第十三話:生贄令嬢は豊富なお肉に驚愕する
「い、いろいろなお肉がありますのね……」
今、私が開いているタブレットには、それはもう色々なお肉がずらりと並んでいますわ……。
牛、豚、鶏、馬、羊などの一般的なお肉は言うに及ばず、鹿、猪、兎、雉、鴨、山鴫、山鳩などの狩猟肉。鶉、家鴨、鵞鳥、駝鳥、ホロホロ鳥などの家禽類……珍しい所では、カエルのお肉なんかもありますのね……。
その上、ロースだヒレだランプだホルモンだ……と、部位ごとに分かれているんですもの……。しかも、そこにハムやベーコン、ソーセージなんかの加工肉も加わりますのよ?
もうどれを選んでいいやら! 私には見当もつきませんわ!!
「アルク様は、どんなお肉がご希望ですか?」
もう私では決めかねて、アルク様にタブレットの画面を見せてみた。
まずは、希望した本人が食べたいお肉を選んでもらって、そこから絞り込んでいかないと難しいほどの量なんですもの……。
……とはいえ、興味津々な様子でタブレットを覗き込んできたアルク様も、さすがにこの量のお肉には面食らったみたい。
金色の瞳を幾度か瞬かせて、ただただタブレットの画面を眺めている。
「ふむ……詳細を知りたいが、この文字は我にも読めぬな……フラン、どのような肉がある?」
「これを見る限り、牛、豚、羊などの家畜類から、猪、鹿などの狩猟肉、鶏、鴨などの家禽まで、色々揃っているようですわ」
「なるほど。それならば我は牛の肉が良い……が……」
祭壇に腰を下ろす私の横に詰めてきたアルク様にもよく見えるよう、私も少し身を寄せた。その体勢のまま、ちょうど二人の間になる位置にタブレットを持ち、それぞれのお肉の説明をしながらゆっくりと指先を滑らせていく。
アルク様がご希望の牛肉ですけど……部位だけでもいろいろありますのね……。
ヒレ、ロース、バラ、ランプ、モモ、スネ、ネック……さらにここからも部位の分岐があるなんて……!
どこの部分がお好みかしら……と画面に指を走らせていると、ふと何かに気が付いたアルク様が首を傾げて……。
「仮に肉を取り寄せて、フランは調理はできるのか?」
「はぅっっ!!」
触れてはいけないところに切り込んできた金色の瞳から、思わず目をそらした。
……ええ、そうですの……。
私、貞蓮の記憶があるので「料理」に関する知識はあるのですけど、実際にやってみたことはありませんのよ……。
視線をそらし続ける私の膝に、ぽすりと軽いものが乗る感触があった。
『おうおう、どうしたィ、お嬢? そんな辛気臭い顔して! 料理くらい、俺が手伝ってやらァな!』
「まぁ! サラマンダーはお料理もできますの?」
『魔道具に取って代わられる前は、竈の傍も俺らの居場所だったからなァ。料理のやり様くらいは教えられらァ!』
「なんて心強いことでしょう! それじゃあ、お願いしますわね、先生!」
『かー! 俺が先生たぁ出世したもんだぜ!』
宙を彷徨う私の視線を引き戻したサラマンダーは、「任せろ」と言わんばかりに私の膝に前足をかけて炎を纏った尻尾をふりふりと揺らしてくれた。
あら! こんなところに私の救世主が!
言葉の端々から、人間の営みに寄り添ってくれた歴史を感じますわね。
心強い味方ににっこり笑いかけてみれば、照れたように顔を掻くサラマンダーの尻尾の動きが激しくなる。その身体にまとう炎が私の肌に触れているけれど、それが私の身体を傷つけることはなかった。
……こういってはアレかもしれませんけど、べらんめぇ調から想像できないくらいに、仕草が可愛いのよね。
くにゃくにゃと身もだえするサラマンダーの額をそっと指先で撫でてみると、気持ちよさそうに銀朱の瞳が細められた。
サラマンダーに触れている私の指も炎に沈んでいるけれど、火傷をするどころか熱いとすら感じない。
本当に不思議だこと……!
「でも、今日の所は調理済みのお肉をお取り寄せいたしましょう。料理の腕はおいおい磨いてまいりますわ!」
「ほう。それでは、ソレが喰える日を楽しみに待っているぞ」
『なァに、俺がついてんだ! すぐに旨いもんを拵えられるようになるさ!』
アルク様の本来の姿を考えると、たぶん生肉でも問題なく食べられるのでしょうけど……。
こうして人間の姿になっているところを見てしまうと、火が通っているお肉の方がお腹を壊さないんじゃないかしら?
……え? お肉のお刺身?? 生で食べられるお肉もあるんですの!?
えぇっ!? な、内臓まで生で食べることもある、ですって!?
………………。
…………………………。
……………………………………て、貞蓮の世界の食事って、一体どうなっているの!?
くつくつと喉の奥で低く笑うアルク様と、私の膝の上に載ってきて尻尾を揺らすサラマンダーの視線を一身に集めながら、私はいくつかの商品をさっそくお取り寄せすることにした。
…………好奇心には、勝てませんでしたわ……えぇ……。
私がダメでも、きっとアルク様になら食べていただけるでしょうし……無駄にはならないんじゃないかしら?
「…………フラン、何を企んでいる?」
「企むなんて人聞きが悪い。食事を美味しくいただくことは大事だなぁと思っただけですわ」
ちらりとこちらを睨め付けるアルク様の視線に、にこりと微笑み返しつつ……私は画面の中央に鎮座するボタンに指を乗せた。




