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第二十話 神殺しの魔矢

 開拓村の閉ざされた門の前にいた魔物が、ゆっくりと脚を動かす。

 大盾の様な甲殻はをまとった脚が、巨大な質量をもって前へと進んでいく。

 そして、ある程度の広さを確保すると、また立ち止まる。

 胴体後方のコブについている両腕を、まるで何かを迎え入れる様に伸ばした。

 瞬間、陽炎(かげろう)のように揺らめく黒い影が、ジョバンの周囲へ放射状に広がってゆく。



 その様子を防壁の上から見ながら、傭兵の一人が舌打ちをする。

「もう少しクルムズが下がれば、あんな事せずとも矢で仕留めてやるのに」

 愚痴るのも当然で、クルムズと勇者たちは弓の射程外で戦っている。

 ほとんど、森との境界付近だ。



 どうせクルムズも魔物だ。

 勇者共々矢で射ってしまっても良かったが、出来ればこちら側の戦力を無駄に失いたくはない。

 もう少し近くで戦ってくれればそこそこ狙えるが、当然勇者側もそれを警戒して下がっているのだろう。



「子爵様。もう少し何とかならないのですか?」

 行商人が身なりの良い男に言う。

「あくまで私が使役しているのはジョバン単体だけだ。隷属(れいぞく)しているクルムズを直接指揮できる分けじゃない」

 ジョバンには単純な指示しか行えないので、その先のクルムズの動きなど、『行け』と『戻れ』ぐらいしか通じなかった。



 子爵と呼ばれた男が単眼鏡で勇者達の戦闘を見ると、斬撃に微かだが赤い軌跡が見えていた。性能は低いが、魔道装備を使っている。

「それより、お前達の報告と少し違うようだが? 魔導装備の配備が終わっているじゃないか」

「そ、それは俺達に言われたって仕方ねぇですよ。先週の時点じゃ確かに、ただのアイアンソード振り回しているだけだったんでしたから」

 子爵の男が疲れたようにため息を吐く。

「たく、こんな野蛮な国まで出て来たってのに、仕事が(はかど)らないってのは嫌だよ。ま、装備だけ正規軍並みになっても、戦い方まではお粗末なままで楽だけどさ」



「魔物、来ましたー!」

 行商人の元に、見張りの一人から声が届いた。

 見れば東側の森から赤い影がわいてくる。

 数的には、15匹ぐらいだろうか。

 南側で戦っている勇者達の方へ向かっていった。



「やっと来たか。ここも放棄されてから2年以上経っているのに、魔界化がずいぶん遅いな」

 時間のわりには、数が少ない追加のクルムズに子爵は不満そうに言う。

「護国の人神が、片っ端から高レベル体を狩ってしまうそうですしね」

「やはり、鬼神を討ち取れるかどうかが(きも)か」



 拠点村前の戦闘では、追加のクルムズに慌てる勇者達の姿が見えていた。

 半数以下に減らされてしまったクルムズも、これでまた30匹近くに回復する。

 代わりに負傷した勇者が数名後ろに下がっていく。

 状況としては、有利に事が運んでいるだろう。



 だが、勇者の最も警戒すべき能力は、その馬鹿げた回復力だ。

 負傷させても、次の瞬間にはすぐに回復して戦線に復帰する。

 まるでゾンビの様に次から次に復活して来て、切りがない。



 しかし、この拠点村の占拠(せんきょ)も今日一日持ちこたえれば、【呪界石】が完成して作戦は完了する。ここで、勇者を何体かでも破壊できれば、復活までには時間が掛かる事が分かっていた。



 歴史書の記述をそのまま信じれば、始まりの勇者は一度大破すれば復活までに、最短で四日は掛かっている。例えそれよりも短かったとしても、撤退後、再度勇者達がここを目指しても、その頃には撤退できているだろう。

 呪界石を狙われても、ジョバンの魔物寄せを無制限に使えば相当に時間を稼げるはずだった。



「旦那様、動きました」

 隣で同じように単眼鏡をのぞき込んでいた兵士がいう。

 傭兵とは違い、こちらは整った質の良い装備をしているのは、子爵家に仕える直属の部下だからだ。



 部下の言葉に視線を振れば、子爵にも問題の人物が確認できる。

 今まで静観していた青い服装の女性が剣を抜き、素早い剣戟(けんげき)でクルムズを仕留めていた。

 戦闘している勇者達の人数が減りすぎて、支えきれなくなったのが見て取れる。

 

