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手を握り合って、はにかみ合う二人になんとも言えない和やかな雰囲気が流れる。
しかし、課長室から出てきたレインがその空気を一蹴した。
「戻ったのか、セシア」
「レイン先輩!」
ぱっ、とセシアが顔を上げると、メイヴィスは一度強くセシアの手を勇気づけるように握ってから放す。セシアに向かって頷くと、最初に待機していたソファの方へと戻って行った。
メイヴィスに感謝しつつ、セシアはレインの前に立つ。
「……申し訳ありませんでした」
「お前はあの場で出来る限りのことをした。よく無事に戻ってきたな、よかった」
近頃は厳しい顔をすることの多かったレインが、セシアの無事な姿をみて表情を和らげる。彼にも心配してもらっていたことが分かって、セシアはまた泣きそうだった。
「はい……!」
「だが、戻ってきた早々で悪いが仕事だ」
レインの視線の先には課長室の椅子に拘束されているアニタがいて、セシアは息を飲む。
「あんな扱いを……!」
「お前が元に戻したポットは、メイヴィス殿下がここに持ち込んだ時点で証拠能力を失った。アニタを正規に拘束する理由が警備部にない以上我々がやるしかない」
仮にポットがメイヴィス以外の者の手に渡っていれば、内通者がアニタだということが信じてもらえたかどうか怪しい。その後セシアが城に戻って証言しても同じだっただろう。
少なくとも現在、マーカスと二課、メイヴィスは内通者の正体を確信している。状況としては一番マシな状況だ。
段階的に少しずつ謎は解けていてジュリエットを追い詰めている筈なのに、その状況状況では一番マシな手札しか取れていない。敗北を喫してはいないが、先手は常にジュリエットにある。
嫌な予感がする。
今まで常に先手を取っていたジュリエットが、セシアにああもあからさまに内通者の存在を知らしめておいて何もせずに大人しくしているだろうか?
「……先輩、今ジュリエットってどうしてるんですか?」
「お前に襲われた恐怖で、という口実で部屋に引き籠っている筈だが」
レインはそう返すと、ハッとしたように顔を上げる。
「まさか」
「シナリオを書いているのはジュリエットです。彼女がこの展開を想像していないとは思えない」
セシアの断定的な言葉に、レインは二課の面々へと向き直った。その間に彼女は課長室に入る。
「キース、ジュリエット王女の在室確認を!必ず彼女の顔を知る者に目視で行わせろ!」
「了解」
聞いてすぐにキースが部屋を出ていく。その背を見送ることなく、レインは続ける。
「ロイ!マーカス殿下に伝令を飛ばせ、すぐにこちらに戻られるようにと」
「はいっ!」
ロイもすぐさま窓辺に駆け寄って、魔法による伝令を構築する。技量に優れた彼の伝令の精度はセシアよりもずっと上だが、やはり外気がある方がより早くより正確に飛ばせるのだ。
一方課長室に入ったセシアは、アニタと対面していた。
「アニタさん……」
「……無事だったのね、セシア」
微笑む顔は、今までと何も変わらない。セシアは苦しくなるのを耐えて、彼女の前の椅子に座った。
「ジュリエットはどこにいるの」
「貴賓室ではなくて?一国の王女ですもの」
まるで言っている意味が分からない、とばかりにおっとりと言われて、セシアは首を横に振る。
ここまでジュリエットが先手を取っていたのだ、今もそうだという前提で考えなくては負けてしまう。
「いいえ。あなたが焦ることなくここに平然といるのがその証拠。あなたが拘束され、ジュリエットは知らずに部屋にいる、と皆に思わせる為の。…………あなたは囮となって、捨て駒になろうとしてる」
セシアがそう断言すると、アニタは笑みを深めた。それに確信を得て、セシアは話を進める。
「何故あなた程の人が、ジュリエットにそこまで献身を捧げるの?彼女は、客観的に見ても善人ではないわ、犯罪組織の黒幕としても主人としても」
窓の外に視線を遣って、アニタは肩を竦めた。少し芝居がかった仕草に、セシアは表情に出さないように気をつけながら警戒を強める。
陽の高くなり始めた窓の外、時間を気にしているのだ。
「この国はとても自由ね」
「え……?」
「あなたは孤児だけれど、美人だし魔法も使える。そこまで苦労してきていないでしょう?」
そう言われてもセシアには判断に困る。
確かに両親が存命の頃は貧しくとも幸福だったし、両親を亡くしてからディアーヌ家預かりになった時も食事を与えられない時はあったが、寝床に屋根がなかった時はない。これの境遇が一般的に恵まれているのかいないのか、セシアには判断がつかなかった。
しかしアニタはセシアの公式の記録しか知らない所為か、ディアーヌ家で普通の使用人として遇されていたと思い込んでいたのだ。二人の認識には齟齬があり、セシアは十分に苦労をしてきたといえる境遇だったがそれをここで指摘する第三者はいない。
「話を引き延ばそうとしないで。ジュリエットはどこにいるの」
「……そしてあなたは賢くて勇敢ね。マーカス殿下が気に入って、ジュリエット様が警戒するのが分かるわ」
「話を逸らさないで。時間稼ぎもね」
「……この国は、本当に自由でいい国だわ」
繰り返し言われて、セシアは顔を顰める。
「私は、エメロードのある伯爵がグウィルト滞在時に買った娼婦との間に出来た子なの」
時間稼ぎだ、耳を貸すな、とセシアの頭の中で警鐘が鳴るが、あれほど疑問だった、アニタが何故こんなことをしているのか?という疑問に答えが得られるのだと思うと止めることを躊躇われた。




