100・オルゴールと芝の妖精さん
100・オルゴールと芝の妖精さん
『あなたのことが心から好きです』
男性が女性にオルゴールをプレゼントする時、こんな思いが含まれているのよ。と、ユウさんが教えてくれました。
16歳のお誕生日に、冬龍君がプレゼントしてくれたのは、二匹のカエルさんが寄り添った蓄音機のオルゴール。ユウさんお手性のサンドウィッチを食べながら、じぃ~っとそのオルゴールを見つめちゃいます。横には、気持ち良さそうに寝続けるプリムラ君。
「冬龍君、ちゃんと気持ちを言葉にして、和桜ちゃんに伝えたんでしょ?」
ユウさんは食後のデザートにと、ピクニックバスケットからクッキーを出してくれました。シンプルなバタークッキーと、ナッツたっぷりのクッキーです。
「冬龍君、今までも伝えてくれていたんだよね。私が鈍すぎただけで… それが分かったら、申し訳ないなぁ~って」
珈琲を啜りながら、今までの事を思い出して、反省中…
「あら、今までは近すぎて見えなかったんでしょう? トウリュウ、ナオにベッタリとまではいかないけれど、過保護よね」
ミエルちゃんはティースプーンで珈琲を啜ります。
「ミエルちゃんの言う通りね。いいじゃない、今回、ハッキリ分かったのだから。で、お返事したの?」
お返事… 実は、していないんです。
「嫌いじゃないんでしょう?」
ユウさんに答える代わりに、ナッツのクッキーを頬張るとミエルちゃんもナッツのクッキーに手をかけました。そのままだと大きすぎるからかな?ミエルちゃんは正拳突き一発で、見事に四等分に割りました。そして、一番小さく割れたクッキーを食べ始めます。
「嫌いなわけないよぉ。… でも、何てお返事していいのか分からなくって。自分から『ちゃんと言ってくれないと』なんてお願いしたのにね。自分が情けないよぉ」
冬龍君に食べられかけた傷より、心の方がチクチクしているんだよね。
鎖骨を制服の上からそっと触ると、ユウさんが苦笑いして言いました。
「大丈夫よ。今までだって我慢していたんだから、和桜ちゃんの気持ちがスッキリするまで待てるわよ」
オルゴールが止りました。ユウさんがそっとネジを巻くと、ユウさんの手の上で再び音色が流れます。
「気持ちがスッキリするまで、こうしてこのオルゴールを聞くといいわ。もちろん、気持ちがスッキリした後も聞いて良いのよ。持ち歩くにはちょうどいいサイズじゃない」
ユウさんからオルゴールを受け取って、ジ~っと見つめます。どこかがクルクル回るわけでもなく、寄り添う二匹のカエルさんが踊るわけでもないけれど、何だか気持ちがホッコリするデザインで飽きが来ないんです。
そのオルゴールの向こう側、プリムラ君が寝ている辺りにヒョコヒョコと動く影が見えました。オルゴールをスッと下げてよく見ると、寝ているプリムラ君の周りを、クルクル踊っている子達が居ます。全身緑色で、お洋服は腰布一枚。緑の髪の長さは短かったり長かったりですけれど、統一しているのはツンツンと真上に立っていること。
「オルゴールに誘われたのかしら?」
その子達に、ユウさんも気が付いたみたいです。「クッキー、食べるかしら?」と、細かく割り始めました。
「あら、芝の妖精よ。芝は元気なのに、あの子達の姿は最近見かけなかったから、どうしたのかと思っていたのよね」
ミエルちゃんがナッツをポリポリ食べながら教えてくれました。
ユウさんは割ったクッキーをオイルペーパーの上に置いて、そっと芝の妖精の前に差し出しました。ピタっ! と、踊るのを止めてしまった妖精さん達。差し出した手を引くことも出来ないで、つられて固まっちゃったユウさん。
「久しぶり~。この人間たちは私のお友達だから、大丈夫よ。
これはクッキー。美味しいから食べてみて」
そんな妖精さんとユウさんの間に、ミエルちゃんが飛びこんでくれました。小さくしてもらったクッキーを、それぞれの手に置くと、ミエルちゃんもクッキーを手に取ってパックン! と食べて見せました。
「ちゅみみみ?」
「ちーみ」
「ちゅみちみ」
あ、何か会話しているけれど… ミエルちゃん達みたいに、私達とは同じ言葉じゃないんだ。
「食べる相談かしら?」
「クッキー、見ているから、そうかも」
ユウさんと私は、なぜかボソボソと小声になっちゃいました。
「こうよ、こう!」
ミエルちゃんがもう一口、パクン!! すると、ミエルちゃんをマネして、芝の妖精さん達が大きくお口を開けてパックン!
「「「ちー!!」」」
芝の妖精さん達は、つぶらな緑色の瞳を輝かせて短く叫びました。その表情から察するに、気に入ってくれたかな?
「まだあるわよ」
ユウさんはニコニコしながら、追加でクッキーを割ってあげていました。
「「ちみちみ」」
「ちゅみー」
ポリポリ食べながら、会話が盛り上がっているみたいです。
「クッキーだけじゃ喉が渇くでしょう? 珈琲もどうぞ」
ユウさんがティースプーンに珈琲をすくってあげると、一瞬だけ妖精さん達でお顔を見合わせました。そして、一気に啜り始めました。
「あら、良い飲みっぷり」
ティースプーンには一気に空っぽ。
「ちゅみちゅみちゅみ」
「お代わりかしら?」
ユウさんがお代わりの珈琲をティースプーンですくうと、妖精さん達は待ってました! と言わんばかりに啜り出しました。
「… お腹、空いていたのかしら?」
その勢いの良さに、ユウさんはちょっとビックリです。
芝のお手入れは片桐先輩がやっていたから、栄養満点なはずなんだけれどな?
「ちゅみちゅみ」
「ん? ああ、オルゴールね」
芝の妖精さんが一人、ミエルちゃんに何かを言いました。
「ナオ、この子達、オルゴールを鳴らして欲しいんだって」
オルゴールの音色、妖精さん達も気に入ってくれたんだ。
私は嬉しくなって、オルゴールのネジを回しました。
「今まではね、あのサボテンコンビがギターを鳴らして歌ってくれていたから楽しかったんだって。でも、それが無くなっちゃったから、すごく寂しかったらしいわ」
ミエルちゃんが教えてくれている後ろで、妖精さん達はクッキーを食べながら踊っています。
なるほど。芝の妖精さん達は、音楽が大好きなんだ。そっか… そうだ!
良い事思いついちゃった。




