16稼 関係悪化
人間というのは勘違いしやすくそれでいて調子に乗りやすい動物。若い子に応援されるだけで頑張っちゃうおじさんの血が全人類には流れてるの。
だから、
『ここは組合が管理させてもらいます』
『皆さんこの辺りからは離れてくださ~い。組合が管理しますのでぇ』
『整列してください。整理券をお配りしますよぉ』
お金のかからない純粋なダンジョンの方に入って行って死亡する人がいるってことで、組合がそのあたりの人に注意を呼び掛けるようになった。そこまでは良かった。
私としても一般の人が迷い込んでいくのはさすがによく思ってないし、それを防止してくれるのはありがたかった。
ただね、そこで調子に乗ってこのダンジョンの一部を独占しようとする動きを見せちゃったんだよねぇ。
まず宝箱。
高いのから安いところまで、一通りのものを独占するように組合の人たちが囲み柵まで作ってる。
そしてさらにそれだけでは飽き足らず、他の宝箱も混雑が起きないようにとか言って整理券を配るようなことまでし始めた。それはもう我が物顔で。
「独占がまずアウトだし、そこでさらに整理券を配るのも良くないねぇ。明らかに整理券配ったあとそこの番号の宝箱を探すのに時間がかかって回転率落ちてるし」
このダンジョンにとって、明らかなデメリットになってる。
ハッキリ言って邪魔。このダンジョンを経営するうえでいらない要素。
しかも、
『組合何やってんだよ』
『あいつら我が物顔で独占までしやがって、あいつらどれだけ利益が欲しいんだよ。生きぎたない連中がよぉ』
『ん~。どいて下さ~い。星空のところまで行きたいんですけど~……………もぉ。なんか整理券配り始めてから奥に進むの大変になったんだけどぉ』
ここに来る人達の大半が、それに対して不満を抱いている。
これで好意的な反応を示していれば下手に何かすると客足が遠のく可能性もあったし容認するしかなかったけど、これなら問題ない。
ということで、
「サクッと追い出しますか~。私のダンジョンは私のものですよ~っと」
私はパパッと設定をして、組合の人達を追い出すための操作を行なう。
そうすればあとは向こうの方で動いてくれるから、私は的確なタイミングで指示を出すだけ。
……………唯一心配事があるとすれば、これで組合との仲が悪くなりすぎて強い冒険者が攻略に来ることくらいかな。冒険者も一般人も良く思ってないだろうからあんまり世論的にはやりにくくなると思うんだけど、強引にそういう風にされる可能性がないわけではないからねぇ。
「まあでも今はとりあえず出て行ってもらおうか。私のダンジョンが言いなりになると思われるのも困るから」
《sideとある一般冒険者》
「組合のやつら、本当に邪魔なんだけど……………』
「早く出ていかねぇかな。いっそのこと抗議運動でもするか?」
「おいおいやめとけよ。組合のやつらに目を付けられたらこの先やっていけないぞ」
このダンジョンに組合のやつらが入ってきて、独占と管理までし始めて。
だんだんと使い心地が悪くなってきた。今はまだ手が入り始めて少ししか経ってないからそこまでは影響が出てないが、この先ここを使いたいと思うやつらもこの状況だと少なくなるんじゃないかと思う。
組合みたいに、何か同じ様な勢力が自分たちだけしかいない時って調子に乗りやすくなるんだよなぁ。ただ実際今は組合しか冒険者を管理してる組織がないから、あんまり強く俺たちも言うことができないし。
それでも、何かが起きて組合のやつらが独占を辞めたらいい。そう期待していた。
そうしたら、
「おい!、見ろ!ゴーレムナイトが動いたぞ!!」
「ど、どこだ?どこかに犯罪者がいるぞ!!」
一部のやつらが騒ぎ出す。俺らのヒーロー、ゴーレムナイトが動き始めたんだ。
つまり、ゴーレムナイトが動かないといけないような状況になったってこと。どこかに盗みをしたり暴力行為をしようとしたりしたやつらがいるってことだ。
いや、いるってことだと思われた。
だが、ゴーレムナイトは人の波をかき分けて、
「な、なんだ!私たちは何もしていないぞ!」
組合のやつらの場所まで行く。そのゴーレムナイトの圧に恐れ、組合のやつらは少し怯えてるな。ざまぁみろって感じだ。
ただ、組合のやつらがわざわざ盗みとかをするとは思えないし、いったい何の目的なのか分からない。
俺たちの注目が集まる中、ゴーレムナイトは普段警備兵と書かれているプレートを前に出して組合のやつらに見せる。
そこには、
「独占を許可していない、だと?そんなものそちらの許可は必要ないだろう!こっちは人類の安全のために行なっていることであり、ダンジョンに認められないからと言って人々のためになることをやめる気はない!」
組合のやつが読むには、独占を許可していない、と書かれていたらしい。
ただ、組合の言い分としては最初からダンジョンで何をするのもダンジョン側の許可なんて必要ないってことだ。実際常識的に考えれば間違いじゃないし、理解はできる。
