行動に向けて
森の中、ようやく起き出した小動物達の声を聞きながら食事の準備をする。
とはいっても、そんな大したことをするわけじゃねえ。事前に準備しておいた干し肉や保存食といった簡単な物を必要なだけ取り出し、ついでに水袋の水が痛んでいないか確かめる程度。
普段ならたき火で暖めるなり、もしくは携帯用の小鍋を使ってそれなりの料理を作りもするが、今は事情がそれを許さないのが、何ともなぁ。
やっぱ、食事ってのはさ、冷めてちゃ不味いんだよなぁ……。いや、味はあるんだけど何かな……こう、なんか物足りないっていうかなー……
いつもと違う味気ない準備に、ついついため息をこぼしそうになる。追跡相手に気づかれないため、できる限り痕跡を残さないようにという理由は理解できるものの、こういう殺風景な食事が続くのは流石に考え物だ。
「お、今日もまた干し肉かぁ~」
「文句があるなら、別のにするか?」
「別のって、黒くなるまで燻したイモリとかじゃん、絶対やだっ!」
偵察から戻ってきた海が、いつものように騒がしく――とはいえ、その声量はいつもより若干落としてはいるけれど――喚く。火を使わず食べる携帯食料の定番といえば、干し肉や固く焼いたパン、煎り米などもあるが、中でも日持ちがしてかさばらず、なおかつ必要な栄養が取れるとして有名なのが、薫製イモリことイモリの黒焼きだ。
ただし、海の反応からして解るように、その味のほどは言わずと知れる。むしろそこが有名になった理由だったりするとかなんとか。
まあ、実際オレもな……お目にかかったことは数える程度だし、その人も本当の本当の非常用として持ち歩いているだけで、実際食べたことはないとか言ってたからな……それでいいのか非常食。
「まあ冗談はともかく、そっちの首尾は?」
「んー? この辺りを通ったのは確実みたいだね。野営跡があったし」
「他の旅人と間違えてる……って可能性は?」
「こんな辺鄙な場所に、来るはずのない大人数だったよ?」
「適当だなオイ?!」
「じょーだんだってば、失敬な。ちゃんと足跡の大きさとか数とか確認したよ。子供連れの旅人なんてかなり珍しいからね。それに普通の子供なら一カ所にじっとしてるなんてまずないし、足跡の付き方で晶かそうじゃないかは判るさ」
さらりと答える。
海が一人、離れて斥候の真似事のような行動をしていたのは、晶を浚った《穴熊の双腕》の連中の足取りを辿るためだ。
――あの後、オレ達は《穴熊の双腕》の後を追って行動を開始した。
黒が持つ鈴は使用回数に制限があるため極力使わず、替わりにあたりをつけた方角と海の持っていた情報を元におおよその位置を特定、その方向へ移動しつつ痕跡を探すという手法を取った。
ある程度範囲が絞られるとはいえ、普通ならこの程度の情報でこの人数で森の中に残る微かな痕跡を探すのは至難の業だ。
が、そこは何というか……森の中の行動に掛けちゃずば抜けた能力を持つ風と、人の痕跡とかを探すことに長けた海のコンビが遺憾なく能力を発揮したってわけだ。
……つーか、ホントよくやるよこの二人は。そりゃオレと黒が晶を連れて歩いたのを後から追っかけて無理矢理同行してきた前科はあるが、その時は|《空人》(シエロ)はいてもオレや晶が空を飛べるはずもなく、地道に地面の上を歩いて進んでいたから付いてこられるのもまだわかるけどよぉ……
そう、ご丁寧にも《穴熊の双腕》の連中は護送班の構成をほぼ|《空人》(シエロ)にしていたらしい。正確には吊り橋の所で襲撃を仕掛けてきた連中の中にどれだけ|《空人》(シエロ)が含まれていたかはわからねえが、少なくとも晶を連れて拠点へ向け動いている連中は全員で空を飛んで移動できるだけの手段を有しているようだ。
……もちろん、それだってでかい籠を引っ張るだの何だのと、いろいろとやりようはあるので、一概に|《空人》(シエロ)のみで構成されてるたぁ言えねえ訳だが。
ともあれ、だ。
