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 後日。

「セシア」

 フェリクスに廊下にちょいちょいと呼び出されて、彼女は怪訝な顔をしつつノコノコ近づいた。

「何?」

「あのな……」

 言い難そうなフェリクスの様子に、以前、生意気だ!と指を突きつけられたことを思いだしてセシアは心の中でファイティングポーズを取る。

 既に(わだかま)りは無くなってはいるが、新たな火種がないとも限らない。


「あの、麻薬組織の男からお前を助けた美女のことなんだが……」


 ん?


「びじょ」

「そう、あの赤毛に翡翠の瞳の、たおやかな美女。彼女と親し気だったけど、お前知り合いなのか?」

 フェリクスがやや頬を赤くしてそう言う。

 今彼が挙げた特徴にばっちり当てはまる人物が近くにいるのだが、性別の違いは分厚い目くらましになっているらしい。

 ちなみにマーカスとマリアは顔立ちも兄妹程度には似ているのだが、マリアとメイヴィスではあまり似ているとはセシアは感じないので、そこも目くらましの一助を担ってはいるかもしれない。

 今回に限って言えば、フェリクスはそのマリアの顔を明るい場所で見ていない、ということも幸いだった。

 それにしても。


「びじょ…………」

 セシアは久しぶりの衝撃に、まだ回復出来ずにいた。彼女にとって、マーカスとマリアが別人なのはこういった状態も関係している。

 まさか恋した男が、性別・女の親友だとは認めるのはまだ勇気がいるのだ。しかもノリノリの美女。なんなら美容に関しては明らかにセシアよりも上級者だ。その必要があるのかどうかは、怖くでまだ聞けずにいる。

 クリスにはマーカスの女装は趣味でやっているわけではない、筈、とフォローしてはいるものの、ノリノリの部分は趣味にしか見えない。ちょっと怖い。知られたら、全国民が泣く。セシアも泣きたいぐらいだ。


 普段のマーカスは、悪童めいたところはあるものの非の打ちどころのない上司であり、完璧な王子様でもあるので、余計にセシアの中でマーカスとマリアは分けて考えるのが癖になっていた。

「……びじょ」

「何だよ、その態度」

 フェリクスが不思議そうに首を傾げる。


「……友達、だけど……」

「そっか!今度紹介してくれないか?あの時どさくさで自己紹介も出来なかったんだ、向こうは俺の名前を知ってたみたいだけど……殿下の部下なんだって?」

「…………殿下から紹介されてないんだったら、私からはナントモ……」

 背中に流れる脂汗がひどい。セシアはカチコチになった表情と滑りの悪い口でなんとか返事をした。彼女の返事に、フェリクスは残念そうに眉を下げる。本当に、良くも悪くも素直な男だ。


「そうなのか……確かに、彼女を今まで見かけたことはなかったし、普段は隠密業務とか別の部署にいるのかもしれないな……」

 今朝の朝礼であなたの前にいました、とも言えず、セシアは神妙な顔をしてYESともNOとも言わないことにした。これは、マーカスが説明すべきことであって、セシアが言うべきことではないだろう。たぶん。きっと。

「もっと腕を磨いて、殿下に認められるぐらいの力を付けたら紹介してもらえるだろうか……広い意味では同僚なわけだし」

「そ、そうね」


 狭い範囲でも同僚だ。なんなら直属の上司だ。

 フェリクスが、何故マリアを紹介して欲しがっているのかは、セシアは追及しないことにした。後で真相を知った時に少しでもフェリクスの傷を浅くする為だ。言わなければ、ないのも同じ。大丈夫だ、セシアは何も勘づいてなどいない。いないったらいない。


「お互い、頑張ろうな!」

「ソウネ……」

 何にも気づいていないフリをして、微笑む以外にセシアに何が出来たというのだろう。



 あの悪童!ちゃんと部下に説明ぐらいしておけ!と彼女はせめて内心でマーカスを罵った。




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