だけど、それでも、ゴーレムナイトがそのプレートをくるりとひっくり返して裏面を見せて、
「忠告はした、か。ずいぶんと上から目線だな。たかがCランクの癖に」
これには俺だけじゃなく、他のやつらも盛り上がる。
要するに、このダンジョンの側が明らかに組合の動きに不快感を見せてるわけだ。
組合が怖くて動けない俺たちの代わりに、組合と対立してくれるかもしれないっていうわけだ。
そこからゆっくり、ゴーレムナイトは組合のやつらに背を向けて元の場所に戻っていく。
その歩みは普段の動きと比べて明らかに遅く、まるで何かを待っているかのようにも思えた。
だが、結局組合の方は意見も変える気はないようですぐにそんなことはなかったかのように作業を進めていく。
結局ゴーレムナイトも注意するだけで、それ以上はできないのかと。俺たちは落ち込む。ゴーレムナイトは、組合たちの行動を無理やり止めることなく元の持ち場へと戻ってしまう。
その瞬間だった、
「ぐわああぁぁぁぁ!!!????」
「な、何だこれは!?」
「く、くそっ!動けない!!」
突然、上から白い何かが飛んできて組合のやつらに降りかかる。そしてそれにより、組合のやつらは身動きが取れない状況に。
こうなると俺たちも理解すさせられる。先ほどまでのゴーレムナイトの警告は、受け入れられないのであれば実力行使も辞さないというものだったことを。
あのクレームは、ただのクレームだけでは終わらないものだったことを。
「お、おい!天井の横見ろ!」
「え?天井の……………ひっ!?こ、怖っ!」
「マジか。あんな溝があったのかよ……………全然気づかなかった」
白い物が飛んできた方向を観察していたのだろう数人が声を上げ、俺を含めて多くの人が天井を見上げる。
天井と壁の接合部分にある溝。そして、その溝にひしめくモンスター。しかも、クモ型の。
苦手なのだろう数人は悲鳴を上げ、目をそらしている。特に一般人とかには恐怖と衝撃が大きかったようで、青い顔をしているのもいるな。
だが、このダンジョンのモンスターの恐ろしい部分はここでは終わらないところなようで、
「えっ!?ちょっ!ふ、降ってくるぞぉぉぉぉ!!!!!」
「「「「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!????」」」」
組合のやつらの周りにいた、白い何かが飛んだことなどによる状況を確認しようとしたやじ馬たち。それが、一斉に悲鳴を上げて逃げていく。
何せ、クモのモンスターは白い糸で組合のやつらあを動けなくするだけでなく、ついにはとびかかって上に乗り始めたのだから。
明らかに補色前の動きにしか見えないものに恐怖を憶えるのは当然だろう、
遠くから眺めていた俺も脚が震える。
ただ、幸いなことにというべきか、
「ん~~~!!!ん~~~~~!!!」
「あっ。殺されてはない、のかな?」
「そ、そうみたいだな。今にも殺されそうな絵面だけど、怪我とかはしてないっぽいか」
怪我をさせられたりと言ったことにはなっていない。
ただただ、魔法を使うことなどを警戒してなのか糸で口をふさがれ武器も奪われ、胴体付近も地面に括り付けた後に、
「ゴ、ゴーレムナイトだ!ゴーレムナイトが動いたぞ!」
「と、ということは?」
クモは退却していく。今までは全く気にも留めていなかった天井横のくぼみに姿を消していった。
代わりに出てくるのが、ゴーレムナイト。
ゴーレムナイトがこうして処理の終わった後の相手に対してやることと言えば当然予想がつくわけで、
「「「「キャアアァァァァァ!!!?????」」」」
男も女もの関係ない。
等しく組合のやつらは身ぐるみをはがされ、入り口付近へと放り出されていった。
しかも、ある程度糸などが残っているせいでしゃべれないしたいして身動きも取れない状態で。
あれは間違いなく、数割のやつらは心を折られる気がするな。身動きも取れず喋れない状態でしかも全裸。そんな状態であんまりあいつらのことを快く思ってない奴らがまだ集まっているだろう入り口に放り出されるわけだから、
「組合の退職者、何人出ると思う?」
「さぁ?ここにきて人数結構多かったし、10人は確実にやめそうな気がするけど」
「じゃあ私は20人はやめると思うな。後、内勤の事務に回る人がたくさんいると思う」
全員にとまではなるか分からないが、かなりの人数に消えない傷が残るのではないかと思う。
組合とこのダンジョンの関係は悪化しそうだけど……………俺としてはちょっと。いや、かなり心はこのダンジョン寄りだな、もし何かあれば、冒険者やめて、というかやめようって周りにも声かけてフリーとして過ごしていくのが良いかもしれない。
法律でそういうのは禁止されてるけど、きっと俺と同じ様なことを考えてるやつらは多いだろうし、全員でやればきっと国だって変えられるはずだ。