 

「よし、攻め時だな。ジョバンを前に出す」

 子爵の男が右腕を差し向ければ、黒い陽炎(かげろう)を発していたジョバンが動きを止めた。そして力強く脚を動かし始めた。



 数千kgの重量を打ち鳴らして、地面に深いくぼみを残す姿は、体当たりするだけで拠点村の防壁を破壊できそうな程の質量だった。

 人の背丈(せたけ)程度にしかない勇者など、走るジョバンが踏みつぶせば一撃で破壊出来るだろう。



 だが、この魔物の本来の性質は物理攻撃じゃない。

「大剣も持っていない鬼神が、どこまで戦えるか見せてもらおうか」

 子爵の男が、嗜虐的(しぎゃくてき)な笑みを浮かべた。



   ***



『全隊、前進! 作戦通りにやるぞ! ジョバンは私が相手をする!』

 カミナは走り出すとともに、即座に鎧の遮断板を解除する。

 一気に減るMPと共に、肉体強化の補助魔法が掛かる。

 だが、昔と違ってあまり長時間は持たない。



 MPである霊象(マナ)は時間とともに回復するが、それは原料となる魔力があってこそだ。

 劣化したカミナの肉体は、新品勇者達のように魔力を蓄えられない。

 だからこそ、長引く戦いは避けたかった。

「できるだけ、早く仕留めなければ……」



 カミナを(とら)えたジョバンが足を止める。

 コブに生える腕が、赤い魔光を両手に作り出す。

 数秒後には、火炎が渦巻く球体が出来上がっていた。

 続けざまに、4発もの火炎球(ファイア・ボール)が勇者達に向けて飛んで行った。



「この、メンドクサイ奴を!」

 カミナは苦々しく言うと、青い魔鋼で打たれた片手剣を構える。

 親指で柄の突起を倒し握りこめば、二つ目の遮断板もはずした。

 魔力が通うと共に、頭上を飛び超えようとする火炎球(ファイア・ボール)へ向けて剣を振るう。



 片手剣から、鉄をも斬り飛ばす高圧の水が斬撃となって空へ(はし)った。

 水壁に激突、撃ち落とされた火炎球(ファイア・ボール)が、空中でひときわ大きく爆発する。

 勇者であっても、火炎球(ファイア・ボール)の直撃は腕の一つも飛ばされだろう。

 そんなものを立て続けに撃たれてはたまらない。



 まだ距離があったが、カミナは剣を振るってジョバンに水斬(みずぎり)を放つ。

 再び魔法を放とうとしていたジョバンのコブを狙ったが、前足が閉じてしまい防がれてしまった。

 それでも大盾の様な前足には、斬撃の切り込みがしっかりと残る。

 やろうと思えば、あの足ごと斬り飛ばす事も出来るだろう。

 しかし、魔法を連発したおかげで、MPは2割消費して回復が間に合わない。

 ゴリ押せるかどうか、微妙な線だった。



 再び開いたジョバンの足に、カミナが剣を構えようとしたが、見えた腕には青白い魔光が宿っていた。

「ぬおぅ!」

 瞬間、横に体を投げ出すようにカミナが飛ぶ。



 直後に、電光撃(ライトニング・ボルト)が地面を撃ちぬく。

 カミナにまとわり付く様に10発の雷撃が追いかけてくる。

 避けきれなかった二発を食らってしまうが、鎧の魔法障壁(マナ・エンゲル)でなんとか防げた。

 貫通しなかったのは、当たり所が良かったおかげだろう。



 魔力量だけで言えば、巨大花のシラードルト型に比べ、ジョバン型の方が遥かに小さい。しかし、体も小さい分狙いが正確だった。

 額に嫌な汗を感じる。

 カミナは久しく感じていなかった恐怖を、この時ばかりは打ち払う事が出来なくなっていた。



   ***



『バラけないで進んで! 深追いは必要ないわ!』

