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第九話 開拓村防衛戦

 村の外周に広がる畑、その先には草原と森の境がある。

 静かだった。

 森の入り口から距離を取り、それを(にら)んで兵士と村人達は隊列を組んでいる。



 前面には地面に立て掛けられる木製の置き盾を並べ、その後ろに弓を持った兵士が二五名。その両サイドには魔導杖を持った魔術師が五名ずつ。どの兵士も高い練度と上質な装備を持ち、村の規模に対しては不釣り合いなほどの精鋭だ。

 兵隊より少し下がった所に、近接武器と簡素な鎧を着こんだ村人達が四十人程がいる。



 そんな彼らの前面中央にカミナは腕を組んで待ち構えていた。

「来たな」

 カミナの視界右上に映っている結界情報レーダーには、魔物の群れとなる多数の赤い光点が見えていた。

 その言葉に続いて、森の中から実際に赤い影が湧いてくる。

 距離がある為まだはっきりと姿は見えないが、走る速度は人よりもずっと早い。



 魔物の群れを確認した部隊長が、構えの号令をかける。

 弓を持った兵が一斉に矢をつがえて、引き(しぼ)ってゆく。

 弓の射程にある程度の数の魔物が出て来た。


「放てっ!」


 矢が一斉に空を(はし)る。

 

 

 一度に投射出来る数はわずか25本。

 散らばっている魔物に向かって降り注ぐが、命中はごくわずかだった。

 次々に矢を放つがあまり効果的な打撃には至っていない。


 しぶとい魔物は受けた弓を生やしながらも、足を速めて突進してくる。

 カミナのレーダーでグレーアウトした魔物は六匹。残りはまだ40匹以上いる。



「クルムズがこんな所まで」

 魔物の姿を確認した隊長がつぶやく。

 普段は魔界からはあまり出てこない、非常に攻撃的な魔物だ。

 レベル十代の中では、相手にしたくない厄介(やっかい)な奴だった。



 赤い四本脚の魔物は、その細い胴体をしならせる様に走って来る。

 見た目は頭部のない犬のようだが、毛並はなく代わりに甲殻こうかくの様なもので覆われている。

 長く鋭い爪を持ち、自在に動く尾は胴体と同じ太さで先が鋭い。


 ワイルドシープの様な魔物なら村人でも十分に対応できるが、クルムズ相手では死人を覚悟するしかなかった。



 弓矢をかいくぐってきた赤い魔物に、突然、一直線の閃光が突き刺さる。

 走っていた一体が撃ち抜かれて、地面を転がるように(くず)れ落ちた。



「結構残りますね……」

 緊張した声で隊長が言う。


 魔術師が雷撃魔法を撃っているが、一点攻撃に優れた雷撃では、距離があるうえに胴体が細く、動きの素早いクルムズを(とら)えきれず苦戦していた。



 雷の法撃をすり抜けた魔物に対しては、攻撃範囲も威力も高い火炎魔法が放物線をえがきながら降り注いでいく。

 灼熱(しゃくねつ)し爆発力を抱えた火球は、クルムズに直撃しなくとも着弾すれば周囲の地面ごと吹き飛ばした。

 次々に土くれ共々、数匹のクルムズが爆砕され千切(ちぎ)れ飛んでいく。

 先ほどまでとは違い、あっという間に八匹を仕留(しと)めた。

 しかし、魔法攻撃はすぐに止み、魔術師たちが大急ぎで後退していく。



 火炎弾の降り注いだ場所には土煙が立ち込め、とてもクルムズを見分ける事が出来なくなっていた。火炎弾による法撃は威力と範囲がある反面、弓よりも射程が短く一気に視界が失われて継続(けいぞく)した攻撃が行えない。

