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亀の丞の帰還

 時は流れる。いつの間にか春が来て夏が来て秋が来て冬が来る。

 そんな繰り返しでいつの間にか次郎法師はあと少しで二十歳になろうとしていた。

 お花を相手に寺で過ごし、たまに訪ねてくる両親と話す。

 それだけで時が過ぎていくような気がしていたが、そうはならなかった。

「もうすぐ、亀の丞が帰ってくる」

 そんな話が出たのは父が訪ねて来た時だった。

「は?」

 あまりに唐突な話に一瞬意識が飛んだ。

「それはまことでございますか」

 むしろお花がぐいぐいと身を乗り出した。

「すでにあちらで元服も済ませて居る」

 その話を次郎法師は呆然と聞いていた。

 すでに亀の丞は次郎法師にとって鬼籍に入った人間になっていた。

「さようですか」

「何をおっしゃっているんです、これでやっとお嫁に行けるんですよ」

 亀の丞が帰ってきたら、還俗して、嫁入り、そういう話の流れになっていた。しかしあまりに時が流れすぎて、もう実感がわかない。

「そういうことなので、心の準備をしておくように」

 門の前で乳を見送りながら、次郎法師は現実感のわかない自分の結婚を思う。

 むろん、こうなる前は当たり前のように、そうなると思っていたが。

「お花は嬉しいの?」

 お花は怪訝そうだ。

「次郎法師様は違うのですか」

 お花はどうも様子がおかしいと次郎法師の顔を見る。慌ててごまかすように口を開いた。

「亀の丞が帰ってくるのはよいことだな」

 本当ならとっくに結婚して、子供の二三人もいてもおかしくない年だったのだが、タイミングがずれるとこうも実感がない物か。

 そう思いながら次郎法師は再び寺の中に戻った。


 その夜、南溪法師から、補足説明を受けた。

 すでに亀上は元服し、直親を名乗っていると言ことと、すでに妻帯しているということを。

 お花は一瞬目をむいたがこれも、問題はない。

 この時代は一夫多妻が普通だ。ある程度の身分になると、妻が一人だけのほうが珍しい。

 直親がすでに妻を持っているという事実に意外なほど動揺していないことに次郎法師は驚いた。

「とにかく、これでお嫁に行けますよね」

 お花が気を取り直すように言う。

 正確には婿を取るのだが、その言い間違いになんとなくお花の考えの裏が透けた。

 お花は次郎法師に付き合って、寺にこもっている。しかし本当なら、次郎法師の結婚に合わせて、お花も結婚していたはずなのだ。

 つまり、嫁に行きたいのはお花なのだ。

 家の都合で、要らない苦労を掛けていることは薄々わかっていたが、思った以上に深刻な事態だったようだ。

 次に、父がこちらに来た時には、お花のことを相談しようと次郎法師は思った。

 適当な誰かと交代してもらってもいい。

 いくら使用人の娘だといっても扱いというものがある。

 無言でお花を見ながらそんなことを考えた。



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