17 へえ、ペットなんだ。…へぇ……
「イーリスくんっ、ご飯作っ…てっ!?」
夜が明けたと同時に飛び込んだラースのその顔に、べしゃりと何かが叩きつけられた。甘い匂いにそれを摘んでみれば、ご丁寧に皮を剥いた蜜柑の輪切りである。ぶつけられたそのことよりも、なぜそんなものが彼の部屋にあるのかが謎だぞと、ラースは首を傾げた。何しろその部屋は、彼自身が用意したのだ。そもそもが彼のための寝室だし、食べ物の類は流石に置いてない。特に今回は突発的訪問なのだから、当たり前だが。
「あ。あるか、そういえば」
忘れていたと、窓の外を見る。そこは温室からも、庭園からも見えない裏側にあたるけれど、日当たりはいい。なので何種類か、果木が植えてある。その中には当然のように蜜柑もあるので、それ自体は不思議ではない。ないが、…いつ取りにいったのだろう? というか、それを剥いて半切りにしてとか、いったい何をしているのだ?
それに、と部屋を見回す。寝台の天蓋は開いていて、中に誰もいない。使われた跡はあるから、部屋へ来なかったわけではないだろう。たぶんあの開け放たれた窓、あそこから飛び出したのだろうが……何のために?
「蜜柑が欲しかったのでね」
ひょこん、とイーリスが窓から顔を出した。おーい、と何か声が聞こえて、ラースはそこから外を見る。よぅ、と手を振るアヴィは、蜜柑の木の上にいる。
「……なんで?」
それは二重の意味を持っていた。妖魔なら、木に登る必要はない。見えるところに実がなくて、というなら登ることもあるが…どうしてアヴィが登っていて、イーリスはここにいるのだろう?
「止める間もなく登ってくれたんですよ。まあ、助かりましたが」
そういうイーリスのその腕には、蜜柑が大量に抱え込まれている。これもまた、どうして術を使わないのかと聞きかけて口を噤んだ。そう言えば彼は、日常で術を使うことを嫌がる傾向にあるのだったと思い出して。
「厨房、借りますね」
「え。あ、うん。お願い」
ぱっと顔を明るくして、ラースは答えた。泊まりの翌朝、彼は必ず朝食を作ってくれる。それが楽しみで、昨夜もあの後、いろいろと仕入れてきたのだ。もちろんイーリスも、それをわかっているだろう。だから更に、どうして蜜柑がという疑問に繋がってしまうのだが。
アヴィもイーリスについて行ってしまったので、ぽつんとラースは残された。
「……手入れ、してこよ」
温室の草花の手入れは、術だけで賄えるものではないので、まだやることはある。一日くらいサボってもと思わなくはないが、まあどうせ待つだけだ。そんなふうに考える彼の頭からは、蜜柑が顔にぶつけられたことも消え去っていた。
※ ※ ※
「……」
イーリスは物言いたげにアヴィを見た。見返してくるその瞳に裏はなく、木に登ったのも自力でよじよじとしてなので、彼自身の意思であることは明白だ。そしてとりあえず、彼にはまだあのことを教えていないので、さてどうしたものかというところである。
(不審人物と誤解したとか、ありえませんよ……?)