 絶えず矢を放っていた兵士たちも目標が見えなくなると弓を仕舞いはじめる。



 あとは、近接戦闘で迎え撃つだけだ。

 最も死傷率が高い、殴り合いの戦場に村人の多くを巻き込むことになった。

 カミナは唇を噛むと、覚悟をもって口を開く。



「全隊、抜剣(ばっけん)!」

 カミナも号令と共に、自身の長剣を抜き放つ。

 この剣で()ぎ払えば、クルムズ程度の小型の魔物は一撃で仕留められるだろう。

 しかし、一人しかいないカミナに、30匹近くは生き残っているクルムズを一度に食い止める事は出来ない。

 クルムズ五匹を仕留める間に、村人が何人死ぬか。


 何度やっても嫌な戦い方しか、この世界には残されていなかった。

 兵士達も全員が剣と槍を構え、村人たちと合わせて六十人程の歩兵が戦闘準備を整えていく。



「まって!」

 その声に、カミナは(ほお)が緩むのを(こら)えられなかった。

 一度、目をつぶり緩んだ頬を引き()めなおす。

 カミナが威厳(いげん)を取り戻した顔で振り向いた先には、コウ達勇者がそろっていた。


「君達……、やれるか?」

「任せろ!」


 いつになく力の入ったツヴォイの声と、意志を宿したコウの(うなず)き。

 そして、後ろに続いてきた勇敢な若者達。

 負傷によりその数を減らしながらも、十一人が居る。

 それが今動ける全員であり、先ほどまでの凄惨(せいさん)な光景に(すく)みあがっていた連中でもある。



 まだ目に迷う者もいる。(おび)えを隠し切れない者もいる

 けれど、彼らは皆ここに来た。

 なぜ来た?

 臆病(おくびょう)で逃げてばかりの彼らは、ついに閉じ込められたこの世界で、一体何が変わった?



 けれど、カミナはコウの目を見て理解する。

 彼らも何も変わっていない。

 ただ優しい子達なんだ、と。



 今までは無力に打ちひしがれているだけだった。

 それが、借り物であっても、今の彼らには誰かを守る力がある。

 自分が逃げれば、それで失われる命がある事を感じ取ったのだろう。



「出来る事が、見つかったようだな……」

 カミナは笑うと、時間を()しんで気持ちを切り替えた。

「君達の心に、感謝する!」

 カミナの声が、自信のない勇者達に届く。



「これが始まりの戦いだ! 君達は、これからもっと強くなる! その力、存分に振るってみせてくれ!」

 誰一人として声を上げる者は居なかった。しかし、今度こそ覚悟を決めた視線が静かに帰って来ていた。


「魔物などどれ程のモノか! さあ、()こうぞ!」


 (きびす)を返したカミナは、視線で隊長に伝えると一気に走り出した。

 慌てて勇者達が続くが、カミナはいっそう引き離すように加速していく。

 そして、真っ先に魔物の群れに突撃していった。







 両腕で振りかぶった大剣が青白い魔光を引きながら、先頭の一匹に叩き込まれる。

 長大な重量と乗せられた速度が、クルムズの足を巻き込みながら胴体ごと両断していった。

 バラバラになったクルムズが、舞うように落ちていく。



 たかだかレベル14の雑魚だが、正直後ろの勇者達には荷が重い相手だろう。

 出来る限り数を減らしたい。

 即座にカミナに飛びかかって来た一匹がいる。

 普通ならかわした後、再度大剣を振り下ろすところだが、今は時間が惜しかった。


「おおぉぉお!」


 カミナは大剣から右手だけを離すと、クルムズの振り下ろしてくる爪を小手で防ぎながらクルムズの腕をつかみ取る。

 そして、クルムズの方を振り回して、切っ先を地面に付けた大剣上に叩きつけた。

 強引な攻撃だろうと、カミナの力がクルムズの細い胴体を破壊していく。

 

 

 倒したクルムズを捨てると、すぐさまカミナは次の標的に走り込む。

 よそ見をしていた一匹を横から刺し貫く。

 と、それは振りかぶって放り投げるように捨てる。

 

 

 さらに左手から走り込んできた二匹のクルムズ。

 振り向きざまの一撃は跳ね上げる様に一匹目を斬り裂きながら、直線上の二匹目は間合いの外だが、そこに青白い斬撃が(はし)りる。

 地面を蹴って走っていた二匹目のクルムズは、避ける間もなく超高圧の水壁に切断されていった。

 

 

 旧式とは言え、カミナの体も五十年前の始まりの一体だ。

 この程度に後れを取ったりはしない。

「っ!」

 しかし、五匹を片づけている間に、他のクルムズはカミナの横を通り過ぎて勇者達に殺到(さっとう)していった。



 カミナも彼らの元へ駆け寄ろうかとも思ったが、視界の右上に見えるレーダーに気が付き、すぐさま森の方へ視線を向ける。

 森の木々が割れ(くだ)ける音が響いてくる。

 木の葉が舞い、木立(こだち)をまき散らしながら出てきた大きな姿を確認すると、カミナは勇者達に背を向けた。



 巨大な魔物へ大剣の切っ先を向ける。

「言っておくが、私は怒っている」

 よくも、かわいい大切な後輩たちを痛めつけてくれた、と。


「斬り(きざ)んでやる!」

 獰猛(どうもう)に歯をむき出して宣言した。

 鎧の遮断版(しゃだんばん)を解除すると一気に魔力が吸い取られ、強化補助魔法が発動する。

 

