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第十二話 お友達の作り方

 昼前の新規クエストは、最近は慣れて来た魔物討伐(とうばつ)

 毎日のように、村の周辺でカミナの結界(レーダー)に掛かった魔物を狩って回るクエストだ。

 早め早めに倒しておけば、うっかり村人と魔物が遭遇(そうぐう)する危険を減らせる。

 先日の襲撃で、それでも重軽傷者を出した村人たちを考えれば、徹底して魔物を狩りたいという気持ちは、勇者達の中で広がりつつあった。



「たあぁぁ!」

 林を()け抜けたコウは、目の前に見えて来た【ブラスト・ボア】にまっすぐ突撃していった。

 相変わらず、(ボア)という名前のくせに、見た目は四本脚のキノコだ。

 しかし、柔らかさは一切ない、一メートル以上の体は剛毛に覆われた筋肉質なキノコ。

 もう、毎回の事ながら気色悪い。



 そして、そのキノコは今までの魔物とは戦い方が違う。

 突進するコウに気が付いたブラスト・ボアが振り向いてくる。

 四面のどこが正面なのかさっぱり分からないが、歩いたり攻撃してくる時にはどこかに正面がある。何度か戦えば、動きから判断できるようになっていた。

 そして、わざわざ背後をとった理由が、ブラスト・ボアの目の前で赤く輝く。



 コウが構えたダクタイル・シールドの目の前で、突然爆発が起きた。

 激しい衝撃と音が襲ってくるが、緑色の透明な光、盾の魔力障壁(マナ・エンゲル)が発動。衝撃と共に熱ダメージを防いでくれた。

「んなあ!」

 ただよう炎の余韻(よいん)を突き(やぶ)って、コウがさらに前に出る。

 次の爆炎撃(ファイア・ブラスト)まで十秒前後。

 その前に肉薄すれば撃たれない。



「たあぁ!」

 突き出したショートソードに速度を乗せて、激突するように刺し貫く。

 しかし、狙いがそれて浅い。

 密着したブラスト・ボアの頭上に、小さな火の球が生まれた。

 十個近くもの火弾(ファイア・ビット)が発動している。


 それを見たコウは慌てて地面を蹴ると、後ろに飛ぶ。

 そして、すぐさましゃがみ盾を構えた。

 直後に襲ってきた火弾(ファイア・ビット)が、魔力障壁(マナ・エンゲル)に当たる破裂音。

 立て続けに降ってくる衝撃は、緑色の欠片と砕けた炎が混ざり合う。



 ダクタイル・シールド自体は直径60cmと、コウを覆うには小さいが、発生する魔力障壁(マナ・エンゲル)は一回り大きく、火弾(ファイア・ビット)程度ならほぼ確実に防げる。

 盾本体に直撃しなかった火弾(ファイア・ビット)は、魔力障壁(マナ・エンゲル)干渉域(かんしょういき)に押し出されて()れてゆき、近くの木に当たれば十センチ大に(えぐ)っていた。

 生身で食らえばシャレにならないだろう。

 

 

 火弾(ファイア・ビット)が止んだと思った瞬間に、コウは一気に前に飛び出す。

 ブラスト・ボアが距離を取ろうと後ろ向きに走っているが、ただでさえ足が遅い魔物だ。よたよたと不器用に逃げている。

 爆炎撃(ファイア・ブラスト)が撃てる距離までは下がらせない。

 コウの剣の腕では、出来れば突き刺したほうが確実にダメージを与えられる。

 しかし、よたよたとキノコの胴体が()れるせいで、先ほどよりも狙いにくい。



 コウは狙いを変えると、剣を振りかぶりブラスト・ボアの前足を斬り付けた。

 なんとか剛毛を断ち切り、その下の肉にまで刃が通る。

 ブラスト・ボアが、生木の焼けるような甲高い鳴き声を出すと、足を止めた。

 直後、キノコの頭上にまた火弾(ファイア・ビット)が生成される。

 しかし、今度は3つしかない。

 

 

