名前を呟いてみます。
「『ピンクインペリアルトパーズ』ニャ。価値のある宝石ニャよ。色が濃ければ濃い程、赤に近ければ近い程、価値が上がるんだニャ。黄色や褐色のトパーズを加熱するとピンク色に変わるニャが、天然でもある事はあるんだニャ。
アンタのその目、天然ニャね?」
「それがどうしたのよ! 私は特別な妖精だって言ったでしょう!」
猫さんのニマニマしたお顔と声に、ミエルちゃんは怒鳴りました。けれど、ブルブル震えています。私はそんなミエルちゃんを落ち着かせてあげようと思って、制服の上から優しく撫でていました。
「妖精の瞳の宝石なんて貴重なモノ、欲しがる人は沢山いるんだニャ」
ピンクの肉球が、私の胸元に伸びて来ました。そのスピードは焦らすようにゆっくりしていて、まるでミエルちゃんが怯えているのを楽しんでいるみたい。
「はい、そこまで」
けれど、そのフワフワの黒に近い深緑色の腕は、直ぐに大きな手に掴まれちゃいました。
「君、放課後まで消えてる? それとも、笠原先生に預けようか?」
授業が終わったみたいです。
いつの間にか私の後ろに立った冬龍君が、猫さんの腕を確りと掴んでズルズルと引き上げて抱き留めました。廊下に出て来た生徒達から、猫さんを隠しているみたいです。
「そんな怖い顔、しニャイでよ。オイラは大それた悪事は出来ニャイよ」
猫ちゃんはウニヤウニヤ言いながら、スルンと冬龍君の腕の中から擦り落ちると、クルっと一回転して音も無く床に着地しました。
「ナオちゃんに、レーシーのオジサンから伝言だニャ」
私と冬龍君の見ている前で、猫ちゃんの姿が少しづつ薄くなり始めました。
「『出汁巻き玉子』と『甘い玉子焼き』、お言葉に甘えて頂いたよ。とても美味しかった。ありがとう。
だってニャ。今度、オイラにも作ってニャ~」
声と姿が消えるのは同時でした。
「あの猫ちゃん、森のレーシーさんとお友達みたいだね」
冬龍君とお顔を見合わせると、胸元から勢いよくミエルちゃんがお顔を出しました。
「私の『出汁巻き玉子』~!!」




