60・テスト後のご褒美
60・テストの後のご褒美
テスト期間は二日間だったけれど、とっても疲れました。体力も頭もフルに使って、気分は10キロは痩せたと思います。気分では。だから、今日のランチには、甘いオヤツをプラスしました。
「美味しい~!!」
マヌカのお花の妖精のミエルちゃんは、丸くて白いお顔にサクランボみたいな唇とつぶらな桜色の瞳がのっています。私の大好きなツインテールにした蜂蜜色の巻き毛には、今日も小さな赤い色のリボン。
そんなミエルちゃんは、出汁巻き玉子を小さなお口に頬張って、幸せそうなお顔で全身を震わせました。背中の6枚の羽根がキラキラと光を振り撒きました。その横で、プリムラ君は甘い玉子焼きを、ニコニコと食べています。
プリムラ君は西洋桜草の妖精さんです。ミエルちゃんの倍ぐらいの身長で、スラッとした体格。面長で、お首もほっそりと長いから、全体的に細長い印象です。髪は濃い黄色の肩上ボブ。それと、最近発見したのは、つぶらな瞳が綺麗な紫水晶! だって、プリムラ君はすぐに泣いちゃうから、なかなか瞳が見られなかったんです。
今日のランチは温室の芝の上で、冬龍君とミエルちゃんとプリムラ君と一緒です。奈緒美ちゃんと楓ちゃんは、部活のミーティングランチに行きました。夏虎君は御用があって、最後のテストが終わった瞬間、教室を飛び出したみたいです。
「白川、ホームルーム!」
て、夏虎君の背中に叫ぶ先生の声が廊下に響いていました。
ミエルちゃんのフォークが止りません。
「この出汁巻き玉子が食べたくて食べたくて… 最近は夢にまで見てたんだから」
「最近、学校ではゆっくり会えなかったもんね」
そんなに食べたかったのだったら、金曜日に私のお部屋に来てくれた時、作ってあげればよかったな。
「私達も、テストだったのよ。成績が悪いと、大好きな研究をやらせてもらえなくなっちゃうから、必死よ」
ミエルちゃんは、自分で作って来た彩り豊かなお弁当を、フォークでパクパク食べています。お弁当もフォークもとっても小さくて可愛いです。プリムラ君はサンドウィッチです。
「妖精さんのテストって、どんな事?」
「う~ん… そうね、簡単に言ったら、ナオ達が勉強している歴史とか公民みたいな感じかしら? 私が研究しているモノは個人研究だから、テストなんてものはないけれどね」
「僕達妖精の世界にも国や法律があるんです。自分の国の事はもちろん、他の国の妖精や法律、文字も学びます。… だから先日みたいに、勝手にテリトリー外に空間のドアを繋げると怒られるんです。色々な人に」
せっかく、プリムラ君がニコニコとお弁当を食べていたんですけれど、説明してくれながらそのニコニコがどんどんドンよりとしてきました。
「まだ言ってる! もう、終わった事だし、最後は許されたんだから、良いのよ。あの爺やだって褒めてくれたんだから。
あれよ、ほら… あの…」
ミエルちゃんはプリムラ君の背中をパーン! と叩いてから、何かを思い出そうと空を見上げました。
「『終わり良ければ総て良し』」
「そうそう、それ。さすが、トウリュウね。ナオ達が助かったんだから、良いのよ。それが一番でしょう?!」
それまで静かにお弁当を食べていた冬龍君が、スパッと一言。ミエルちゃんはその一言にウンウンと頷いて、またプリムラ君の背中をパーン! と叩きました。… プリムラ君の羽根、千切れちゃったりしないのかな? ちょっと心配です。
「でもぉぉぉ…」
「あの時もだけれど、金曜日もありがとう。ミエルちゃんのおかげで、とってもいい気分転換が出来たよ。素敵な妖精さんや、かわいい狐さんにも会えたし」
また泣きそうになったプリムラ君の背中を慌てて撫でながら、ミエルちゃんとプリムラ君にお礼を言いました。
「それでね、これ、お礼です。ミエルちゃんの蜂蜜じゃないから、ミエルちゃんやプリムラ君には物足りないかもしれないんだけれど…」
言いながら、背中に置いていた鞄の中から、タッパーを出しました。中には、きつね色に焼き上がった丸いクッキーが入っています。普通サイズは冬龍君と私用で、小さいのがミエルちゃんとプリムラ君用です。
「これは、ナッツね。ナッツに含まれているミネラルや良質な油分はお肌の乾燥を防いでくれるし、髪や爪にハリや艶を与えてくれるのよね?」
クッキーを一枚摘まんだミエルちゃんは、桜色の瞳をキラン! と光らせて言うと、チラッと冬龍君を見ました。
「そうだね。それに、ターンオーバー機能を正常に保つビタミンEやビタミンBなどの栄養もあるし、善玉と悪玉コレステロールのバランスも整えてくれる効果も期待できるよ
冬龍君はその瞳を受けて、ナッツについて補足説明を始めます。
「ただ、ナッツは輸入品が多くて長期保存をするから『マイコトキシン』という人体に強い影響のあるカビが生えやすいんだ。普通のカビが食品の表面に生えるのに対して、このカビは食品の中に発生するから気づきにくいし、毒性も強いし、熱にも強くて加熱処理しても完全に分解できなくて残ってしまうんだ。マイコトキシンの中でも…」
「ストップ!」
ミエルちゃん、冬龍君の怒濤の説明にギブアップみたいです。片手を大きく広げて、冬龍君の方に突き出しました。
「… よく噛むと、加熱で死滅しないカビでも、毒性がほぼなくなるらしいよ。唾液に30秒以上さらせばいいんだって。栄養状態が良い事が大前提だけれどね」
そう言って、冬龍君はサク! とクッキーを一口。そして、言葉通りよ~くモグモグしました。
「このクッキーに使ったナッツは、お姉ちゃんが昨日の夜に生のクルミを炒ってくれたものだから、心配ないよ」
私も一枚パク! 思った以上にサクサクしていて、クルミの香ばしさも蜂蜜の香りも良く出ています。味も、私が作ったにしては、申し分ないと思うんだけれど、どうかな?
「ナオが作ってくれたモノは、心配しないわよ」
「うん、美味しそうです」
ミエルちゃんは手にしていたクッキーを、プリムラ君はタッパーから一枚とって、小さなお口を大きく開けてパクン!
「「美味しい!!」」
サクサクモグモグサクサクモグモグ… 良かった、皆のお口に合ったみたい。
「私ね、今、蜂蜜のナッツ漬けの研究をしているのよ。だから、ナッツの勉強も始めたんだけれど… まだまだ、トウリュウの域にはいけないわね」
クッキーをモグモグしながら、ちょっと悔しそうなミエルちゃん。
そっか、そう言うお勉強もするんだね。
「僕はただの知識として頭に入れているだけだから。ミエルちゃんみたいに美味しいモノを作ろうとしたら、ミエルちゃんの倍以上時間がかかると思うよ。蜂蜜に関しては、知識も実益も、ミエルちゃんの右に出る者は居ないでしょう?」
スッと、冬龍君が小さなクッキーをミエルちゃんに差し出します。
「分かってるじゃない!」
その言葉に、ミエルちゃんはニコニコしながらそのクッキーを受け取って、頬張りました。




