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59・プレゼントの簪

59・プレゼントの簪


「和桜(なお)ちゃん、今日の髪飾り可愛いよね~。どこで買ったの?」


 テスト一日目が終わりました。午前中で終わりなので、楓(かえで)ちゃんと奈緒美(なおみ)ちゃんと三人で温室の芝の上でランチをしながら、今日の教科の自己採点です。いつもは美味しいお弁当が、微妙なお味に大変身… それは楓(かえで)ちゃんも同じみたいで、ザザーっと問題用紙に目を通してポイっと横に投げて、自分の後頭部を指さしました。


「簪(かんざし)? フフ、貰っちゃった」


 今日は髪をハーフアップにしてきました。そこに挿(さ)したのは、薄桃色のお花の上にちょこんとお座りした緑色のカエルさんが付いている簪です。お花もカエルさんもガラスで出来ていて、キラキラして可愛いんです。

 私も、問題用紙を横に置いてお弁当とおしゃべりに集中することにしました。


「白川兄?それとも白川姉のお下がり? 」


 奈緒美ちゃんは問題用紙をきちんとお膝の前に置いて、水筒のお茶で喉を潤しました。


「冬龍君」


「あ、やっぱり。早めの誕プレ?」


「少し早すぎない? 一か月弱先だよね?」


 送り主は、二人の想像通りだったみたい。私が冬龍君の名前を出すと、ウンウンと頷きました。


「ん~… なにも言われてないんだよね」


 土曜日、美術館にお出かけした帰り、乱れた髪を整えてくれた時に挿してくれたみたいで… 冬龍くんったら何も言わないから、お風呂に入ろうとした時まで気が付きませんでした。気が付いてすぐに冬龍君に声をかけたんだけれど


「嫌じゃなかったら、使ってほしいな」


「あ、うん」


 ちょっと心配そうに聞かれたんです。それで、私は思わず頷いて、まだ崩していなかった髪に挿しました。


「ありがとう」


「良かった。さ、後はテスト勉強だね」


 簪を挿してお礼を言うと、冬龍君はホッとしたように微笑んで、私の髪を撫でてくれました。そして、現実に戻る魔法の言葉を残してお部屋に行っちゃったんです。そう『テスト勉強』と言う、魔法の言葉を残して。


 やり取りは、それだけでした。


 冬龍君のその一言で重いため息が出たんですけれど、丸一日は楽しくて気分転換は確りできていたので、翌日の日曜日は確りお勉強が出来ました。


「じゃぁ、誕プレは何だろう? メチャクチャ豪華な物じゃない?」


 楓ちゃんのワクワクした声に、土曜日の事を思い出していた私はハッと我に返りました。


「豪華な物? 気が引けちゃうよ~。私はこの簪で十分満足だよ?」


 土曜日の入館料もランチ代も全部、冬龍君がだしてくれたんだよね。冬龍君、美和さんがお出かけ用にってお小遣いくれたって言っていたけれど、本当かな?それもあるから、これ以上は申し訳ないよね。


「欲が無いんだから」


「で、その白川兄は? 一緒じゃないのは珍しいんじゃない?」


「テスト勉強で頭を使い過ぎて、ストレス溜まっちゃったんだって、夏虎君が。そのストレス解消相手に、剣道の互角稽古に引っ張って行かれちゃった」


 夏虎君はやる気満々でいつも通り元気だったけれど、冬龍君は無表情で引っ張って行かれてたなぁ。… 二人とも、お弁当食べたかな?


「誕生日プレゼントでも何でもいいけれど、『意味』は調べておいたら?」


 奈緒美ちゃんがそう言いながら笑ったんです。ニヤ… って、意味ありげに。

 それが喉に刺さったお魚の骨みたいに、気持ちの隅っこに引っかかっていて、お家に帰っても気になって、お勉強していても気になって、お家の中で冬龍君のお顔をみたらさらに気になって… 机に向かって教科書やノートを広げていても、全然お勉強に集中できなかったので、スマートフォンで調べちゃいました。


「『あなたを守ります』と言う意味で、男性が好きな女性に対してプロポーズや告白をする時の贈り物。… う~ん。額面通りに受け止めて良いのかな? ただ、私に似合いそうだと思って、くれたと思った方が良いのかな?」


 … 調べない方が、良かったかも。余計に気になっって、お勉強どころじゃないです。


 ハーフアップに挿していた簪を抜いて、そのカエルさんのお顔を見ます。ニコニコ笑顔のカエルさ ん… そう言えば、カエルさんが座っているお花は何のお花かな? 水の上に咲くお花と言えば… 睡蓮(すいれん)とか蓮(はす)かな?


「う~ん… 私には難しいなぁ」


 簪をキュッと握りしめて、そのままベッドに飛び込みました。仰向けで。


「難しいなぁ…」


 小さなため息と一緒に呟いて、両手で握った簪を目の前に持ち上げました。ガラスのカエルさんがキラキラ輝きながら、ニコニコと私を見ています。


「カエルは『無事カエル』。何事も無いように、無事に帰るように。て、そういう意味だと思うんだけれどな…」


 桜(おう)雨(め)お姉ちゃんが持たせてくれるお守りも、そう言う意味のカエルさんだし… だけど、最近の冬龍君、今までと違って変なところもあるし… うん、テスト終わったら、ユウさんに相談してみよう。


 そんな事をグルグル考えながら、いつの間にかグッスリ眠ってしまいました。カエルさんの簪を持ったまま。


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