 リーダー・チャットで桜花が叫びながら、改造両手剣を振るう。

 飛びかかって来たクルムズの後ろ脚の一本を斬り落とすが、動きの鈍ったそれは逃げるに任せて拠点村に足を向ける。



 カミナがジョバンと戦闘を始めてから、クルムズ達の動きに積極性が減っていた。

 一時は押し込まれそうだったが、今は負傷している勇者共々、ジョバンを避けて左右から拠点村に進んでいる。



 ――魔物は敵方の魔術師に操られているだけだ。それさえ押さえれば、統率(とうそつ)を失った魔物は散り散りになるだろう。

 戦闘前にカミナが言っていた事はこうだった。

 ジョバンを仕留められればいいが、大剣を持たないカミナでは時間が掛かる。

 その間に勇者達が全滅しては元も子もないので、一気に拠点村に攻め込み、魔術師や人間達の武器を奪い破壊する。

 要は、追っ払うだけでも勇者側にとっては勝利だった。



 右翼前衛の第一班は、正面からクルムズを受け止めていたが、今はクルムズの攻勢に隙間ができていた。

 後に続いてきた第四班を追い駆けてくるクルムズの数も少なく、順調に拠点村の門に迫っている。



「ツヴォ!」

 コウに呼ばれてツヴォイが振り向けば、視線の先でカミナが戦っていた。

 人の丈より大きいジョバンに密着する様に戦っている。

 前足が地面を穿(うが)つほどの質量で振り下ろされてくるが、それをギリギリで避けてはすぐさま接近して斬りかかっていた。

 胴体後方のコブから打ち出される魔法は、ジョバン自身の体に隠れたカミナを狙えずにいるようだ。



 しかし、カミナの方も強固な前面から動けずにいるので、片手剣一本では決め手に欠けている様だった。

 確かに、人並み外れた動きで攻撃を避け続けているが、それがいつ失敗するのではないかと、ツヴォイも肝が冷える。



「桜花! クルムズの動きが鈍いから、俺とコウだけカミナ様に加勢してもいいか!?」

 ツヴォイの言葉に振り向いた桜花が、さっと周囲を見回す。

 今も襲ってきているクルムズは5匹。

 半数以上が距離をおいて(にら)んでくるだけで、すぐに動こうとはしていなかった。

 今ここで、第一班の戦力を無駄に遊ばせておくのも勿体ない。

「分かった。あれさえ倒せれば、人間との戦闘も避けられるでしょう、行ってきて!」

「ありがとう!」



 ツヴォイ達が走り出すのを見送ると、桜花も苦戦しているジンの方へ駆け出す。

 不意をついて斬りかかるが、やはりクルムズは尾先で桜花の剣を受け止めてきた。

 クルムズに対しては、上や背後からの攻撃は見えているらしい。

 ならば、



「ジン!」

 叫べば、若干あわてながらジンが剣を振るった。

 しかし攻撃が浅く、斬りつけられたクルムズが飛びのいてしまう。

 狙い通り。



 飛びのいたクルムズには、桜花がぴったりと付いていた。

 空中にいるクルムズに、今度は下からの斬り上げを放つ。

 今度こそ、胴体を深く切り裂く事が出来た。



 すぐに桜花は振り向くと叫んだ。

火炎球(ファイア・ボール)の準備をして!」

「分かりました。撃たれてから撃ちますよ!」

「MPが空になるまで、盛大によろしくね!」

 後ろに下がったジンは、剣を仕舞うと背負っていた魔導杖を取り出して、遮断板を解除した。



   ***



「コウ!」

 ツヴォイが先を走るコウを呼び、視線を合わせる。

 意図をくみ取ったコウが足をゆるめると、ツヴォイとの位置を入れ替えた。

 

 