相手は空を飛んで移動している。けれどこっちは飛べるメンバーが少ない。最悪風と黒にオレと海を抱えて飛んでもらうって手段もなくはないが、それはあくまで最終手段だ。おまけに障害物のない空じゃ隠れる場所なんてねぇ、追跡を気取られる確率を下げるためにも、速度は遅くとも森の中を進む選択をした。
それはどうやら相手も同じだったようで、途中の村に立ち寄ったという情報は得られなかった。海の話を信じるのなら、《穴熊の双腕》の狙いは晶が持っている女神の力。似たようなことを考えるモノからの横槍を防ぐためにも、最速で安全地帯に向かっている――ってトコかね。
「この先の塒になってるトコに、ホント晶が居ると思うか?」
「むぅ、ぼくを疑って……ってワケじゃないか。んー、まあ確かに他の拠点に向かうのにいったん立ち寄ったって可能性もゼロじゃないけど、可能性はすごーく低いと思うよ?」
「根拠は?」
「んとね、昨日食料調達と情報収集に近くの村によったよね」
「ああ」
いくら海と風が痕跡を見つけてくるとはいっても、それだけを頼りにするというのはいささか心許ないし、多方向からの情報を集めるのは間違いじゃあない。それにいくら風の猟師としての腕がいいからとは言っても、何時でも獲物を捕ってくる……のは、まあそうなんだが。ともかく。
今回はあまり移動中に火を使うのもよろしくないだろうってことで、しとめたシカを引きずって、ルートと重なった村で作った干し肉の類と交換してもらったんだよな。
「あの時に聞いたんだけどね、最近大量に食料の買い付けにきた人が居たんだって」
「こんな時期にか? 確かにそりゃ珍しいけどよ……」
長い冬を乗り切るために食料を調達するのは珍しくないが、今の季節は春。畑の作物は芽吹き始めたばかりとはいえ、その気になれば木の芽などの山菜、活動し始めた野生動物など食料の調達手段は豊富にある。
だからか、この時期は取引といえば種・苗・農具・工芸品が主で、旬の食材などでもなければ食料の大口取引は珍しい。
「うん、だから村の方もあんまり余裕がなくて売りたくなかったみたいなんだけど、ガラの悪そーな連中だったから、下手に断れなくてってぼやいてたよ」
「オイオイ……つーか、そんな状態でよく干し肉とか変えてもらえたな」
「んー、お金じゃなくて現物だったから良かったんじゃないかな? だってお金じゃ食べられないしねー」
「ああ……なるほどな」
海の答えに、妙に納得してしまう。そら加工費ってことでしとめたシカの重量と干し肉などの重量はもとより釣り合いはとれねえし、ンなこと相手も折り込み済みだろうが、それでもどっちが腹が膨れるかって点に置いちゃ、そら生肉だわな。
「……でー、ホントは何聞くつもりだったのさー?」
そんなオレを見上げながら、いつものように悪ガキぜんとした顔で問いを投げる海。
「何、って……」
「だって、あれからちょっとみんな余所余所しいトコあるしさー。わざわざ声かけてきたんだもん、何か聞きたいことあるのかなーって」
「……ホント、よく見てるよ、おまえ」
「やたっ、誉められたー。誉めても何も出ないよ?」
「誉めてねーよ」
年相応の子供のようにけらけら笑う海。……っとに、調子が崩れるってーか。
元々盗賊を自称してくれたり、年齢と比べて不相応なくらいの戦闘能力など、得体の知れないところが多かった海だが、普段の振る舞いがあまりにアレであったため、ガキが背伸びしてんだろとか流していたところはある。
が、女神についてを語るのは、それまでの異常とはまた次元が異なることで――結果、オレも黒もいったいどう接すれば良いやら、とんと掴めず必要以上に話しかけるとかしなかったんだよな。そこに敏感に気づいてたってか。
アレか、ガキは本能で生きてるから勘が良いってヤツか。
「む、なんか失礼なこと考えてるでしょ?」
「ちげーよ。……なら一つだけ、質問させてもらうけどよ」
「うんうん、なにー?」
「おまえ……女神の伝承とかあの時話したあれこれ、いったいどうやって知ったんだ?」
そう、海から女神の依り代という存在について知らされていこう、引っかかっていたのはそこだ。