ラースはこの温室の主である。いきなり入ってくるのも主の特権だし、それを自分が拒否したことがないのも原因だ。実際、自分は外にいたし、何の迷惑も被っていない。なのに、あれである。しかし、答えはない。
とりあえずは、と辿り着いた厨房で朝食の用意を始めることにした。
いつもどおり、新鮮な牛乳や卵、焼きたてのパンが用意されている。野菜の類もいろいろとあるし、無理に珍しいものを作る必要はないだろう。
牛乳を鍋にとり、ゆっくりと温める。これは火加減が重要なので、目が離せない。その間、アヴィには野菜のスライスを任せることにした。残しても仕方がないので、全てスライスしてしまって問題ない。
くつくつと泡が立ち始めたところでいったん火から下ろし、蜜柑の絞り汁を入れる。くるくるとヘラでかき回すうちに塊が出来始めるので、もう一度火に掛ける。ただし、沸騰させるわけにはいかないから出来るだけ離して。やがて白かった牛乳が、半透明の液体になる。これで十分だと中身を漉して、布巾に残ったそれを絞り上げれば、即席チーズの出来上がりである。
「チーズって、そうやって作るのか」
「ほかにも方法はいろいろありますよ。これは熟成させずに、そのまま食べるためのものですし」
問題は、残った乳清の利用方法である。まあ今回は適当に、と水の代わりに使うことにした。卵を溶く際にそれを混ぜて、砂糖をあわせて振るった小麦粉に少しずつ混ぜていく。出来た生地は昨夜も使った鉄板に広げて焼いて、パンケーキもどきの出来上がりである。
「もどき?」
「ええ、もどきです。好むかどうかは、人によりますね」
そもそもがフライパンで焼くからパンケーキという、それだけのものだし。とイーリスは笑う。
それからサラダを作って薔薇の花びらを散らしてみたり(庭園から拝借したものだ)。
実は昨夜仕込んで置いた豚肩肉塩漬けをじっくりと焼いて、薄切りにしてみたり。
用意されていたベーコン、これはフライパンでカリカリになるまで焼いてみたり。
タマネギをじっくり炒めてスープを作ってみたり。
したところで、イーリスは一つ、道具を取り出した。
「…なに、それ?」
「遠心分離機ですよ」
わかるかとは、あえて聞かなかった。旧世界にもきっと似たようなものはあっただろうし。使い方は単純で、中に牛乳を入れて回すだけである。内容物が比重によって偏り、分離できるという便利な代物だ。妖力での代用も出来なくはないが、制御を誤ると大惨事なので、やりたくない。それはラースも納得したらしく、妖皇宮の厨房経由で入手したと言っていた。
そしてそれを回す役目は、当然のようにアヴィである。そこそこの速度がいるので、けっこう真剣に回す彼を見ているのは面白かったが、まだもう少し、いろいろ出来る。
丸パンは軽くあぶりなおし、角パンはスライスして、いろいろと挟んでから鉄板の上で焼き上げる。そして果物は刻んでおいて、それから――牛乳を凍らせた。疲労困憊のアヴィから受け取った生クリームは、冷やしつつそのままにする。
出来上がりを知らせる鈴を鳴らし、作業台を片付けて出来上がった品々を並べて待つこと暫し。カラビアが来て、主が来るまでもう少し待つことになった。
「あら、レディの使者? 勇者ではなくて、です?」
「勇者のことは何も言ってなかったねぇ。昼過ぎには仕立て屋が来るから、昨日の部屋に来るように伝えてくれってさ」
「承知しておりますけれどね」
面倒だとは思うけれど、放置すればもっと面倒なことになるのがわかっているから仕方が無い。それがイーリスの本音である。デカラビア辺りはドレスを仕立てるのが楽しいらしく、さほど苦でもないらしいのだが。
「あ、そだ。アヴィくん、これ試してみて?」
「え?」
「前にイーリスくんからもらったおやつだよ」
え、とイーリスが首を傾げた。…彼らに最後にあったのは、半年以上前のはずである。そのころに渡したもの、と考えつつそれを見て、まだあったのかと額を押さえた。アヴィを静止しようとしたときには既に遅く、薄緑色のそれに砂糖をまぶした干し果物は、アヴィの口の中に放り込まれる。
「ん…なんかちょっと苦いけど悪くない……甘……っ!?」
固まったアヴィに、はい、と水を渡す。ぎちぎちと油切れの音が聞こえてきそうな動きで、彼はそれを受け取って飲み干した。たぶん、口の中に入っていたそれごと、飲み下したのだろう。
えぐ、えぐと何か必死に訴えかける彼に、ラースが爆笑している。彼らを尻目にデカラビアはそれを摘み、しかめっ面になりつつも楽しげに美味しそうに食べている。
「アヴィにはまだ早いと思いますよ? 苦瓜ですから、それ。…つくりはしましたけれど、私も苦手ですし」
「苦いとは思いますけれど、美味しいですのに」
