第二七話 わたし達は、役立ずじゃない!
「コウ!!」
ツヴォイの叫び声と共に、コウの体が宙を舞っていた。
装備合わせて100kg以上はあろうかと言う勇者の体が、何メートルもの距離を殴り飛ばされる光景に桜花とジンは固まってしまう。
そして、コウが地面に落ちて行った。
振りぬかれたそれは、巨大な土塊でできた腕だった。
「ジンっ! 援護しなさい!」
桜花の叫び声に、ジンは慌てて魔導杖を右脇に抱え、右手を握り直す。
いくつもの魔法機を束ねた杖頭は、まるで幾何学的な形をしたメイスの様にも見える。
空いた左手で、杖の背にある握りを掴めば、それを一気に引き起こした。
同時に7本の遮断板が胴体から引き抜かれ、魔導回路が繋がる。
急速に吸いとられていくMPと共に、杖頭に光が宿っていった。
後から考えれば、不自然なほどに広すぎる空間だった。
落盤する程に、こんなにも広く坑道を掘るなんて普通はあり得ない。
この鉱山には【カッパー・ゴーレム】と言う鉱石と土で出来た様な魔物がいる。
それが、無計画に坑道を広げている事は知っていた。
けれど、カッパー・ゴーレムでは、そんなに高い場所まで掘れない。
つまり、それだけデカイ奴がいたのだろう。
まるで擬態しているかのように、落盤の残骸の中で眠っていたのだ。
「なんだよ、コイツは!?」
ツヴォイは5メートル近い巨体な人型を見上げながら叫び、飛ばされたコウの方へ駆け寄って行く。
「カッパー・ティヌークよ!」
ツヴォイに向かって歩き始めていた土砂人形は、光の中に出てみればずっと白かった。黄色かったゴーレムとは見た目も違うが、桜花が肌に感じて分かる程に魔力量が大きい。
桜花がティヌークの側面から走り込んでゆく。
そして、直前で足を止めるとともに、運動量を剣先に集めて、上段から全力で振り下ろした。
鈍い斬撃音と共に、土塊の足を大きく斬り裂く。
「いける!」
見た目は巨大で、それを支える脚はカッパー・ゴーレムよりずっと硬い。しかし、全力で振りぬけば、十分に斬ることができた。
しかし、斬り裂かれた足に砂がサラサラと流れてきて、すぐに塞がれてしまう。
まるでダメージなど無かったかのように、元通りになっていた。
「っ!」
それを見て、桜花が苦い顔をする。
ゴーレムと同じだ。
土部分はいくら斬っても、しばらくすれば回復してしまう。
ただ、その回復速度が桁違いに早い。
狙うべきは、額の魔導回路だが、のっぺりとした頭部は5メートルもの高さにあっては攻撃が届かない。
ならば、魔力を多量に吸い込んでいる魔鉱石部分を狙っていくしかない。
それを片っ端からバラしていけば、再生が追い付かなくなり、最終的に体を維持できなくなるはずだ。
桜花は素早く剣を横に振った。
しかし、ほぼ背後からの斬撃を、ティヌークは足を引いて回避する。
「!?」
その動きに桜花は驚くが、これは偶然ではなかった。
見えていたのだ。
ティヌークの脚にある、砂の中に浮かぶ赤い目玉と視線があう。
忘れていた。
ゴーレムの時は、そこまで意識せずとも倒せていたからだ。
しかし、ティヌークの巨体は力と体力を誇示するように動いている。人型でありながら、体中に浮かぶ目玉が、全ての死角をうめていた。
これと持久戦をやるならば、目玉から潰す必要があるかもしれない。
「桜花さん!」
桜花が下がった瞬間を見てジンは叫ぶと、ティヌークの側面から魔導杖の狙いを付ける。
「火散弾っ!」
右手で大きなトリガーを引けば、先ほど引き抜いた遮断版が一斉に差し込まれる。
魔法器に満ちた霊象が魔導回路に流れ込み、即座に魔法へと発現する。
杖の先端から7発の火弾となって、同時にティヌークの右足に殺到した。
まるで散弾の様な一撃に、ティヌークの右足の土砂がはじけ飛び、表面に浮いていた目玉も弾き飛ばす。
しかし、飛び散る砂こそ激しいが、肝心の魔力鉱石を弾き出すまでに至らなかった。
すぐにまた、砂が流れて穴を埋めてゆく姿に、ジンも顔をしかめている。
「いい狙いよ!」
再び接近した桜花が、ジンの援護をほめる。
その目は、下半身の動きを止めたティヌークをしっかり見ていた。
どうやら、再生中には十分に動けないらしい。
そのティヌークが無理やり腕を振るってくるが、それを物ともせずに桜花がかいくぐって行く。
「はぁっ!」
桜花の斬撃がティヌークの膝に強烈に当たった。
しかし、硬質な音と共に弾かれていた。
デカい魔力鉱石を切り離せれば、それだけで足を奪えるかもしれなかったが、膝のモノは大き過ぎて、がっちりと保持されている。とても剣では弾き飛ばせそうにもない。
弾くか砕くには、戦鎚の様な武器でなければ威力が足りない。
そこに、突然ティヌークが右腕を高々と掲げる。
妙な動きに危機感を感じ、桜花はひと蹴りで距離をとった。
その誰も居なくなった場所に、ティヌークの拳が落ちる。
それは不可解な行動だが、余りの重量に硬い地面が円形に沈む。
円形に沈む?