 これなら避けられると、撃ち出される直前にコウは左に飛ぶ。

 狙いを外した火弾(ファイア・ビット)が地面に弾けてゆく。



 コウは避けた勢いで体を反転させると、剣を持った右腕を抱えるように引き(しぼ)る。

 そして、体を回転させながらショートソードを振りぬいた。

「うなぁ!」

 くぐもった斬撃音と共に、今度こそブラスト・ボアの右前足を断ち斬った。

 キノコが鳴き声と共に倒れこめば、絶好の機会。



 急いで二歩後ろに下がると、わずかでも助走(じょそう)をつける。

 そして、全力で踏み切って飛び上がった。

「あぁぁ!」

 落下する体重を右腕に乗せて、渾身(こんしん)の力で振り下ろす。



 まるでゴムの(かたまり)でも斬っているような感触と共に、剣がブラスト・ボアの胴体に沈む。

 だというのに、まだ足をバタバタさせてHPも二割残っている。

 動物としての耐久力を無視した魔物は、やたらに丈夫だ。



「しぶとい……」

 コウの悪態と共に、ブラスト・ボアの目の前で一際強い赤い魔光が輝き出す。

「!?」

 コウは一気に顔を青ざめさせた。

 この輝きは、爆炎撃(ファイア・ブラスト)だ。

 ブラスト・ボアは自爆覚悟で、至近距離の発動をさせるつもりだろう。

 

 コウは慌てて剣を引き抜き、再び剣を振り下ろした。

 しかし、まだ倒せない。

 さらに斬りつける。

 撃たれる前に、トドメを。

 何度も何度も、追い立てられるようにコウは剣を全力で振り下ろした。



 赤い魔光が消えた時、ブラスト・ボアの胴体はズタズタになっていた。

 それでも安心できず、コウはもう一度剣を振り上げる。

 白く粘つく体液が、剣にまとわり付いている。

 剣を振り落せば、盛大に体液をまき散らしながら、ブラスト・ボアの胴体が両断された。



「はぁ、はぁ……」

 キノコの石づきではなくて、足付きを切り離したコウはやっと一息つく。

 クエストの効率を上げるために、今日はツヴォイと別々の魔物に挑んだが、予想以上に危なかった。

 ツヴォイが居れば、ブラスト・ボアはなんかもっと早く仕留められたはずだった。



「そっちも終わったのか」

 声に振り向けば、ワイルドシープを背中に(かつ)いだツヴォイが歩いてくる。

「うわ……、コウ、すごい事になってんな」

「……」

 言われて見てみれば、顔と体と言わず、全身ブラスト・ボアの体液で汚れていた。

 べっとりと。



「…………」



「まてまてまて、こっちに近寄ろうとするな」

「つヴぉ……」

 コウが困った顔をするが、ツヴォイだって弱ってしまう。

 生臭いままのコウでは可哀想(かわいそう)だが、ここからだと村に行かなきゃ洗い流す事もできない。

 

 

