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【書籍化】悪童王子と捨て猫~ワケあって、王子の推薦で執行官やってます~  作者: 林檎


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「じゃあ、名前で呼んでね。これからは侍女と男爵じゃなく友達ってことで」

 セシアが強引に取り付けると、ロザリーは渋々頷いた。


 メイヴィスに友達認定をもらって以来セシアはその点に関して厚かましくなっていて、過去の蟠りを解消した現在はロザリーとも友達になりたいと虎視眈々と狙っていたのだ。

 しかし侍女として仕えてくれている時はそれを理由に断られそうだったので、今夜は絶好のチャンスだったのだ。

 強引ながらも上手くいって、セシアはご満悦だ。

「分かったわよ……でも友達ってことは、もう何も遠慮しないからね」

「え。遠慮してたの?」

 サッとセシアは顔色を変え、今度はロザリーがご満悦な表情を浮かべる。

「それはもう」

「どうしよう、少し早まったかも……」

「あなたねぇ……」

 ジロリとロザリーはセシアを睨み、子爵令息とマーカスはそれを見て笑った。


「え、今夜は大丈夫でしょう?」

 セシアは慌てて自分の服装を確認する。彼女は今夜、ロザリーの自慢になるような存在でいたかったのだ。

 その為にメイヴィスやメイド達にアドバイスを聞いて、完璧に仕上げてきたつもりだった。

 ロザリーはわざとジロジロとセシアを見て、難しい顔をする。いつもならばそのロザリー自身に最終確認をしてもらっていたセシアは不安そうな表情を見せた。

 が、

「まぁ、悪くないんじゃない」

 及第点をもらって、ホッと息をつく。すると、ロザリーはセシアの肩をコツン、とつついた。

「いちいち不安な顔をしないの。この場で一番地位の高い女性はあなたなのよ。微笑みがあなたを守り、この場においてあなたが白だと言えば黒も白になるのよ」

「……そんなこと」

「あなたは貴族のそういった面を下らないものだと思ってる。だけど、覚えておいて。それはあなたの武器のひとつ。魔法や体術と一緒よ、使い方を間違えなければ有効な武器になるの」

 ロザリーの助言は、セシアの深いところにストンと落ちてきた。



 主役の二人が別の客のところに挨拶に向かい、セシアとマーカスはせっかくなのでダンスを踊るべくホールに出る。今回の夜会続きでめきめき上達した彼女は今や優雅にステップを踏み華麗にターンして見せた。

「素晴らしい上達ぶりだな」

「殿下の脚を踏みまくった甲斐がありますわ」

 セシアがニヤッと笑うと、マーカスも笑い返す。ほとんど脚を踏まれたことはないが、確かにダンス初心者にありがちな失敗はセシアも当然した。

「俺達の結婚祝いの夜会ではファーストダンスを踊ることになるが、これなら何も心配もなさそうだな」

「まだ知りたくなかったです、その情報……!」

 サァッとセシアは青褪める。貴族は上げて落とすのが基本姿勢なのだろうか?平民育ちの彼女にはまだまだ学ぶことが多そうだ。


 そんな風に終始和やかに時間は過ぎ、月の位置がかなり移動した頃に会場にレインが現れた。きちんと正装した彼は様になっていて、あちこちから女性の視線が集まっている。

「殿下、遅くなって申し訳ありません」

「レイン、悪いな」

「いえ……」

 レインはちらりとセシアを見て、すぐに視線を逸らす。先日のやり取りを思い出して、彼女も気まずい思いで視線を下げた。二人のそんな様子を見ながらもマーカスは気にせず話を進める。

「何か新しく分かったことはあるか?」

「それが……殿下、少しこちらに来ていただけますか」

 レインに誘導され、予めロザリーに用意してもらっていた小部屋の方にマーカスは脚を進める。セシアもついて行こうとしたが、レインに視線で制された。


 鼻白んだものの、セシアには聞かせたくない内容なのかもしれない、と彼女は気を取り直して微笑んで見せた。

「こちらでお待ちしてます、殿下」

 彼女がそう言うと、マーカスはレインとセシアを見遣って頷いた。そのまま二人が小部屋に入るのを見送る。


 セシアはそのまま壁際に寄って、会場を見渡す。

 顔見知りもいないし、先程ある程度の人にはマーカスのついでに挨拶をされたので今更声を掛けに行くべき人もいない。完全に手持ち無沙汰でセシアは何ともなしに周囲を眺める事しかできなかった。

 給仕からドリンクのグラスをもらい、それをちびちびと飲みながら時間を潰す。

 マーカスとレインはまだ帰って来ないし、フェリクスとエイダに声かけるわけにもいかない。当然この場を勝手に動くわけにも行かず、ぽっかりと空いた時間はまるで世界から隔絶されたかのような心地がした。

 ただぼんやりとダンスを見ていると、ふと隣に人が立った。


 振り向いて、セシアはぎょっとする。

 そこにいたのは、まるで鏡写しのように彼女によく似た女性だったのだ。


 少し意識が逸れていた所為で驚いたが、これは超常現象でも何でもない、この女性をセシアはよく知っていた。

「……セリーヌ」

「久しぶりね、セシア。いえ、今は男爵様とお呼びするべきなのかしら?」


 セシアの従姉であるディアーヌ子爵令嬢、セリーヌ・ディアーヌはひどく醜悪な笑みを浮かべてそう言った。



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