模擬戦は雲泥の味
座学を一通り終えた後、広場に出てきた。昼飯が出来るまで実技をするらしい。と言っても、座学を終える頃には少し良い匂いがしたので、一時間が限界だろう。
ちなみに広場は先日の火事で、焼け野原みたいになっている。一体誰がこんな酷いことをしたのだろうか。
「時間は少ないですが、今からは実技です。とりあえず、坊ちゃんにあった戦闘スタイルを見つけるのを目標にしましょうか」
そう言うと爺やは、懐からナイフを二本取り出し、そのうちの一本を俺に渡してきた。ナイフといっても木製で、刃もかなり丸くなっている。これならば怪我をする心配もないだろう。
「まずは特攻タイプを試してみましょう。最近坊ちゃんは体を鍛えていらっしゃるようですし、これが一番合っているかもしれないですな。それならば私も教えやすいですし、かなり効率的に鍛えられるでしょう」
まずは特攻タイプからだと言われたので、手合せはかなり至近距離からとなった。身長差がかなりあるので、爺やはかなり大変なのではないだろうか。これでは避ける以外に選択肢がないように思える。そんなことを言っても始まらないので、とりあえず構えた。
そして、開始の合図である手を叩くという行為と同時に──────────俺は全力で爺やの脚目掛けてナイフを振り下ろした。
迷いはなかった。怪我はしないだろうし、手を抜いて勝てる相手でもない。老人だというのは頭から消えていた。それでも、まだ俺は勘違いをしていた。元から『手を抜いて勝てる相手』ではなく、『勝てない相手』だということを。
音は無かった。攻撃は当たっている。それでも音は無かった。爺やが行った行動は簡単だ。太ももでナイフを受ける、これだけ。
「ふむ、思い切りのいい良い攻撃でした。ですがその後がいけない。予想外の事があるたびに固まっているのでは命が幾つあっても足りませぬぞ」
直後、蹴りが来た。もちろん手加減された蹴りだが、それでも俺にとっては砲弾が飛んできたような感じだった。咄嗟に腕をクロスさせて防いだが、やはり子供の体で成人男性の足を受けきることはできず、思わず後ろに倒れ込んでしまった。
「特攻タイプは基本的にガードをしてはいけません。その間に距離を取られてしまうからです。相手に密着して、なるべく攻撃をさせずに、それでも攻撃が来たらそれはいっそ受けてしまうか、いなすか、もし出来るようでしたらカウンターを狙ってください。距離が近いのでキツいとは思いますが」
そのあとも何回か組み合ったが、結果は惨敗。一度も攻撃が当たることはなかった。
それでようやく実感した。俺と爺やの間には絶対的な壁があると。月とスッポン、天と地──────────雲泥の差があると。
徐々にユニークやらお気に入りやらが増えてきてほっこりしている今日この頃