少し離れていたジンには、地面の土そのものが流れているのが見えていた。
同時に、急激な霊象の流れが感じ取れる。
「魔法です! 逃げてでください!」
ジンが叫ぶ間にも、ティヌークの腕が地面から抜き取られてゆく。
腕の先端は土を巻き込み、倍以上に膨らんでいた。
「こ、こいつ、魔法も!?」
桜花が慌てて下がるが、黄色い魔光が見えた瞬間、その向けられた腕がはじけ飛ぶ。
小さな石のつぶてが無数に広がる様に飛んできて、とても見て避けられる量でも速度でもない。
「きゃあぁ!」
桜花は必死に利き腕を背後に、左腕で顔を庇う。
強烈なつぶては木製の鎧や小手に当たれば、割り砕く勢いだった。
服が裂け、鎧はひび割れ、その下の肉体もえぐられてゆく。
体中を撃たれ、バランスを崩して地面を転がっていった。
弾幕が通り過ぎた後には、一撃でボロボロにされた桜花が倒れている。
HPはまだ半分残っているが、必死に起き上がってきた桜花が体の異変に気が付く。見れば、左腕には無数の穴が開き血を流して、だらりと垂れさがっていた。
力が、入らない。
「桜花さん!」
「ジン! 足止めしろ!」
歯を食いしばり、必死にティヌークを睨んだままの桜花が叫んだ。
ジンは魔導杖を再びチャージして、近づき過ぎない様に火散弾を撃ちだす。
しかし、額を狙っても、掲げられた腕に全て防がれ、そのはじけ飛んだ腕表面のダメージもすぐに修復されていく。
その間にHPポーションを飲んだ桜花は、急速に傷が塞がってゆく左腕を見た。めり込んでいた小石が押し出されていく様は、自分の腕だと思うと少々気持ち悪い。
しかし、出血は止まっても、筋肉組織は戻っていない。やはり深手の再生には時間が掛かるらしい。
これでは、左腕は使い物にならないだろう。
見れば体中から血が滲み、穴も開いた服は台無しだった。
たった一撃で、それもそれなりに距離は取れていたのにも関わらず、HPが半分も奪われ、左腕を失った。
至近距離で食らえば、一撃死しかねない。
「このぉ!」
何とかダメージを与えようと、ジンが必死に駆け寄る。
そして、至近距離で一点を狙って再び遮断板を押し込んだ。
飛び出した火弾がティヌークのふくらはぎを大きくえぐる。
そのくぼみの中に、大きな鉱石の一つが、後少しで弾き飛ばせる所までいった。
再び撃ち込もうと、左手で取っ手を引き起こし、遮断板を全て解除する。
「早く!」
霊象が杖に満ちるまでに時間が掛かる。
その間にも、ティヌークの傷口へ再び砂が落ちて来ていた。
魔鉱石が覆い隠される前に、火弾を撃まなければいけない。
「……っ……ジン!」
桜花はずっと叫んでいたはずだった。
しかし、あと少しで霊象が溜まると意識を向けてしまっていたジンには、その言葉が聞こえていなかった。
「!」
ジンが慌てて視線を上に向けた時、右から旋回してきた土砂の塊が、ティヌークの腕が襲ってきていた。
慌てて杖を引き起こしながら、遮断板を押し込む。
即座に7発の火弾が飛び出すが、狙いも何もかもが甘い状況。
火弾がティヌークの腕に何発かあたろうとも、その腕の質量を押しとどめる事は不可能だった。
「がっ!」
それは、恐怖で足を滑らせたはずみだった。
ジンが後ろに倒れたおかげで、全身を打ちのめされる事はまぬがれたが、それでも、かすった一撃で地面に打ち付けられる。
衝撃に呼吸が出来なくなり、体が硬直する。
それを、ティヌークの巨体が見下ろしていた。
「はっ、はっ!」
地面に倒れたジンは慌てて両手を付き、起き上がりながら駆け出した。
振り向く余裕などなかったが、足の再生で身動きが取れないのか、追撃は襲ってこない。
「うおおぉぉ!」
桜花が雄叫びをあげながら正面から突撃する。