「何でそんなこと気にするのさ?」
「何でって、話の出所について知りたいと思うのは当たり前だろ。それにあの話は秘匿されてきたものだろ? だったら部外者が知っちまったら問題があるんじゃないか……とか、いろいろ考えちまうんだよ」
「ふーん、案外考えてるんだ」
「案外は余計だっての」
まったく、人のことを何だと思っているのやら。
ジト目を向けてやれば海は肩を竦め、どう説明しようかといったふうにしばし思案し、口を開く。
「そのあたりのことについては正直、ぼくは詳しくないんだよねー……」
「はい?」
「だって、ぼくがこの話知ってるのって又聞きっていうかぼくに向けて話してた訳じゃないし……門前の小僧? みたいな感じだったからさー」
あっけらかんと、とんでもないことを言ってくれた。
「ちょ……え、それってアリなのか?」
「んー、まあ盗み聞きじゃないしね。出所も嘘を言う理由がないし」
「いやいや、訳わからん」
いったいどういう状況であればそうなるのか。あれこれ思考を巡らせるも、どうやってもそんな状況が思い浮かばねえ。
……ホントにこいつ、何者なんだよ……
「…………」
「む、まだなんかありそうだね」
オレの沈黙に何を感じ取ったか、不機嫌そうにこちらを見上げる。
「こんな話だから、てっきりどっかの氏族くんだりが代々伝承してんのかとか思ったんだよ」
「あー」
投げやりな返答に、返ってきたのはどことなく間の抜けた相づちだった。
「それじゃ狼、ぼくがそういう家の生まれで、そういうところにありがちなお役目とかそんなので動いてるって思ってたんだ」
「しんがいだー」と相変わらずのふざけているのかそうでないのか、イマイチ判断に苦しむ声で抗議の言葉。
「んだよ、あり得ない可能性じゃないだろ?」
「まあ、そうだけどさぁ」
傭兵なんかの荒事家業以外にも実力主義の所はごまんとある一方で、未だ血縁だのに凝り固まった連中が居ることもまた事実。特に伝承なんぞの口伝の類は、一族間で秘匿することも容易に想像できるわけで。
そういう予測もあながち的外れともいえないだろうに……
「んー……、例えばだよ? 例えばぼくがさー、そういう役目を担う家系の生まれだとしてー……そんなつまらないモノに素直に従うと思う?」
「ああ、確かに」
「ちょっ、即答?! 少しは悩もうよ。酷いなぁ、もう!」
説得力のある言葉にぽんと相づちを打てば、猛然と不機嫌な声が上がった。
や、同意されて怒るとか……言ったのは自分だろーに。
「何騒いでるのよ、あんた達……」
森の中にいることもふまえて小声で会話していたものの、流石に五月蠅かったんだろうな。風が呆れた眼差しをこちらに向けていた。
「無駄に騒いでた訳じゃねーよ。いろいろと、聞きたいこととか今の内にでも聞いといた方がいいだろ。まさか塒の側で騒ぐわけにゃいかねえんだしよ」
「あー、それもそっか」
返答に相づち一つ、納得した様子の風は「じゃあ」と言葉を続ける。
「あたしも聞きたいことあるんだけど、いい?」
「うん? ぼくにー?」
「や、あんたって言うかみんなにって言うか……その、しろぐるい、って何?」
風の口から出た単語に、オレも海も一瞬顔を見合わせ――
「……何よ、その顔」
「や……。そーだな、そーいやおまえはそういうヤツだったな……ってな」
「どういう意味よ? なんかあんまり良いように思われてる気がしないんだけど」
「やだなー、誉めてるんだよ。染まってないってさ。良い意味でも悪い意味でもだけど」
「は?」
怪訝そうな風に、珍しく悪戯坊主と息を合わせてそんな言葉を返せば、夕日色の目をますますしかめるわけで。
……つってもなぁ。正直どう説明するよ。
白狂いと呼ばれる連中について説明する言葉はそれなりにあるものの、目の前の野生児がそのあたりの説明で納得するかどうか……
「って、そういやおまえあの話にもある程度ついてきてたか……つーことは、お山の女神様については誰かから聞いたことあんのか?」
