第11章8節: 美味なる啓蒙活動
リリアの家を訪れると、リリアとその母親は、私の姿を見て少し緊張した面持ちだった。村の噂は、当然彼女たちの耳にも入っているだろう。
「リリア、そして母親殿。先日来の誤解を解きたく、今日はこれを持参した」
私はそう言って、納豆オムレツと納豆の包み揚げをテーブルに並べた。見た目は、普通の美味しそうな料理だ。納豆特有の強烈な匂いもしない。
「こ、これは……?」
「納豆を使った料理だ。以前君が驚いたものとは、少し趣が異なる。まずは、何も言わずに食べてみてほしい」
二人は恐る恐る、フォーク(これも私が木の枝を削って作ったものだ)を手に取った。そして、最初にオムレツを一口。
「……!」
リリアの目が、驚きで見開かれた。母親も同様だ。
「お、美味しい……! ふわふわで、なんだか香ばしくて……これが、あのナットー?」
次に、包み揚げ。サクッという軽快な音と共に、中から湯気が立ち上る。
「こっちも……! 外はカリカリで、中はトロッとしてて……! 本当に美味しい!」
二人は夢中で料理を食べ進める。その表情には、以前のような恐怖や嫌悪感は微塵もない。ただ、純粋な「美味しい」という喜びだけが浮かんでいる。
「そうだろう。調理法次第で、食材の印象は大きく変わるのだ」
私は満足して頷いた。カイもどこからか現れ、目を輝かせながら料理に飛びついている。
「そもそも納豆は、美味しいだけでなく、健康食品としても極めて優秀なのだ。まず、豊富な植物性タンパク質を含み、必須アミノ酸のバランスも良い。さらに、ビタミンK2やナットウキナーゼという特有の酵素は、血液をサラサラにし、骨を丈夫にする効果も期待できる。そして何より、豊富な食物繊維と生きた納豆菌が、腸内環境を整え、便通を改善し、免疫力を高める。まさに、天然のサプリメントと言っても過言ではない代物でだな……」
私は得意の蘊蓄を披露し始めたが、
「ハルカさん、おかわり!」
カイの元気な声が、私の講義を無情にも遮った。
「……やれやれ」
私は呆れた顔をしつつも、オムレツのお代わりをカイの皿によそってやった。まあ、美味しさが伝われば、それで十分か。