左腕を振りぬいていたティヌークが、今度は右腕を旋回するように振って来る。しかし、桜花は足を緩めず、気合でその動きを見切ろうと前へ出る。
地面を抉りながら進む腕には、先ほどの様に潜り込む隙間などない。
このままでは当たる。
「アタシには!」
桜花は左腕を引きずりながら、一歩も引かなかった。
引けない理由がある。
コウとツヴォイは、中型のジョバンを倒した。
大活躍だ。
「下がらない!」
遠くでジンが悲鳴じみた呼び声を上げようと、桜花は進む。
これが、ここで自分も活躍する事が、無力感に打ち棄てられた自らを再び、働けると証明する事だから。
もう、二度と役立たずの、生きている価値が無い自分だと思いたくないから。
地面を巻き上げながら、ティヌークの腕が桜花を薙ぎ払いに来る。
「うおおあぁぁあ!」
桜花が伸ばした左足で、激突してくるティヌークの腕を受けながらその衝撃を吸収してゆく。
これがカジュアルなゲームなら、そのまま腕を駆け上がれたかもしれない。
しかし、こんな自動車でも突撃してくるような速度と質量で、出来るわけもない。
左足が瞬間的な圧力に軋みを上げ、その威力が桜花を殴り飛ばす。
はずが、激突した腕の軌道から桜花の上半身が外れていた。
そして、上半身を中心に体全体が回転し、大質量を飛び越え回避する。
「やればっ!」
再び桜花が着地すれば、腕を振り抜いたティヌークは無防備な体を晒していた。
「出来るのよおぉ!!」
叫び声と共に、水平に奔らせた改造両手剣がその脛を削り飛ばす。
「まだだぁ!」
即座に、その勇者の力で無理やり腕を引き戻し、体をねじり上げるように剣を逆方向へ振る。
片手一本だろうと、さらに脛を削り飛ばす。
「うをらっ!」
三度目で、内部に埋まっている魔力鉱石に掠るが、今の狙いはそちらではない。
しかし、四撃目を振るう前に、ティヌークの上体が動く。
桜花が即座に体を前に投げ出すと、ティヌークの股の間を潜り抜けた。
直後に、背後で巨大な槌が落ちるような衝撃が巻き上がる。
「これでっ、どうだぁ!」
起き上がるとともに、振り向きざまに放った桜花の剣が、ティヌークの脹脛を深く斬り裂き、両断した。
魔鉱石が弾き飛ばせなくても、足ごと切り落とせば、その先の魔鉱石の力は失うはずだ。
狙い通り、片足を失ったティヌークが右側に倒れて行く。
そのティヌークの反対側に、駆け寄って来たツヴォイの姿を桜花は見つけた。
「ツヴォイ!」
「任せろ!」
倒れたティヌークの背中側から叫ぶ桜花に、即座に声が返って来ていた。
全く、と桜花は笑ってしまった。
剣には不慣れで、優柔不断で、とんだロリコン野郎だが、こういう時の判断だけは早い。
本人は、ゲーム慣れしているだけだと言っていたが、それだけの判断力があれば、どんな仕事もできただろうに。
あいつは、なぜニートなんかやっているのだろうか。
――やるべき事が分かっていれば、迷わないですむ。
そう言ったのは、カミナだっただろうか。
今、この戦いにおいては、ツヴォイはやるべき事が分かっているのだろう。
少し悔しかった。
桜花は即座に剣を構えると、背中に生えている目と、表面に浮いている魔鉱石に向かって、片っ端から剣を振るった。
次々に斬り飛ばしていくが、ティヌークはツヴォイの方に左腕を振り下ろしていた。どうやら、陽動は失敗だ。
額の魔導回路を削り飛ばせば、魔鉱石の力が全身に行き渡る事が出来ず、ゴーレム系は崩壊すると教えられている。
ティヌークの頭が下がった今、額の魔導回路を切り裂く絶好のチャンスだったが、振り下ろされた左腕が、その額を守っていた。
今更でもあるが、28Lvにもなるような中型のティヌークを見かけたら、絶対に逃げるようにとも言われていたことを、桜花は思い出した。
いや、勝てる!