「へ? うん。女神様が眠ってるって言う話よね。前にちょっと聞いたことあるし……それに思ったんだけど、小さい頃とーさんにそれっぽいこと教えてもらってたのよね。ほら、あたしって猟師でしょ? 森の中で取れる恵みを分けてもらってるんだから、山の神様にはちゃんと感謝しなさいーって、確かそんなふうな話だったと思うけど」
ふと思いついた疑問を投げれば、返ってきたのはそんな回答。
なるほど、猟師には猟師なりの話で狩りの技術と一緒に教え込まれてたってか。
「でも、それって何か関係あるの?」
ある意味では健全そのものの信仰に感心するオレに、風は先を急かすよう水を向ける。
そんな野生児の姿に、オレはますます説明の言葉に迷うわけで……何せ、さっきから話に上がっている連中はある意味、風みたいなヤツとは真逆の位置にいる連中な訳で……
「……白狂いというのは通称、あるいは蔑称の類だ。正確には白羽聖教を名乗る集団の事を指す」
「あ、黒おはよー……って、黒も知ってるの?」
「……ああ」
仮眠を取っていたはずの黒が、いつの間にか目を覚ましたんだろう、風の疑問に答えていた。
いつもの如く感情の読みにくいヤツだが、心なしか白狂いの名を口にした際、その瞳にあまりよろしくない類のものが見て取れたよう思えたのは、果たしてオレの気のせいか。
いや、多分この反応からすると気のせいじゃ……
「……ん?」
前々から予想していたことに改めての確信を抱いていると、不意に脇をつつかれ我に返る。見下ろせば海が、もの言いたげな目で見上げていた。
目は口ほどにものは言う、なんて例えがあるが今回ばかりはオレも海が何を言いたいか判る。きっとこうだ――被害者に説明させるつもりか。もしくは似たような言葉か。
「えっと、その人達って何か難しいことでもしてるの? さっきから狼も海も反応ヘンだし……」
「変言うな、変て。……連中の掲げてること事態は珍しい事じゃねぇよ。さっきも聞いたろ、女神様を崇めてるかって。白狂いの連中がやってるのも本人達曰く、どこにでもあるありふれた宗教のありふれた教義と何ら代わりのない、お山と女神様を崇めて日ごろの感謝と祈りを捧げるって名目」
「ふへ?」
「えっとー、風にわかりやすく言うなら食事をするときにいただきますとかごちそうさまって言うでしょ、それの延長?」
「乱暴な例えだなオイ」
「だってー、つきつめていけば信仰ってそういうものでしょ?」
「そりゃそーだ」
ざっくり切って捨てる海だが、オレもそこまで信心深い方じゃない……ってか、お山の女神様はともかくとして、それを崇めたてる一部の人間に対する信頼は皆無だ。いや、ある意味では信頼してるんだろうな。――もちろん悪い意味でになるが。
とりあえず、この辺の説明に関してはオレがやろうと海がやろうとどっちもどっちだろうな。
「……で、えっと??」
「あー……連中はあくまでありふれた、つってんだが一つだけ他の宗派とは決定的に異なる所があるんだよ」
話の内容を理解しているのか、イマイチ怪しいところはあるものの、自分で振っただけに耳を傾ける風はしっかと視線をこっちに向けている。これが興味のない事だと心ここにあらず、どころか堂々とよそ見や欠伸をしやがるからな、この野生児は。
ある意味判りやすくていいけどよ。
「白狂いの連中の教義の中じゃ、お山に眠る女神様はそれはそれは汚れのない白い翼を持ってるそうだ。で、それにあやかって連中の偉いさんはそろって白羽の|《空人》(シエロ)。他の|《空人》(シエロ)も結構位が高いとか何とか。――ただし、女神の色《白》と対局にある黒は汚れた色だって言っててな、例え|《空人》(シエロ)だろうと、いやだからこそかこの世から抹消すべきとかトチ狂ったことぬかしてんだよ」
一息に話し終える。正直この手の話は信仰する者にとっちゃもっと長く、それこそお伽噺の一つや二つ作れるくらい大仰にできるもんだろう。
ただ、信仰心が薄い上そんな話バカらしいとしか思えないオレのようなヤツにとってはどーでもいいわけで……
まあ、つまりはぞんざいな扱いなのは勘弁してもらいてぇ。