「そ、そもそも、なんで今日はバラバラ事件やってんだよ……」

 (とど)めを刺すだけなら、何も真っ二つにしなくてもよかっただろうにと、ツヴォイは(あわ)れなキノコを見た。

「だって、意外に強かったから」

 その言葉に、あぁ……とツヴォイも納得する。

「怖かった?」

 黙ってコウがうなずく。



「そか。じゃぁ、やっぱり次からは一緒に狩ろう」

「でも、ツヴォは魔法避けれない」

 コウよりは体格が良いツヴォイでは火弾(ファイア・ビット)の攻撃を防ぎきれないと、心配そうに言う。

「大丈夫だよ。レベルも上がってHPも伸びたし」

 とは言ったが、数値上のステータス変化はあっても、体感としてはそこまで劇的な感じはない。どちらかと言うと、戦い方そのものに慣れてきた事の方が大きいかも知れない。



「けど、二週間で8レベルか。やたら伸びないよな」

「あ、経験値()まった」

 コウの視界左上にあるHP・MPバーの下に、【Lv.up】のアイコンが浮かんでいた。

「おぉ、じゃぁ村役場に戻ったら9レベルか。おめー」

「ありー」

 やはり、6~8レベルしかないワイルド・シープと違い、11レベル以上あるブラスト・ボアの方が経験値も良いらしく、コウの方が一足先にレベルアップした様だ。



 ツヴォイは背負っていたワイルドシープを下すと、持ってきたロープで下手くそにブラスト・ボアを(しば)り上げていく。

 きちんとした(しば)り方は村人から習ったのに、また忘れてしまっていた。

「ありがとう」

「けど、(かつ)ぐのはよろしく」

「むぅ……」

 まだ白い体液をしたたらせるブラスト・ボアを(かつ)げば、ツヴォイまで汚れてしまう。

 そこは、すでにベトベトなコウに(まか)せたかった。





 強制召喚勇者達が、再び討伐(とうばつ)クエストを受ける様になってから一週間が経過していた。

 その間、誰もリアルには帰らなかった。

 桜花(おうか)の話が、島流し勇者達の心に突き刺さっていたからだ。

 自分達が逃げ帰れば、また役立たずのクズで、人間とは認められなくなる。

 そう誰もが恐れて(ぬぐ)えない未来予測。



 けれど、こちらに居る限り、勇者達は戦力として重宝(ちょうほう)される。

 それがどうしても心地よかった。

 例え、勇者仲間のグロテスクな大破を目の当たりにして、心が(きし)みを上げても。

 

 

 あれ以来、勇者側とカミナとの間で一つの約束が交わされた。

 討伐(とうばつ)クエストには兵士を含む村人は連れて行かない。

 道案内が必要な場合や、レベルの低い勇者の育成の必要がある時だけ、少数の同行に限定する。

 

 

 作り物めいた勇者の体が壊れるだけで苦しむ様な状況で、無暗にリアルな村人が重傷を負う様な光景は、とても耐えられる自身がなかったからだ。

 ツヴォイを含め、それを見た数人の勇者達が強く主張して決められていた。

 特に、HPポーションは勇者にしか効果がない。

 村人の手当てを行う事が、勇者たちには不可能だった。



「さて、戻るか」

「うん」

 視界右上の近距離レーダーには、魔物の反応になる赤い光点はなかった。

 クエスト目標は二体だけだったので、これで終わりだろう。

 ただ、その代わりに青い反応がある。

 他のプレイヤーだ。



 そちらを見れば、木の陰に隠れてこちらを見ている勇者が居た。

 確かに上手く隠れているが、レーダーあるのでまるで意味がない。



「なんなんだ、あいつ……。最近、ちょくちょくストーカーしてくるよな」

 ツヴォイが小声でコウに言う。

 見ない顔ではなかった。

 互いにあまり口を利かない勇者達なので、いまだに名前は知らなかった。



「ねぇ、話しかけてきて?」

「うぇ、何で俺が。自分で行けよ……」

「むぅ」

 コウは難しい顔をして悩む。



 別にストーカーされても困る事は何もないが、どうして後を付けているのかは気になる。

「言いたいことがあるなら、ちゃんと会って言えばいいのに」

「じゃぁ、面と向かってよろしく」

「えー」

 抗議の視線をコウが向けてくるが、ツヴォイは無視する。



「じゃ、じゃぁ、わかった! わたしが攻めるから、ツヴォはタゲ持ちね!」

「はいよー……ん? タゲ?」

 なぜここで戦闘時みたいに、モンスターのターゲットを背負うと言う話になるのだろうか。ツヴォイが言葉と共に向き直った時には、コウは既に(やぶ)の中に消えていた。



 足元にブラスト・ボアを置き去りにして。

 ――これは、押し付けられたのか?



 ツヴォイはワイルドシープを担ぎ上げると、右手でブラスト・ボアを持ち上げた。

 レベルアップで貰えるステータスのボーナスは【力】重視で振っているが、流石に二匹は重い。

 ゆっくり歩き始めれば、ストーカー勇者も距離をあけて一緒に付いて来ていた。



 もしかしなくても、あれはネットゲーム初心者だなとツヴォイは思う。

 視界端の近距離レーダーは、慣れないとよく存在を忘れたり見落としたりする。

 きっと、ストーカー勇者本人の中ではレーダーのギリギリ圏外に居るつもりなのだろう。

 

 