元はと言えば、蜜柑の綿――ほわほわした白い部分を砂糖で煮て乾燥させる菓子である。造り方を教わった際にそれもまた伝授されたので、一応は忘れないように時折造っているのだが…今のところ、これを好んで食べるのはデカラビアくらいである。口に入れた瞬間はほろ苦く、美味いと思うのだけれど…まあ苦瓜なので。
代わりに差し出した林檎と桃の蜂蜜漬けすらもアヴィは一瞬怯んでいた。味を保証するとどうにか口にしたが、じとりとラースを睨んでおく。視線が逸らされたが、さてこの落とし前はどうしてもらおうかと一つ、貸しである。貸しであるのだ、が。
「ねぇねぇ、あれ、またお願いしていい?」
「はい?」
「昨日のあれ。ちょっとだけでもいいからさ。ダメ?」
「ああ…まあ、かまいませんが。本当に少ししか出来ませんよ?」
やった、と拳を握り締めるラースにイーリスは苦笑した。貸しに貸しを追加している気がするが、まあ泊めてもらったし温泉も楽しめたので、不問でいいか、と。
片付けはデカラビアが引き受けたので――後日、干果実入りの固焼き菓子を届けることを約束させられたが、任せておく。ラースは同席するということなので、アヴィを任せようと思ったのだが、赤い瞳でついてくることにしたらしい。
(まあ昨日は助けられたみたいですし……)
しかし、記憶にはない。礼を言うべきだとは思うが、あの性格なのでひるんでいるのが現状である。まあまたやらかしたら、そのときに併せて詫びるかと気楽に考えて放置することにした。
昨日と同じ部屋で、同じように術式を発動させる。今度は流石に無茶をせず、ごく少量ずつである。情報の吸出しが終わり、記録珠の保護に入ったら次の小片を追加する、その形式に変えたらどうやら安定したらしく、暴走する気配もないし、本人の意識もはっきりとしていた。
(流石に…ほかの術までとは、行きませんね)
お茶を飲んだり、ちょっとした受け答えくらいは出来るけれど其処までのようだ。記録珠を使うのと紙に書き出すのと、どちらが楽だろうなどと考えることも出来るが、答えが纏まらない。まあそこは仕方が無いので、処理に専念したいところである。しかし、意識があって、しかも術による慣れのせいで制御と別に思考が可能であるが故に、逆にそれが適わないとは誤算だなとイーリスは笑った。
「そういえば昨日……何を考えていたのでしたっけ……」
ふと、そんな言葉が零れ落ちた。え、とラースが…もう一人が、イーリスを見る。
「自動書記は…使い慣れた術式ですから……」
それを改変したからといって制御をし損ねるとは思っていなかった。し損ねたのだから、そこには何かあったはずだ。では何があった? 何を考えて、制御を手放した?
そんな風に、思考がめぐり出す、けれど。
「――そういえば昨日は、何の制御を失敗したんだっけ?」
「……妖力の練成限界を超えていました。イーリス様は他者の妖力を流用出来ますから、妖力の供給源を追加して……」
二人の会話に、ああ、とイーリスは苦笑した。そんなことをやっていたのか。アヴィがいて幸いだったということだ。けれど驚かないということは、既に夕闇のことに気づいていたのだろうか。それに今、何かおかしなことを言わなかったか。妖力の供給源を追加…それはつまり、発動中の術式に干渉したということで、アヴィになら出来るかもしれないが、夕闇にもそれが出来るということか。だとしたら術式の意味がなくなってしまう。まさか他にもそんなことが出来る妖魔は存在するのだろうか。
遠い意識の中で、茶器を取り上げる。冷めてしまう前に追加しようと考えたのだが
「――イーリス!」
「ばかイーリス、何やってんの!」
二人が叫んだ声に、イーリスの反応はない。見ればその手の中に幾つもの小片がある。処理を終えたはずのそれらを除けようとして、ひっくり返したのだ。そして”自動書記”は今、手の中にある小片を処理するように、術式が組まれている。それの処理が終わっているかどうかなど、判定には含まれない。
イーリスの動きは止まり、幾つもの記録珠が浮かび上がる。無理やり干渉しようとしたラースだったが、それは術式の防御に弾かれた。
「って、ちょっとーっ!? 安全機構あるんじゃなかったの、これ!?」
実は妖力そのものには余裕があるので安全機構は動作範囲外だとか、あくまで内部制御の異常に対するものなので外部からの干渉は拒否するのだとか理由はあれど、それが現状である。つまりは、手出しが出来ない。ちらりとアヴィを見たのは、妖力供給源としての彼の干渉を絶ってしまえば、と考えたためだ。
「ったく、何無茶してんだよ、お前は!」
びり、と音が響いた…ような、気がして、ラースは彼らを見る。アヴィの手に、幾つかの小片が握られていた。
「…え?」
ちょっと待て。それは今、自分がやろうとして出来なかったことのはずだが!?