……つーか、正直こんな話を黒羽持ちの前でやれとか……。いや本人に話させるよりはマシなんだろうが、それにしたってあんまりだろう。
面倒な役目を押しつけやがって、と悪ガキに目を向ければ、素知らぬ顔で「ざっくりまとめたねー」などと感想を吐いていた。
おいテメェ、他人事だなコラ。
「えっと……つまり、黒みたいに黒い羽の《変化》の人は、その人達から嫌われてる……ってこと?」
「嫌われてるって言うか、虐め? 迫害? 害獣扱い? だいたい黒羽を嫌う風潮だってさー、白狂いの連中が先導して広めて、それがうっかり定着しちゃったようなもんだし」
「そうなの?」
「うん。まあ昔連中の言われない中傷にキレて所かまわず無双したよーな人が居たらしいから、完璧に連中だけのせいとは言い切れない微妙なトコもあるみたいだけど」
あっさりとそんなことを言ってのける。
連中の黒羽への迫害ぶりは端から見るだけでもあまり気分のいいものではない。やられる張本人ともなれば感じる理不尽ははかり知れず、当然切れる奴の一人や二人は出るわな……
飛べるという|《空人》(シエロ)最大の利点を生かして一方的な攻撃など、その気になれば黒羽と迫害される側の戦力は高い。白狂いには|《空人》(シエロ)が多いんだ、それが判らない訳じゃないだろうに、まったく何をやっているんだか。
「だからって、やられっぱなしで黙ってるってわけにも行かねえだろ。……それに、無防備な所に攻め込んだようなやり方が正しいとは思えねえがな」
「そりゃねー」
目には目、を全面肯定するつもりは無いが、それでもやられっぱなしと言うのは納得がいかねえだろうと思う。特に生まれ持った《変化》の事だ、ンなもん本人に何の非もねえ事でアレこれやるだの、オレは同意しかねるね。
ともあれ、そうやって迫害され続けた結果、黒羽の|《空人》(シエロ)達は隠れ住むようになった、だったか……。そうして作られた隠れ里――国が存在していたんだが、数年前に白狂いの連中が浄化と称して襲撃を仕掛け、まともな宣戦布告も無しに攻め入り、たった一晩で壊滅させたというのは有名な話だ。
……まあ、これは傭兵連中の間で暗黙の内で事実として知られている話であって、一般の連中には正々堂々教義に基づいて女神の名の元に邪悪を滅したとか発表してたか、確か。
とはいえ、その発表を果たしてどれくらいの連中が信じているやら……。信心深い教徒サン連中は疑い何ぞこれっぽちも抱かずに鵜呑みにしてるっぽいけど、白狂いの黒羽への対応はあまりにも有名だ。半信半疑、ってのが大半か、口には出さないものの疑っている……って所かね。
「そういや気になったんだけどよ」
「……?」
「や、黒じゃなくて海に、な」
「え、ぼく?」
「んー、おまえにってか……ほら、白狂いの連中は女神サマを御輿にやりたい放題やってるだろ? その辺、当の女神サマはどう思ってんだ?」
ふとわいた疑問をこぼせば、海は怪訝そうに眉を寄せる。
「……何でそんな話、ぼくに聞くかなー」
「いやだって、おまえ散々伝承云々話してただろ。詳しいんじゃねえの?」
「ぼくの本業は盗賊! そういう伝承とか調べるのは学者の領分で畑違いだよ。判ってるの? もう」
むー、と不機嫌そうに頬を膨らませる海。
いや……それ胸張って言えることじゃねえからな? つーかあんだけ語っておいて何を今更と小一時間。
「はぁ……。逆に聞くけどさー、君が伝承上の女神みたいな立場にあったとして……わざわざ後で排除しなきゃいけないようなもの、懐に招き入れる?」
「あー、確かに」
例えに、妙に納得してしまう。
「ま、とはいえ女神の性質じゃそっちも否定できないけど……だとしても、そんなものだったら女神やその眷属がその手で対処してるはずだよ。それこそ対マガツの対策みたいにさ」
「否定しといてそれかよ。結局どっちだよ」
「さあ? そんなの本人に聞いてよね」
前言を撤回するような言葉に呆れて返せば、海は「神学だの考古学だのは解釈次第さ」などと妙に訳知り顔でほざくのだった。