その思いが、桜花の中で強くなる。
「アタシは、役立たずじゃない! 役立たずじゃない!」
いつの間にか、口に出して叫びながら、桜花は夢中で剣を振り回していた。
「桜花さん!」
「左足も狙って!」
戻ってきたジンに、桜花は叫ぶ。
斬り飛ばした右足は、既に修復されつつある。しかし、立ち上がる前に左足も潰す事が出来れば、中型だろうと倒せる。
そう思えば、桜花は更に気持ちが加速した。
ジンが魔導杖でティヌークの左足を攻撃し始めた。
いくつもの火弾がはじけ飛ぶ。
ジンが二発目を撃とうとすると、ティヌークがその足を大きくかかげて、狙いから逃げようとする。
「違う! よけてっ!」
桜花の叫びと共に、上に伸びた足が一気に振り下ろされてきた。
ジンは全力で地面を転がる様に回避する。
圧倒的な重量の砂と岩の塊が、さっきまで立っていた場所に激突し、地面まで揺らしていた。
「ツヴォイ!」
「すまん! 削れなかった!」
全く、打てば響くような返事が返ってくる。
これが、訓練されたネトゲーマーと言うやつなのだろうか。
その返事も聞きたかったが、桜花にはもう一つ気になる事がある。
「コウはどうしたの!」
視界左に仮想表示されているパーティ―情報のHPは危険域の黄色で表示されているが、大破はしていない。
まだ動けるのだろうか、それとも自分の左腕の様に、HPには見えないダメージを負ってしまっているのかが心配だった。
「大丈夫だ、意識ははっきりしている! けど、体が痺れて動けない! デバフだ!」
「デバフって何よ! 日本語でしゃべりなさいよね!!」
前言撤回だった。
こいつは、ただの根暗なネトゲオタクだ。
「状態異常ですよ。それならすぐに治ると、カミナ様が教えてくれました!」
答えたのは横で立ち上がったジンだった。
再び魔導杖に霊象を蓄えて、ジンが駆け出した。
と、桜花がその襟首を捕まえる。
「おが!?」
ジンが尻餅をつく。
それを無視して、桜花がジンを引きずって逃げていた。
それを追うように、ティヌークの右腕が空から降って来る。
地面を打つ衝撃に、土煙が舞い上がる。
「全体をよく見なさい!」
「あ、ありがとう……ございます」
あのまま突撃していたら今頃腕の下敷きだっただろうと、ジンは肝が冷える思いだった。
吹っ飛ばされただけのコウですら、HPが3割も残らなかった。
叩き潰されれば、一撃大破確実になる。
「くっ。もう右足も再生している」
桜花が言い終われば、うつ伏せになったティヌークが起き上がってゆく。
幸い、切り離した魔鉱石をすぐさま再吸収する事は出来ないらしい。
切り離した右足の残骸と、その中の魔鉱石はティヌークの足元に転がっていた。
新たに生えた左足の分、体が小さくなった気がする。
「ジン! 直接額を狙いなさい! 近寄らない事!」
「わ、分かりました!」
桜花は素早く剣を地面に刺すと、明らかに硬くなっているジンの背中を、右手でぶっ叩いた。
これで、緊張が取れるのかどうなのかは分からないが、とにかく叩いてみた。
「ジン! あなたって、前から思っていたけど、ほんとイケメンね!」
「い、いきなり何ですか?!」
幾ら自由に顔の形が設定できると言っても、現実からかけ離れていては、没入型VRMMO長期間体験では、身体感覚のズレと言う形で後遺症が心配されるらしい。
つまり、この世界でイケメンなら、少なくともリアルでもそこそこいい顔なのだろう。
「見た目だけなら、アイドルグループに居てもいいんじゃない?」