反射的にそれを取り戻そうとするイーリスすらも捌き、アヴィはそれを投げてきた。あわわわわわと焦りつつも受け止めて、棚の中へとしまいこむ。遠慮がないなー、まあ確かに処理終わってるから別にいいんだけどさぁと思いつつ。
「――無茶をする子ですね、まったく」
そんな声が、アヴィから聞こえた。
「ホントだよねぇ。イーリスくんてばさぁ」
「え?」
「え?」
違うの、とラースはアヴィを見た。赤い瞳が自分を見返してきて、首を傾げた。
「――自動制御機構を、壊したんです」
「……へ? 壊し…壊したぁ!?」
「なので全部制御する必要が出たんですが、アヴィには無理みたいで、意識が飛びました」
「そりゃそうだよ、何のための自動制御って、そうじゃなきゃ処理が追いつかないからだし!? ってか君だれアヴィくんじゃないのはわかるけど誰、あと無茶しないで、それ解放して!?」
ああ、と夕闇が笑う。楽しそうな顔の裏側でこっそり思ったのは、類友なのだなということ。だって解放なんかしてしまったら、処理の終わっていない小片は壊れるかもしれない。こんな得体の知れない存在よりも、よほど大切なものだろうに。
「大丈夫ですよ。わたしが制御を引き継ぎましたから」
あっさり告げて、笑ってみせる。その証拠に、イーリスがふとその目を開けた。そのまぐったりと、椅子の背もたれに身体を預けている。一瞬だけ視線が交差したが、意識はあるようだ。
「すまない。……当分、やらないほうがよさそうだな」
「そうですねぇ……術式を組みなおしてからにすることを、お勧めしますよ。平行起動は壊されていますし」
「壊され…は? 術式だよね?」
ラースが目を丸くするが、イーリスはあっさりと頷いた。アヴィなら出来る。たぶん焦って壊すことだけ考えて、その後でどうするかが処理出来なかったのだろう。
「なら今、単独処理か。小片に影響が出ない中断方法があるから」
「いえ、多重起動状態ですよ。問題もないので、このまま終わらせます」
「は? いや待て、多重起動のほうが難しいんだぞ、そのための平行起動だぞ!?」
「え、そうなんですか?」
今度はイーリスが目を丸くする番だった。
そんな彼に、ラースがこっそりと耳打ちをする。多重起動と平行起動、その違いを教えてほしいと。
「あ、ああ。――単純に言えば、順番に処理していくか、一度にまとめて処理していくかの違いなんだが」
イーリスはそれを料理に例えた。
材料を必要数だけ用意する、そこまでは同じである。そこからの処理が違うのだ。
例えばポトフ。
材料は豚肉であり、鶏肉であり、牛肉であり、中には魚やそのほかの肉もあるだろう。それぞれ味が変わるから、当然に鍋を別にする。
しかし使う材料は共通するものもあるので、特に野菜の下処理などはまとめて一気に片付けることも可能だ。それをそれぞれの鍋に分けて煮込む方式、これが「平行起動」である。ただし、途中で何かが――例えば野菜の一つが腐っていたりすると、全てやり直しである。この方式だと情報量が少なければ処理は早く終わり、空き時間が発生することになる。イーリスはこの空き時間を会話に振り分けていた。
対して「多重起動」は、最初から鍋を分けて、材料も鍋ごとに揃えておくことになる。「下処理をして煮込み始める」ところまで終わったら次の鍋に取り掛かる方式なので、当然のように時間がかかる。だがこれだと、異常が発生したときの対処は容易いし、単独の被害で済む。それに加えて、小片の情報量によっては処理が早く済み、次の手順に移すことが出来る。ただし空きが出ないので、会話が困難になる。
なるはず、なのだ。体感上は。
「……ねえ、この子って何者?」
「――あー……」
「教えてよ?」