「あの柔らかそうな尻を狙うぞ! 後ろからぶっさせ!」

「……ツヴォ、変態」

「ぬぉい! そういう場面じゃないだろ!? シリアスにいけよな!」

 そんな事を言っている間にも、ジョバンの背後に回った二人は真っ直ぐに走り込んでいく。

 ジョバンの方はカミナに気をとられていて、二人には気が付く素振りもなかった。



   ***



 子爵の男は、舌打ちをする。

 折角数が揃ったクルムズの半数が、攻撃を緩めていた。

「おい、貴様の眷属(けんぞく)が動きを止めているぞ。まともに戦わせろ」

 つぶやくように意志を送れば、ジョバンが一瞬動きを止めて耳を傾けたのが分かった。しかし、その隙にカミナの剣が胴体を斬りつけた。痛みに、大きくジョバンが後退する。

 少しだけクルムズの動きが良くなったが、相変わらず思い通りにならない。



「おい、そろそろ弓で狙えるだろ。貴様らも働け」

 苛立ちまぎれに言えば、慌てた様に行商人が攻撃を命令していた。

 子爵の男が背後に目配せすると、直属の4人の部下が右手を胸の前に持って来て軽くお辞儀をする。そして、それぞれの狙撃位置に着いて行った。



「鬼神、ホムンクルスの肉体も手に入れる事が出来れば……」

 欲目に本音がこぼれる。

 ホムンクルスの完成体。

 今までは古の遺跡にその残骸だけが確認されていたが、どこの国も復元には成功しなかった。



 それが突然、50数年前の滅びようとしていた魔界隣接国で復元に成功した。

 その国は一度滅びたものの、【始まりの勇者】と呼ばれるようになったホムンクルスの圧倒的な戦力を背景に、(わず)か2年で魔界を侵攻前の段階まで押し戻した。



 あれから半世紀、あらゆる国の諜報員が魔界隣接国の五カ国で活動を繰り広げていたが、そこで手に入った情報は、どれも不完全な失敗作の製造方法だけだった。

 どこかに、ホムンクルスの完成体を量産する技術があるはずにも関わらず、誰もそれを手に入れる事が出来ないままになる。



 【神野庁(じんやちょう)】という名前だけが存在する秘密結社が、残されたホムンクルスを支配下に治めている事は分かっていた。しかし、その組織に触れようとする端から、諜報員が忽然(こつぜん)と姿を消す事例が後を絶たなかった。

 気が付けば、神と(あが)められるようになったホムンクルスの完成体。

 34年前には、突如空中に巨大な城が浮かぶようになっていた。



 ――あれは、古の神々の御業(みわざ)だ。

 ――神の(ふところ)を探ろうとするなど、そんな事をすれば命が幾らあっても足らない。



 そんな声が、国内の重鎮(じゅうちん)からも出る様になる。

 それでも、絶大な戦力となるホムンクルスの技術を(あきら)めるには早すぎると、神野庁の空中神殿を攻めようとする動は人界各国に残っていた。

 どこぞの国の公爵家が保有していた、飛竜騎兵隊が壊滅した。

 その噂が流れたのを最後に、誰も空中神殿を攻める事をやめてしまった。



 少なくとも、その頃には20年以上も魔界側にしか興味を示していない、魔界隣接国の動きと、あれ以来一体も増えないホムンクルスの完成体。中央の国々は、怪しげな魔界隣接国に喧嘩を売るのに消極的になってきた。

 60年前、魔界隣接国が遺跡から保存状態の良いホムンクルスを手に入れていたと言う噂。

 失敗作の情報ばかり持ち帰ってくる諜報員。



 ――量産技術など、そもそも存在しないのではないのか?