 カミナは大剣を担ぐと、大型の魔物へ向けて全力で突撃していった。







「ツヴォ! 一匹は無視! 二匹目から!」

「おう!」

 カミナの左右を通り抜けてきた赤い魔物、その一匹に向かってコウは突進していく。剣を正面に構えて、今は盾も左腕に装備されている。



「のあぁあ!」

 叫びながら最初の一匹に突撃したコウは、クルムズの爪を盾で防ぎながら剣を突き出した。

 しかし、剣は細い胴体の側面を滑って外れていく。

 勢い余った体は止めずに、そのままクルムズに激突するに任せて、コウはさらに踏み込んむ。



「だあぁ!」

 弾き飛ばされたのはクルムズだった。

 いくら細身とはいえ、いくら勇者に人並み外れた力があっても、子ども程度のサイズの相手に飛ばされるほど、クルムズは軽くないはずだった。


 コウは更に大地を蹴とばすと、一匹目を無視して駆け抜けた。

 弾き飛ばされ地面に倒れ込んだクルムズには、後からついて来ていた別の勇者が斬りかかっっていく。



「ツヴォ! もう一回! 拾って!」

「こい!」

 コウは踏み出す脚が、大地を深く蹴りだしていくのを感じる。



 この体は遥かに力強い。なのに、常人離れした跳躍(ちょうやく)力も、走る速度も人の域を抜け出せていない。

 今から思えば、ツヴォイの方が先に気が付いていたようだった。

 コウはワイルドシープに体当たりした事で、後から理解した。

 

 

 ワイルドシープのあの身の詰まった体は、少なくとも八十キログラムはあっただろう。普通に考えればコウがぶつかっても、あそこまでワイルドシープを弾き飛ばす事なんて出来るはずがない。

 逆に、体当たりしたコウが弾き飛ばされていなければおかしかった。

 この体は見た目よりずっと重い。

 恐らく、ワイルドシープと同じか、それ以上に。



「お前なんかぁ!」

 駆け抜けたコウは、見事にクルムズを宙に打ち上げていた。

 背を向けながら仰向けに落ちて来るクルムズ。


 ツヴォイは剣を横に大きく引き絞り、そして全力で振りぬいた。

「そこだぁ!」

 タイミングは完璧、狙いも良かった。しかし、一瞬早く体を(ひね)ったクルムズの左足だけを斬り飛ばす。



「しくじった!」

 ツヴォイはコウに聞こえる様に叫ぶと、地面に激突したクルムズに向かって踏み込む。

 とどめとばかりに振りかぶったが、直後飛び込んできた影に慌てて盾を構えた。

 鋭い擦過音と共に、火花が散る。


「新手ぇ!」

「もちこたえて!」


 コウの返事を聞きながらツヴォイが三匹目のクルムズに反撃する。

 斬りかかった剣は予想以上に固い胴体に弾かれた。

 見れば、他の個体より一回り大きい。

 瞬時に見えた敵情報には、【クルムズ・リーダー】の名前が見えていた。

 レベルは、18もある。

 


 視界の端で、片足を失ったクルムズが立ち上がっていく。

 そこに、飛び込むようにコウが剣を振り下ろし、その胴体を両断していった。

 ツヴォイは、すぐさま目の前の敵に視線を戻すと叫んだ。

「コイツ、他と違うぞ! 上位レベルだ!」



 ツヴォイの前に、四本の足で立ちはだかるクルムズは、それだけでコウよりも大きい。

 鈍色に()れる赤い甲殻(こうかく)は、まるで返り血を浴びている様だった。

 どこからともなく風の鳴る音が聞こえる。

 それは目の前のクルムズ・リーダーが(うな)る声。



 どこに口があるかも分からないが、残忍な獰猛(どうもう)さを(はら)んだ恫喝(どうかつ)そのものだった。

 先ほどまでの過熱したツヴォイの意識が、一気に冷や水を浴びせられた。

 力も速度も、防御力までも他のクルムズとは違う。

 リーダークラスの威圧に、思わず呼吸が乱されてしまった。

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