上目遣いで睨まれて、イーリスは口篭る。どこまで話していいものか、どこまで話すべきなのか。昨夜のやり取りを明かそうものなら、ちょっと面倒なことになるのは確実だ。しかし言わずにおく気はないし、保護者がほしい。だが昨夜のあれを省いてとなると何処まで話すべきなのか。
「マラクスさま。このような状況での無礼をお許しいただけるのでしたら、わたしから申し上げますが」
「え。あ、そか、会話出来るんだ」
「はい、問題なく。…先に伺いたいのですが、あのこれ、そんなに大変なことなのですか?」
うん、とラースはとてもいい笑顔で頷いた。
「イーリスくんは見てのとおりだし、僕はそもそも単独でも起動できないよ?」
「え」
「魔王の中でも半数程度ですよ、扱えて」
「てことは魔王候補だねぇ」
え、とイーリスが嫌な顔をした。考えてはいなかったのだが、現状で魔王候補となると、その主は。
「君、名前は?」
「夕闇と申します。…残滓の身ですので、イーリス様に頂きました」
ラースの視線にイーリスは頷いた。当然彼も、残滓という言葉の指す意味を知っている。
「あー……分かりやすいねぇ。でも似合ってるよ」
ラースの笑みにイーリスは目を逸らす。夕闇は…ちょっと意味がわからないのか、首を傾げた。まあ詳細はいずれ気づくだろうと、ラースにも話すつもりはない。彼の配下に加わった妖魔全てが、空に関連した名をつけられていることは。本名というわけではないただの通称なので、特別な意味もないし、拘束されることもない。気づいたときの反応はちょっと気になるが、まあそれはそれ、である。ただ彼らは国内にいないから、出会うことなどあるかどうか。
「ね、イーリスくん。僕、この子欲しい」
「はい?」
「え、あの?」
「頂戴とは言わないから、貸して?」
「駄目です。アヴィの守役ですから」
許可できないとイーリスは断言する。何しろ、守役である。ついでに言うなら教育係である。最低限、彼に自覚が出るまでは貼り付けておく必要がある。発動中の術式を改変できるくせに処理しきれずに意識を飛ばすようなアホな子供である。常時つけておかなければ不安でならない。
「それはわかるけどさ、だって、この子がいたら、小片の解析が一気に進むよ! あ、ねえそれだけでいいよ、解析が終わるまでだけでもいいから、貸して下さい、お願いしますっ! その間は僕がちゃんと見ておくから!」
「アヴィを遊び相手にしたいだけでしょうそれ!?」
「ごめんなさい、マラクスさま」
土下座しそうな勢いのラースと押し切られそうなイーリスの言い争いに、夕闇自らが終止符を打つ。それは十分な衝撃を持って、ラースを沈黙させた。
「わたし、まだ身体がないので、アヴィから離れられないんですよ」
「……身体くらい、創って上げるけど。そういう意味じゃないよね」
「はい。身体を頂けるのは魅力的なお誘いですが、お断り申し上げることになりますね」
ちぇ、とつまらなさそうにラースは唇を尖らせた。流石にここまではっきりした拒絶では、諦めるしかないではないかと。
「……君は、何者?」
「先ほども申し上げましたが――残滓です。メモリアの魂にしがみ付いて生き延びた、ただの残滓――今は、アヴィの守護役兼イーリスさまのペットですかね?」
「ちょっ!? その話引きずるんですか!?」
「へえ、ペットなんだ。…へぇ……」
慌てるイーリスに、ラースは冷たい視線を向ける。そこからは、…何の意図も読み取れない。
「ねぇ、夕闇くん。そのまま、作業を任せて問題ないよね」
「はい、大丈夫ですよ」
「ちょっと待ちなさい夕闇! そもそもその術式継承した覚えが」
「ちょっと、イーリスくんとOHANASIしてくるから、任せるね?」
「はい、お任せください」
にっこりと笑って、夕闇はイーリスを送り出したのである。
デカラビアの愛称、過去2話分から外しました。何かいい愛称ないかなぁ。




