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 ドゴンッ!!と大きな音がしてセシアを中心に壁は爆発し、瓦礫を飛ばした。


「ぐわっ!?」

「ぎゃっ!!?」

 男達はそれぞれ、構える暇もなく、その瓦礫に当たって次々倒されていく。


 フェリクスの隠れる机の天板にも瓦礫は突き刺さり、彼は青褪めた。

「馬鹿!考えなしが!」

「考えた結果こうなったの!!」

「尚悪い!!」

 フェリクスに怒鳴られつつ、セシアは瓦礫を踏んで、地上を目指す。さほど深くはなかったが、、ドレスの裾やクリノリンは邪魔で苦労した。

 なんとかエイミーを連れて地上、外に出て場所を確認すると、そこは通りに面した前庭。夜会の行われているホールからは少し離れていたおかげで他に被害はなかった。

「よかった……」


 芝の上にエイミーを横たえて、セシアがほっと息をついた瞬間、落ち着く暇もなく背後から首を絞められる。

「!?」

 ヒュッ、とセシアは息を飲んだが、あまりの苦しさに悲鳴は音をなさない。

「ちっとも良くねぇよ!!めちゃくちゃにしやがって!!」

 最初にセシア達に怒鳴った男が、彼女の首を絞めてそこにいた。遅れて外に出てきたフェリクスを牽制しつつ、気絶しない程度の力でセシアを痛めつける。


「お嬢様はいいカモだし、父親の侯爵から脅してたんまり金を搾り取れてたってのに、お前らの所為で全部潰されたんだぞ!この細い首ぐらい折ってやんなきゃ気が済まねぇよ!」

 ギリギリと首を絞められては、セシアは集中して魔法を練ることが出来ない。


 ならばせめて体術で、とも思うが本当にドレスというものは動きにくい。普段の訓練は動きやすい服装でしていたものだから、余計に差があってセシアは歯噛みした。

 なるべく派手に壁を吹っ飛ばしたので、通常巡回の警邏隊にも通報は行くだろう。郊外の広い土地に建つお屋敷とは違い、王都の屋敷は広くとも程度がある。外からですら騒ぎには気づいてもらえるだろうから、この男達の悪行はここで潰えたといってもいい筈だ。

 出来れば麻薬をばら撒いていた者達を一人残らず捕まえて欲しいが、それは難しいだろう。重ね重ね、自分の短慮が恨めしいセシアだったが、目の前で悲鳴をあげていたエイミーを見てみぬフリだけは出来なかった。


「そいつを放せ!」

「放すわけねぇだろ!!」

 フェリクスと男が怒鳴りあう声が耳に響いて、辛い。

 セシアがここでリタイアしてもフェリクスがいるので、きちんと証言し他の執行官にもきちんと説明してくれるだろう。

 エイミー一人の命を救う為に、セシアの命を使うのならば勘定が合う。半人前執行官の割には、よくやったと、あの王子様は褒めてくれるだろうか?


 酸欠で霞んできた意識の中、セシアは暢気なことを考える。

 願わくば、あの美しい翡翠色の瞳でもう一度見つめて欲しかった。


 そう思いながら、意識を手放しかけた時。



「……あら、決して屈しないんじゃなかったのぉ?」



 艶のある女性の声が響き、セシアを拘束する男の脇にサッ、と現れた豪奢なドレスを纏った女性が勢いよく男の腕を長めのナイフで切りつけた。


「ぐぁっ!?」

 痛みに、思わず男が腕の拘束を緩めると、飛び込んできた女性・マリアが返す刀でさらに男の首筋を狙う。

 その殺意の滲む正確な切り込みに、距離を取らねば殺される!と察した男は咄嗟にセシアを放って後ろに逃げた。

 するとマリアは危なげなくセシアの体をキャッチして、同時に魔法で風を起こして男の両足を射抜く。

「ぎゃあっ!!」


 潰れたような悲鳴をあげて男が芝生に転がる姿を、けれどもうマリアはそちらを見ていなかった。

「フェリクス、男を拘束!!」

「は、はい!?」

 怒鳴られて、マリアが何者なのか分からないながらも、慌ててフェリクスは通常携帯している拘束用の道具で足を切り裂かれた男を捕縛する。


 その間に、マリアはセシアの体をそっと芝の上に恭しく降ろした。

「…………まり、あ」

「今度から、訓練はコルセットとクリノリン付けてやらなきゃね」

 にっこりと微笑んだマリアだったが、僅かに息が上がっている。そんなマリアの姿は初めて見たので、セシアは驚いた。


「……急いできてくれたの?」

「白馬に乗ってきた方がよかった?」

 息を弾ませつつ、そんなことを言う親友にセシアはホッとして微笑む。

「……それも、今なら結構素敵かもね」

 憎まれ口を叩いたものの、セシアはそこで意識を失った。マリアは一瞬険しい顔をしたが、気絶しただけなのを確認して表情を整える。


 その一見すると華奢な貴婦人の背に、フェリクスの戸惑った声がかかった。

「あの……あっちは拘束したけど、あんたは」

「……説明は後で必ずするわ。麻薬課と警邏隊はすでにこの屋敷の敷地内にいる参加者を一時拘束する為に動いているから、そちらに参加してくれる?」

「……はい」

 ハスキーだが、紛れもなく女性の声。だが、まるで騎士隊の上役のように厳しい声音で言われて、フェリクスは居住まいを正した。


「セシアは」

 フェリクスの迷うような声が、真剣に彼女のことを案じていることが分かってマリアは微笑んだ。

「大丈夫、私が責任を持って診てるわ」

「……分かりました。大事な相棒なので、よろしく頼みます」

 さっと一礼して、フェリクスは騒がしくなり始めている屋敷のホールの方に向かって駆けて行く。


「マリア様」

 それまで気配を消していたマリアの、否、マーカスの護衛達が声を掛けてきた。

「そちらの令嬢をお願い。セシアは私が運ぶわ」

「はっ」

 マーカスの護衛達は何の疑問も挟むことなく、この騒ぎで気絶してしまったエイミーを抱えて運んでいく。マリアは一瞬考えて、それから変装の魔法を解くと、本来のマーカスの姿に戻ってセシアを抱き上げた。


「……本当に、肝が冷える」


 彼は誰もいなくなった庭で小さく呟き、セシアを大切そうに抱えてその場を去った。



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