 (ハイ)なネットゲーマーだったコウは、既にツヴォイのレーダーからも見えなくなっていた。

 きっちり大回りして、ストーカー勇者の背後に回っているのだろう。

 ドウデモ良い事にご苦労な事だった。



 (しばら)く歩いていると、ツヴォイのレーダーに新しい青色の光点が入った。

 直後にストーカー勇者の光点と重なる。

 どうやら、奇襲攻撃に成功したらしい。



「ん? あれ……ぉぃ」

 しかし、その重なった青い光点はそのまま速度を落とさずツヴォイの方へ向かって来ていた。

「うぁ、めんどくせ。連れてくんなよ、自分で話付けろよ……」

 しかし、魔物二匹担いで走るのは無理なので、(あきら)めて荷物を地面に下ろした。

 少し、ブラスト・ボアの体液がついてしまい、うんざりする。



 待つこともなく、すぐにコウの姿が林の中から出て来る。

「離して! 人さらい! ヘンタイ! 犯罪者!」

 コウに背後から抱きかかえられたオマケ付きで。

「それだけ大胆(だいたん)なアタック出来るなら、普通に会話すればいいじゃん……か」

 立ち止まったコウの顔を見て、ツヴォイは一瞬絶句(ぜっく)してしまった。



 見開かれたコウの目は焦りに恐慌(きょうこう)寸前。

 全力で抱きかかえる腕に(しぼ)られて、ストーカー勇者が苦しそうな声を上げていた。

 コウは明らかに、現状に(おそ)れおののいている。

「そんなに怖いなら、何で奇襲しようと思ったんだよ!」

 思わず叫んでしまったツヴォイに、コウが必死の表情を向けて来た。



「だって! 捕まえないと会話できないと思ったから! 仕方ないじゃん! これしか、わたしには道が残されてなかったの!」



「お前は極端なんだよ! もっとこう、優しく話しかければいいじゃんか!」

「じゃぁ、ツヴォは(ほとん)ど知らない女の子にいきなり声かけられるの!?」

「お、お前、それは、今のこれとは、話が違うだろ……」

「自分に出来ない事を、わたしに求めないでよ!」

「だからって、背後から拉致(らち)してくる方が変だろ! てか、よく平気で出来たな!」

「へ、平気な、わけ、ないでしょっ!?」



 目に涙を溜めはじめたコウを見て、ツヴォイは言葉を止める。

 コウが必死過ぎて、もう、どこから訂正(ていせい)してやればいいのか分からなかった。

「お、おねがい……ぐるぢい」

 コウの腕の中で、ストーカー勇者がぐったりし始めていた。



   ***



「うぅ、臭い。この白いの何なのよ」

「ご、ごめんなさい……」

「いいよ、気にしないで」

 結局、ストーカー勇者も一緒に、村役場の中まで来ていた。

 狩った魔物は、ここで引き渡してお金に変える。

 

 

「お疲れ様です。こちらが、報酬(ほうしゅう)です」

 クエスト係の女性職員が、木のお皿に硬貨を乗せてカウンターに出した。

 お皿の中には、大きいペネロペ銀貨が八枚と、小粒のオルタリス銀貨が八枚入っていた。オルタリス銀貨は四枚でペネロペ銀貨一枚分になる。

 ペネロペ銀貨は一枚で二千円ぐらいの価値だろうか? とツヴォイは何となく目安としていた。3時間程で2万円分と考えれば、かなりおいしい仕事だ。

 ゲーム内だけの通貨だと思えば、喜びも消え失せてしまうが。



 ふと見れば革エプロンをかけた男性職員が、今ツヴォイ達の運んできたワイルドシープと、ブラスト・ボアを隣の部屋へと運んでいった。

「前から思ってたんだけど、モンスターの死骸(しがい)ってどうすんですか?」

 ツヴォイが聞けば、意外そうな顔をして受付の女性職員が答える。



「解体して皮や魔晶石を取るんですよ? ワイルドシープはお肉が沢山取れるから助かります」



「「「えっ!?」」」



 にこやかな女性職員の言葉に、三人は固まってしまう。

 じゃぁ、今まで何度となく村役場や食堂で食べたお肉は、何のお肉だったのか?