「我が父、我が祖父の悲願。馬鹿にした奴らに本物を叩きつけてやれる」

 度重なる諜報員の喪失(そうしつ)と、役に立たない情報しか手に入れられない役立たずと(ののし)られた男の人生、一族の汚名を晴らすチャンスが今目の前にあった。



「ふはは……。量産技術がないだと?」

 戦う勇者達を見ながら、男はニヤつく顔を抑えられなかった。

 嘘つきと(ののし)られた祖父。

 逆賊と打ちすえられた父。

「有ったではないか。ここに、有るではないか!」



 過去には、軍団を以てしても歯が立たないと言われていた【始まりの勇者】も、今では格段に力を(おとろ)えさせている。

 今こそが絶好の機会だった。



 現状の情報では、新型の勇者は数百体を軽く超えると言われている。

 しかし、同時にその能力はオリジナルよりずっと低い劣化版。

 出来るなら、ジョバンと戦っているあのオリジナルの個体が欲しかった。



 王爵(おうしゃく)家に功績が認められば、場合によっては爵位の昇格も夢ではない。

 今でこそ、私設軍隊などと名ばかりの10名にも満たない私兵も、再びの増強を(はか)れるだろう。

 このまま名実ともに没落する積りは、毛頭なかった。



 愉悦(ゆえつ)(ひた)り始めていた男の視界に、妙な動きをする勇者が二体見える。

 集団から外れてどこかへ向かって行く。

 その先には、カミナと戦っているジョバンがいるが、 完全に背後をとられていた。

「しまった、後ろだ! 避けろ!!」



   ***



「いけ、コウ!」

 ジョバンの背後をとると、ツヴォイが軽く背を曲げた。

 そこに、走り込んできたコウが踏み台にするとともに、肩に足をかける。

 ツヴォイが伸びあがると同時に、更にコウが踏み出す。

「だぁああぁ!」

 自身を砲弾と化したコウが、気合と共に剣を突き出した。



 完全な不意打ちに、コウの剣が深々とコブに突き刺さろうとした時、突然ジョバンが旋回する。

 それでも、剣は側面に浅く突き刺さる。

 中心は(とら)えられなかったが、やはりコブは柔らかい。



「わっ!」

 剣が突き刺さったまま一気に体を回されて、コウは剣ごと振り飛ばされた。

「コウ!」

 ツヴォイが飛ばされたコウを目で追うより早く、別の声が降ってくる。

「ナイス、援護だ!」

 背後を振り向こうとしたジョバンに、カミナが側面から飛び上がった。

 ジョバンの背に足を掛ければ、コブに向かって剣を振りかぶる。

 赤黒い血を流しながらも、コブに生えた腕がカミナの方に広げられた。



「悪あがきを!」

 カミナが剣を一閃させれば、生成されたばかりの魔法障壁(マナ・エンゲル)を割り砕くと同時に、水斬りが片腕を斬り飛ばしていた。

 そして、さらに一歩踏み込み、止めの剣を振り上げる。

「っ!」



 その迷いは一瞬だった。

 矢が、狙い澄ましたように飛んできていた。

 勇者の体なら、矢の一本や二本受けた所で戦い続ける事は出来る。

ならばと、無視して斬りかかろうと思ったその時、その矢が通常とは違う形状だと気が付く。

飛びのくべきか? しかし、ジョバンの隙を何度もつけるとは限らない。

 戦いが長引けば、魔力量に不安のあるカミナにとって厳しい。



 二度三度の迷いが、カミナに片方の矢しか斬り払う時間しか与えなかった。

「くっ!」

 左腕に矢が突き刺さる。

 その矢には何か筒状のものが付いていた。

 爆薬かなにかかと判断したカミナは、左腕を(あきら)めて、即座に右腕で頭部を(かば)う。

 しかし、襲ってきたのは別の現象だった。



「あっ……!? がぁぁあ!」

 体を駆け(めぐ)る激痛と共に、急激にMPが吸いとられる。

 矢から吹き出ている青白い光は、吸いとられた霊象(マナ)そのものだ。

「こ……んなものをっ!」

 引き抜こうと腕を伸ばしたが、MPが枯渇(こかつ)すれば今度は魔力まで吸い出し始めた。

 右手から剣がこぼれ落ちる。

「んぁぁぁ……!」

 急激に力が抜けてしまい、足を踏み外してジョバンの背から落ちていく。



 こんな武器、普通の戦争では絶対に使われない。

 魔力を動力源として、霊象(マナ)に変換、励起(れいき)させる事で戦う勇者に対抗する為だけの兵器だった。



 油断していた。

 自身の力に(おご)っていた。

 大勢の勇者を指揮する事で、その武力に()いしれていた。

 こんな、魔界との境界線まで出てきて工作をする奴らが、勇者への対策を魔物だけしか用意していないと決めつけていたのが間違いだった。



 人間を、甘く見ていた。



 カミナは、何とか矢を引き抜こうとするが、地面に体を打ち付け、闇に落ちていく意識を(たも)てなかった。

 後悔と、懺悔(ざんげ)だけが後に残ってゆく。



 どうして、もっと上手くやれなかったんだろうか、と。

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