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頬が赤いのは、脈ありのサインなのか?

第六章~灼顔のシャヤ~

 押田の恋は花と散り、涙の雨が流れた。それから雨の季節が来ては過ぎ去り、夏が来た。


 ついに、押田、ミソノを含むチンピラ5人が揃った。彼らはいじめの謝罪のため、引龍の前にひざまずいた。なんでよりにもよってホームルーム前なのか、疑問は残る。しかし、押田とミソノが仲直りをして友人となったので、僕は安心している。いや、彼らが誠心誠意引龍に謝るまでは、安心できないか。


 教室はこの間と同じように、引龍とチンピラ5人を中心に生徒たちが円を作っている。恐らく、上から見たら弓道の的だろうな。僕が固唾を飲んで成り行きを見守る。そんな中、チンピラたちは紅潮しながらも、同時に発声した。


「いじめなんて卑劣なことをして、すいませんでした。引龍君に悪い思い出を与えてしまったことを猛省し、もう少し人に優しくしようと思います」


 頭を下げるチンピラたちを見て感極まったのか、引龍は涙を流している。


「わざわざ僕のため……、謝ってくれて、あ、あ、ありがとう、ございます」


 引龍はぎこちなく言葉を紡ぎながらも、深々と頭を下げた。これでようやく、引龍も安堵を得るだろう。同時に、チンピラたちの心からの謝罪を感じて、僕は安心した。


 その後、引龍と押田の握手が交わされた。教室内に拍手が沸き起こる。その時、突然教室のドアが一気に開け放たれた。誰だ!? 乱暴にドアを。まさか、この謝罪に不満を持つ者がいるのではないだろうか? 入室してきたのは、うさぎ先生だ。まさか、うさぎ先生、不満があるのか? 生徒たちが避けて、中央への道ができた。うさぎ先生はその道を真顔でまっすぐ走る。引龍とチンピラたちに向けて。最近、先生はコスプレばかりしていたから忘れていたけど、今日はデフォルトの服だ。赤いガウンにピンクのミニスカート。そんな短いスカートで大股広げて走って大丈夫なの? ああっ、ピンク色の布が悩ましく左右に揺れている。しかし、中身は見えそうで見えない。相変わらず悩ましいな。……危ない危ない。煩悩に押し潰されるところだった。頬を両手で叩き、正気を取り戻した僕は、再度成り行きを見守って……。って、うさぎ先生! 何してるんだっ。引龍の顔が、うさぎ先生の胸に埋まっている。


「引龍君、よかったね。先生、感動しちゃった!」


(いや、そんなことを言ってる場合じゃないぞ、先生。引龍が苦しそうだ)


 僕の思念が伝わったのか、彼女は引龍から離れた。だが、今度は押田を抱きしめた。


(おいおい、先生の暴走で押田とミソノが破局したんだぞ。まさか忘れていないよな?)


 と僕は思ったが、押田だけでなくチンピラ全員を平等に抱きしめている。しかし、最後のミソノとの抱擁は長かった。抱きあう2人とも紅潮していたので、禁断の香りがした。


「みんな最高! きちんと自分の行いを反省して行動に移せるって、これからの社会にとっても大事なことだよ。徳川家康も『しかめ像』を書かせて反省し、成功を収めているしね」


 うさぎ先生は嬉しそうに喋っていたが、急に真顔になった。


「さあ、ホームルームの時間よ。みんな、ムチで叩かれたくなければ席につきなさい!」


 みなさん、すごすごと自席に退却した。なんか、強権政治だな。押田のみ、席につかなくて叩かれているけど。




 ホームルーム後、僕は引龍の肩をポンと叩いた。


「よかったな。僕も、押田たちの心からの謝罪が聞けて、安心しているよ」


「……すべて、ハルディさんのおかげ」


「……そんなことを言われると、照れる。確かに本当のことではあるけれど」


 僕が自己陶酔を吐露していると、背後から耳をつんざくような声が。


「なに照れて赤くなってんの?」


 ふりかえると、腰に手を当ててニヤついているミソノがいた。こなまいきな。


「ああ、君は確か、メイドにさせられそうになっていたミソノさんじゃないか。僕が助けなかったら、今頃メイドになっていたかもね。似合いそうだけどな」


 助けた恩を忘れてそうだから、僕は精一杯の皮肉を言ってやった。しかし、ミソノは怖じる様子もなく顔をしかめ、


「メイド服なんて意地でも着ないから! それに、あんたが助けなくても、あの男の腕に噛みついて逃げ出していたわよっ」


「なんだよ! せっかく助けたんだから感謝くらいしてもいいだろっ」


「べっ、別に感謝なんてしてないんだからぁ。意外と男らしいパンチ……。あっ、いや、ロボットのくせになまいきよ!」


 急に顔が真っ赤になったミソノ。そこまで頭にきてんのか? いいだろう。戯れ言を二度と吐けないように、徹底的に論破してやるぞ。僕が、意気込んで反論しようと思っていた矢先、引龍が口を開いた。


「……けんかするほど仲がいいっていいよね」


 引龍が、あの引龍が、僕たちを茶化す、だと? おかげで、僕とミソノの体は硬直してしまったじゃないか。ミソノとはそんな関係じゃない。誤解を解くべく、弁明せねばーー。


「誰がこいつなんかと!」


 はっ、ミソノと声が被ってしまった! まさか、同時に同音を発するとは……。頬が熱を帯びていくのを感じる。一方、ミソノも闘牛士が持つ旗くらい顔が真っ赤。


「……2人とも、顔が真っ赤だよ」


「お、おいおい茶化すなよ、引龍」


「……ごめん、ハルディさん。……ミソノさんもごめん」


 その時、ミソノと目が合った。一瞬、時が止まったんじゃないかと錯覚した。


 約5秒、僕たちは見つめあっていた。


(ミソノって性格はきついけど、黙っていたらかわいいんだよな)


 僕がそう思っていると、ミソノに高速で瞳を逸らされた。


 我に返った僕は、無数の視線がこちらに注がれていることに気づく。ニヤついたチンピラたちの目、なぜか怒っているこりすの目。そして、もう1つ。今まで接点はあまりなかったけど、名前くらいは知っている。赤髪ロングの女子、元家灼耶(もといえしゃや)の目だ。なっ、なんだみんなして。冷やかしか? とっ、とりあえずこの場から離れなければ。学級新聞が発刊されて号外とか謳われて、『ハルディとミソノ熱愛発覚』とか書かれたらまずい。頭で考えながらも、僕はすぐ動いた。元家灼耶の席の隣まで。僕は、立ったまま灼耶の机に両手を乗せてうなだれること数秒。


 僕は灼耶の視線が気になったので、机から手を離して嘘を告げた。


「すまんすまん、なんか突然めまいがしてな。ちょっと机を借りて休ませてもらったんだ。許してくれ」


「ひゃっ、ひゃいっ」


 なんだ? 灼耶と一瞬目が合ったかと思えば、彼女も慌てて逸らしたぞ。それに、灼耶は紅潮している。これはもしかして、脈ありのサインなのか? そうだったらいいなぁ。灼耶は瞳がクリッとしてて、かわいいし。僕の事、好きなのかな?

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