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35・妖精の病気の治し方3

35・妖精の病気の治し方3


「おら、男がいつまでもミミズでビビってんじゃねぇよ」


 いつの間にか戻って来た修二(しゅうじ)伯父さんが、エプロンのポケットから大きくてゴツゴツしたカッターと、銀色のジッポライターを取り出しました。このジッポライター、紫陽花のデザインなんです。


「ひいいいいいー」


 修二伯父さんがカタカタカタカタ… とカッターの刃を出し始めると、片桐(かたぎり)先輩もカタカタ震えながら梅(うめ)吉(よし)兄さんの背中に隠れました。


 修二伯父さん、刃物が似合うなぁ~。


「ごごごごごめんなさいー! 」


「先輩、大丈夫です。病気のサボテンの処置です。

 先輩もご存じでしょう?『胴切り』作業」


 梅吉兄さんの背中にしがみついて今にも泣きだしそうな片桐先輩に、冬(とう)龍(りゅう)君もカッターナイフを受け取りながら説明しました。


「うどんこ病にカイガラムシ、黑くされ病、根腐れ… ここのサボテンで標本が作れるな。

 冬龍、うどんことカイガラは引っこ抜け。家で薬振って植え替える。黒くされは、基本処分するんだが、一応引っこ抜け。で、厳重隔離。

 おい、そこのへっピリ眼鏡、お前も手伝え」


 わぁ~、修二伯父さんのエプロンのポケット、魔法のポケットみたい! カッターナイフとジッポライターの次は、新聞紙が出て来た~。


 修二伯父さんは、ポケットから新聞紙を投げ出すと、カッターナイフをジッポライターの火でまんべんなく炙りながら、冬龍君に指示を出します。


「梅、新聞足りねぇから、学校のくれ」


「はいはい、今、お持ちしますよ~」


 冬龍君は動き出した梅吉兄さんの背中から片桐先輩を引きはがして、足元に落ちた新聞紙を渡しました。


「はい、先輩は僕のお手伝いをお願いします」


「和桜(なお)ちゃんは、俺のお手伝い頼むね~」


 そう言いながら、修二伯父さんは妖精さん達がグッタリともたれ掛かっている柱サボテンの真ん中あたりにカッターナイフを…


「しゅ、修二伯父さん!」


「おおおっと… どうした? 和桜ちゃん?」


 柱サボテンの真ん中あたりを、大きなカッターナイフの刃が突きつけられようとしました。それを止めようとして、思わず修二伯父さんの背中に抱き着くと、伯父さんはビックリしながらも優しく頭をポンポンとしてくれました。


「さ、サボテンさん、切っちゃうの? もう、そのサボテンさん、ダメ?」


 サボテンさん、切っちゃったら、妖精のエスピーナさんもブッツン! って切れちゃうの?!


「落ち着いて、和桜ちゃん」


 怖い想像をして涙が出て来た私を、冬龍君が後ろから抱きかかえるように修二伯父さんから引きはがしました。


「これから父さんがするのは、『胴切り』という剪定(せんてい)方法だよ。根腐れしているならその部分より上の先端を、病気で変色している場合は変色している部分より上の先端を、それ以上症状が広がらない様にカッターで横方向に切りとるんだよ。人間の体も、壊死したら切断するだろう? それと一緒だよ。

 胴切りは病気の時だけじゃなくて、増やしたり見栄えをよくしたい時にもやるんだよ。さっき、父さんがカッターを炙ったのは、切った所から雑菌が入るのを防ぐためなんだ」


 冬龍君が説明してくれている間、修二伯父さんは私に分かりやすいように、柱サボテンの腐っちゃっている所を指さしてくれていました。


「ここら辺から上を切ってな、1週間から2週間ぐらいしっかり乾燥させるんだよ。新聞紙なんかで包んでおいてもいいよ。

 でな、切った先端の断面から芽が生えるんだ。芽が生えたら切断面を下にし植えつける。根腐れしている場合はな、土の中に腐敗菌が発生している場合があるから、必ず新しい土を使うんだ」


 修二伯父さんは、手振り身振りを加えて教えてくれました。


「サボテンさん、元気になる?」


「なるなる! 俺が元気にしてやるからな」


 ニカッて笑って、大きなカッターナイフを構える修二伯父さんは、やっぱり普通のオジサンには見えないです。


「和桜ちゃんは、新しい温室のアイディアをだしていてよ。芝生で」


 冬龍君はそう言いながら、サボテンさんの根元でぐったりとしているエスピーナさんと、レドンドさんをそっと手に乗せて、私の前まで運んできてくれました。私がそっと両手を差し出すと、冬龍君は優しく私の両手の上に2人を移してくれました。


「… そう言う事か。 和桜ちゃん、なるべく優しく丁寧にするからな」


「え? 何々? 何かあるんですか?」


 修二伯父さんも不思議な体験をしたことがあるから、こんな時は何も言わなくても何となく分かってくれるんです。今なら、お家にはカッパの庄(しょう)左(ざ)エ門(えもん)君もいるしね。反面、片桐先輩はサボテンさんと私達を忙しなく見ていました。


「修二伯父さん、よろしくお願いします」


 干物のように干からびたままのエスピーナさんとレドンドさんを手に乗せたまま、そっとお辞儀をして、私は芝生に向かいました。


「ナオちゃん、大丈夫だよね?」


「何言っているのよ、大丈夫に決まっているでしょう! すぐに元気になるわよ」


 そんな私の右肩に、ミエルちゃんとプリムラ君が座りました。


「うん、修二伯父さんを冬龍君が大丈夫って言っているから、大丈夫だよ」


 でも、サボテンさんを切るのは、ちょっと怖いなぁ… 目の前の、両手の上に乗っているエスピーナさんとレドンドさんがブチン!! て、真っ二つに切られちゃうのを想像しちゃって… 冬龍君と修二伯父さんの腕は信用しているけれど、やっぱり怖いなぁ…。



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