 言われてみれば、羊肉っぽいのや、他勇者がイノシシっぽいと評するお肉を食べてきていた。

 魔物には、羊に似ていないのにワイルド・シープと言う名前の奴や、見た目キノコなのにブラスト・ボアと言う奴がいる。



「わたしは、魚が好き……」

 コウがぽつりとつぶやく。

「アタシは、次から鶏肉にしてもらう……」

「牛、せめて豚はないのか?!」


「?」

 女性職員の無邪気な笑顔だけが残った。



 コウが、少し高い位置にあるカウンターに手を伸ばそうとしたが、べたべたな自分の手を見て迷っている。

「あぁ、いいよ。受け取っておくから、コウたちは風呂、は今はカラか。川で体洗って来いよ」

「うん。わかった。(のぞ)きにくる?」

 またコイツは、さらっと変なことを言ってくる。そういう冗談は他に人がいない時にしてほしいと、ツヴォイは思った。

 特に、他の女性の前で言う事じゃない。

 

 

 ストーカーな黒髪が長い少女勇者を見ると、ぎょっとした表情をされた。

「な、なんで、アタシを見るのよ! (のぞ)きに来たら、斬り飛ばすわよ!」

「ちげーよ! てか、ストーカーなお前に言われたくない!」

「す、ストーカー!? 女の子を無理やりさらってきた変態がよく言う!」

 その言葉に、驚きの声が周囲の勇者や職員たちからもれ聞こえてきて、ツヴォイは慌てて周囲を見た。

 ヒソヒソと話す人もいて、明らかに誤解されている。



「まてまて、完全な()(きぬ)だろ! さらったのはコウで、俺じゃない!」

「ふん、どうだか。コウ、あなたが私をさらおうって決めたの?」

 突然ふられた言葉に、コウが深く考えずに事実を口にする。

「ツヴォに、自分で行けって言われた」

「お、おま! なぜ、ここでソコをチョイスしたし!?」

「ほら見ろ、犯罪者め!」

「違う! これは、なんかの間違いだ!」

「犯人はみんなそういうのよ」



 (しゃべ)れば(しゃべ)るほどドツボに(はま)っていくツヴォイは、その場に(くず)れ落ちた。

「もうヤメテ。……俺のライフはゼロだ」

「変態の人生(ライフ)なんか、無に帰れ!」

 挫折(ざせつ)しているツヴォイの前に、コウがしゃがみ込む。

 少し、不安そうな顔をしていた。



「ツヴォ……やっぱり、一緒に来てくれないの?」

 軽くため息をつくと、ツヴォイは優しく返した。

「今は昼間だろ。一人でも大丈夫だから。すぐに着替えもって行くから」

 いつもの事をコウに伝える。

 と、シャラリと金属音がなる。

 そして、突きつけられる剣先。



「着替えをもって脱衣所で、ラッキースケベとか考えているなら、今すぐ介錯(かいしゃく)してあげるわよ」

 先ほどが怒っている目とすれば、これはマジな目だった。

「ははは……そりゃ、アニメの見すぎだって。リアルでそんな事あるわけないだろ。入る前にきちんと声を掛ければ、だいじょう……」

 ペタリと、剣の腹がツヴォイの(ほほ)にふれる。

「脱衣所には、アタシの、服が、あるでしょ!」



 三人で、川の横にある洗い小屋まで行った。

 先にコウの着替えを置いて、ツヴォイは追い出される。



   ***



「またね、コウ」

 さっぱりした後、ストーカー勇者は手を振って去って行った。

「で、結局なんて名前だったんだ?」

「えっ!?」

 予想外な事を聞かれたと、コウが驚きの表情を向けてきた。

「……ストーカーの理由は聞いた?」

「…………」

 沈黙をもって、コウが否定していた。



 過ぎた事は仕方ないと、ツヴォイは思考をズラす。

「お話は、出来た?」

「うん……。いい人だったよ」

 ほのかに、コウが微笑んでいた。

「そか、なら良かった」

 コウが他人と言葉を交わせるだけでも、大きな収穫だなとツヴォイには思えた。

 泣き叫んでいるコウも好きだったが、楽しそうな表情も偶にはいいかなと思う。


 二人の心は、深くいびつに、今日もいつも通り病んでいる。

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