34・妖精の病気の治し方2
34・妖精の病気の治し方2
冬龍君が私に「ちょっと待っいて」と言って、修二伯父さんを促して、サボテンさん達の土をいじり始めました。
「父さん、多分土から駄目だと思うんだ」
「どれどれ〜」
修二伯父さんはエプロンのポケットから軍手を二組取り出して、一つを冬龍君に渡しました。二人は右手だけに使い込まれた軍手をはめて、大きな体を縮めて、左手で土を触ったり匂いを嗅いだりして、右手でサボテンさんに触れたりと、忙しそうです。
「治してあげられるかな?」
「治るといいね。
片桐君、そこじゃ見にくいだろう? こっちにおいで」
冬龍君の代わりに私の横に立った梅吉兄さんは、温室の入り口を振り返って手招きをしました。見てみると、ドアに隠れるようにして、こちらの様子を伺っている片桐先輩がいました。トレードマークの真っ黒で艶々したマッシュヘアーの一部と、真ん丸眼鏡の片方が見えます。
「でも、先生…」
「警戒しなくても大丈夫。怖い顔しているけど、良い子には噛みつかないから。あの人は白川のお父さんで、俺の叔父さんだから身元は確かだよ。
花屋さんだから、サボテンを看に来てもらったんだ」
片桐先輩、意外と人見知りさんなんですね。
「サボテン…」
「病気みたいなんです」
私が言うと、片桐先輩は慌てて冬龍君の横に駆け寄りました。
「サボテンの病気、かなり悪いですか?」
「まず、土がサボテンに合ってねえ。ここの土は『粘土質』だ。雨が降るとグチャグチャ、乾くとカチカチになるから、通気性や排水性が悪い」
修二伯父さんが土をバンバン! と力強く叩くと、微かに土埃が上がりました。
「この土だと、殆どの植物の根は健康的に育つことが難しいんだ。まぁ、粘土質の土が植物全部にダメってことはないんだが、サボテンには合わねぇな」
そこまで言って、修二伯父さんは歩き出しました。少し歩いては、花壇の土を触ったり臭いを嗅いだりしています。
「サボテンは通気性と排水性がよくて、ほどよい保水性と肥料を保持する力がある土を好むから、使うなら土の粒が細かくて大きさが均等なのがベスト。ようは、砂漠の砂を想像するのが簡単かな。あと、和桜ちゃんが言っていた「虫がいない」っていうのも、粘土質の土には有機質が少ないからなんだ。
僕たちがよく見るミミズには2種類あって、畑でよく見かけるのは、体長10センチほどのものが多いフトミミズ科。地中に穴を掘って巣穴を作って生活しているから、土の表層にある有機物や有機物を含んだ土を食べて、栄養に富んだフンを出しながら地中を移動し続けるんだ。そのおかげで地中が耕されて、通気性や排水性が高まって肥沃な土壌が作られる。
もう1種類はシマミミズ。体長は5〜10センチほどのものが多くて、フトミミズ科よりもやや小型で、体にシマ模様があるのが特徴だね。このミミズは土の中よりも堆肥の中やその周囲、有機物の多い湿った場所に生息していることが多くて、フトミミズみたいに深くに潜って生活はしないんだ。食べるものも、フトミミズがあまり食べない生ゴミや腐敗している有機物も好んで食べる。シマミミズは・・・」
「長えよ!」
冬龍君の演説とも言える説明に、少し放れ所から大きな声で、修二伯父さんが突っ込みました。
「つまり、有機質がないと食べ物がないから、ミミズが住めないんだよ」
あ、説明の邪魔されて、ちょっと不服そう。
「白川兄君は、ミミズ博士か何かなのかい?」
片桐先輩は、冬龍君の説明に驚いています。
あれ? 少し前に、似たようなことをミエルちゃんに言われた気がするのは、気のせいかな?
「昔から、少しでも興味を持ったモノは、辞典で調べていたんですよ」
冬龍君のお家には色んな種類の図鑑や百科事典があって、今でも私達は目を通しているんです。でも、やっぱり、植物や昆虫の図鑑を見るのが多いかな?
「ミミズに、興味を持ったのかい? どうして?」
「おままごとで、ミミズのスパゲティを出されて、弟が本当に食べようとしたので、食べてもいいのかと思って…」
「え…」
片桐先輩、冬龍君の思い出話に絶句です。
「ミミズのスパゲティや、丸めたダンゴムシのご飯は生きが良いから、逃げるんです。
さすがに、ハサミムシやヤモリやアリは、逃げ足が速いから食材の代用には向きませんでしたよ」
そうそう、そうだったよね。おままごとのお皿、あまり深いモノを使わなかったから、ニョロニョロカサカサ逃げて行っちゃって、大変だったよね。
「セミの抜け殻は逃げないから、唐揚げの代わりにピッタリだったよね」
あのアイディアは、我ながら良かったと今でも思う! でも、夏限定なんだよね。
「何なんですか、そのおままごと…」
「ハハハハ… さすがの俺も、初めてその現場に遭遇した時は、真面目に引いたよ。
一緒に遊んでいる飼い犬は、ワラワラ逃げていくミミズやダンゴムシを追いかけて銜えて元に戻そうとするし… 遊んでいる当人達は、手とか膝に虫が落ちても全然動じないからさ…」
梅吉兄さん、お顔の色があまりすぐれないし、何だか遠い目をしているけれど、お疲れかな?
「普通、女の子は虫を嫌がるんじゃないんですか? 花弁をすり潰した色水とか、草や葉っぱとか、松ぼっくりやドングリみたいな木の実を使うんじゃないんですか?」
片桐先輩も、あまりお顔の色が優れないですね。しかも、私じゃなくて梅吉兄さんに聞いているし。
「使っていたよ~。使える物は、何でも使っていたよ。だから、虫刺されや植物でかぶれるんじゃないかって心配になってね。皆で図鑑とかで調べて、危険なものは遊びに使わないって約束させたんだよ」
そうなんです。梅吉兄さんの言う通り、冬龍君と夏虎君と私は、毎日遊ぶ前に身近な虫さんや植物がどういうモノか調べていたんです。調べていないモノは、見つけても触っちゃダメだったので、毎日少しづつ調べて、少しづつ触れる虫さんや植物が増えたんです。
「それでも、虫に噛まれたり刺されたり、植物の汁だかぶれたりしていたけれどね、夏虎が」
梅吉兄さんの大きな溜息に、片桐先輩は納得した様で大きく頷きました。
夏虎君、冬龍君や私が止めても、何でも触って確かめちゃうんですもん。いつからだったっけ? 冬龍君が洗い流すように水のペットボトルと、怪我をした時用の消毒薬を持ち歩くようになったのは。でも、そのおかげで、四季の植物や昆虫の事に詳しくなれたかな。




