~ 我 生める子 良くあらず ~
此の柱を 男神は左から 女神は右から …
二神は 柱を周り 今 出会った …
「まぁ なんて良い男 …」
と イザナミ の 言葉に …
「おぉ なんと美しい女 …」
と イザナギ が 返す …
二神は出逢い そして 全てが始まった …
凹凸 … 互いに余る部分と 足りぬ部分とを重ね 軈て 子が産まれた …
子の名は 蛭児 …
蛭児は3つになっても 歩く事が出来ず 二神は …
「我 生める子 良くあらず … 」と 葦の船に 蛭児を乗せ 自疑島 から 海へと流した …
潮の流れは 思いの他早く 蛭児は 沖へ沖へと流され あっと言う間に 見えなくなった…
蛭児 が 泣けど叫べど 父も母も 蛭児の元へ現れる事はなかった …
「グスン … 父上 … 母上 … グスンッ …恐いよ~ 助けてよ~!うっ … うわぁああぁ~ん!!」
と 蛭児 が 葦の船の上で 泣いていると …
「泣キ虫 ボウヤ ! 泣イタッテ 誰モ来ヤシナイ … 其レヨリ 私ト遊ボウヨ !」
と 真ん丸目玉の イルカ が 海の中から ポッコリ顔を出し 泣いている 蛭児に そう言った …
「君 誰 ? 君に 親に棄てられた 僕の気持ちが解るの ! あっちへ行けっ! 」
と 蛭児 は 手を海に入れると バシャッ!とイルカ 目掛けて 水を飛ばした …
イルカは …
「アハハッ!泣キ虫 ボウヤ ハ 怒リンボ~ 泣イテ 怒ッテ何 変ワル~ 棄テラレ ボウヤハ 甘エン坊 ~ ! 」
と 唄うように 蛭児を 茶化し バッシャリ!と 尾ヒレ で 蛭児 に 水を掛けた …
「うわっ! こっ こっのぉ~ 馬鹿イルカ~!!」
と 蛭児は 怒りに葦から身を乗り出した …
アノ子 三ツニナルノニ マダ 歩ケナイノデスヨ …
と 母 イザナミ が 蛭児が寝静まってから 父 イザナギ に 話していた 言葉が 脳裏を過った …
「僕 は … 歩けない … だから … イルカを追えやしない … 」
蛭児 は ギュウッ!と 葦 の 船 の 端を握り締め 俯くと ポロポロ ポロポロ と 涙を落とした …
「僕だって … 好きで歩けない訳じゃないよ… 母上 や 父上 を 喜ばせたかった … なのに … 僕 は … 僕 は … 」
イルカ は キュェ キェュキュェッ!っと 笑い 身体の半分程を 海面に出し クルリクルリと輪を描いた まるで 蛭児 を 挑発するように …
蛭児 は …
「そんな事したって無駄だよ ! 煩いイルカめっ!誰が お前の思うようになんてするもんかっ! 放っておいてくれよっ!」
と 涙を溢しながら 叫んだ …
「キュェ キュェ キュェッ! モウ 陽 ガ沈ムカラ 帰ルッ! 明日 陽ガ昇ッタラ 又 来ルヨ 泣キ虫 ボウヤ !」
イルカ は そう告げると 身体を大きく 水面に跳ね上げ バッシャリッ!と 蛭児に 水を浴びせ 海の彼方へと 見えなくなった …
「嫌な奴 … イルカの奴め …」
蛭児 は そう呟くと 涙を払い もう 涙が零れぬように 葦の船に バタンッ!と 大の字になった …
暫くすると オレンジ色の空は 姿を変え 蛭児の目に 夜空が拡がった …
キラキラ キラキラ と 光る星達を 蛭児 は ボンヤリと眺めながら …
「僕 は … 何故 生まれたのだろう … 」
と ポツリ と 呟いた …
母上 も 父上 も …
今の 僕のように悲しんでいるのだろうか …
蛭児 が そんな事を考えていると 突然 バサリッ バサッ バサッ!っと 羽音が 近づき 何かが ドスンッ! と 船の上に落ちて来た …
「うわぁああぁ~!何っ!」
と 蛭児 が 慌てて起き上がると …
「ア痛タタタタァ … アッ コリャァ スイマセン … 貴方ノ オ蔭デ助カリマシタ~!」
と 一羽 の カモメ が 恥ずかしそうに そう言った …
「嫌 … 僕は何もしてないけど … 君 大丈夫?」
と 蛭児 が カモメに 聴くと カモメ は ニッコリと微笑み …
「ハイ ! お陰様デッ!」
と そう応えた 其から カモメ は …
「大変 申シ訳 御座イマセンガ 陽ガ 昇ル迄 ゴ一緒サセテ頂ケナイデショウカ? 私 夜ハ… 目ガ 見エズラクナッテシマイマシテ… 上手ク飛ベナイモノデスカラ… 」
と そう言った 蛭児は …
本当は 一人で居たいが カモメも可哀想だし…
と カモメを気遣い…
「あぁ 僕は もう寝るから 君は 羽休めして行けば良いよ …」
と そう言った …