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【書籍化】悪童王子と捨て猫~ワケあって、王子の推薦で執行官やってます~  作者: 林檎


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97/106

97(番外編)

 

 あ、セシアさんだ。

 ロイはそう思った。


 レインの起こした事件の余波で、経理監査部二課は一時的に休業を余儀なくされていた。課員達は出向という形で元いた職場に配属され、新卒採用時から二課に所属していたロイは、魔法の才能を買われて魔法研究室に出向することとなった。


 禁書庫の魔法書も読み放題だし、昼夜を無視して魔法の研究に没頭出来るこの職場は、ロイにとって天国だった。

 それでも勿論、戻れるのならば二課に戻りたかったけれど。情勢が落ち着くまでしばしの間、と言われていてもどれぐらいの期間なのかが分からない為エイダなどは不安に思っているようだ。


 そして、王子の婚約者であるセシアは今でもロイに魔法の師事を受けに研究所に通って来ている。

 元々魔法研究室は、魔法にしか興味のないオタクの集まりなのでセシアの制御能力には興味があるようだけど、彼女の身分にはちっとも興味がない。

 セシアだってしれっと文官の制服を着て現れたりするものだから、随分と景色に溶け込んでいた。本人曰く、クビになっていないのだから私もまだ二課所属です、とのこと。王子妃になっても出向しているとでも言うのだろうか?


 研究員に開発中の魔導具を見せてもらって、それに夢中になっているセシアは二課にいた頃となんら変わらないように見える。ただ、ロイにとって彼女は元々造形の美しい人だったが、今は人の手によって磨き抜かれ輝くばかりに美しい。

「これは人の目を惹くんだろうなぁ」

 そしてセシアさん、二課にいた頃は本当に最低限の身だしなみしか整えてなかったんだなぁ、とロイは思い知らされる。間違いなく同じ人なのに、まるで彩りが変わったかのようにぐっと華やかになったのだ。


「こんにちは、ロイ」

 研究員との話を終え、セシアがロイのデスクまでやってきた。

「こんにちはセシアさん」

 彼女はロイのデスクに広げられた古い魔法陣の書かれた紙を見て、眉を上げる。

「忙しい?私の我儘で指導してもらってるんだから、今度でもいいのよ」

 らしくもなく遠慮してみせるものだから、ロイはつい笑った。確かに、もう二課にいた頃のようにマーカスに命じられてセシアの魔法習得を見ているわけではないが、忙しい王子妃教育の中でなんとか時間を作って来てくれている同僚を追い返す程ロイは非情ではない。

「大丈夫ですよ。今日は、この前の浮遊魔法の続きをしましょうか」

「開発中の理論ね」

 嬉しそうに拳を握る姿は勇ましい。案外彼女は肉体派で、特訓とか集中訓練とかそういった所謂修行が好きなタイプだった。伸び代がある為、教えた分だけ吸収するので師としても教え甲斐がある。

「王子妃になるんだから、それ以上強くなる必要ないんじゃないですか?」

 魔法理論をもう一度確認しているセシアに、ついロイは声を掛けてしまう。二課にいた頃と違い、セシアが現場に駆け付ける必要はない。

 自衛という意味では彼女はもう立派に卓越していて、その辺の男では敵わないだろう。

「いやー……まだまだ魔法はロイの足元にも及ばないし、体術ではキース先輩に、剣術ではフェリクスにさえ敵わないもの」

 セシアは恥ずかしそうに頭を掻く。傍にゴリラしかいなかった弊害で、彼女は自己評価が低い。

「それに」

「はい?」

「それに、私達の王子様は無茶しがちだから、いざって時殴ってでも止められるようになっておかなくっちゃね!」

 セシアは晴れやかに笑い、物騒なことを言う。その笑顔があまりに眩しくて、嬉しそうなものだからロイはそれ以上何も言えなくなってしまった。


 と、

「愛する男を殴る話を、何故そんなに楽しそうに言う」

 ひょい、とセシアの背後から現れたマーカスが、胡乱な眼差しで彼女を睨んだ。

「殿下」

「マーカス。……胸に手を当ててよーく考えてみて」

 愛する、と言われて、セシアは顔を赤くしつつ突然現れた彼を睨み返す。

 慌てて作業の手を止めて礼を取る研究員達に、

「邪魔して悪いな。皆、気にせず続けてくれ」

 と言いつつマーカスは素直に自分の胸に手を当てる。ちなみにもう片方の手はセシアの腰をごく自然に抱き寄せていた。

「……うん、俺の胸も物騒な話をしてるなぁ、と言っている」

「当てにならないわね……」

 舌打ちをしたそうにセシアは唇を歪めたが、マーカスに視線で咎められて我慢する。二人はそのまま、ロイの書いた魔法理論の書類を顔を突き合わせて検証し始めてしまう。

「ここの構築が上手くいかないんだけど、ロイは慣れだって言うの」

「ああ……魔法の基礎理論の応用だろう?」

「でもその基礎だと、浮遊じゃなく跳ねるにならないかしら」

 セシアが眉を顰めると、マーカスは彼女の眉間を指でつついてそれを諫める。

「浮力の維持が書かれていない、と?でもそれは魔力を溜める時と同じ要領だから、通常理論書には書かない」

「ええー……そうか、理論書の普通も覚えなきゃ……」

「いや、理論構築する者以外は覚える必要はないと思うが……」

 更に学習範囲を広げようとするセシアに、マーカスもロイも呆れてしまう。彼女はどこまで目指せば気が済むのだろうか?

 それにしても、第二王子夫妻(予定)がぴったりとくっついているものの、まるで色気がない。これではまるで、子供が膝を付き併せていて遊びの計画を練っている光景かのようだ。

「あ、待って。これって逆に浮力の維持を抜いて放てば、相手を吹っ飛ばせるよね?」

「お前は何故いつも相手を吹っ飛ばす前提で考えてるんだ?……でもそれだと予め仕掛けておけるから罠としても使えるか……」

「それいい!採用!」

 マーカスの提案に、セシアは嬉々として賛成する。二人は別の紙を取り出して、何やら応用の理論をあーだこーだと書き連ね始めた。

「痕跡が残らないのがいいな」

「でも確実に相手を吹っ飛ばす為にはこのポイントに寸分違わず追い込む必要が出てくるよね……ねぇロイ!これどう思う?」

 ぱっ、と顔を上げた二人に、ロイはにっこりと微笑んだ。


「……僕もセシアさんと殿下のこと、咄嗟に魔法で捕縛出来るぐらいにはなっておきますね」

「ロイくんが手厳しい……」


 これ、二人が結婚したらストッパーになる人がいなくなるんじゃないかなぁ、とロイは不安になったが、魔法理論の話は楽しかったので一時的に忘れることにした。




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