第9章3節: 村の酒と涙の理由
宴は、村人たちの素朴な熱気に満ちていた。音楽(笛や太鼓のような打楽器)が奏でられ、陽気な歌声が響く。
差し出される酒を、私は断りきれずに口にした。
それは、おそらく村で作られた自家製の醸造酒だろう。
雑味はあるが、穀物の力強い風味と、高いアルコール度数を感じさせる、素朴で荒々しい味わいだ。
悪くはない。
辺境伯の館で飲んだ洗練されたワインとは全く違う、生命力に溢れた酒だ。
私は普段、アルコールは思考を鈍らせるとして避けているのだが、この場の雰囲気に当てられたのか、あるいは辺境伯領での緊張から解放された反動か、つい杯を重ねてしまった。
酔いが回るにつれて、私の思考のガードが少しずつ緩んでいくのを感じる。村人たちの屈託のない笑顔、リリアやカイの親しげな様子、ボルガンの(少しだけ柔らかくなった)表情、ジェイドの(まだ少しぎこちないが)輪に加わっている姿……。
辺境伯の館での張り詰めた日々。
アリアの回復。
そして今、この温かい(そして騒がしい)歓迎。様々な感情が、アルコールと共に胸の奥から込み上げてくる。
気づくと、私の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
いけない、非合理的だ。
エルフが、研究者が、このわたしが、こんなことで涙を見せるなど……。
「ハルカさん、もしかして泣い……」
「……な、泣いてなどいないぞ! ちょっと目にゴミが入っただけだ!」
リリアの言葉に私は慌てて涙を拭い、わかりやすく強がった。
いわゆる、ツンデレムーブというやつか?
前世の知識が、またしても不適切な自己分析を促す。
私の様子を見て、リリアがくすくすと笑った。
「はいはい、分かってるよ、ハルカさん」
その優しい視線が、なぜか余計に私の涙腺を刺激した。