一体突然、桜花が何を言っているのか、ジンは戸惑うばかりだった。
「良い事? あなたはアイドルの様に目立って、迫りくるファンの猛烈アタックを必死に避けなさい!」
つまり、ティヌークの目の前で囮になって、頑張れと言う事だった。
「こんな逞しいファンに愛されるのは、ちょっと……」
「愛されるのはイケメンの義務よ! 喜びなさい!」
桜花の、どこかオカシイ励ましの言葉に、ジンは苦笑してしまう。
「イケメンって、そんな事初めて言われましたよ」
「え? その顔なら、リアルでも結構整っているんじゃないの?」
意外だと、桜花が返していたが、ジンは曖昧に笑うと、ティヌークの正面へ走って行った。
ジンは魔導杖のセレクターレバーを連射に合わせ、遮断板を全て引き起こす。ティヌークが起き上がれば、その頭部に向けて火弾の七連射を浴びせた。
腕で額を庇われてしまうと、火弾が当たった所で、すぐに再生されてしまうが、連射している最中、片腕を封じる事が出来ていた。
その隙に、背面の目を失ったティヌークへ桜花とツヴォイが背後から迫る。そして、足と腕と言わずに目に見える魔鉱石を弾き飛ばしていた。
「こ、これなら!」
「行けるんじゃないか!?」
桜花の言葉に、ツヴォイが後を追う。
でかすぎる相手に、さっきまでは恐怖を押し殺すように叫び戦っていた。
だが、今は魔鉱石を失ったティヌークが目に見えて痩せて来ていた。
それだけ、魔力を失って体の維持が出来なくなってきている。
「もう一度足を斬り飛ばす!」
そう宣言をすると、桜花が再び背後から走り寄る。
全力の横なぎで、足を大きく斬り込む。
これなら、もう二撃で切断できるかもしれない。
ティヌークが両手を高く掲げていた。
しかし、あの体制からでは、背後に居る桜花には攻撃は届かない。
構わず剣を振り抜き、もう一度斬り返せば、狙い通りティヌークの左足を両断していた。
直後に腕が降って来るが、それは片足を失った体を支える様に、前方に落ちるだけだった。
まるで、両手と片膝をつくような恰好のティヌーク。
頭が下がっている!
そう思った瞬間に桜花はティヌークの背を走り、飛び上がると体を反転させながら東部に剣を振り下ろした。しかし、ティヌークが頭を下げ、その後頭部を斬りつける事しかできない。
しかし、着地すれば、目の前に無防備な額が見えた。
いける!
その意思とは裏腹に、桜花の目は足元を流れる地面の砂を捉えてしまう。
地面が、流れている。
それは、打ちつけた両腕に集まってきていた。
「しまっ!」
慌てて後ろに地面を蹴るが、5メートルも下がる前に、ティヌークの腕が地面から起き上がる。
両の腕に、大量の土砂を抱えながら。
「桜花さん!」
ジンが庇おうと横から割り込もうとしていた。
あぁ、あの時と同じだと桜花は思い出した。
防衛線の前、不意に森の中で遭遇してしまった巨大花。
その放つ雷撃の前に飛び出してきて、身代わりになったジンの姿を思い出していた。
脇腹に大穴を開けて、まるで虫の息の様に弱々しく強がっていた姿を。
あんな姿は、もう、見たくない。
「だめえぇ!」
とっさに、桜花はジンを蹴り飛ばしていた。
ティヌークの射線から外れる様にと、思いっきり。
「なっ!」
驚きに見開かれるジンの顔が見えた。
流石、アタシの蹴りだ、とその遠ざかり方に桜花は満足する。
ピリッとする感覚と光。
魔光を輝かせたティヌークの両腕が爆発していた。
目の前を埋めるかのような、大量のつぶてが、一斉に桜花に殺到してくる。




