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騒ぎを聞きつけて、残念ながら騎士隊ではなく誘拐犯側の男達がぞろぞろと集まってくる。
脱力している場合じゃない、とセシアは足に力を入れて立った。
「マーカス殿下、味方じゃなく敵連れてきてませんか!?」
「これはこれは……屋根伝いに来たので、目立ってしまったようだなぁ」
「王子が目指して来るんだから、その先に王女がいるってバレますよねぇ……」
わざわざ残党を集めてきたような行動に、セシアは顔を顰め、マーカスは苦笑を浮かべる。
一番始めに特攻して来た男を、マーカスが魔法で吹っ飛ばす。
彼の出した攻撃の威力を見て、セシアは自身の魔法を調節して真似をし、別の男を横転させた。
「で、他に味方は?来てますよね?」
彼女の言葉に、マーカスはわざとらしいぐらい綺麗に微笑む。
「……なッんで、あなたが単身来てるんですか!?そもそもこういうのは騎士とか兵士とかの仕事なんじゃないですか、少なくとも王子自ら先陣を切る意味が分からない!?」
セシアが怒鳴ると、マーカスは長い脚で目の前の男を蹴り上げて快活に笑った。
「俺が一番早かった!」
「かけっこ一等賞ですか!?おいくつですか、この悪童!!」
セシアは傍に積まれていた木箱を引き倒して威嚇して、メイヴィスを奥へと逃がす。
「20歳」
ピース、とばかりに指を二本立てて見せるので、セシアはその指折ってやりたくなる。
「いい年して……!」
メイヴィスがいるので、直接的なことは言えないが、”マリア”を思い出してセシアは顔を顰める。
この国では成人は17歳からであり、その為学園の入学規定年齢もギリギリ17歳となっているのだ。つまり初めて出会った頃はまだ彼も成人していなかったのだと分かり、どうでもいい知識を増やしてしまったことを悔やんだ。
「真面目な話、こういうのは俺が来るのが一番適任なんだ。ある程度戦闘能力があって、指揮が出来て、そしてその場で命令を下せる権限を持つ者」
「その条件なら、何も王子がわざわざ臨場しなくてもいいのでは……」
「俺は、次期王でもないし、下に弟もいる。最悪、何かあっても大丈夫だ」
それを聞いて、セシアはゾッとする。
この男は、国の為に自分の命が無くなっても仕方ない、と言っているようなものなのだ。
「……そんな……あなた一人がそこまで背負わなくてもいいんじゃないですか?」
傍らのメイヴィスは黙っている。
これが王族の矜持なのかも知れないが、セシアはド平民だ。
誰かの代わりに、マーカスが損なわれることは、単純に嫌だった。
「いや?兄上の背負っている責任や、妹たちがこれから支払う犠牲に比べたら、自分で戦う場所の選べる俺は恵まれているぐらいだ」
マーカスは本当にそう思っているのだろう、屈託なく笑う。
王太子は、国で一番高くて重い椅子に座ることを、本人の意思とは関係なく決められていて、王女は国の為に選ばれた人の元に嫁ぐ。
確かにそう言われてしまえば、マーカスの立場はかなり自由なのかもしれない。
「それに、一人で抱え込んでるわけでもないしな」
そう言って、何も持たされていないが故に、自由で、そして、身軽だからこそ彼は自分を駒として扱う。
「……あなたが王子でなければ、殴ってやるのに」
「不敬だなぁ、お前は相変わらず」
彼は笑う。
セシアは腹が立つ。
王子でも、平民でも。大切な人に傷ついて欲しくないのは同じだ。セシアはマーカスと親しいわけではないが、恩があるし、マリアは大切な親友だ。
マーカスを一番人間扱いしていないのが、マーカス自身。大切にしていないのが、本人なのが、腹が立ったのだ。
そこまで考えて、セシアは目の前に駆け込んできた漁師風の風体の男を見てハッとして、彼の足元の木材を動かして転ばせた。
「……ところで、さっきから随分消極的な戦い方だな。徹底抗戦の姿勢はどうした」
マーカスに言われて、セシアは彼を再度睨みつける。
「それは暴力を振るう、という意味ではなく、屈しない、という意味です。ナイフを持っているからって、人を殺そうとは思いません!」
言って、セシアは極小の風で次の相手の足元を薙ぎ払う。後から後から出てくるが、一人一人は大した敵ではなさそうだ。
マーカスはふむ、と頷く。
「お優しいことだ。自分が殺されそうになってもそう言うのか?」
マーカスは腕の一振りで、数名吹っ飛ばした。
セシアにも同じ攻撃自体は可能だと思うが、それで加減を間違えて相手を殺してしまうことの方が恐ろしい。
「殺されそうになったことがないので、分かりません!!」
「なるほど」
港町なので潮の匂いがして、同じ様な倉庫がたくさん並んでいる所為でどちらに走って逃げればいいのか分からなくて迷う。
「こっちだ」
メイヴィスを抱え、セシアの腕を引いてマーカスは走り出す。
「メイ、舌を噛むからしっかり口を閉じていなさい。……そう、いい子だ」
セシアが聞いたことのないような、甘ったるい声で彼は妹に囁く。
なるほど、これがメイヴィス王女殿下が完璧と言う、兄王子。
確かに王子様っぽい。初耳でした。
そして、以前メイヴィスの知らない悪童めいたマーカスの顔を知っていることに僅かに優越感を覚えたことを恥じた。
「う」
「どうした?」
「なんでもないです」
二つのことに同時に衝撃を受けて、セシアは喉を詰まらせる。
妹の知らない、彼の一面を知って優越感を持っていたことにもショックだったし、
メイヴィスにしか見せない甘ったるい顔を、マーカスが持っていたことも、ショックだった。
これではまるで、セシアが、彼のことを意識しているかのようではないか。
相手は王子。
元後見人以上の関係を、望んではいけない相手だ。
そんなことは、出会った時から分かっていた。




